一度観たら印象に残る鮮烈な色づかいで「色彩の魔術師」とも称される20世紀を代表するフランスの巨匠、アンリ・マティス(1869‒1954年)。
彼は、純粋な色彩による絵画様式であるフォーヴィスム(野獣派)を生み出し、モダン・アートの誕生に多大なる貢献をしました。そして84歳で亡くなるまで、彼の人生を鮮やかな色彩と光の探求に捧げたのです。
マティスの豊かな色彩、斬新なモダン・アートは今も世界中の人々を魅了し続けています。

このたび、約20年ぶりとなる20世紀芸術の巨匠アンリ・マティスの大回顧展が東京都美術館において2023年4月27日より8月20日まで開催されます。
本展は、世界最大規模のマティス・コレクションを所蔵するポンピドゥー・センターより、絵画に加えて、彫刻、ドローイング、版画、切り紙絵など名品約150点が紹介される大規模なマティスの回顧展です。

晩年の最大の傑作であり、マティス自身がその生涯の創作の集大成とみなした南仏ヴァンスのロザリオ礼拝堂に関する資料も是非、ご覧ください。
また、「フォーヴィスム」の夜明け、マティス初期の傑作《豪奢、静寂、逸楽》は、日本初公開となっています。是非この機会にお運びください。
それではシネフィルでも展覧会構成に従って、いくつかの作品を観ていきましょう。

画像: アンリ・マティス(1922年、マン・レイ撮影) © Man Ray Trust / Adagp, Paris Photo © Centre Pompidou, MNAMCCI/Dist.RMN-GP

アンリ・マティス(1922年、マン・レイ撮影)
© Man Ray Trust / Adagp, Paris Photo © Centre Pompidou, MNAMCCI/Dist.RMN-GP

画像: ポンピドゥー・センター外観(レンゾ・ピアノ、リチャード・ロジャース設計) ©Berengo Gardin, Gianni ©Centre Pompidou, 2020

ポンピドゥー・センター外観(レンゾ・ピアノ、リチャード・ロジャース設計)
©Berengo Gardin, Gianni ©Centre Pompidou, 2020

1章 フォーヴィスムに向かって

法律家になる道を捨て、画家になることを決心し修行をはじめたマティスは、パリ国立美術学校で象徴主義の画家ギュスターヴ・モローのアトリエに入り、伝統的な画法から離れ、新しい絵画の探求を始めます。
本章では、画家としてのアイデンティティを確立していく最初期から、大胆な色彩と筆致による「フォーヴィスム(野獣派)」の立役者としてスキャンダルを巻き起こしながら注目を集めたのち、平面的で装飾的な画面構成をはじめるまでの、マティスの20世紀初頭の活動が紹介されています。

画像: アンリ・マティス 《読書する女性》 1895年 油彩/板 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

アンリ・マティス 《読書する女性》 1895年 油彩/板 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

マティスは、読書に没頭する女性を、コローの人物像を彷彿とさせるような、写実的かつ抑制された色彩で描きました。

画像: アンリ・マティス 《豪奢、静寂、逸楽》 1904年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

アンリ・マティス 《豪奢、静寂、逸楽》 1904年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

マティスの作品は、印象派スーラの点描画とは違って、鮮やかな色彩と光が感じられます。
ポール・シニャックの招きでひと夏をサントロペで過ごしたあとに、その影響下で新印象主義の原理を援用して光に満ちた理想郷ともいうべき風景を描いた作品。彼はこの直後に、筆触を荒々しく変化させ「フォーヴィスム(野獣派)」と呼ばれる様式に進みます。

2章 ラディカルな探求の時代

第一次世界大戦中、息子ふたりを含む周りの人間が徴兵されるなか、ひとり残されたマティスは、この状況に抵抗するかのように、画家の転機となるような革新的な造形上の実験を推し進めます。
本章では、マティスがアトリエと開放的な窓というモチーフによって、内と外を融合させながらひとつの絵画空間を成立させようとする試みが紹介されています。
また、キュビスムの影響のもと、抽象化という造形的な実験のモチーフとして扱った肖像画の数々も展示されています。

画像: アンリ・マティス 《白とバラ色の頭部》 1914年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

アンリ・マティス 《白とバラ色の頭部》 1914年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

マティスが長女マルグリットを描いた30点ほどの肖像画の1点で、幾何学形態に単純化された平面的な構成は、友人フアン・グリスとの対話の成果と見られ、彼の作品のなかでは最もキュビスムの影響が色濃い一点といえます。

