いま、この国のアートに何が起こっているのか?2部構成で送る日本におけるアートの意味を探る山岡信貴監督の最新ドキュメンタリー映画『アートなんかいらない!』が8月20日よりシアター・イメージフォーラムにて公開されます。また、その公開を記念して、山岡信貴監督の『トゥレップ ~「海獣の子供」を探して~』『縄文にハマる人々』『死なない子供、荒川修作』3本の特集上映も代官山シアターギルドにて開催されることが緊急に決定いたしました。
つきましては、シネフィルでは、山岡監督にメイルにて、今回の最新作『アートなんかいらない!』と、特集上映での上映作品についての質問をお送りし、作品についてお聞きしました。
下記、よりご覧ください。

まずは自己紹介からお願いします。

 普段はCMなどを作っているのですが、インディペンデントな活動として長編映画の制作をしています。元々は映画が持っている”現実とは違う場所に連れて行ってくれる機能”に魅力を感じて始めたことなのですが、物語を紡ぐための映画というより「そもそも映画とはなんだろう」というような根本的な考察をするための映画作りに変わっていきました。
 そんな中で作った長編第1作「PIKCLED PUNK」でそういった課題を極限まで突き詰めたのですが、そんな動機で作ったものなので、通常の意味では物語もよくわからない奇妙なものになりました。それがベルリン映画祭に招待され、海外の映画祭で色々な観客と話をする中で、自分で課題設定をしてそれに基づいて映画を作るということの価値に改めて気付かされることになりました。
 その考え方が実はドキュメンタリーに向いていると自覚したのが「死なない子供、荒川修作」です。ある出来事や事件を伝えるためのドキュメンタリーというより、観客と一緒に物事を考察してゆくツールとして、ドキュメンタリーの面白い使い方ができるのではと考えました。フィクション以上に現実は驚異に満ちているのですから、それを丁寧に紐解いていくことで、考えたこともない別世界に観客と一緒に飛躍することができるはずだと確信し、その実践として映画を作っています。

画像: 左、山岡信貴監督

左、山岡信貴監督

特集上映作品
『トゥレップ ~「海獣の子供」を探して~』
『縄文にハマる人々』
『死なない子供、荒川修作』について

今回『アートなんかいらない!』が、公開されますがそれに伴って特集上映も開催されます。上映される作品について、それぞれの作品を作ったきっかけと、作品について教えてください。まずは、『死なない子供、荒川修作』について

 三鷹にある天命反転住宅はそのカラフルな現実離れした構造でメディアにも取り上げられることが多いですが、そこに数年住んだ経験がもとになっています。
 この住宅を作った荒川修作は日本人で初めてニューヨークのグッゲンハイム美術館で個展が開催されるなど、画家としてかなり著名な人だったのですが、アートに限界を感じ、科学や哲学を含めたあらゆる領域を横断した活動を行い、それはやがて「天命反転」というコンセプトにつながってゆきます。それは「人間は死という運命を反転させることができる」つまり「人間は死なない」というものだったのですが、最初は「芸術家の突飛な発言」にしか思えなかったこの考え方が、天命反転住宅で暮らしているうちに何か根拠があることのように思え、それについてきっちり考察してみようと考えたことがきっかけです。また、荒川さんからも「この住宅に住んでいるといろいろな出来事が起こるはずだからそれを全部報告してほしい」と言われ、その報告も兼ねて映画を作ることにしました。荒川さんの発言はかなり難解で、それを読み解く作業はとてもハードルが高かったのですが、住宅で過ごしながら制作したたことで頭で考えただけでは到達できない領域まで描けたのではないかなと思っています。

画像: 『死なない子供、荒川修作』場面写真

『死なない子供、荒川修作』場面写真

『縄文にハマる人々』について

 自分は関西出身なので縄文文化に触れる機会はほとんどなかった上に、縄文界隈はスピリチュアルな雰囲気もあって近寄り難く、あまり関心もなかったのですが、友人に無理やり連れて行かれて聞かされた縄文時代の風習の「家の入り口の真下に子供の墓をつくる」という仮説に、全く理解できない世界観を感じたのが縄文に積極的な興味を持った最初の出来事です。さらにそれがきっかけで行った東京都埋蔵文化財センターで接した縄文土器がとんでもなく奇妙な形をしているのに日用品であったことを知った時に、自分が全く想像しえない世界の広がりを感じたことも大きかったです。
 実は有名な遮光器土偶や火炎型土器もあの造形の意味なんてすっかりわかっているものだと思っていたのですが、縄文時代は文字のない時代ですから、ああいった奇妙な形がなぜ作られているのかについての謎は全く手付かずであることを知り、その正体がなんであるのかが知りたくて、とめどなく調べていった結果がこの映画です。
 縄文人はもちろん日本人の祖先でもあるので、安易にわかりやすくつなげてしまいがちなんですが、この映画を通して感じたことはDNAに繋がりがあろうと文化の違いによってもたらされる世界観には相当幅があって、それは逆にDNAに縛られない人間の可能性にも直結しているなということです。

