昨年のぴあフィルムフェスティバルでは、500作品近い応募作品の中から、映画ファン賞とエンタテインメント賞をダブル受賞!大野キャンディス真奈監督初の長編映画作品『愛ちゃん物語♡』が7月29日(金)より渋谷シネクイントにてついに公開となります。聖子さん役の黒住尚生さんと大野監督に、今作の制作秘話をはじめ、公開に向けての熱い想いを聞かせていただきました。【後編】 
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7月29日(金)より劇場公開される本作ですが、昨年は複数の映画祭でも上映されました。一番最初はぴあフィルムフェスティバルでの上映だったかと思いますが、映画祭での上映はいかがでしたか?

大野:「こうやって映るんだ」と思いながらスクリーンを観ていました。初めて大きい画面で、大勢のお客さんと一緒に観れたことがすごく嬉しかったです。私自身は、この映画を観すぎているので、あまりもう映画自体への感想は湧かなかったのですが、お客さんのリアクションは気になっていました。意外と結構上映中に笑ってくれるお客さんが多くて、「あ、そこで笑うんだ」等の発見がありました。上映後、「聖子さん、聖子さん」って言ってくれるお客さんも多かったり、「温かい気持ちになった」等の感想も聞けたりして、良かったです。

黒住:これまでも、自分の関わった作品を含め、パソコン等の画面で映画を観ることは、日々の生活の中であるのですが、こんなベタベタなことを言うのもあれなんですけど、やっぱり「映画は映画館で観るべきだ」と本気で思いました。面白味が全然違うんです(笑)。小さな画面で観た時は、監督が作った映像表現としての演出が伝わってきたのですが、スクリーンで観たら、面白いところは本当に笑ってしまうところまで行くんですよね。

自分を、というよりは作品全体がみれたような感覚だったんですね。

黒住:あとは、(PFFで審査員を務めていた)池松壮亮さんに「面白かった」って言って頂けたのが、嬉しかったです。

画像1: 映画「愛ちゃん物語♡」公開記念インタビュー
黒住尚生×大野キャンディス真奈 【後編】

お客さんからの感想には、性に関するものも少なくなかったかと思います。LGBTQの役は当人が演じなければいけないという議論も見られる中、黒住さんは役とどういう距離感にいられましたか?

黒住:聖子さんというキャラクターは、自分の中で、とても大きい存在でした。自分が女性の格好をして、メイクをして、実際に街中を歩いたり、人の目に触れるという経験は、本当に大きかったです。最初は、衣装もメイクも、普段の自分の格好とは大きく違うので違和感がありましたが、撮影が進んでいくと、むしろその衣装じゃないと、メイクをしていないと不安になるっていう感覚になっていきました。けれども、「愛ちゃん物語♡」の撮影が終わって、「片袖の魚」という作品の現場に入って、自分と向き合って、LGBTQについて考えてきた人たちと出会った時に不安になった部分はありました。「愛ちゃん物語♡」の中で自分が演じたキャラクターや作品そのものが、その人達にどう映るのだろうか、と。でも、「愛ちゃん物語♡」が完成して、映画祭でも観て、その時に「大丈夫!」というか、「そういうことじゃない」と思いました。言葉にするのはすごく難しいんですけど、「性について」という枠組みではなくて、一つの表現として、聖子さんが聖子さんとして、自分の好きな生き方をしているというのを表現するのは、そこは性別とか思想とかそういうことじゃないんじゃないのかなって思います。

画像2: 映画「愛ちゃん物語♡」公開記念インタビュー
黒住尚生×大野キャンディス真奈 【後編】

大野:脚本を書いているときから、聖子さんのことは1人の人として描きたかったんです。LGBTQという言葉も、企画当時から知ってはいたんですけど、自分の中では違和感のない存在だったので、そのまま書きました。ですが、映画祭で上映した際等、LGBTQについて感想を頂くことが予想以上に多かったです。作品チームの中でも「そういうことじゃないよね」と何度も話をして、もっと「1人の人として観て欲しい」ってことを主張していけたらいいなと思っていたので、聖子さんを演じてくれた黒住さんが今みたいに感じてくれていて、伝わっていて、良かったです。

