モノトーンやグレー、茶系の落ち着いた色調で、静かな室内を描いたデンマークを代表する画家ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916)。
ハマスホイの描く古い建物の室内には、北欧の柔らかな光が差し込み、控えめで上品な家具や調度品が簡素に置かれています。
彼の作品は叙情的で洗練された「静謐(せいひつ)」な世界です。
1900年前後は、ポスト印象派や、象徴主義、キュビスムなど、華々しい芸術が多彩な展開を見せていた頃ですが、ハマスホイは、身近な人物の肖像、風景、そして静まりかえった室内などを黙々と描いていました。     
17世紀オランダ風俗画の影響を受けていることから、「北欧のフェルメール」 とも呼ばれ、
近年、ハマスホイの評価は世界的に高まり続けています。
日本でも2008年にはじめての展覧会が開催され、それまでほぼ無名の画家だったにもかかわらず、多くの人々を魅了しました。

 このたび、東京都美術館において、2020年3月26日まで「ハマスホイとデンマーク絵画」展が開催されています。静かなる衝撃から10年余り。
日本ではじめての本格的な紹介となる19世紀デンマークの名画とともに、ハマスホイの珠玉の作品約40 点が集結しています。
コペンハーゲンで19世紀前半に華開いた、「デンマーク絵画の黄金期」の素朴で純粋な絵画から、印象派風の光の描写を取り入れた、スケーイン派による北欧の美しい自然を描いた風景画、世紀末の首都で活躍した画家たちによる室内画まで、魅力満載のデンマーク絵画をご堪能ください。
デンマーク人が大切にしている価値観 「ヒュゲ(hygge :くつろいだ、心地よい雰囲気)」 が溢れる絵画は見る人をも幸せな気持ちにしてくれるでしょう。

それでは、ハマスホイの作品から見ていきましょう。

画像: ヴィルヘルム・ハマスホイ 《室内》 1898年 スウェーデン国立美術館蔵 Nationalmuseum, Stockholm / Photo: Nationalmuseum

ヴィルヘルム・ハマスホイ 《室内》 1898年 スウェーデン国立美術館蔵
Nationalmuseum, Stockholm / Photo: Nationalmuseum

「室内画の画家」として知られるヴィルヘルム・ハマスホイ。
コペンハーゲンで生まれ、王国の歴史が降り積もった建物や、旧市街に建つ古いアパートの室内を繰り返し描きました。
画業の初期には肖像画や人物画、風景画に取り組んでいましたが、1890年代半ば頃から徐々に室内画が創作活動の中心になり、1898年に移り住んだストランゲーゼ30番地の自宅を描いた一連の作品によって、独特の表現と、国内外からの名声を獲得します。
以降、1916年に51歳でこの世を去るまで、コペンハーゲンの異なる住宅で暮らしながら、その古い室内を描き続けました。その洗練された美的空間は、急速に発展を遂げる首都の郷愁を誘う、静謐な空気を漂わせています。
簡素な家具と妻イーダの後ろ姿をモノトーンの濃淡で描き、時が止まったような静かな世界を創り出しました。

画像: ヴィルヘルム・ハマスホイ 《室内―開いた扉、ストランゲーゼ30番地》 1905年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen

ヴィルヘルム・ハマスホイ 《室内―開いた扉、ストランゲーゼ30番地》 1905年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen

ハマスホイが暮らしたアパートの風景。開け放たれた白い扉と床板だけの独特な構図となっています。
家具や調度品が見当たらず、生活感のない、空っぽの部屋からは、近代化が進む都市の中で、古い文化が失われてゆくノスタルジーが感じられます。

画像: ヴィルヘルム・ハマスホイ 《画家と妻の肖像、パリ》 1892年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen

ヴィルヘルム・ハマスホイ 《画家と妻の肖像、パリ》 1892年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen

1891年9月5日、ハマスホイが画家仲間のイルステズの妹イーダと結婚し、新婚旅行先のパリで描いたものです。
シックな色調ながらも二人の佇まいに初々しさの感じられる作品です。
妻イーダの後ろ姿は、ハマスホイの作品に数多く登場しています。

画像: ヴィルヘルム・ハマスホイ 《寝室》 1896年 ユーテボリ美術館蔵 Gothenburg Museum of Art, Sweden  Photo: Hossein Sehatlou

ヴィルヘルム・ハマスホイ 《寝室》 1896年 ユーテボリ美術館蔵
Gothenburg Museum of Art, Sweden  Photo: Hossein Sehatlou

大きな2つの窓の白いカーテン越しに、淡い北欧の光が差し込む静けさをたたえた寝室で、白い衣装の妻が窓辺に佇んでいます。
寝室も洗練された美的空間として、淡いグレーや茶色の濃淡の色調で描かれています。
クラシカルな家具や調度品がノスタルジックな光景を漂わせています。

画像: ヴィルヘルム・ハマスホイ 《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》 1910年 国立西洋美術館蔵 〔東京展のみ出品〕