画像: アンリ・マティス 《金魚鉢のある室内》 1914年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

アンリ・マティス 《金魚鉢のある室内》 1914年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

セーヌ川に臨む窓のあるアトリエ空間を描いた作品。微妙な諧調の青によって統一された画面の中央に、この前年に滞在したモロッコの思い出である金魚鉢が描かれ、内と外の空間をつないでいます。

3章 並行する探求─彫刻と絵画

彫刻はマティスにとって、その造形活動全体にリズムを与えるものといえます。絵画のアイデアが素材との接触のなかで模索されている転換期に、彫刻があらわれるのです。
本章では、女性の頭部の再現ではなく、それを作る「過程」を主題にした1910年代の「ジャネット」シリーズから、1925年前後に集中的に制作された、彼にとっては絵画と彫刻の両面で重要なモデルであった「アンリエット」の頭部のシリーズ、そして20年にわたって探求されたモチーフである「背中」シリーズまで、その主要な彫刻作品を紹介しながら、絵画と彫刻の往還によって紡がれる彼の造形的な実験を辿ります。

画像: アンリ・マティス 《背中I‒IV》 1909‒1930年 ブロンズ ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

アンリ・マティス 《背中I‒IV》 1909‒1930年 ブロンズ ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

20年以上の月日をかけて4点が制作された等身大の女性像である「背中」は、それぞれが、《ダンス》などのモニュメンタルな絵画の制作時期と関わっていることが指摘されています。マティスは折々の造形的な課題に応じてこの原型に立ち返り、これらの作品を制作しました。

4章 人物画と室内画

本章では、人物画と室内画を中心に、マティスがこれまでの造形的な実験を再検証した10年間の試みが紹介されています。
この頃からマティスにとって重要なモチーフとなる、イスラムのスルタンに仕える女性「オダリスク」は、先人たちが描いてきた異国趣味の歴史に連なると同時に、人物と空間を絵画的緊張のなかに配する探求に欠かせないものでした。また、この時期に描か
れた、生き生きとした画家のまなざしを感じさせるドローイング群も多数紹介されています。

画像: アンリ・マティス 《赤いキュロットのオダリスク》 1921年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

アンリ・マティス 《赤いキュロットのオダリスク》 1921年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

マティスにとって重要な主題である「オダリスク」の最初を飾る作品。フランス人モデルをイスラムの女性に扮装させ、アトリエを劇場のように飾り付ける虚構的なしつらえは、画家にとって、裸婦を空間のなかに違和感なく配置し、造形的な実験を行うために必要なものでした。

5章 広がりと実験

1930年代のマティスは、アメリカやオセアニアを旅し、新しい光と空間に触れながら、再び豊かな造形上の探求に戻ることになります。
本 章 では、《座るバラ色の裸婦》(1935‒1936)や《夢》(1935)など、最晩年までマティスの特別なモデルとなるリディア・デレクトルスカヤを描いた作品を中心に、絵画のフォーマットに人物の形態を挿入する方法について、無数のヴァリエーションを伴いながら追求したこの時期の試みなどが紹介されています。

画像: アンリ・マティス 《夢》 1935年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

アンリ・マティス 《夢》 1935年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

アトリエでのアシスタントを務めたのちに、秘書・お気に入りのモデルとして、1954年の画家の死までその傍らにいたリディア・デレクトルスカヤを描いた作品のひとつ。安息する彼女の上半身が画面全体に配置され、心理的かつ造形的な充足が表現されています。

6章 ニースからヴァンスへ

再び戦争がはじまり、高齢と病気のためにフランスを離れることをあきらめたマティスは、療養を続けながらニースからヴァンスへと居を移します。彼は、寝たきりの時期であってもドローイングや本の挿絵の制作などに没頭し、ドローイング集『主題と変奏』をはじめとする重要な仕事を残しています。
本章では、色彩に満ちた画家のアトリエという彼の長年の探求の集大成といえる大画面のカンヴァス作品群から、マティスが装丁を手がけた美術文芸誌『ヴェルヴ』など、この時期の多彩な仕事が紹介されています。

画像: アンリ・マティス《マグノリアのある静物》 1941年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

アンリ・マティス《マグノリアのある静物》 1941年 油彩/カンヴァス ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

