英国屈指の美の殿堂であるロンドン・ナショナル・ギャラリーの、国外初めてとなる所蔵品展が、遂に2020年春、日本で開催されることになりました。
ゴッホの《ひまわり》(1888年)やモネの《睡蓮の池》(1899年)、稀少なフェルメールの後期の秀作をはじめ、イタリア・ルネサンスからバロック期のヨーロッパ、イギリス絵画、そしてポスト印象派に至るまで61点の、ロンドンが世界に誇る至宝ともいえる作品の数々が、日本で初公開されることになったのです。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーは、イギリス政府が銀行家から購入したわずか38点の絵画と邸宅を母体とし、1824年に設立されましたが、現在ではロンドン中心部のトラファルガー広場に移転し、2,300点を超える絵画を収蔵しています。
同館は、王室コレクションが母体となった他のヨーロッパの著名な美術館とは異なり、英国市民の「心を豊かにする喜び」のために創設された美術館です。
その質の高い名画の体系的なコレクションは、「西洋絵画の教科書」とも言われ、同館は、世界中から毎年約600万人の人が訪れる世界を代表する美術館のひとつとなりました。

本展では、同館のヨーロッパ芸術の歴史をたどる13世紀から19世紀末までのイタリア、スペイン、オランダ、フランドル、フランスの絵画コレクションの中から、ウッチェロ、ボッティチェッリ、ティツィアーノ、プッサン、レンブラント、ベラスケス、ムリーリョ、カナレットらの作品が展示されます。
またターナー、コンスタブル、さらに印象派のルノワール、ドガ、ポスト印象派のセザンヌ、ゴーガンが描いた傑作も公開されます。

美術ファンはもちろん、そうでない方も一度は目にしたい名画の数々。
是非、この機会をお見逃しなく、英国が世界に誇る珠玉のコレクションをご鑑賞ください。
それではシネフィルでも展覧会の構成に沿って、代表的な作品を紹介いたします。

Ⅰイタリア・ルネサンス絵画の収集

画像: カルロ・クリヴェッリ 《聖エミディウスを伴う受胎告知》 1486年 卵テンペラ・油彩・カンヴァス 207×146.7cm ©The National Gallery, London. Presented by Lord Taunton, 1864

カルロ・クリヴェッリ 《聖エミディウスを伴う受胎告知》 1486年 卵テンペラ・油彩・カンヴァス 207×146.7cm
©The National Gallery, London. Presented by Lord Taunton, 1864

大天使ガブリエルが、精霊になって、処女マリアにキリストを身ごもったことを知らせるという「受胎告知」のテーマは初期ルネサンス期にはよく描かれていましたが、このクリヴェッリの描いた《聖エミディウスを伴う受胎告知》では、街の模型を持っている守護聖人エミディウスが大天使ガブリエルの横に寄り添っていたり、画面から果物が飛び出していたり、と、ユーモアにあふれています。
遠近法を用いた大胆な構図で、画面右のマリアの部屋がクローズアップされています。
イタリアのルネサンスの市街が大理石の素材や、豪華な浮彫彫刻など、細部まで見事に描かれています。
ヴェネツィア派らしい鮮やかな色彩や、象徴的な意味を持つモティーフを繊細に描いている点なども見どころとなっています。

画像: ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 《ノリ・メ・タンゲレ》 1514年頃 油彩・カンヴァス 110.5×91.9cm ©The National Gallery, London. Bequeathed by Samuel Rogers, 1856

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 《ノリ・メ・タンゲレ》 1514年頃 油彩・カンヴァス 110.5×91.9cm
©The National Gallery, London. Bequeathed by Samuel Rogers, 1856

題名の《ノリ・メ・タンゲレ》とは、ラテン語で「我に触れるな」という意味です。
復活したキリストと出会って、驚くマグダラのマリアと、まだ父なる神のもとへと行っていないので「我に触れるな」と諭しているキリスト。
ティツィアーノは、洗練された色彩の背景とともに、聖書物語のワンシーンを叙情的に描いています。

Ⅱオランダ絵画の黄金時代

画像: ヨハネス・フェルメール 《ヴァージナルの前に座る若い女性》 1670-72年頃 油彩・カンヴァス 51.5×45.5cm ©The National Gallery, London. Salting Bequest, 1910

ヨハネス・フェルメール 《ヴァージナルの前に座る若い女性》 1670-72年頃 油彩・カンヴァス 51.5×45.5cm
©The National Gallery, London. Salting Bequest, 1910

