2018年に公開された「スマホを落としただけなのに」は、志賀晃の同名小説(宝島文庫)を映画化したサイコスリラーで、現代人にとって今や必須アイデムになっているスマートフォンが焦点になっていた。結婚を間近に控えた冨田誠がスマホをタクシー内に忘れたことがきっかけで、誠の婚約者稲葉麻美の身辺で気味の悪い出来事が続き、誠・麻美は生命の危機に瀕するまで追いつめられていく。便利な道具だが、凶器にもなりうるということ、我々はデジタル・ジャングルにいることを改めて気づかせてくれた作品だった。

画像1: 北島博士のおもしろ映画講座 第63回 
『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』

 今回の「スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼」は、誠と麻美の結婚披露宴から始まる。捜査に当たった神奈川県警サイバー犯罪対策課の加賀谷刑事が恋人の美乃里を連れて祝福にきており、ここで主役の座が加賀谷と美乃里にバトンタッチされる。というわけで、新郎新婦を演じた田中圭と北川景子は早々と退場してしまう。特別出演というクレジットも当然である。
 題名の囚われの殺人鬼とは、誠と麻美を苦しめた天才ハッカー浦野善治のこと。名前を書いてしまうと前作のネタバレになってしまうと躊躇したものの、観客は前作を見たものとして製作され、宣伝されているので、書いてしまおう。加賀谷はもともとIT会社を友人と立ち上げ、その後警察官になったという変わり種。美乃里はその会社に勤めているのだが、付き合ってかなりたち結婚の話が出てもおかしくないのに、加賀谷の煮え切らぬ態度に美乃里はいらつく。
 丹沢の山中で複数の死体が発見され、県警が捜査に当たるが、手掛かりが少なく、難航する。上層部の判断で、浦野に協力してもらうことになった。加賀谷は反対するが、上司命令で浦野担当にされてしまう。浦野は協力の条件として高性能のPCを要求し、さらに加賀谷に「一番秘密にしていることをしゃべれ」という。強化ガラスで囲まれた厳重な房に入れられ、24時間監視カメラで見張られているのに、浦野は動じる気配もみせない。浦野はかつて師と仰いだこともあるMという男の存在を明らかにする。

 ここまで読んだ人はアメリカのサイコスリラー「羊たちの沈黙」を思いだすだろう。クラリス捜査官とハンニバル・レクター博士の関係は、そのまま加賀谷と浦野になっている。浦野はレクター同様に洞察力と推理力に優れ、気味が悪くて残忍で、とても危険な人物だ。美乃里をつけ狙う怪しい男もいる。フードをかぶっていて人相もよくわからないけれど、右頬に大きなケロイドがある。この人物はそも何者?、例のMなのか。

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『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』

 前作同様に、IT技術の長足の進歩を象徴するような仮想通貨流出事件、情報のだだ洩れ、大概のシステムがコンピューター制御になっている現状がストーリーに取り入れられている。ただし、芯となる部分には、PC、スマホといったデジタル・マシンとは真逆の人間の心の闇とサスペンスが織り込まれ。観客を欺く偽の手がかりをちりばめつつ、クライマックスは人間の英知、熱情を生かしたものというのもいい。
 原作は志賀晃の同名小説(宝島文庫)で、「デスノート」の大石哲也が脚色し、前作に引き続いて中田秀夫が監督。加賀谷に石山雄大、美乃里に白石麻衣、浦野に最近「カツベン」「弥生、三月—君を愛した30年—」と出演作が目白押しの成田凌が扮している。他に鈴木拡樹、田中哲司、井浦新らが脇を固めている。
 

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』予告

画像: 『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』予告 youtu.be

『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』予告

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原作:志駕晃「スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼」(宝島社文庫)

監督:中田秀夫 
脚本:大石哲也

出演:
千葉雄大 白石麻衣 
鈴木拡樹/音尾琢真 江口のりこ 奈緒 飯尾和樹(ずん) 高橋ユウko-dai
(Sonar Pocket)
平子祐希(アルコ&ピース) 谷川りさこ アキラ100%・今田美桜(友情出演)/田中哲司
北川景子(特別出演) 田中圭(特別出演) 原田泰造(特別出演)
成田凌/井浦新

©2020映画「スマホを落としただけなのに2」製作委員会

全国東宝系にて公開中

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