黒住:僕たちは「トランスジェンダー」や「LGBTQ」等、言葉の定義ベースでの情報をネットとかで集めますけど、単なるカテゴリーにはめられる話ではないと思います。単純に僕と言う人間と1人の人が話していく過程で、その1人の人を少し分かる、「トランスジェンダー」ということを知るというよりも、「その人の個人的なことを知った」という感じなのかなと思っています。

それこそ「愛ちゃん物語♡」には雑に扱われる人物がいなくて、登場人物たち一人一人への愛情も感じます。

大野:私は、湊かなえさんがすごく好きなんですけど、湊かなえさんが「点で考えるのはつまらない」って仰ってたんですよね。本当にその通りだと思っていて、全部、面や線で考えて、その人がどうしてそういう行動をとるのかっていうのは全部その人のバックグラウンドにあると思うし、その人がこういう愛を持っていたり、嫌いだったりというのがあって、だからストーリーがこうなるという構図があると思うんです。だから、その1人1人の行動やバックグラウンドは、映画の中ですごく関係してくると思っているので、キャラクター1人1人にフォーカスしてちゃんと意味を持たせることは大切なことだと思っています。

画像3: 映画「愛ちゃん物語♡」公開記念インタビュー
黒住尚生×大野キャンディス真奈 【後編】

黒住さんは好きな著名人はいますか?

黒住:好きな俳優さんは、原田芳雄さんです。原田芳雄さんが大事にしている言葉で「遊び」というのがありまして。仕事を遊びだと思っている、仕事だと思ったことがない。現場に行くことは遊び場に行くこと、みたいなことなのですが。自分が演劇や映画をやっていて、なんで役者をやっているんだと振り返った時に、子供の時に公園にふらっと行って、そこで約束してなかった人と一緒に遊んじゃう感じとか、何して遊ぶかを決めずに「鬼ごっこしようや」「かくれんぼしようや」「ボールが落ちてるからボールで遊ぼうや」みたいな感じに近いのかなと思っています。すごくその時間がクリエイティブなものだなって思うので、その時間にずっと居続けたいという感覚と、原田芳雄さんが仰る「遊び」「雑遊」というものがリンクしていて、だから今作でも脚本に書かれてること以上に現場で起きることは面白いなと感じる部分は多くありました。

監督は油絵など別のアートにも取り組まれていると思いますが「映画」という表現方法については、どのように考えていらっしゃいますか?

大野:映画は中高生の時に1人でよく観ていました。一番ダイレクトに、人に何か伝えれられる手段かなと思っています。絵もダイレクトに伝わりますが、伝わることは、受け手が自由に思ったことで良いと思っていて、でも映画は、作り手の主題が強く伝わるものだと思います。前作の「歴史から消えた小野小町」もそうでしたが、この人の人生を伝えたいとか、このことをみんなに問いかけたいって気持ちで作ることができる。あと、1人で作るよりみんなで作る方ができることも多いし、いつもは1人で活動してるので、映画製作は不思議な感覚になります。映画いいな〜って思っています。

画像4: 映画「愛ちゃん物語♡」公開記念インタビュー
黒住尚生×大野キャンディス真奈 【後編】

今後の活動でやってみたいことはありますか?

