ジャパン・ソサエティー(JS)映画部が主催する9月2日までオンラインとJS劇場内上映のハイブリッド形式でお届けしている本年度日本映画祭・第15回 『JAPAN CUTS〜ジャパン・カッツ〜』の第2回大林賞は山西竜矢監督の『彼女来来』に贈られます。本作品は、若手の映像作家の活動を後押しすることを目的に昨年から導入されたネクストジェネレーション・ コンペティション部門から選出されました。

本映画祭唯一の審査部門であるネクストジェネレーション・ コンペティション部門では、映画関係者による審査の結果、最も完成度の高い作品に「大林賞」(Obayashi Prize)が授与されます。
今年の審査員は、日本映画の字幕・翻訳家のドン・ブラウン氏、映画史研究家の平野共余子氏、パシフィック・アーツ・ムーブメントのアーティスティック・ディレクター、ブライアン・フー氏の3名です。本年度審査委員は次のように述べています。

「山西竜矢監督は、絶妙な視覚と聴覚のデザイン・演出により魅力的で別世界のミステリーのような人間の本質や家庭の不安に対する考察を描いています。本作品では、平凡な環境が不安によって変化するという主人公の感情的な旅を通して、映画表現の可能性を追求しています。『彼女来来』は、日常生活における微妙な人間関係を描くという日本映画の伝統を踏襲しつつ、Jホラーの要素を加えることによって世界を取り巻く現代の不安や不確実性を表現しています。世界の映画史では、人間のファンタジーへの欲求とリアリズムの追求を組み合わせたものを課題としますが、本作はこの課題に巧みに取り組んでいます。」

【山西竜矢監督コメント】
JAPAN CUTSのNext Generation部門にて「彼女来来」が大林賞を受賞させていただきました。
知らせを聞いて、本当に嬉しく、大変驚いています。
撮影が行われた昨2020年は、コロナ禍の始まりの年でした。苦しく、先が見えない不安定な状況の中での制作で、このような賞をいただけることになるとは思いもしませんでした。完成さえできれば。当時はそれしか考えていなかった気がします。言うまでもなく、そんな状況で取り組んだ初めての長編作品で評価を得ることが出来たのは、共に映画を作りあげてくれた、優れたキャスト・スタッフ一人一人の力のおかげです。仲間たちを、心から誇らしく思います。
また、本作は、私が個人的に体感した人間社会の仄暗い部分を、物語として映像に落とし込んだものです。大変な時期を励ますポジティブな内容とは言い難い作品ですが、いつかの自分がそうだったように、そのような内容にこそ癒される方、救われる方もいるのではないか。そんな風に信じてやってきたことが一つの形として認めていただけて、大きな励みになりました。今後は、大林監督の名を冠したこの賞の重みを胸に、より真摯に創作に携わってまいります。
最後になりましたが、JAPAN CUTSの皆様、審査員の皆様、そしてこの映画に関わってくださった全ての皆様に、深く、心より感謝いたします。本当に有難うございました。

また、中濱宏介監督の『B/B』は、「驚くほどダイナミックで野心的な作品であり、中濱監督の名刺ともいえる。本作品はその創造性によって十分に力を発揮している」と評価され、「スペシャル・メンション」に選ばれました。

「大林賞」は、2020年4月に82歳で逝去された故・大林宣彦監督の偉業を称えて名付けられました。本賞は、大林氏の遺志を継ぐとともに、本映画祭の「ネクスト・ジェネレーション」部門を通じて、日本のインディペンデント映画のさらなる発展を促すために設けられました。

今年のネクスト・ジェネレーション部門では『B/B』(中濱宏介監督)、『彼女来来』 (山西竜矢監督)、『愛のくだらない』(野本梢監督)、『佐々木、イン、マイマイン』(内山拓也監督)、『スパゲティコード・ラブ』(丸山健志監督)、『夏、至るころ』(池田エライザ監督)の6作が選出されています。
同部門作品をはじめとするジャパン・カッツのラインナップは、9月2日まで米国内においてfilm.japansociety.orgでオンラインレンタルでご視聴いただけます。

【大林賞受賞作品紹介】

『彼女来来』 Mari and Mari

画像: Mari and Mari © TATSUYA YAMANISHI, LesPros Entertainment, Inc

Mari and Mari © TATSUYA YAMANISHI, LesPros Entertainment, Inc

穏やかな性格のキャスティングエージェント・紀夫(前原滉)は、長年のパートナーである茉莉と小さなアパートで共同生活を送り、簡素ながら平穏無事に暮らしていた。しかし、ある日紀夫が帰宅すると、茉莉が忽然と姿を消し、代わりに同姓同名で記憶のない若い女性がいた。恋人が超自然的に"再配置 "され、新しいマリの出現と、自分が知っていると思っていた茉莉の失踪を両立させようとする紀夫の努力は、異様な方向へと急展開していく。
安部公房を思わせる不気味な疎外感と、黒沢清を思わせる異世界の恐怖が漂う、山西竜矢監督の長編デビュー作は、巧みな撮影と演出によって、ひとりよがりの幻想を示唆するドラマとなっている。

2021年/91分/監督: 山西竜矢 出演: 前原滉 天野はな 奈緒

山西竜矢(やまにしたつや)
1989年香川県生まれ。同志社大学卒。
ピン芸人として多くの舞台に立った後、俳優業へ転向。
劇団子供鉅人への客演参加を機に、2014 年より劇団員となる。俳優として舞台・映像で多数の作品に出演する傍ら、脚本・演出について独学で学び、2016 年、脚本・演出をつとめるピンク・リバティを旗揚げ。映像作品も手掛け、翌17年には第6回クォータースターコンテストで脚本・監督した短編映画「さよならみどり」がグランプリを受賞。ジャンルレスに活動の場を広げている。

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