17世紀、風俗画や風景画など、オランダは絵画の黄金時代を迎えました。
フェルメールの《ヴァージナルの前に座る若い女性》では、美しく設えられた室内で、女性がヴァージナルという鍵盤楽器に 手をかけていますが、来訪者が到着したのか、振り返り、こちらに視線を投げかけている様子が描かれています。
「光の魔術師」とも言われていたフェルメール。女性の蒼いドレスの光沢や繊細なレースがきらめいている描写が見事です。
金額縁の絵画や、ヴァージナルの蓋の裏側の絵は何かを暗示しているのでしょうか。フェルメールの作品には画中画がよく描かれています。
音楽は恋愛の主題とされていました。手前の楽器ヴィオラ・ダ・ガンバは合奏の相手がいることを示唆しているようです。
フェルメール は、同時代の人々の日常の一瞬を切り取った風俗画で名を馳せました。

Ⅲヴァン・ダイクとイギリス肖像画

画像: アンソニー・ヴァン・ダイク 《レディ・エリザベス・シンベビーとアンドーヴァー子爵夫人ドロシー》 1635年頃 油彩・カンヴァス 132.1×149cm ©The National Gallery, London. Bought, 1977

アンソニー・ヴァン・ダイク 《レディ・エリザベス・シンベビーとアンドーヴァー子爵夫人ドロシー》 1635年頃 油彩・カンヴァス 132.1×149cm 
©The National Gallery, London. Bought, 1977

クピド(キューピッド)から花を受け取る妹のエリザベスと姉のドロシーの肖像画。
ドレスのサフラン色は新婦のための色であることから、おそらくエリザベスの結婚を機に描かれた作品です。
ヴァン・ダイクは、気品ある人物表現と華やかな色彩表現で王侯貴族肖像画を多数描き、人気を博しました。

Ⅳグランド・ツアー

画像: カナレット(本名ジョヴァンニ・アントニオ・カナル) 《ヴェネツィア:大運河のレガッタ》 1735年頃 油彩・カンヴァス 117.2×186.7cm ©The National Gallery, London. Wynn Ellis Bequest, 1876

カナレット(本名ジョヴァンニ・アントニオ・カナル) 《ヴェネツィア:大運河のレガッタ》 1735年頃 油彩・カンヴァス 117.2×186.7cm
©The National Gallery, London. Wynn Ellis Bequest, 1876

グランド・ツアーとは、イギリスの上流階級の子息たちの間で、一大ブームとなった旅行のことです。
ヨーロッパの文明発祥の地、イタリアを訪れて芸術に触れる旅が盛んになり、その思い出の品となったのが、カナレットらの画家が描いたヴェネツィアやローマの風光明媚な風景画の作品でした。
本作では、ヴェネツィアの祝祭的な行事である、レガッタレースという競技が大運河を舞台に描かれています。
レガッタと呼ばれる小型船で競われる伝統的な行事に大勢の見物客が集まっています。
青い空と広々とした運河の景観が美しく、この様な作品は人気を博しました。

Ⅴスペイン絵画の発見

画像: ディエゴ・ベラスケス 《マルタとマリアの家のキリスト》 1618年頃 油彩・カンヴァス 60×103.5cm ©The National Gallery, London. Bequeathed by Sir William H. Gregory, 1892

ディエゴ・ベラスケス 《マルタとマリアの家のキリスト》 1618年頃 油彩・カンヴァス 60×103.5cm
©The National Gallery, London. Bequeathed by Sir William H. Gregory, 1892

ベラスケスは、日常的な台所といった場所を舞台に食べ物などのモティーフを組み合わせた風俗画を描いています。
本作のタイトルにもなっている《マルタとマリアの家のキリスト》が、画中画として描かれています。
キリストの話を一身に聞き入っている妹マリアに対し、姉のマルタは、自分一人がキリストをもてなすために忙しくしているので、妹に文句を言っているのですが、キリストはこれに対し、お説教をしているという絵です。
嫌々にんにくをすり鉢で砕くメイドの背後から、老婆が右手で絵画のほうを指示しているようです。
風俗画にはこのように教訓を示しているものもあります。

Ⅵ風景画とピクチャレスク

画像: ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》 1829年 油彩・カンヴァス 132.5×203cm ©The National Gallery, London. Turner Bequest, 1856

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》 1829年 油彩・カンヴァス 132.5×203cm 
©The National Gallery, London. Turner Bequest, 1856

ターナーはイギリスが世界に誇る風景画家です。
ギリシャ神話の英雄オデュッセウスが単眼の巨人 ポリュフェモスを倒し、仲間とともに出帆する場面 です。赤い衣を羽織った船上のオデュッセウスは勝ち誇り、奇岩の背後の雲中にそのシルエットを見せる 巨人を嘲(あざけ)っています。
しかしターナー は物語のわかりやすい描写よりも、光や自然現象に 大きな関心を寄せており、朝焼けの光に彩られた 幻想的な風景が鮮烈な色彩で描き出されています。
細かい描写で神話を描くのではなく、光と色彩でドラマティックな風景を描いたのです。
早朝の光と大気感までが伝わってくる美しい海景画です。

