映画監督がテレビドラマの演出を手がける流れは昨今、日本国内でも珍しいものではなくなった。そんな今、監督・内田英治が熱い。

16年『下衆の愛』では、女優を家に連れ込む自堕落な監督(渋川清彦)をはじめ、枕営業をも辞さない女優ら映画業界の底辺に生きる人間たちを生々しくもエッジを効かせて描いた。その作品性は、上映された海外の各映画祭で高く評価され、国内でも日本シナリオ作家協会の「年鑑代表シナリオ集」16年度版に収録されるなど、インディーズ映画ながら高評価を受けた。

 その内田監督が、相次いでテレビドラマを手がける。
1つが、7月12日からテレビ東京系「ドラマ24」枠で放送がスタートする、ムロツヨシ、古田新太主演のドラマ『Iターン』。広告代理店の支店長が、ヤクザの会社から請け負った広告で生じたミスから借金を抱えたあげく、無理やり舎弟にされ、広告マンとヤクザの二重生活に陥る物語。作家・福澤徹三氏の同名小説を原作に、内田監督が全12話の監督と脚本を担当した。全話の単独脚本監督は『勇者ヨシヒコ』以来である。

 もう1つが、8月8日から、世界最大級の動画配信サービスNetflix(ネットフリックス)で配信が始まる、山田孝之主演の『全裸監督』だ。作家・本橋信宏氏の「全裸監督 村西とおる伝」を原作に、バブル期の1980年代に〝AVの帝王〟の異名をとった、村西とおる監督を描いた。その中で、内田監督は武正晴総監督とともに監督を務めるのと並行して全8話の脚本を執筆するチームの一員となった。

内田英治監督インタビュー

聞き手・文・構成=村上幸将 

画像1: 内田英治監督インタビュー

  村上幸将(以下、村上) 「新しい潮流」とは?

 内田英治監督(以下、内田監督)「下衆の愛」は、製作費500万円の低予算映画です。そんな、よく分からんインディーズ映画を見て、世界最大の動画配信サービスであるNetflixが声をかけてくれた。僕は、日本のメジャーと言われる映画会社で、1本も映画を撮っていない。17年の『獣道』も製作費1000万円です。Netflixの方に「超低予算の映画しか、撮ってませんけど?」と聞いたら「いいんです。全く、問題ない。日本発、世界へ…という思いで、本気でコンテンツを作りたい人だと思いましたから」と説明され、1年半前に『全裸監督』の企画がスタートしました。日本映画界の枠組みでは、あり得ないことだと思いませんか?

 村上 日本のメジャーと呼ばれる映画各社が、計算できる知名度の高い監督を継続して起用する一方で、作家性を追求する中堅以下、若手の監督にはチャンスが巡ってこない。だから、そうした中堅以下の監督は、自ら資金をかき集めて作りたい映画を作り、海外の映画祭に持っていって、賞を取ったり関係者に評価されることで、海外の映画関係者から出資してもらって合作映画を作るなど、自ら道を切り開いているのが現状ではないでしょうか?

 内田監督 その通りだと思います。僕を救ってくれたのは、海外の映画祭です。14年に『グレイトフルデッド』という映画を撮りました。笹野高史さんが、ほぼ無給で出てくださったんですが、日本で公開してもヒットしませんでした。「もう、日本で映画は撮れなくなるな…監督を辞めよう」と思いつつも当時、行ったこともなかった海外の映画祭に2つ応募しました。全滅でしたが、そのうち、カナダのトロント映画祭のディレクターから連絡がありました。「うちでは上映できないけれど、この映画は大好きだ。別の映画祭の関係者が上映したいと言ってきたが、いいか?」と。「もちろん、いいです」と返答して、上映されたのがテキサス州で開催されている「ファンタスティック・フェスト」。行ってみたら、全米で最大級のファンタスティック映画祭でした。

 村上 そこが、大きな転機となった?

