世界の映画界で、新時代の旗手と称されているビー・ガン監督。
26歳の時に発表されたデビュー作『凱里ブルース』で、ポン・ジュノ監督に「ビー・ガンはこの先20年間の映画界を牽引する監督の一人」、ギエルモ・デル・トロ監督には「天才的かつ詩的な映画技」と評された天才監督の待望の第2作にして、世界のシネフィルから絶賛され続けている『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』が、2020年2月28日(金)より全国で公開となりました。

画像1: 公開スタート❗️21世紀の新しい映像美学を"万華鏡のように表現した"『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の天才監督ビー・ガンインタビュー

シネフィルでは、今作の映画キャンペーンで初来日したビー・ガン監督のインタビューを紹介いたします。

ビー・ガン監督 インタビュー
インタヴューアー 園田 恵子 (詩人/映画評論・シネフィル編集長)

デビュー作から2作目にして大作『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』を20代で作り映画監督、ビー・ガンへのインタビューは、この文学性に富んだ不可思議な映画の謎を解き明かす、ミステリアスな旅に出かけたような気分だった。

インタビューの数日前に、来日を祝うためのシークレットパーティーで初めて会ったビー・ガンは、30歳になったばかりの青年と言って良い年頃でありながら、とてもそうは見えない。
すでに人生の壮絶な悲劇を目撃してしまったかのようだ。

この年頃と言えば、映画学校や大学の映画学科をを卒業して、黒いマニキュアにピアスなどをしてみたりと、どこかチャライ雰囲気をまとう監督たちも多くいる世代だ。
しかしビー・ガンは違う。今まで出会ったどんな映画監督たちとも違う。
例えて言うならヒマラヤの山脈を歩く絶滅危惧種のユキヒョウであるかのような、孤独な魂を瞳に宿している。

画像1: ビー・ガン監督

ビー・ガン監督

園田「これまでに影響を受けた方がいますか?」

ビー・ガン「実はこの質問もニューヨークのときにインタビューの中で同じ質問を受けたことがあります。映画監督だけでなくよく聞かれたのは、どういった芸術家や作家たちから影響受けたか、という質問をよく受けていて。その当時、私が冗談半分で答えたのが、「母親が一番影響が大きい」ということを答えました。でもそういう風な冗談めいた言葉の中で真実さも潜んでいます。冗談めいた言葉の中で、母親の影響が一番大きいと私は思っています」

園田 「そうなんですね。母親の存在というものが、一番大きいものですね。この映画の中の人物がどこに行くのでもなくて、行きつくことがない。壮絶な後悔とともに、過去に囚われてずっと胸に抱えたままでいます。人生の非情さ、そういう無常さとか未練、そういったものを描こうとしていますか?

ビー・ガン「まさに今ご指摘の通り、人間というのはそのような存在であります。人生とは思い通りにならないものですよね。人間は後悔を抱えながら、過去に囚われながら生きていく存在です」

園田「それがまさに映画の中で描かれてて、若くしてここまでの喪失感がが描けるというのは、何か決定的な喪失感をともなう経験があったのでしょうか?」

ビー・ガン「実は自分の経験が関係しています。昔は父親と一緒に生活したことがあります。父親と母親が、私が幼い頃離婚した時に、母が出て行って、その後父親と一緒に生活するようになりましたが、その父が母との関係にずっと執着していました。父はいつも喪失感に囚われていて、人の、恐ろしいほどの深い喪失感というものを、小さい頃から常にまじかに感じながら成長したので」

園田「そうなんですね。それは壊れた時計を見ながら飲むという、喪失感を象徴するような父親像が描かれる場面がありますが、絵的に見事に心情が映像化されています」

ビー・ガン「私の父がそうしていたというほどの具体的な繋がりはおそらくないかもしれないですけれども、父の深い絶望を目の当たりにしてきたことからのイメージがあります」

園田「なかなか映像化するのは難しいそういう心情を、わかりやすく伝えるというのが難しいのですが、見事に上手く映像化されていて、なんとも悲痛な場面でした」

ビー・ガン「これは実は創作者にとっては一種の天職でもあります。つまり自分が感じられたものをいかに具体的に映像化していくか、ということも大きな糧になると思います」

園田「離婚された後もお母さまとは会う機会はあったのですか? 母親から最も影響を受けられたのでしょうか」

ビー・ガン「母は特に創作とかはしておりませんが、仕事を持って働いていました。しかし私と母親との繋がりは、実はすごい濃い関係ではありました。父親と母親は私が幼い時に離婚したんですが、離婚した後も、凱里という場所がすごく小さい町なのでよく会うことがありました」

画像2: ビー・ガン監督

ビー・ガン監督

園田「前半と後半で同じ顔をした、タン・ウェイが一人二役で演じる、ワン・チーウェンと、カイチンという二人の女の人が出てくるんですけど、メビウスの帯みたいに映画の中でつながってるんでしょうか?