Ⅶイギリスにおけるフランス近代美術受容

画像: ピエール=オーギュスト・ルノワール 《劇場にて(初めてのお出かけ)》 1876-77年 油彩・カンヴァス 65×49.5cm ©The National Gallery, London. Bought, Courtauld Fund, 1923

ピエール=オーギュスト・ルノワール 《劇場にて(初めてのお出かけ)》 1876-77年 油彩・カンヴァス 65×49.5cm
©The National Gallery, London. Bought, Courtauld Fund, 1923

ルノワールが劇場の主題を描いた作品は、他にも《桟敷席》が有名です。
パリの都会的な上流階級の日常生活の一場面が、印象派らしく光と陰で美しく描かれています。
初めて観劇に出かける少女の少し緊張した可憐な姿。
ボックス席の少女の左側の客席から少女のほうを見る男性客の姿も確認できます。
観劇は、男女の出会いの場、社交場であったようです。

画像: クロード・モネ 《睡蓮の池》 1899年 油彩・カンヴァス 88.3×93.1cm ©The National Gallery, London. Bought, 1927

クロード・モネ 《睡蓮の池》 1899年 油彩・カンヴァス 88.3×93.1cm 
©The National Gallery, London. Bought, 1927

印象派の巨匠モネはジヴェルニーの自宅の庭に睡蓮の池を造り、日本風の太鼓橋を架けました。橋を真横からとらえたこの構図は画家のお気に入りだったようです。
「光の画家」とも言われたモネは、刻一刻、移ろいゆく光を描き、夏の陽光が反射する水面のきらめきを点描で描きました。

画像: フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり》 1888年 油彩・カンヴァス 92.1×73cm ©The National Gallery, London. Bought, Courtauld Fund, 1924

フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり》 1888年 油彩・カンヴァス 92.1×73cm
©The National Gallery, London. Bought, Courtauld Fund, 1924

本展のメインビジュアルとなっているゴッホの代表作《ひまわり》。
南仏のアルルで、まぶしい太陽のもと、ゴッホは、《麦畑》(本展未出品)など明るい色彩の光輝く作品を描くようになりました。
本作は、アルルでゴーガンとの共同生活で寝室に飾るため、描かれたものといわれています。
現存するゴッホの静物画の約半数はパリで描かれ、アルルでは25点ほど描かれたようです。
ひまわりの絵は、パリでも描いていましたが、アルル時代に花瓶に指したひまわりを7点描きました。1点が焼失してしまいましたが、6点は現存していて、本作はそのうちの1点です。
黄金色に輝くひまわりは、太陽と同じように南仏アルルを象徴する生命力あふれるシンボルで、ゴッホの生命力となったのでしょう。

世界の名だたる画家たちによる芸術の競演。
ルネサンスからポスト印象派まで、美の殿堂「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」で、西洋美術をご堪能ください。

展覧会概要

展覧会名:ロンドン・ナショナル・ギャラリー展

会場:国立西洋美術館 企画展示室
〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
会期:2020年3月3日(火)~2020年6月14日(日)
※開幕が延期となりました。
詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。https://artexhibition.jp/london2020/
開館時間:9:30~17:30   
毎週金・土曜日:9:30~20:00 
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし、3月30日(月)、5月4日(月・祝)は開館)

主催:国立西洋美術館、ロンドン・ナショナル・ギャラリー、読売新聞社、日本テレビ放送網
特別協賛:キヤノン、大和証券グループ
協賛:花王、損保ジャパン日本興亜、大日本印刷、トヨタ自動車、三井物産
協力:大塚国際美術館、日本航空、ブリティッシュ・カウンシル、西洋美術振興財団

観覧料金:当日:一般1,700円、大学生1,100円、高校生700円
前売/団体:一般1,500円、大学生1,000円、高校生600円

※上記前売券は今後決定する開幕日の前日まで販売。(国立西洋美術館での前売券の販売は終了)
※今後決定する開幕日からは当日券販売。
販売場所はこちらでご確認ください。https://eplus.jp/sf/word/0000140140 
※団体料金は20名以上。
※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。
巡回:国立国際美術館 2020年7月7日(火)~10月18日(日)
お問い合わせ:(03)5777-8600(ハローダイヤル)

ロンドン・ナショナル・ギャラリー展@東京 シネフィルチケットプレゼント

下記の必要事項をご記入の上、ロンドン・ナショナル・ギャラリー展@東京 cinefil チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効の、この招待券は、非売品です。
チケットの転売は禁止です。
☆応募先メールアドレス info@miramiru.tokyo
*応募締め切りは2020年4月20日 月曜日 24:00
記載内容
1、氏名 
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
  建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、
  当選無効となります。
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