こんな記事を書いてきたシリーズ『父と暮らせば』
ふたたびみたび、踏みつけられた沖縄屈辱の日。
なにを日本は忘れようとしているのか

画像: こんな記事を書いてきたシリーズ『父と暮らせば』 ふたたびみたび、踏みつけられた沖縄屈辱の日。 なにを日本は忘れようとしているのか

 辺野古の基地反対、原発再稼働反対、集団自衛権解釈改悪反対など、「あの戦争を生き残って来たもの、そのおかげで命を授かったもの」が「戦争はしない、させない」と、それが我々の使命だと続けていたことが、今、ことごとく捨て去られようとしている。そんな今、もう一度、この記事を掲載しよう。2005年に書いたものである。

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 8月6日、広島市長の平和宣言を聞いた。
「「原爆は人類に対する罪」として廃絶しなければならない。唯一の被爆国として日本が世界に訴えるべきは核兵器を無くすることである」同じ言葉を、ふたりの作家が口にしていたことを思い出した。劇作家井上ひさしと映画監督黒木和雄。思いを同じくするふたりが作り上げたのが「父と暮らせば」である。まずは芝居として、次にその映画化として。

「ぴか」から3年。生き残った娘を死んだ父が訪ねてくる。ヒロインは図書館に務めている。ここに原爆資料を調べるため若い学者が現れる。娘は久々のときめきを覚えるのだが、生き残ってしまった自分だけが幸せになっては死者に申し訳ないと、その気持ちを葬ろうとする。父はそのときめきを応援し恋を成就させるためにあの世から帰ってきたのである。しかし、なぜ?
 
先頃戯曲が英語に翻訳されて出版されることが決まったというニュースを読んだ。映画には英語字幕がつけられているという。長崎市長の平和宣言でもアメリカの市民に直接呼び掛ける一節があったように、核の廃絶は日本国内だけで反対運動をしてすむ問題ではない。アフガン・イラクの戦闘で使われた劣化ウラン弾の影響で帰還アメリカ兵の放射能障害が取り沙汰されている今こそ、アメリカ市民に核兵器の恐怖を自分のこととして理解してもらえる好期なのかもしれない。
 
そもそも監督の前作「美しい夏キリシマ」を企画したきっかけが舞台「父と暮らせば」だったという。監督自身の戦争経験と「父と暮らせば」のヒロインの思いが重なり、封印しておきたかった思いを映画としてのこすことにしたのだという。その思いとは。「生き残ってしまって、もうしわけない。うしろめたい。なぜ私は生きあの人は死んだのか。助けることができなかったのか」というもの。

「死ぬがふつうで生きる異常なあのとき」を生き残った者はどうすればいいのか。黒木監督は同窓生たちに言われ、「父と暮らせば」のヒロインは父の幽霊に言われて気付く。生き残った者がやらなければいけないことは「語り継ぐこと」。もし自分ができなければ、語り継ぐ人を作ること、なのだ。そして監督は「キリシマ」と本作を作り、ヒロインは結婚し子供を作るという希望をもちはじめる。

 映画の登場人物は父と娘と青年の三人、ほとんどのシーンは娘が暮らす部屋が舞台になっているなど、芝居をなるべくそのままに映像化しようという意図が感じられるのは、映像で説明をしてしまうことで観客の想像力を邪魔し、ひいては主人公たちの気持ちを想像し共感することの邪魔をすることを恐れたのではないか。設定は非リアルなものであるが、父・原田芳雄、娘・宮沢りえの好演がその設定を越えて親子の存在を信じさせてくれる。そしてラスト、

 戦争経験者の高齢化が進めば、直接の経験として戦争を語れる人は減っていく。すでに今の「戦争経験者」は当時小学生や十代の前半くらいだった「非戦闘員」が多くなっているはずだ。彼らにとっての戦争体験は銃後のものであり被害者としてのものである。常に被害者になる子供にとってはそれでもいい。けれど兵士となれば加害者ともなる若者には通じていないのではないかと私は危惧している。

 戦争は非戦闘員でも死ぬ。生活が、未来が破壊される。戦闘員は戦争の道具として扱われ殺されたり殺したりを強いられる。誰もが被害者であり加害者なのだ。そしてそれは忘れることは出来ない。

 日本ではリアルな戦争体験をもった作り手がいなくなりつつあるが、10年に一度は戦争をしている国アメリカのリアルなドキュメンタリーなら今の戦争がみられる。見てかんがえてほしいものだ。

父と暮せば(予告)

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解説

井上ひさし原作の同名小説を日本映画界の巨匠・黒木和雄監督が映画化したドラマ。原爆­から生き延びた娘と、被害に遭い幽霊となった父親のふたりの交流を暖かく描く物語――­―人類史上初の原爆が投下されてから3年後の広島。図書館に勤める美津江(宮沢りえ)­の前に、一人の青年・木下(浅野忠信)が現れた。その青年に好意を示され、美津江も一­目で彼に魅かれていく。しかし、愛する人々を原爆で失い、自分が生き残ったことへの負­い目を感じている美津江は、自分の恋心を押さえつけようとしていた。そんなとき、亡く­なった父の竹造(原田芳雄)が現れる――。
(c)2004 「父と暮せば」パートナーズ

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