 内田監督 いろいろな国のプロデューサーが映画を見てくれて、各国の映画祭に映画を持っていってくれた。その流れで世界30ほどの映画祭で上映され、英国人プロデューサーのアダム・トレルと出会い『下衆の愛』と『獣道』をプロデュースしてくれました。映画はロッテルダム国際映画祭(オランダ)、シッチェス・カタロニア国際映画祭(スペイン)、ウディネ極東映画祭(イタリア)などで上映され、英国とドイツでは劇場公開もされました。そして、作品を見た『全裸監督』と『Iターン』のプロデューサーが、作品の世界観が好きだと言ってくれて、今回の話になりました。小さな映画から全てがつながっているのです。

 村上 海外で認められ、資金面などの足掛かりをつかみ、新作映画を撮るという流れとは、ひとつ違った新しい流れになった。

 内田監督 今回『Iターン』では、全12話の監督に加え脚本も全て書きました。『全裸監督』では、全8話の脚本をチームを組んで作りました。会議では、米国からも脚本家が来て方向性を指し示すなどして制作に1年かかりました。そして武正晴総監督のもと、演出も担当したんです。

 村上 『Iターン』を放送するテレビ東京は、金曜深夜ドラマ枠「ドラマ24」で意欲作を提供し、その作品性の高さが評価されています。加えて、映画監督の起用や、映画の手法を用いたドラマ作りも話題です。17年には世界配信を視野に入れてNetflixと組み、木曜深夜にドラマ枠「木ドラ25」を新設。関係者は取材会で、Netflixとのタッグに並々ならぬ意欲を口にしました。制作費=ギャラは低いと言われますが、最近、俳優の間でも「テレ東の深夜枠なら、作品が面白いので出たい」という声が出ていると、よく聞きます。

 「木ドラ25」第1弾として17年4月期に放送された『100万円の女たち』は、藤井道人監督などが演出を手がけ、RADWIMPSのボーカル野田洋次郎のテレビドラマ初出演&連ドラ初主演作として話題を呼んだ。一方で主人公を取り巻く5人の女を福島リラ、松井玲奈、我妻三輪子、武田玲奈、新木優子が演じ、リリー・フランキー、中村倫也、古舘寛治ら人気者、個性派、演技派まで多様なキャストが作品を締めた。18年7月期に「木ドラ25」枠で放送された、徳永えり主演の『恋のツキ』では、若手女性監督として注目の酒井麻衣、松本花奈両監督を起用し、テレビドラマとしては異例のシネマスコープサイズで撮影された。今年1月期に「ドラマ24」で放送された『フルーツ宅配便』では濱田岳、仲里依紗、前野朋哉をはじめ田中哲司、荒川良々、松尾スズキら個性的な俳優陣を、白石和彌、沖田修一といった映画監督が演出し、作品性の高さが評価された。

 『Iターン』には、ムロツヨシとともに古田新太がヤクザの組長・岩切猛役でダブル主演。他にも『おっさんずラブ』で大ブレイクした田中圭をはじめ相島一之、笹野高史、そして黒木瞳と人気者から演技派、ベテランまで深夜ドラマとは思えない豪華なキャストがそろった。

 内田監督 僕は「週刊プレイボーイ」(集英社)の編集部で記者を11年、やらせていただいた在籍中に書いた脚本が採用され、TBS系の99年『教習所物語』で脚本家デビューしました。他にもテレビドラマの脚本は何度も書いていますが、テレビドラマの作り方、監督のやり方は知りません。でも『Iターン』では「映画と同じやり方でいい」「あなたの世界観で書いて、やってください」と言ってもらったので、制作スタッフは全員、映画のスタッフで、好きなようにやらせていただいた。

