ミュシャの描くエレガントで華やかな女性像は、今なお、世界中の人々を魅了し続けています。
パリで、グラフィック・アーティストとして成功し、アール・ヌーヴォーの騎手として名をなしたアル フォンス・ミュシャ(1860-1939)。
「アール・ヌーヴォー」とは文字通り、「新しい芸術」という意味で、19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパを中心に花開いた国際的な美術運動です。
ミュシャの、流れるような曲線で描かれた優美な女性のポスターや装飾パネルは、「線の魔術」とも言われ、美術史上大きな改革をもたらしました。

ミュシャの没後80年を記念し、「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ ― 線の魔術」が、2019年より東京を皮切りに国内6会場で開催されることになり、今回は、2020年まもなく開幕予定の名古屋市美術館における展覧会を紹介させていただきます。

本展では、ミュシャ財団の監修のもと、ミュシャの手掛けたデザイン、イラスト、ポスター、装飾パネルなど100 点以上に加え、ミュシャの影響を受けた国内外のアーティストの作品、合わせて約250点が集結しています。
ミュシャのグラフィック・アーティストとしての仕事にスポットを当て、「ミュシャ様式」と呼ばれた独創的なスタイルが、どのようにして確立され、後世のアートにどのように影響を与えたのかを探ります。
この機会にミュシャの魅惑の世界へ、是非、お運びください。
それでは、シネフィル上でも本展と同様、5つのセクションに分け、見ていきましょう。

1ミュシャ様式へのインスピレーション

アール・ヌーヴォー様式の典型となったミュシャ様式は、チェコ人であったミュシャが、ウィーン、ミュンヘン、そしてパリという国際芸術都市で修業を積むうちに、新しい時代に呼応した芸術を模索し、創り出した独自の様式でした。
「美の殿堂」と呼ばれたミュシャのアトリエは、モラヴィアの工芸品や、ロココ風の家具、日本や中国の美術工芸品などで飾られていたそうです。
鳥や花などが描かれた装飾的な七宝焼の壺など、ジャポニズム(日本趣味)の影響も受けていたようです。
こうした多種多様な美がミュシャの芸術のインスピレーションとなっていたのでしょう。

画像: パリ、グランド・ショミエール通りのアトリエにて(セルフポートレート)1892年 ©Mucha Trust 2020

パリ、グランド・ショミエール通りのアトリエにて(セルフポートレート)1892年 ©Mucha Trust 2020

2ミュシャの手法とコミュニケーションの美学

ミュシャは基本的に「線の画家」です。
美術教育を受ける前の、幼少期から青年期にかけての素描画に見られる、流麗な描線による日常と空想世界の描写は、後に手がけるイラストやポスターに使われたリトグラフという版画技術による印刷表現には、理想的なスタイルでした。
ここではミュシャのイラストレータとしての仕事に焦点を当て、アール・ヌーヴォーのグラフィック・アーティストとして手掛けたデザインやイラスト、雑誌の表紙絵などが紹介されています。

画像: アルフォンス・ミュシャ《風刺雑誌のためのページレイアウト》 1880年代 インク・紙 ミュシャ財団蔵 ©Mucha Trust 2020

アルフォンス・ミュシャ《風刺雑誌のためのページレイアウト》
1880年代 インク・紙 ミュシャ財団蔵 ©Mucha Trust 2020

3ミュシャ様式の「言語」

ミュシャは「より多くの人々が幸福になれば、社会全体も精神的に豊かになる」「芸術は特権階級だけのものではなく、民衆とともにあるべきだ」という考えを持ち、人々に芸術美を伝えたいと様々な手法を考えました。
そしてミュシャは、エレガントな女性の姿に花などの装飾モティーフを組み合わせ、曲線や円などを多用しながら独特の構図の形式―ミュシャ様式―を創り出したのです。
こうしたイラストやポスターなどの商業デザインにおける独特の手法は、ミュシャが人々とコミュニケートするための「言語」とも言うべきものでした。

画像: アルフォンス・ミュシャ 《黄道十二宮》 1896年 ラーリトグラフ ミュシャ財団蔵 ©Mucha Trust 2020

アルフォンス・ミュシャ 《黄道十二宮》
1896年 ラーリトグラフ ミュシャ財団蔵 ©Mucha Trust 2020

黄道とは、天球上の太陽が描く見かけの軌道のことで、この黄道を12等分し、それぞれに星座を当てはめていったのが《黄道十二宮》で、カレンダーとして用いられました。
本作は、十二宮(星座)のモティーフを組み入れた円環を背景に、華やかなアクセサリーを身に付けた美しい女性の横顔が見事に融合し、ミュシャの代表作のひとつです。
本作はミュシャ様式の形成期にあった1896年後半の作品で、流麗な女性の髪の表現は、ミュシャ様式の典型となっていきました。  

4よみがえるアール・ヌーヴォーとカウンターカルチャー

ミュシャが亡くなってから24年、1963年にミュシャの回顧展が開催され、旋風を巻き起こしました。
これに即座に反応したのが、若者文化の中心地となっていたロンドンとサンフランシスコのグラフィック・アーティストたち。特にサイケデリック・ロックに代表される形而上的音楽表現と共鳴するものがありました。
一方、ミュシャ様式は、新世代のアメリカン・コミックにも波及し、その影響は今日まで続いています。
   

