『アパートの鍵貸します』(監督&脚本:ビリー・ワイルダー/1960年作品)

『アパートの鍵貸します』(監督&脚本:ビリー・ワイルダー/1960年作品)を観了。
恥ずかしながら、この歳になってはじめて観ましたが、それで良かったようにも思いますね…10代や20代で観ても面白くは感じたでしょうが、今の歳なりに見えてくるものがありました。
設定はバカバカしいんですが、それはヒッチコックがよく言う"マクガフィン"(動機付け)のようなもので、それでストーリーをぐいぐい引っ張っていくシナリオも見事です。


まあ作品のテーマをあえて言えば、何かを得るには何かを失うという教訓のようなものでしょうか(笑)。
それとなんと言ってもシャーリー・マクレーンがかわいいですね。
観る側を、彼女になかなか感情移入させない展開も、上質です。

マクガフィン
マクガフィン(MacGuffin, McGuffin)とは、何かしらの物語を構成する上で、登場人物への動機付けや話を進めるために用いられる、仕掛けのひとつである。
登場人物たちの視点あるいは読者・観客などからは重要なものだが、作品の構造から言えば他のものに置き換えが可能な物であり、泥棒が狙う宝石や、スパイが狙う重要書類など、そのジャンルでは陳腐なものである。
概要
マクガフィンという言葉はアルフレッド・ヒッチコックがしばしば、自身の映画を説明するときに使った言葉である。 オクスフォード英語辞典によると、ヒッチコックは1939年のコロンビア大学での講義で
私たちがスタジオで「マクガフィン」と呼ぶものがある。それはどんな物語にも現れる機械的な要素だ。それは泥棒ものではたいていネックレスで、スパイものではたいてい書類だ。
と語っている。またフランソワ・トリュフォーによるヒッチコックの長時間インタビュー集『映画術』[1]には、このマクガフィンへの言及が何度もある。
ラディヤード・キプリングという小説家は、インドやアフガニスタンの国境で現地人とたたかうイギリス軍人の話ばかり書いていた。この種の冒険小説では、いつもきまってスパイが砦の地図を盗むことが話のポイントとなる。
この砦の地図を盗むことを<マクガフィン>といったんだよ。
つまり、冒険小説や活劇の用語で、密書とか重要書類を盗み出すことを言うんだ。それ以上の意味は無い。[2]
マクガフィンとは単なる「入れ物」のようなものであり、別のものに置き換えても構わないようなものである。
たとえばヒッチコックは『汚名』(Notorious、1946年)を企画していたとき、ストーリー展開の鍵となる「ウラニウムの入ったワインの瓶」に難色を示したプロデューサーに対して、「ウラニウムがいやなら、ダイヤモンドにしましょう」と提案している[3]。
ヒッチコックにとって重要なのは、ウラニウムという原子爆弾の材料ではなくて、それをきっかけにして展開される、サスペンスだったのである。
物語にリアリティを与えようと、シナリオライターやプロデューサーはそうした小道具についても掘り下げようとするのだが、ヒッチコックはそれは単なるマクガフィンだから、そんな必要は無いという態度をとった[4]。
ヒッチコックによれば、マクガフィンに過ぎないものに観客が気を取られすぎると、それに続くサスペンスに集中ができない。だから、マクガフィンについては軽く触れるだけで良いというのが、ヒッチコックの作劇術であった。
出典
^ 山田宏一・蓮實重彦訳『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』晶文社、1981年、ISBN 0074-5641-3091
^ 『映画術』pp.125-126
^ 『映画術』p.160
^ 『映画術』p.126 「わたしのやりかたに慣れていないシナリオライターと仕事するときには、きまって<マクガフィン>のことでもめるんだよ。相手は<マクガフィン>とは何かということにどうしても執着する。なんでもないんだ、とわたしは言うんだよ。」

隣人の医者も可笑しい(笑)。

アレクサンドル・トローネルによる美術も素晴らしいです。
生活のデティール描写も今観ると楽しいですね。
アカデミー美術賞(モノクロ部門)を受賞しています。

この映画について和田誠が三谷幸喜との対談のなかで「落語の人情話のようなものかなぁ…」と評していますが、上手い例えですね。

ジャック・レモンの吹き替えは愛川欽也さんが多かったそうですね。

周防監督の「Shall we ダンス?」のラストは「アパートの鍵貸します」へのオマージュでしたね!

ロマンチックコメディは女優が一番魅力的に見えるジャンルかも知れません。

ワイルダーの『サンセット大通り』は凄い作品ですよね。
なんと言っても死体がモノローグで回想し始めるというシュールさ!
ワイルダーって、結構シチュエーションとして、シュールな場面を作り出す名手だと思いますね。
『アパートの鍵…』でも、ジャック・レモンが昇進した新しいオフィスに、
部屋を貸した上司4人が集まっている場面も、
リアルではあり得なくて、可笑しいです(笑)。

あとスワンソンが怪奇映画の化け物みたいな所も、凄いです。

また、ラストでインタビューに応じて、スワンソンが降りてくる階段の美術デザインが、
『サロメ』の挿し絵を描いた、ビアズリーの装飾的なイラストを想起させて、圧巻です。

美術装置が凄かったですね!芸術作品です!
そういえばスワンソンが、デミルに、自分主演で「サロメ」を作ってくれと、
せがむシーンがありました。
助監が馬鹿にすると、
「君は彼女の全盛期を知らないからそんなことしか言えない」
って擁護するシーンは、感動的でした。

あの場面のデミルはカッコいいです。

シュトロハイムもカッコよかったですよね。
大監督が2人も出ている。あとキートンまで出てました。

本編でスワンソンが観ている映画の一場面は、彼女が主演で未完に終わったシュトロハイム監督の『ケリー女王』なんですよね
なんとも残酷な企画ですが、出演陣は楽しんで演じている節もあります(笑)。

仁科 秀昭
:天井桟敷、東宝撮影所などの美術スタッフを経て、
現在はミュージアムプランナーとして、活躍中。