「ストレイ・ドッグ」

画像: 北島博士のおもしろ映画講座 第69回 オスカー女優ニコール・キッドマンが女優魂をみせる衝撃のネオ・ノワール『ストレイ・ドッグ』

 ストレイ・ドッグとは野良犬のこと。「野良犬」といえば黒澤明監督、三船敏郎主演の1949年の刑事ものを思い浮かぶが、今回紹介する「ストレイ・ドッグ」は単独で犯罪者を追う女性刑事を主人公にしたサスペンス・スリラー。監督は日米ハーフのカリン・クサマ。脚本はクサマの夫であるウィル・ヘイとマット・マンフレディが執筆。

LA。ハイウェイ下に駐められた自動車に乗った女性——顔色が悪く、目にはクマができ、見るからに大儀そうな表情をして目をつぶり、じっと座ったまま。この冒頭シーンから本作がダークな雰囲気に彩られ、緊迫感、熱情に満ちたシーンが展開されることが予想される。
相棒からのメール、上司の命令もすべて無視して単独行動をとり、捜査課内でも浮いた存在であり、お荷物扱いされている。そんな中年女性刑事エリン・ベルは自動車を降りると、死体発見現場に赴き、「犯人を知っている」と言うが、担当刑事に邪魔するなと言われて引き返す。
 アメリカでは銀行強盗にあった際、紙幣を紫の染料で汚して使えなくする方法がとられているが、その紫色に染まった紙幣がベルのもとへ届けられた。彼女自身が関わった17年前の銀行強盗のものと判明。以後、現在と過去の描写が交錯し、少しずつ真相が解明されていく。若くてまだ理想を失っていない彼女が、兇悪強盗グループに若手刑事のクリスと共に潜入することになる。人の心をもてあそび、冷酷に人を殺すリーダーのサイラスの信頼を得ることは並大抵のことではなかった。
 潜入捜査ものならではの正体がばれないかというハラハラドキドキの要素、警官なのに犯罪に参加することへの戸惑いといった内面心理描写に加えて、銀行襲撃と逃走のアクション場面がちりばめられ、見ていて飽きない。せっかく奪った紙幣が紫に染まっていて、グループは瓦解し、仲間は逮捕されるが、サイラスだけは逃げおおせた。あれから17年、サイラスが戻ってきたらしい。かつての仲間から強引な方法で、サイラスに関する情報を入手したベルが彼のもとへ肉薄していく過程が、スリリングに描かれている。

画像1: ©︎2018 30WEST Destroyer, LLC.

©︎2018 30WEST Destroyer, LLC.

着実に捜査を進めていくタフな警官というのはハードボイルドではおなじみだが、それが家庭トラブルを抱えた女刑事という設定が面白い。結婚には失敗し、16歳の一人娘が付き合っている不良青年から自分の欠陥をぐさっとつかれて落ち込んだりするところが妙に説得力がある。
 エリン・ベルに扮したニコール・キッドマンが、日焼けし肌荒れ丸出しのメーキャップで女優魂をみせてくれる。もっとも、その分、若い時の溌溂とした表情がはえてくるのだが。彼女自身は「スクリーンでは私自身を見てほしくない。観客にはエリン・ベルを見てもらいたい」と語っている。サイラスにはイギリスのヨークシャー出身のトビー・ケベルが扮している。

画像2: ©︎2018 30WEST Destroyer, LLC.

©︎2018 30WEST Destroyer, LLC.

 カサマはベビー・シッターの仕事を通じてジョン・セイルズ監督と知り合い、彼の製作アシスタントとして3年間働き、そのかたわらボクシング・ジムに通い、そこで得た発想を基に、女子ボクサーを描いた「ガールファイト」(2000)で監督デビューし、カンヌ映画祭でユース賞、サンダンス映画祭で監督賞を受賞。2005年に女性アクションSF映画「イーオン・フラックス」を撮り、以後も低予算映画、TVシリーズの演出を手掛けている。本作では「直射日光下のノワール」を目指して、警察捜査もの、銀行ギャングもの、家庭ドラマものを組み込んだハイブリット作品をテンポよく演出している。

画像: カリン・クサマ監督

カリン・クサマ監督

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

『ストレイ・ドッグ』予告

画像: オスカー女優ニコール・キッドマンが刑事役に初挑戦!衝撃のネオ・ノワール『ストレイ・ドッグ』予告 youtu.be

オスカー女優ニコール・キッドマンが刑事役に初挑戦!衝撃のネオ・ノワール『ストレイ・ドッグ』予告

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【ストーリー】
LA市警の女性刑事エリン・ベル。若き日の美しさはすでに遠い過去のものとなり、今は酒に溺れ、同僚や別れた夫、16才の娘からも疎まれる孤独な人生を送っている。ある日、エリンの元に差出人不明の封筒が届く。17年前、FBI 捜査官クリスとともに砂漠地帯に巣食う犯罪組織への潜入捜査を命じられたエリンは、そこで取り返しのつかない過ちを犯し、捜査は失敗。その罪悪感が今なお彼女の心を蝕み続けていた―。封筒の中身は紫色に染まった1枚のドル紙幣。それは行方をくらました事件の主犯からの挑戦状だった。過去に決着をつけるため、犯人を追う野良犬(ストレイ・ドッグ)と化したエリンは、灼熱の荒野へと車を走らせるが―。

出演:ニコール・キッドマン、トビー・ケベル、タチアナ・マズラニー、セバスチャン・スタン
監督:カリン・クサマ
脚本:フィル・ヘイ&マット・マンフレディ
撮影:ジュリー・カークウッド
音楽:セオドア・シャピロ
2018年/アメリカ/英語/カラー/スコープサイズ/5.1ch/121分/日本語字幕翻訳:チオキ真理/原題:DESTROYER
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
©︎2018 30WEST Destroyer, LLC.
PG12

TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開中

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