何十枚もの習作や関連するドローイングが存在するこの静物画は、同じような制作過程を経た一連の作品のひとつです。絵画が成立する複雑なプロセスを見せるために、マティスはのちにこれらの作品を、制作過程の写真とともに展示しています。

7章 切り紙絵と最晩年の作品

1930年代より習作のための手段として用いてきた切り紙絵が、40年代になると、マティ
スにとって長年の懸案事項であった色彩とドローイングの対立を解消する手段として、重要なものとなっていきます。
本章では、「ハサミで描く」というこの画期的な手法によって生み出された、巨匠の最晩年の
豊かな作品群が紹介されています。

画像: アンリ・マティス 《イカロス(版画シリーズ〈ジャズ〉より)》 1947年 ポショワール/アルシュ・ヴェラン紙 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

アンリ・マティス 《イカロス(版画シリーズ〈ジャズ〉より)》 1947年 ポショワール/アルシュ・ヴェラン紙 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 
Centre Pompidou, Paris, Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle

切り紙絵に画家の筆跡による文章をつけたこの「色彩の本」は、当初「サーカス」というタイトルが候補に挙げられており、これにまつわるモチーフも多くみられます。しかし最終的に「ジャズ」と題されたのは、マティスがこの音楽の即興性と活気に、切り紙絵の制作との類似を感じていたからだといわれています。

8章 ヴァンス・ロザリオ礼拝堂

最晩年にあたる1948年から1951年にかけて、マティスは、ヴァンスのロザリオ礼拝堂のためのプロジェクトに没頭します。建築、装飾、家具、オブジェ、典礼用の衣装などを含むこの総合芸術のために、マティスは、ドローイング、彫刻、切り紙絵など、これまで探求てきた技法を駆使して、光と色と線が融合する空間の創出を目指しました。
本章では、ヴァンスの内部や制作中のマティスの様子を伝える豊富な資料とともに、装飾や典礼用の衣装のデザインのためにマティスが残したドローイング類などが展示されています。

画像: アンリ・マティス 《ヴァンス礼拝堂、ファサード円形装飾〈聖母子〉(デッサン)》 1951年 墨/カンヴァスで裏打ちした紙 カトー゠カンブレジ・マティス美術館 Photo musée départemental Matisse (DR)

アンリ・マティス 《ヴァンス礼拝堂、ファサード円形装飾〈聖母子〉(デッサン)》 1951年 墨/カンヴァスで裏打ちした紙
カトー゠カンブレジ・マティス美術館
Photo musée départemental Matisse (DR)

西側のファサードにあるステンドグラス「生命の樹」の上部に設置された、陶器でできた円形装飾のためのドローイング。この作品の制作のために、長い杖を使って筆を走らせるマティスの様子が、記録写真に残されています。

モネを中心とした穏やかな印象派に代わり、マティスによる斬新なフォーヴィスムが生まれました。
当時「フォーヴ(野獣)」とも評され、過激とも受け取られたマティスの芸術は、いまも色褪せることなく私たちを感動させてくれます。
マティスの絵画、彫刻、ドローイング、版画、切り紙絵など、生涯をかけた色彩と光の探求を是非、ご堪能ください。

展覧会概要

会期2023年4月27日(木)~8月20日(日)
会場 東京都美術館企画展示室
休館日 月 、5月1日(月)、7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開室
開室時間9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室 金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料 一般 2,200円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 65歳以上 1,500円

※本展は日時指定予約制です。詳細は展覧会公式サイトをご覧ください
※平日限定のお得な観覧券もあります。詳細は展覧会公式サイトをご覧ください
※大学生・専門学校生は、5/13(土)、5/14(日)に限り無料(日時指定予約が必要です)
※高校生以下は無料(日時指定予約が必要です)
※未就学児は日時指定予約は不要です
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料(日時指定予約は不要です)
※高校生、大学生・専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は、いずれも証明できるものをご提示ください
※オンライン・プレイガイドでの予約が難しい方を対象に当日の入場枠を設けておりますが、ご来場時に予定枚数が終了している場合があります。

展覧会公式サイト

お問い合わせ先TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)

シネフィルチケットプレゼント
下記の必要事項、をご記入の上、「マティス展」@東京都美術館 シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上3組6名様に、招待券をお送り致します。この招待券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス info@miramiru.tokyo
★応募締め切りは2023年5月22日 月曜日 24:00
記載内容
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