ヴィルヘルム・ハマスホイ 《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》 1910年 
国立西洋美術館蔵 〔東京展のみ出品〕

白い扉が見る人に向かって開かれ、17世紀オランダ風俗画のフェルメールの手法に似ています。扉の向こうから、妻イーダの奏でるピアノの音が聞こえてきそうな情景です。
北欧の柔らかな光が窓から斜めに入り、光と影が絶妙な効果をもたらしています。
繊細で細密なタッチで手前のテーブルや椅子、敷き詰められたカーペット、開かれた扉などが描かれ、非現実的な美しいガラス張りの世界のようです。
北欧家具はシックでセンスが良く、スタイリッシュな空間を醸し出しています。

画像: ピーザ・スィヴェリーン・クロイア 《スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア》 1893年 ヒアシュプロング・コレクション蔵 © The Hirschsprung Collection

ピーザ・スィヴェリーン・クロイア 《スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア》 1893年 
ヒアシュプロング・コレクション蔵 © The Hirschsprung Collection

1840年代のデンマークではナショナリズムが高まりを見せ、美術においてもデンマーク固有の風景や伝統的な慣習を残す人々の暮らしを描くことが推奨されました。
そうした時代背景のなか、1870年代初頭、ユラン半島北端の漁師町スケーインが「発見」されます。この地を訪れた画家たちが描く、独特の厳しい自然環境や、そこに暮らす漁師たちの姿などを通じてスケーインの評判は広まり、国境を越えてこの小さな漁師町に集う芸術家たちはスケーイン派と呼ばれるようになりました。
フランスの印象派などの影響を取り入れたスケーイン派の美しい絵画は、19世紀末から今日まで、デンマークの人々を惹きつけています。
スケーイン派を代表するクロイアのこの作品は、夕べの淡い光の中、浜辺を優雅に散歩する2人の婦人を描いた海の色が美しい作品です。

画像: ヴィゴ・ヨハンスン 《春の草花を描く子供たち》 1894年 スケーイン美術館蔵 Art Museums of Skage

ヴィゴ・ヨハンスン 《春の草花を描く子供たち》 1894年 スケーイン美術館蔵
Art Museums of Skage

デンマークの画家たちは、ささやかな日常の礼賛のうちに、自らのアイデンティティを探し求め、見出しました。黄金期に展開した、素朴で穏やかな「市民の芸術」とその価値観は、近代デンマーク文化の基層となり、後の世代の画家たちに受け継がれました。
明るい光の中で、春の草花を描く子供たちの表情はかわいらしく、印象派の影響を受けた色彩も美しいです。
何気ない日常のささやかな幸福感が表現されています。

画像: ヴィゴ・ヨハンスン 《きよしこの夜》 1891年 ヒアシュプロング・コレクション蔵 © The Hirschsprung Collection

ヴィゴ・ヨハンスン 《きよしこの夜》 1891年 ヒアシュプロング・コレクション蔵
© The Hirschsprung Collection

1880年代以降のコペンハーゲンでは、画家の自宅の室内を主題とする絵画が人気を博しました。温かみのある家庭的な場面が数多く描かれ、そうした「幸福な家庭生活」のイメージを通じて、「親密さ」がデンマーク絵画の特徴のひとつとなったのです。
デンマークの人々が大切にしている「ヒュゲ(hygge :くつろいだ、心地よい雰囲気)」が感じられる作品です。
                                         
ハマスホイの美しい静寂の世界。それは現代にも通じる洗練されたスタイリシッシュな美的空間です。
「幸福の国」デンマークが育んだ珠玉の絵画に癒され、幸せのひとときをお過ごしください。

展覧会概要

展覧会名:ハマスホイとデンマーク絵画
会期:2020年1月21日(火)~3月26日(木)
会場:東京都美術館 企画展示室
休室日:月曜日、2月25日(火)
※ただし、2月24日(月・休)、3月23日(月)は開室
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:金曜日、
     3月18日(水)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料: 当日券 | 一般 1,600円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円
団体券 | 一般 1,400円 / 大学生・専門学校生 1,100円 / 高校生 600円 / 65歳以上 800円
※団体割引の対象は20名以上
※中学生以下は無料 *3月20日(金・祝)~26日(木)は18歳以下[平成13(2001)年4月2日以降生まれ]無料
※3月18日(水)はシルバーデーにつき65歳以上は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)
※いずれも証明できるものをご持参ください
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、読売新聞社
後援:デンマーク大使館
協賛:大日本印刷
協力:イープラス、ルフトハンザカーゴAG、J-WAVE
お問い合わせ先:TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)

ハマスホイとデンマーク絵画@東京 cinefil チケットプレゼント

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、ハマスホイとデンマーク絵画––@東京cinefil チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、招待券をお送りいたします。
※ この招待券は非売品です。転売、オークションへの出品などを固く禁じます。
応募先メールアドレス  info@miramiru.tokyo
応募締め切り    2020年3月2日(月)24:00
1、氏名
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
  建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、当選無効となります。
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