オススメ中国映画『初恋の来た道』
中国映画界の巨匠チャン・イーモウ監督。
フィルムにおける演出だけにとどまらず、2008年に開催された北京オリンピックでは、盛大な開幕式及び閉幕式を演出して、世界中の人々に衝撃を与えるなど、その芸術性や創造性が発揮される才能の場は多岐に渡る人物だ。
彼の繊細かつ大胆で、壮大なまでの世界観や演出力は観るものを虜にし、心を捉えて離さない。
そんなチャン・イーモウ監督が今までに発表してきた作品の中には国際映画祭での受賞作品や大作も非常に多く、必見の価値ありと思う映画も少なくないのだが、そんな中でも私が特に好きな作品が今回オススメさせて頂きたい『初恋のきた道』だ。
いまや国際派女優へと進化したチャン・ツィイーが、若かりし頃に自身映画デビュー作として主演を務め、第50回ベルリン国際映画祭で審査員グランプリを受賞した作品。同時にのチャン・ツィイーの名前を世界に一躍広めた作品でもある。
ではネタバレにならない程度に作品を紹介しよう。
物語は中国北部にある小さな農村。都会で働くビジネスマンのルオ・ユーシェンが父の訃報を聞いてこの村に戻ってくるところから物語はスタートする。
年老いた母親は周りの人間の話も聞かず、今では誰も行わなくなった、村に古くから伝わるしきたりにのっとった葬儀を行うと言ってきかない。
村長らが車を使うことを勧めても町の病院から村まで人手を雇い、遺体を人力で担いで運ぶというのだ。
そうした母親の姿を見ながら息子のルオ・ユーシェンは村の語り草となっている恋の物語を回想する。それは若かりし頃の母と父の物語だった。
当時18歳だったチャオ・ディ(チャン・ツィイー)は町から村にやってきた教師のルオ・チャンユー(チェン・ハオ)にたちまち恋をする。
授業を行うための校舎建設には町中の人間で取り掛かることになるが、村のしきたりで建設現場に近寄れない女性たちが与えられた仕事は男性たちの食事作りだった。
ディは自分の作った弁当をチャンユーに食べてもらいたい一心で、弁当の置き場所を工夫し、弁当を通して自分の気持ちを伝えようとする。
そんなある日、道でチャンユーとすれ違う機会があったディは目が合って会釈をしあうことになるのだが、たったそれだけのことにも胸を躍らせて舞い上がり、しまいには持っていた籠を置き忘れてしまう。だが、その籠をチャンユーが拾い、それがきっかけでディの名を知ることになったチャンユーとディの間には素朴ながら通い合う心が育ち始める。
だが、純情なまでにゆっくりと心を通わせ合い続けていた二人に待っていたのは別れだった。
チャンユーは町に呼び戻されることになり村を離れてしまったのだ。
来る日も来る日も、チャンユーの帰りを待ち続けるディはやがて無理がたたって体を壊してしまう。それを不憫に感じたディの母親は一日だけでもいいから村に戻ってきてくれないか?とチャンユーへの伝言を頼む。そして感動のラストへと繋がっていく。
この作品は見るものにどこか懐かしさや純粋な気持ちを駆り立ててくれる映画である。
主人公のディが草原を走り回っている姿を見ているだけでも心を揺さぶられる作品なのである。
隣の中国という国、そして時代も数十年前の設定のストーリーだが、些細な毎日のことに大きく胸を弾ませ、ときめいている主人公の姿を見ていると日本人であっても何か遠くに置き忘れてしまったかのような純粋な感覚に触れることが出来る作品といっても過言ではない。
また、大草原を舞台にあまりに美しく撮影されたその映像美や景色も見どころ満載である。
私が中国映画にハマり出すきっかけにもなった本作品を是非、今回はオススメさせて頂きたい。