2014年の夏、「TOHOシネマズ~午前10時の映画祭」で、市川崑監督作品『細雪』(1984年作品)が上映されていました。
この『細雪』、市川崑は助監督時代から映画化したかった小説だったそうなので、いわば40年以上、心のなかで温めていた作品といえます。


それには彼の生い立ちが深く関わっているようですね。
彼の実家は、伊勢の宇治山田の呉服屋で、三人姉妹の下の末っ子。
いわばよく見知っている世界なので、映画化するには勝算があったのでしょう。
しかし父親が早くに亡くなり、呉服屋は倒産。


まだ幼かった市川少年は、母親と、姉の嫁ぎ先を点々としたといいます。
しかし、この映画は、いわば関西のブルジョアのユートピアのような世界観で描かれていますが、市川監督が自身の辛い思い出を超えて、そうした失われたものへの憧憬を昇華させた、素晴らしい作品だと思います。

ボクはこの映画の製作当時、東宝撮影所で働いていました。
この作品のスタッフではありませんでしたが、船場の美術セット等を見ることができただけでも、素晴らしい体験でした。

当初、長女役には山本冨士子が予定されていたそうですが、彼女は舞台を中心に活躍していたので、断られたといいます。


そこで監督自身がパリにいる岸恵子に国際電話で、
「あんたにはミスキャストで申し訳ないけど…」
と出演依頼したところ、彼女は二つ返事で承諾し、帰国したというエピソードが残っています。
それにしても監督も、大女優にひどい依頼の仕方をしますね。


関西ではこういうのを、"いけず"といいます(笑)。
しかし四姉妹のなかでは、着物の着こなし…くずし方は、
岸恵子が一番いい、という評判がありますね。

これは綺麗な映画でした。
3回映画化されてますが、市川版がずばぬけてます。

ボクはBlu-rayが出るのを、じっと待っているのですが、なかなか出ませんね…。

仁科 秀昭
:天井桟敷、東宝撮影所などの美術スタッフを経て、
現在はミュージアムプランナーとして、活躍中。