自主製作『の・ようなもの』で 1981 年に商業映画デビューしてから 41 年、その後邦画メジャーでの大ヒットを連発し、また独自の表現でインディペンデント映画作家としてもその作風を残した森田芳光監督。惜しくも 2011 年 12 月 20 日に 61 歳でこの世を去ったものの、邦画のあらゆる製作体制にて、日本映画史に豊潤なフィルモグラフィーを遺しました。

画像: 世界に再び拡がる森田芳光の世界!ニューヨーク・リンカーンセンターで開催「森田芳光レトロスペクティブ」熱狂のレポートが到着!

森田芳光監督生誕 70 周年記念(没後 10 年)「森田芳光70祭2022」として、ほぼすべての作品を Blu-ray 化したボックスセット、記念本出版、ゆかりの劇場での特集上映を叶えた 2021 年。そしてこのたび、コロナ禍により延期になっていた、海外でのレトロスペクティブ上映の第一弾、ニューヨーク・リンカーンセンターで開催され、その現地の観客の様子の熱狂のレポートが到着しました。

「森田芳光レトロスペクティブ」
 ニューヨーク リンカーンセンター舞台挨拶レポート

日程:12/4(日)
会場:アメリカ/ニューヨーク・リンカーンセンター ウォルター・リード・シアター
登壇者:三沢和子(プロデューサー、森田芳光夫人)、大島ミチル(作曲家)、増渕愛子(キュレーター)、ダン・サリバン(フィルム・アット・リンカーンセンター・プログラマー)

「森田芳光レトロスペクティブ」がNYリンカーンセンターで開催された(12/2~12/11)。
10日間にもわたるこの特集上映は、国際交流基金とフィルム・アット・リンカーンセンターの共催。ダン・サリバン氏(FLCプログラマー)と日米両国を拠点に映画のキュレーション・製作に携わるキュレーター・増渕愛子氏の企画によって実現しました。
会場では、世界的にブレイクするきっかけとなった『家族ゲーム』(1983年)をはじめ、『の・ようなもの』(1981年)や、『(本)噂のストリッパー』(1982年)、『ときめきに死す』『メイン・テーマ』(1984年)、『それから』(1985年)、『キッチン』(1989年)、『(ハル)』(1996年)、『失楽園』(1997年)、『39 刑法第三十九条』『黒い家』(1999年)、『間宮兄弟』(2006年)の12作品、計21回が上映された。

12月4日『失楽園』の上映では、三沢とともに森田監督作品を『失楽園』をはじめとして10作品手掛けた作曲家の大島ミチルが舞台挨拶に登壇し特別な日となった。

画像: ▲失楽園(英題:lost Paradise)

▲失楽園(英題:lost Paradise)

三沢は、「ニューヨークは、『家族ゲーム』が公開されて、森田と松田優作さんと来た思い出の地です。実はこの『失楽園』も、モントリオール映画祭のコンペに出品されたので、その帰りに森田と一緒に1週間くらい滞在しました。ヤンキースやメッツなどの野球やテニスも見て、すごく楽しい思い出があります」と語り、会場から歓迎の温かい拍手が送られた。大島は、「実は森田監督が亡くなった12月、ニューヨークにいてショックで信じられず、すごく寒い中で、悲しい気持ちで街を歩いた記憶があります。三沢さんとも、こういう(特別上映の)形で会えるなんて嬉しいです。しかも私が初めて手掛けた『失楽園』の舞台挨拶。三沢さんと一緒に、監督の亡くなった12月にここに立てるというのは、上から監督が操っているんじゃないかとすら思います(笑)。監督が亡くなった後も、こうやって運命が動いているような気がして、すごいことですよね」

画像: ▲大島ミチルさん(作曲家)

▲大島ミチルさん(作曲家)

このレトロスペクティブが実現したのは、国際交流基金により、かねてより進められていた森田作品のデジタル化が大きい。世界のカルチャーの中心地ニューヨークは、森田作品が世界で最初に評価された場所であり、思い出もある地。満を持しての国外デジタル初上映の運びとなった。
三沢は「本当に運命を感じるし、何より監督が亡くなった後に、映画が世界で未来にむけて再生する瞬間を目撃できた」と振り返る。

画像: ▲三沢和子さん(プロデューサー、森田芳光夫人)

▲三沢和子さん(プロデューサー、森田芳光夫人)

初日のプログラム『家族ゲーム』から満員の観客に迎えられ、続く『失楽園』に集まった観客も、熱心な森田ファンのみならず、初めて森田作品に触れる若い世代も多かった。そもそも今回の特集上映を企画したプログラマーのダン・サリバン氏、増渕愛子氏も、『家族ゲーム』後に生まれた世代。 ダン「今回、全く森田映画を知らなかったような新しい観客が来てくれて、彼らの反応も良いし、それがすごくエキサイティングで嬉しい」。ニューヨークの新世代に森田映画を紹介できた意義についても、「それこそがプログラマーの仕事の本質だと思う。森田映画は過去にも上映されてきたが、今回のように彼の作品群をテーマ性を持って紹介したことはない。彼の作家性を確立し、これを基盤にしてアメリカ中に広がってくれたらすごく嬉しい。このレトロスペクティブ が、森田映画の未来につながっていくと思っている」

