舞台演出家、脚本家として活躍する山田佳奈監督の長編初監督作品となる映画『タイトル、拒絶』。本作は女たちの本音に寄り添った先鋭的なオリジナル作品で、第32回東京国際映画祭をはじめ、海外の映画祭でも上映され注目され続けている。今回は、カノウ役を演じた伊藤沙莉さん、シホ役の片岡礼子さん、山田佳奈監督にお話を聞いた。

──本作が制作されたときとは社会環境が大きく変わりました。公開されるにあたり、現在の率直なお気持ちをお聞きかせください。

山田佳奈(以下、山田):コロナ禍というものが、必ずしもマイナスなものだけではないのかなと感じています。本作は私の初長編作ということもあり、先輩たちから「“作家”か“商業作家”か、どちらかを選ぶことになる」と言われていたのですが、「私は“作家”なんだ」というシンプルな答えが見つかりました。私は本当は何がしたいのか。そして、自分自身の技術や価値を低く見積もることなんてないのだ、と気づかされました。こう想うことができたのは、今のこの時間があったからこそだと思います。

伊藤沙莉(以下、伊藤):私もマイナス面ばかりではなくプラスな面もある気がしていて、自粛期間は多くのものを吸収する時間になりました。それに、エンタメ界に身を置く私たちだけでなく、さまざまな職業の方たちが“これから”を考えた時期なのではないかと思います。私自身は、“これまで”を振り返ることもしましたし、身の周りのものに対してシンプルな気持ちでいられるようになりました。これまでずいぶんと複雑に生きてきたことにも気がつきましたね。

そして、こういう状況だからこそ、周囲の人々の“必死さ”が伝わってきましたし、この状況下でなければ生まれなかった作品もあると思います。『タイトル、拒絶』に登場する人々もまた、必死に生きている人たちです。「まさか自分がこんなことになるとは思わなかった」というところなど、映画と現実とがリンクする部分もあるかもしれません。本作の完成時より、今の方がお客さんにヒリヒリしたものが伝わると思います。

片岡礼子(以下、片岡):……私が言いたかったこと、お二人が言っちゃいました(笑)。

伊藤:いやいや、聞かせてくださいよ(笑)。

片岡:料理をする時間が普段の何十倍も増えましたね。食物って、生きることと“イコール”なのだと改めて思いました。そして、自分にそういう居場所があることの大切さ。船に例えると、帰ってこられる“港”のような。港は大切ですよね。……あと、いつもより掃除をしました。

山田:……!ここでオチをつけてきますか!さすがです(笑)。

伊藤:完璧な順番!三番目の役割を果たしすぎです(笑)。

画像: 映画『タイトル、拒絶』
伊藤沙莉さん×片岡礼子さん×山田佳奈監督 インタビュー

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Profile

伊藤沙莉
1994年生まれ、千葉県出身。03年、9歳でドラマデビュー。『パンとバスと2度目のハツコイ』(今泉力哉監督)、『榎田貿易堂』(飯塚健監督)、『寝ても覚めても』(濱口竜介監督)、『blank13』(齊藤工監督)などの映画に出演し、第10回TAMA映画賞で最優秀新進女優賞、第40回ヨコハマ映画祭で助演女優賞を受賞。20年6月、テレビアニメ「映像研には手を出すな!」やドラマ「これは経費で落ちません!」「ペンション・恋は桃色」などでの活躍を評価され、第57回ギャラクシー賞テレビ部門個人賞、さらに『生理ちゃん』(品田俊介監督)で第29回日本映画批評家大賞助演女優賞に輝いた。長編初主演は『獣道』(17/内田英治監督)。今年は『ステップ』(飯塚健監督)、『劇場』(行定勲監督)、『蒲田前奏曲』(穐山茉由監督)、『小さなバイキング ビッケ』(日本語吹替主演)、『十二単を着た悪魔』(黒木瞳監督)、『ホテルローヤル』(武正晴監督)と映画公開作品が相次ぐ。『タイトル、拒絶』で、第32回東京国際映画祭東京ジェムストーン賞を受賞。