大野:もっと規模の大きい映画を作ってみたいです。今回は、同世代の学生主体(当時)でやっていて、そのこと自体がメインだった部分もあります。今しか作れないものを作りたいなって思っていたので。プロだけど学生みたいな人たちと一緒に何か作りたかったんですよね。それを出来たので、今度は、もっと勉強して、プロの人たちと組んで映画作ってみたいと思っています。

黒住:映画なんだね。

大野:これからも映画作りた〜い(笑)。自分で完璧だって思える映画なんてないのかもしれないのですが、今回の反省点を活かしながら、進化していきたいなって思っています。「愛ちゃん物語♡」はもちろん今しかできないものですし、今の自分のベストを尽くしましたし、すごく良い作品になって愛着もあります。

公開に向けてメッセージをお願いします。

大野:3年前に家族の形態について考えていた時にこの作品を作ろうと思いました。今、3年前の当時よりも「家族の形態」「LGBTQ」「多様性」という言葉を世間的に聞くようになってきたと感じています。ちょうど映画の公開がそれに重なったと言いますか、時がちょうど重なって、だからもっとみんなにとって身近な感覚で観てもらえるのかなと思っています。映画はもともと、「あなたはどう思いますか?」と、みんなに対して問いかけるものでもあると思うので、ご鑑賞いただいた後、何か考えるきっかけになったらいいなと思っています。

黒住:なんでこの作品の脚本に惹かれたのかという部分に含まれるんですけど、自分が育った家族というものから、年を取って、自立・子離れ・親離れという言葉があって、それぞれの人生の中で「選択」をしていく。振り返った時に親の影響は少なからず絶対あると思いますし、幼少期の出来事は覚えてると思いますし、でも、今自分がこういう生き方であったり価値観であったりというのを振り返ると、親以外の存在も大きかったなと思うんです。「愛ちゃん物語♡」の中にはそういうものがたくさん詰まってるんじゃないかなと思っています。あまり上手く伝えられませんが、肯定してくれる作品だと思います。

大野:みなさん、ぜひ、「愛ちゃん物語♡」観に来てください!

取材・文: 久米修人  編集:Monica写真: 小島翔

画像5: 映画「愛ちゃん物語♡」公開記念インタビュー
黒住尚生×大野キャンディス真奈 【後編】

●予告編

画像: 7月29日(金)公開!「愛ちゃん物語♡」予告編 youtu.be

7月29日(金)公開!「愛ちゃん物語♡」予告編

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「愛ちゃん物語♡」 あらすじ
愛ちゃん(16)は、仕事人間であり毒親の父、鉄男に過度に束縛され、自由を知らずに成長した。父とは一緒に食事もせず、メールだけの仲。友達もおらず、オシャレも知らない愛ちゃんは、ある日偶然、聖子さんと出会う。文化も生活も異なる2人は一緒に過ごすなかで、家族のようで友達のような関係になっていく。しかし、聖子さんにはある秘密があって...
普通って何?家族って?愛って?ひとりぼっちだった愛ちゃんが見つけた「♡」とは?

出演:坂ノ上茜 ⿊住尚⽣ 松村亮 保⼟⽥寛 森衣里 林田隆志 西出結 上埜すみれ 竹下かおり 山根真央 大門大洋 及川欽之典心結

監督・プロデューサー・脚本・編集:⼤野キャンディス真奈

撮影:澤⽊宥吾 ⼩島翔 呉⼤雅俊 ⼩畑智寛 ⽥村悠 助監督:Ryo Matsumura 竹井啓吾
制作担当:山口小百合 録⾳:⼩畑智寛 野⽊亮太朗 美術:博徒出陣さほこ スタイリスト:髙橋あみ
⾳楽:⽯川柚太 中島直樹 須藤佳帆 ポスターデザイン:古瀬彩香
アソシエイトプロデューサー:Monica 久⽶修⼈ 共同プロデューサー:和⽥有啓

製作:「愛ちゃん物語♡」作品チーム 
配給:Atemo
2021♡ビスタ♡5.1ch♡DCP♡88min.

7/29(金)より、渋谷シネクイントにて1週間限定レイトショー公開!他、全国順次公開!

渋谷シネクイントHP:https://www.cinequinto.com/shibuya/

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