画像: アルフォンス・ミュシャ 《椿姫》1896年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵 ©Mucha Trust 2020

アルフォンス・ミュシャ 《椿姫》1896年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵 ©Mucha Trust 2020

演劇『椿姫』は女優サラ・ベルナールの当たり役で3000回以上も公演されました。
ミュシャは、サラが演じた『ジスモンダ』に続き、『椿姫』のポスターも作成しました。
伝統的な衣装を現代的なものに変えたいというサラの希望で、『椿姫』では、衣装デザインもミュシャが担当しています。
本作では、白い清楚なドレスに身を包んだサラが横向きに立ち、髪にも白い椿の花を飾り、足元にも白い椿の花が描かれています。
画面は白やパープルの淡い色調で、背景には星がちりばめられています。
ポスターの文字の輪郭は丸みを帯びていて、優しくロマンチックな感じがします。
美しい女性像と花や装飾モティーフの融合した、まさにミュシャ様式で描かれています。
   

5マンガの新たな流れと美の研究

与謝野鉄幹が主宰した「明星」第8号(1900年)の表紙を飾ったのは一條成美によるミュシャを彷彿させる挿絵でした。
これをきっかけに、明治30年代半ば、文芸誌や女性誌の表紙を、時には全体的な引き写しを含め、ミュシャやアール・ヌーヴォーを思わせる女性画と装飾からなるイラストレーションが飾ることになります。与謝野晶子の歌集「みだれ髪」の表紙デザインも、このミュシャ的装本となっています。

画像: アルフォンス・ミュシャ 《モナコ・モンテカルロ》1897年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵 ©Mucha Trust 2020

アルフォンス・ミュシャ 《モナコ・モンテカルロ》1897年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵 ©Mucha Trust 2020

19世紀後半には交通網が発達し、観光や旅行がブームを迎えました。
特に、カンヌ、ニースからモナコのモンテカルロに至る地中海沿岸地域は「コート・ダジュール」(紺碧海岸)と呼ばれ、人気を博しました。
本作は、この美しい観光地域を走るフランスの鉄道会社が企画した「パリからモンテカルロまで16時間、豪華列車の旅」の宣伝ポスターです。
地中海を背景に、旅への憧れを抱く少女が描かれています。
画面下の花の円環モティーフと緩やかな曲線を描いた長い4本の蔓は、鉄道の車輪とレールを表わしているのでしょう。
少女の背後の花の円環モティーフ上で羽ばたく小鳥たちは楽しい旅を誘うかのようです。
これらのモティーフは、ウイリアム・モリスや日本美術の影響を受けているとも言われています。 
                              

画像: アルフォンス・ミュシャ 《ヒヤシンス姫》 1911年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵 ©Mucha Trust 2020

アルフォンス・ミュシャ 《ヒヤシンス姫》 1911年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵 ©Mucha Trust 2020

1911年にプラハで初演されたバレエ・パントマイムの「ヒヤシンス姫」の宣伝ポスターです。
ヒロインを演じたチェコの人気女優アンドゥラ・セドラチュコヴァが、玉座に座っています。背後には「連帯」や「永遠」を意味する円環モティーフが描かれています。
こうしたミュシャ様式の特色は後世に引き継がれていきます。
          
「コマーシャリズムの要素もありながら、絵画的でもあり、装飾美にもあふれて、それを一幅の絵に収めているのはミュシャだけだった」  (マンガ家 松苗 あけみ) 
     
演劇のポスターから一躍脚光を浴び、独自の芸術世界を築きあげたミュシャは、アール・ヌーヴォーの代表となりました。
花や葉など自然の植物をモティーフにし、装飾したミュシャ様式は、絵画だけでなく、建築や家具、工芸、生活用品にも浸透していきました。
ミュシャの影響を受けた国内外のグラフィック・アーティストや現代の日本のマンガ家は多く、時代を超えてミュシャ様式は受け継がれています。
エレガントで美しいミュシャの世界を是非、ご堪能ください。
           

展覧会概要

※新型コロナウィルスの影響で開幕が延期となっています。詳しくは展覧会公式サイトをご確認ください。
https://www.ctv.co.jp/event/mucha2020_nagoya/

展 覧 会 名「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ―線の魔術」
会   期   2020年4月25日(土)~6月28日(日)  【56日間】
開 館 時 間   午前9時30分~午後5時、金曜日は午後8時まで
いずれも入場は閉館30分前まで
休 館 日   月曜日
会   場   名古屋市美術館 
名古屋市中区栄2-17-25 芸術と科学の杜・白川公 園 内 
TEL:052-212-0001
観 覧 料   一般:1,500円(1,300円)、高大生:1,000円(800円)、中学生以下:無料
カッコ内は20人以上の団体及び前売料金

主   催   名古屋市美術館、ミュシャ財団、中京テレビ放送、読売新聞社
後   援   チェコ共和国大使館、チェコセンター、チェコ政府観局、           
        名古屋市立小中学校PTA協議会
協   賛   大成建設、光村印刷、損保ジャパン
協   力   日本航空、日本通運、名古屋市交通局
企 画 協 力   NTVヨーロッパ

みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ@名古屋 cinefil チケットプレゼント

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ@名古屋cinefil チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効の、この招待券は、非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。
 
応募先メールアドレス  info@miramiru.tokyo
応募締め切り    2020年7月12日(日)24:00
 
1、氏名
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
  建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、当選無効となります。
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また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。

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