片岡礼子
1971年生まれ、愛媛県出身。93年、『二十才の微熱』(橋口亮輔監督)で映画デ
ビュー。映画初主演の『ハッシュ!』(01/橋口亮輔監督)でキネマ旬報ベスト・テン主演女優賞、ブルーリボン賞主演女優賞を受賞。近年の主な出演作は、『続・深夜食堂』(17/松岡錠司監督)、『ミスミソウ』(18/内藤瑛亮監督)、『榎田貿易堂』(18/飯塚健監督)、『愛がなんだ』(19/今泉力哉監督)、『楽園』(19/瀬々敬久監督)、『閉鎖病棟̶それぞれの朝̶』(19/平山秀幸監督)など。本年も『Red』(三島有紀子監督)、『ステップ』(飯塚健監督)、『空に住む』(青山真治監督)、『とんかつDJアゲ太郎』(二宮健監督)に注目作に出演している。また、ドラマでは「あなたの番です」(NTV)、「宮本から君へ」(TX)など話題作に出演。

山田佳奈
1985年生まれ、神奈川県出身。元レコード会社社員・舞台演出家・脚本家・俳優など、さまざまな肩書を持ちつつ、短編映画『夜、逃げる』(16)で初監督デビュー。舞台演出で培われた演出方法は抜群で、人間が生きるために発するエネルギーを余すことなく魅力的に描くスタイルに定評がある。外部作品への書き下ろしも積極的に行っており、主な脚本作にNetflix「全裸監督」(19)、朝日放送ドラマ「神ちゅーんず」(19)、TOKYO MX「劇団スフィア」(脚本監督回『渇望~三十路の祭りに~』)など。監督作では短編映画『今夜新宿で、彼女は』(18)、『カラオケの夜』(18)に続き、本作が長編初作品となる。また、映画同名作『タイトル、拒絶』を自身が主宰する劇団・▢字ックで、来年2021年に本多劇場で再演。10月23日には処女小説である『されど家族、あらがえど家族、だから家族は』を出版。

『タイトル、拒絶』
11月13日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー

画像: ©DirectorsBox

©DirectorsBox

STORY
雑居ビルにあるデリヘルの事務所。バブルを彷彿させるような内装が痛々しく残っている部屋で、華美な化粧と香水のにおいをさせながら喋くっているオンナたち。カノウ(伊藤沙莉)は、この店でデリヘル嬢たちの世話係をしていた。オンナたちは冷蔵庫に飲み物がないとか、あの客は体臭がキツイとか、さまざまな文句を言い始め、その対応に右往左往するカノウ。店で一番人気の嬢・マヒル(恒松祐里)が仕事を終えて店へ戻ってくる。マヒルがいると部屋の空気が一変する。何があっても楽しそうに笑う彼女を見ながら、カノウは小学生の頃にクラス会でやった『カチカチ山』を思い出す。「みんながやりたくて取り合いになるウサギの役。マヒルちゃんはウサギの役だ。みんな賢くて可愛らしいウサギにばかり夢中になる。性悪で嫌われ者のタヌキの役になんて目もくれないのに・・・。」ある時、若くてモデルのような体型のオンナが入店してきた。彼女が入店したことにより、店の人気嬢は一変していった。その不満は他のオンナたちに火をつけ、店の中での人間関係や、それぞれの人生背景がガタガタと崩れていくのだった・・・。

伊藤沙莉、恒松祐里、佐津川愛美、片岡礼子
でんでん、森田 想、円井わん、行平あい佳、野崎智子、大川原 歩
モトーラ世理奈、池田 大、田中俊介、般若

監督・脚本:山田佳奈
プロデューサー:内田英治 藤井宏二、キャスティングプロデューサー:伊藤尚哉
撮影:伊藤麻樹、照明:井上真吾、録音・効果:丹 雄二、美術:中谷暢宏、衣装:吉田直美、ヘアメイク:合谷純子、スチール:山本和穂、助監督:鈴木宏侑

劇中歌:女王蜂「燃える海」(Sony Music Labels Inc.)

企画:DirectorsBox、制作:Libertas、配給:アークエンタテインメント
製作:DirectorsBox / Libertas / move /ボダパカ
2019年/日本/カラー/98分/シネマスコープ/5.1ch
©DirectorsBox

■伊藤沙莉さん・片岡礼子さん・山田佳奈監督
ヘアメイク: AIKO
■伊藤沙莉さん
スタイリスト:吉田あかね
ロングベスト(¥62,000)、シャツワンピース(¥72,000)Y’S / ワイズ
〈問い合わせ先〉ワイズプレスルーム 03-5463-1540
イヤリング(¥44,000)、リング(¥28,000)Lana Swans / ラナスワンズ
〈問い合わせ先〉ススプレス 03-6821-7739

text:折田侑駿 photo:岡信奈津子 edit:矢部紗耶香

cinefil BOOK vol.4 は2020年11月28日(土)発売!

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