三沢も今回の会場の様子をみていて、「『家族ゲーム』や、『ときめきに死す』は、どこで上映しても安心なんですけど(笑)、森田が 『ポップで明るい、だから怖いと感じる映画を作るんだ』と言っていた『黒い家』が、観客に受け入れられたのが嬉しいです」と確かな手応え。増渕も「個人的に好きな作品は、『黒い家』や『(ハル)』。とりわけ『黒い家』は、あまりに怖くて同時に笑えるのが最高。 最後に流れるポップソングも新鮮」と語っていた。
『家族ゲーム』がニューヨークで早くから称賛された理由について、ダン「この近くにあったリンカーンプラザ(アート系老舗映画館。 最近惜しまれて閉館)には、偉大な監督達の写真が飾られていて、当時の入り口の写真を観たら、森田作品は、エリック・ロメールの『満月の夜』と、ジャン=リュック・ゴダールの『カルメンという名の女』と同時上映だった。もちろんその2作は非常に知られた作品であり、それらと並んで公開されたことで、当時森田がどういう監督であり、彼の映画がどのように受け止められていたのかを象徴しているように思うんです」

そして、『失楽園』についてのエピソードも。実は企画が立ち上がった際、三沢は森田は多分断ります、と言ってしまったのだそう。「本人は、『えっ、何言ってるの。やるよ』って。女性でも楽しめるような美しいベッドシーンがある映画にしたい、という計算があったようです。不倫をしそうにない、真面目な感じがする役所広司さんと黒木瞳さんの2人をキャスティングしたんですが、役所さんは森田と会う時に、断るつもりでいらしたらしいんです。ところが喋っているうちに『やります、頑張ります』と言ってしまった、と。」

さらに大島は、「『失楽園』で初めて音楽を手掛けたが、台本を読んで作ったものを聴いてもらったら、監督が『違う。全然違う』って言ったんですよ。それから3日後にまた10曲くらい書いたら、そのうち3曲くらいオーケーをくれたんです。 でもレコーディングスタジオでは、クライマックスシーンの曲で、監督から『ストップ!違う』と言われ、その場で書き直しました」と当時の厳しくも強い森田のこだわり、制作中のエピソードを明かした。「森田監督はピュアで妥協しない人だった。監督の作品は予想がつかない。予想をはるかに超えているんです。それがクリエイティ ブの面白さなんじゃないかと思います」

▲森田芳光監督
©ニューズ・コーポレイション

増渕は、監督の映画史における重要性について語る。「彼の作品はあまりに多岐のジャンルに及ぶので、とりわけレトロスペクティブで観てもらうことで、彼の作品がひとつのジャンルに捉われたものではないということがより理解してもらえると思う」ダン「70年代、80年代の日本映画は、盲点だと思う。50年代、60年代の日本映画はよく知られるところだし、90年代以降の監督はニューヨ ークでもよく知られている。さらに現代の是枝裕和、濱口竜介という監督もいるし。だから僕らにとっては、すでにみんながよく知る過去と現在の作品の間の、知られていない時代を森田映画を通じて紹介することで、日本映画の流れや全体像をここで再構築することにも繋がっているんです」

三沢「日本でも海外でも上映したいですね。東京では命日の12月中旬に毎年やりたいと思っています。また、今日を皮切りに海外でも。デジタル素材の英語字幕を国際交流基金が作ってくださって、すごくありがたいです。森田だけじゃなく、他の監督の良い作品もデジタル化して欲しいなあと。そのためにも今回、絶対成功しなければと思います」と力強く語った。このニューヨークで、森田映画の世界への、未来への第一歩が刻まれた熱気のあるイベントとなった。

画像: ▲三沢和子(左)、増渕愛子(中央)、ダン・サリバン(右)

▲三沢和子(左)、増渕愛子(中央)、ダン・サリバン(右)

▲左より大島ミチル(作曲家)、三沢和子(プロデューサー、森田芳光夫人)

●「森田芳光70祭2022」
東京:新文芸坐
【公式サイト】https://www.shin-bungeiza.com【電話】03-3971-9422
会期:2022年12月17日(土)~18日(日)

12月17日(土)『それから』(DCP)10:30~ トーク13:00~14:00
『そろばんずく』14:30~ トーク16:40~17:40

12月18日(日)『未来の想い出 Last Christmas』(BD)10:30~ トーク12:50~13:50
『(ハル)』(BD)14:20~ トーク16:40~17:40

トークイベント:
ライムスター宇多丸(ラッパー、ラジオパーソナリティ、『森田芳光全映画』編著)、
三沢和子(映画プロデューサー、『森田芳光全映画』編著、森田芳光監督夫人)
※17日ゲスト:原隆仁・鈴木元(監督/元森田組助監督)
※18日ゲスト:『未来の想い出』川島章正(編集)『(ハル)』小椋俊一(株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス/タイミング)

●2023年の上映も決定!
大阪:シネ・ヌーヴォ
東京:新文芸坐
名古屋:ミッドランドスクエアシネマ名古屋
広島:福山駅前シネマモード
海外:パリ、ソウルほか予定

★「生誕 70 周年記念 森田芳光監督全作品コンプリート(の・ようなもの)Blu-ray BOX」絶賛発売中 ★『森田芳光全映画』リトルモアより発売中 http://www.littlemore.co.jp

■「森田芳光 70 祭 2022」公式ホームページ

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