ビー・ガン「それはそうなのです。しかし私は特にそこら辺を考えた上でわざとするんでなくて、こういう風に直接的に表現したいのです。なのでやっぱり物事を運ぶときに、例えばこのような映画を作るときに、作る側と読む側、見る側と両方とも大切だなと思います。私にできるのはこの映画を作成するだけで、どういう風に見て感じられるか、批評するかというのは見る側に任せます」

園田「映画の後半に少年が出てきますが、仮面を被った小さな卓球をする男の子は、あの子は幽霊のようでもあり、生意気な物言いといい、面白くて不思議な存在ですね。僕に名前をつけてよと、ルオに名付けをたのむ場面は切なかったですが」

ビー・ガン「いろんな意味が込められているのですけども、確かにそういう面もあります。あるいはあの子がただの嘘つきな子供として見てもいいです。あるいは思い出に入る、記憶に入るための管理人番人と見てもいいです。あるいは自分の息子のような存在とみなしてもいいと思います」

園田「運命の女として同じ顔の女性が出てきていて、あれは恋人なのか? そこで夢の中に入り込むんですけど、現実とのずれみたいなものが生じてきていて、そこが……どう言えばいいのかな? ……主人公が幼い頃に出て行った母親と再会しますよね。 母親と会うところ、あれも夢の中で幼い頃に出て行った母親との再会をついに果たすということなのでしょうね? そしてあの場所そのものが、そういう過去の後悔に囚われた幽霊のような人たちが、未練を断ち切れない人たちが集まるような場所なのか?後半の60分に及ぶ3Dワンシークエンスショットの、場所ですが、この架空の街・ダンマイでは、どんな奇跡が起きても不思議ではない、生と死の間(あわい)のような場所という気がします」

ビー・ガン「それは解釈としては全部正しいです(笑) 監督としては前半と後半は対照的な構造を成していますけれども、現実と非現実の夢の中、対照的な役割を果たしています。その場を提供するだけで、いかにお読みになるのかはお任せします。でも基本的には先ほどおっしゃったことが全部解釈の可能性の一つにはなります」

園田 生き別れのような女性というのが出てくるんですけど、タン・ウェイが一人二役で演じる女性の名前はワン・チーウェンとカイチン、裏表みたいな感じなのでしょうね」

ビー・ガン「そのカイチンはワン・チーウェンの持っていない別の側面を表現するための装置でもあります。ワン・チーウェンさんが持っていないところを表現するところは、カイチンに表現させました」

画像1: ©️2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD - Wild Bunch / ReallyLikeFilms

©️2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD - Wild Bunch / ReallyLikeFilms

園田「『ロングデイズジャーニー 夜の涯へ』で、家の中でも雨が降っている場面が素晴らしくて、好きな場面です。どうしてもタルコフスキーの『鏡』を思い出さずにいられないのですが、タルコフスキーの『鏡』へのオマージュでしょうか?」

ビー・ガン「確かにご指摘の通りに『鏡』という作品から影響を受けています。タルコフスキーは、ストーカーを始め、一番大きな影響を受けた映画作家なのです。自然という要素は映画の中で一番大きな要素ですが、それ以外に個人的な生活環境も、実は関わっております。私が昔小さい頃に住んでいた家は、とても湿っぽい感じで、いつでも屋根から雨が滴るというところでした。なので映画で家の中で雨が降っているシーンはタルコフスキーの『鏡』から影響を受けた一方で、個人的な記憶の中にある部屋には、実際に家の中に屋根から大量の雨漏りがしていたのです」

園田「そうなんですか。誤解を恐れずいうならば、そのイメージからこんな傑作が生まれるならば、むしろ素晴らしい環境かもしれないですね、才能ある創作者は見るものからどんどん刺激や影響を受けるのでしょう」

ビー・ガン「(笑)しかし素晴らしい環境と言われても、そのような環境の中で、寒さと冷えがあって、湿気がひどいから、骨の病気になりやすい劣悪な環境なんですよ。実際に家の中に雨が降るというのは、大問題ですね」

園田「たしかに。映画の中では印象的な場面ですけれどね。日本の木造家屋も雨漏りが多くて映画にも多く登場しています。」

ビー・ガン「だから一番ベストだと思うのはもうちょっと綺麗に日差しが入るような家がいいですね、今は自分で凱里(Kairi)に家も建てて、雨漏りはしなくなってしまいました」

園田「映画公開からは世界中でインタビューばかりで大変だったと思うのですが、やはりビー・ガンさんの作品は影響力があり、本当に新世代の映画です。過去の映画遺産を踏襲しながらも、新世代の人にも受けている。新しい映画が誕生したと思います。映画史的なことも含めてご自身も意識されているのかお聞きしたいです」

ビーガン「もちろん映画史の発展で最もちゃんと勉強したのは、大学です。山西省の太原というところにある、映像関係の大学に行ったので、そのクラスで学んだ訳ですけど。その映像史の世界的なこういう作品がこの時期に、あの時期に、という発展と、中国国内の文脈はどうだったのか、というところは詳しくはないですけど、大まかには理解しているつもりです。