画像: 『縄文にハマる人々』場面写真

『縄文にハマる人々』場面写真

『トゥレップ ~「海獣の子供」を探して~』について

アニメーション制作会社のスタジオ4℃の田中社長が「縄文にハマる人々」を観て、依頼していただいた作品です。当時は五十嵐大介さん原作の「海獣の子供」を製作中だった田中さんが、原作の重要な要素である「海にまつわる民話」の部分がアニメーション映画に長さの関係で全く取り入れられないことを気にしておられ、それを別作品として同時公開できないかということで企画されました。
 ただ、映画の公開まで5ヶ月ぐらいの期間しかなく、ドキュメンタリーとしてこの壮大な題材に向かうのはかなり困難だと思いましたので、森崎ウィンさんを中心としたフィクションを交えることで、どんなことがあっても映画として成立させられる骨組みを作ろうと思いました。インタビューさせていただいた皆さんはお一人ずつでも映画が一本できるぐらい魅力的な人たちなので、そこに不安はありませんでしたが、原作のスケール感を出すには南の島に行くことが必須だと感じていたので、「タリナイ」というマーシャル諸島における太平洋戦争の記憶を探るドキュメンタリー映画の監督である大川史織さんに協力していただき、マーシャルで実際に海についての民話を集めました。これらの一見バラバラな素材がユニークな化学反応を起こし、人間の進化をテーマにした不思議な映画になったと思います。

画像: 『トゥレップ ~「海獣の子供」を探して~』場面写真

『トゥレップ ~「海獣の子供」を探して~』場面写真

『アートなんかいらない!』公開記念-山岡信貴監督特集上映
『トゥレップ ~「海獣の子供」を探して~』『縄文にハマる人々』『死なない子供、荒川修作』連続上映
8月9日(火)より13日(土)までシアターギルドにて開催

詳細、チケット購入は下記より

新作『アートなんかいらない!』について

さて、新作の『アートなんかいらない!』ですが、アートのどんなようなところを、今作では描いているのでしょうか?

 ぶっちゃけ、まずは、アートのダメなところについて描いています。
 荒川修作と縄文文化に触れて以来、美術館に行って何を観ても全く面白いと思えなくなっていたのですがちょうどその頃、「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展」が大騒ぎになっていました。自分がこんなにも何も感じなくなっているアートに対して、これだけ苛烈な反応があることがとても奇妙に思えたのと、これだけの騒ぎがあったのだから、アート側から何か興味深いリアクションがあるのではと期待する自分もいたのですが、結果的にボイコットが展開されたぐらいで、全てが社会的な問題に回収され、その一連の展開で決定的にアートと自分の間の何かが断ち切られたように思いました。
 そんな中にあっても縄文土器はとても面白く感じる。これは単に趣味の問題なのか、それとももっと根本的な何かが潜んでいるのか?自分はもう「アートはいらない」と思っている。ではその時に「アート」とは何を指していて、「いる」とか「いらない」とはどういうことなのかを徹底的に考えてみると思いもよらぬ答えが見つかるかもしれないと考えたのです。自分もしばしば安易に「あれはサイテー」とか「クソだ」とか好き勝手に言い放ち、それで済ませることも多いし、そういう時代なんだと思いますが、そこを一旦踏みとどまって見つめ直してみると本当に問題にすべきことやアートを生み出してしまった人間について、重要なことが見えてくるのではと思いました。

画像: (c)2021 リタピクチャル

(c)2021 リタピクチャル

ドキュメンタリーで二部作という構成ですが、それだけのボリュームで作品としたのはどうしてなのでしょうか?

アートがいらないと言い切る時、2つのテーマがあると思いました。一つは「アートの何が問題なのか」もう一つは「アートがいらないとしたら、その時のアートは何を指しているのか」。1つ目のテーマについては問題点を指摘しながら事実を整理すればある程度伝わるので、さほど問題はないのですが、2つ目はアートの定義を組み直すことにもなり、万人に共通する答えに安易に辿り着くこともできないので、1つ目のテーマとは全く違う思考が必要とされます。ここを丁寧にやることがこの映画の存在意義だと思ったので、それぞれのテーマを丁寧に体験してもらうために二つに分けました。
また、「Session1 惰性の王国」をご覧いただいたあとは一旦現実世界で時間を過ごしたあと、「Session2 46億年の孤独」をご覧いただくとアートを含めた人間の行いが何を目指してきたのかがより実感いただけるかと思います。

今回、『アートなんかいらない!』をご覧になる方々へ一言お願いします。

アートが好きな人にとっては既存のアートに疑問を持つきっかけになるような、逆に、アートに興味がない人にとっては「実はアートって面白いかも」と思うきっかけになるような、矛盾した反応を引き起こす作品だと思いますので、アート好きな人はアート嫌いな友人を連れて、アート嫌いな人はアート好きな友人を連れて観に行ってもらえると鑑賞後のお話も弾み、楽しいのではと思います。

映画「アートなんかいらない!」予告

画像: 映画「アートなんかいらない!」 youtu.be

映画「アートなんかいらない!」

youtu.be

2021年/日本/カラー/DCP/Session1:98分 Session2:89分
監督:山岡信貴(『死なない子供、荒川修作』『縄文にハマる人々』)
ナレーション:町田康 影からの声:椹木野衣 
エンディングテーマ「何」SUPER JUNKY MONKEY

Session1出演:相馬千秋(アートプロデューサー) 倉本美津留(放送作家) 北川フラム(アートディレクター) 津田大介(ジャーナリスト) 大浦信行(映画監督/美術家) 岡本有佳(表現の不自由展実行委員) 木田真理子(ダンサー) 土屋日出夫(オリエント工業社長)ほか

Session2出演:広瀬浩二郎(国立民族学博物館准教授) 関野吉晴(探検家) 鎌田東二(宗教学者) ケロッピー前田(ジャーナリスト) 郡司ペギオ幸夫(早稲田大学教授) 人工知能美学芸術研究会(アーティスト) 佐治晴夫(宇宙物理学者)ほか

製作:リタピクチャル 
配給協力・宣伝:プレイタイム 
(c)2021 リタピクチャル

8月20日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

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