そのうえで自分の脳裏に、その大まかな歴史を分かっている。で、また自分がどの座標にいるかも分かるんだけども、ただ実際に作っているときは意識しているかというと、それは無意識。そういった部分では意識していないです。

例を一つ上げるならば、例えばバスケットボールですね。バスケットボールのプレイヤーが歴史的発展を、ある程度どの時期にどういう名プレイヤーがいてとか、ゲームはこういう風に決められたとかは、ある程度分かるでしょう。
ただ、好きなプレイヤーで敢えて名前は上げませんが、バスケットボールの得点を稼ぐために、かつてはボールを入れるネットに近ければ近いほど良いとされたことがあったのですが、しかしそのプレイヤーは遠くから投げることで3点を稼ぐようなスタイルのプレイヤーでした。近くであれば2点とか。ただ3点は点数は高いんですけど命中率が有効的であるか、というとそうではない訳だけども、そのプレイヤーを境に遠くから投げる手法、その方法というのを、多くの人がトライするようになっていった。

もちろん今の僕がそのプレイヤーと肩を並べて何か話せるようなレベルではないと思うんだけども、どういう得点方法を取るのか、というのはそれぞれの好みがあると思います。
もちろん僕の意味をもう一度解釈し直すのであれば、自分が映像の歴史、映画史の中でこのプレイヤーのように価値があるものだと決して誇張、強調しているわけではありません。ただ例えば僕の性格であったり、僕の慣れ親しんでいるライフスタイルであったり、などなどが、自分の作品の創作を作るスタイルそのものを決めていったり、そのスタイルになってしまったのも、そこは性格と自分の元の生活習慣に関わっているものであるし、自分がたまたま今もメインストリームのアプローチ法と少し違うだけなのかもしれません」

画像3: 公開スタート❗️21世紀の新しい映像美学を"万華鏡のように表現した"『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の天才監督ビー・ガンインタビュー

園田「私も映画関連の仕事もしていて、年間数百本の映画を観てきましたが、こういう映像が見たかったと思うくらい斬新な映像です。かなりの酩酊感があったんですけど、ご自身の映画ではどう思われますか?」

ビー・ガン「僕自身が自分の作品を、例えば「凱里ブルース」とかを何百回か、300回以上は見ていると思うんですね。でも見ているときは一観客として毎回見るとき凄く真剣に見ているし、自分も観客として見るときに自分自身をも満足できているかということも重要です。
例えば僕は他のいい作品に出会えないときとかは、昔の過去作のショートフィルムとかもたまに出して見たりしてるんですけど、毎回見るたびに違うものが、新しいものが見えたりしている。私はこのように自分でも反芻しているので、もし万が一自分のような観客がいるのであればそれはとても光栄なことです」

園田「たしかに、2作とも何回でも見直したくなる映画ですから、私も映画館で見直したいと思っています。映画が終わった後、しばらく立てない観客が何人もいて、実際に私も体験したのですが、目眩がするような、ふらつくような感覚があって、映画を見てこういう体験は初めてのことでした。肉体的にというよりも精神的な面でも酩酊感が強かったのです」

ビー・ガン「3D映画なので生理的なところで言うと、前列とかに座ってしまうとふらつくことは3D映画の特性かもしれない。ただそれを除いて言うならば、僕自身はこの映画を万華鏡のように作りたい、表現したと思っているので、そういう目眩がして、くらくらするようなのは、万華鏡を見ていたのと同じなのかもしれません」

園田「万華鏡ですか。あの反転するようなカメラワークも、まさにそんな感じです。私もまた映画館で、3Dで堪能したいです。今日はありがとうございました」

画像2: ©️2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD - Wild Bunch / ReallyLikeFilms

©️2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD - Wild Bunch / ReallyLikeFilms

ビー・ガン監督
『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』web限定予告

画像: WEB限定!ビー・ガン監督『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』予告 youtu.be

WEB限定!ビー・ガン監督『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』予告

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STORY
ルオ・ホンウは、何年もの間距離を置いてきた故郷・凱里(かいり)へ、父の死を機に帰還する。そこでは幼馴染の白猫の死や、自分を捨てて男と駆け落ちした母親の事を思い起こすと同時に、彼の心をずっと捉えて離れることのなかった、ある女のイメージが付き纏った。彼女は自分の名前を、香港の有名女優と同じワン・チーウェンだと言った。
ルオはその女の面影を追って、現実と記憶と夢が交錯するミステリアスな旅に出る……

原題:Long Day‘s Journey into Night(地球最后的夜晩)

2018年/中国・フランス/カラー/138分 
配給:リアリーライクフィルムズ + ドリームキッド
提供: basil + ドリームキッド + miramiru + リアリーライクフィルムズ
監督:ビー・ガン 
出演:タン・ウェイ、ホアン・ジエ、シルヴィア・チャン、チョン・ヨンゾン、リー・ホンチー

2020年2月28日(金)より、全国縦断ロードショー中!

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