 村上 米ハリウッドでは、特に2010年代以降、著名な映画監督が連続テレビドラマを制作、監督するケースが増加し、今や珍しくなくなっています。一方で、Netflixやネット通販大手Amazonが映画産業に参入。第89回アカデミー賞では、Netflixの4作品が7部門にノミネートされ、『ホワイト・ヘルメット・シリアの民間防衛隊』が短編ドキュメンタリー賞を受賞し、初のオスカーを獲得。Amazonも、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でケイシー・アフレックが主演男優賞を受賞し、初のオスカーを受賞し、話題となりました。さらに第91回アカデミー賞では、Netflixの『ROMA/ローマ』が監督賞、外国語映画賞、撮影賞に輝きました。映画とドラマ、映画館と配信という部分の垣根に、時代の流れによって変化が生じてきていることは、間違いありません。

 内田監督 映画監督がテレビドラマを作るというのは、世界の潮流になってきていますね。日本においては、ドラマの世界で有名な監督でも、ゴールデンタイムやプライムタイムの枠のドラマが映画化にでもならない限りは、映画業界ではあまり知られていない。一方で、ドラマの世界の人はインディーズ映画の監督のことを誰も知らない。それくらい、映画業界とテレビ業界は断絶していると感じます。一方で、NetflixやAmazonなどの配信サイトは、独自のコンテンツをますます制作していく。しかも、コンプライアンス遵守などの観点から、テレビのゴールデンタイムやプライムタイムの枠では冒険しにくい、圧倒的な個性を求めています。その点で、インディーズ映画を製作している中堅以下、若手の監督は、僕は相性がすごくいいと思います。それは、チャレンジングな深夜ドラマを制作しているテレビ東京も同じで、『Iターン』ではセリフも含め、かなりギリギリまで攻めています。「ドラマ24」は作家を尊重してくれていると感じています。

 村上 監督が指摘した作家を尊重する=作家性を追求する、特に中堅以下の監督は、日本国内においてはなかなか大きな作品を撮るチャンスに恵まれないのが現実。そこで作家性を追求しつつ製作の環境を与えられるのが配信であり、深夜ドラマであるということ?

 内田監督 日本の映画界において、映画は企画、プロデュース主導で作られ、監督は脚本の修正もできないということも少なからずあります。僕も昔、そうした流れで撮っていた時期もありましたが、ある時、自分で脚本も書いていないという現実に、ふと疑問を抱きました。脚本から書いて100%、自分の作りたい作品を作家として追求しなければ、自分は、ただ映画を撮っている〝職業監督〟だと。キャスティングから何から芸能界にがんじがらめにされる…日本の芸能界に向けて作品を作るのではなくて、作家として作るんだと。それが日本においては難しかったのが、自分の作家性を認めてもらって今回、連続でドラマの話がきたのは大きいと思います。

 村上 映画業界においては〝職業監督〟として依頼された作品を何本も撮る傍ら、そこでためたお金を使って自主映画でもいいから、自分の作りたい映画を作っている監督もいます。

 内田監督 大きな製作規模の作品を年に何本も作って、その合間に好きな映画を作る…それも1つのあり方かも知れませんが、作家としては疲弊します。ただ…例えば『全裸監督』は日本の他のドラマと比べると破格の制作費が投じられています。だから、ドラマで金を稼ぐこともできるわけです。そうすれば、撮りたくもない映画を年に何本も撮る必要はなくなり、映画であってもドラマであっても作家性を追求した作品作りができるようになると思います。

 村上 その意味でも、深夜ドラマながら地上波で放送される『Iターン』と、制作規模の大きい『全裸監督』は、監督にとって勝負作品になる。

 内田監督 そうです…勝負ですね。ここで成功することで、また次のオリジナルドラマが制作される。インディーズ映画の世界…特に若い監督や製作者には、才能のある面白い子が多い。僕は、配信ドラマ&深夜ドラマとインディーズ映画は、親和性が高いと思っています。インディーズの世界でコツコツと作品を作っている若い監督、映画製作者たちには、海外の映画祭に自分の作品を、どんどん持っていってチャンスをつかむことが、自らの道を切り開くやり方だと知って欲しい。そして、配信や深夜ドラマという活躍の場があることを、若い映画監督の皆さんにも知って欲しい。正直、日本映画にもっとも足りないものは若手を育成する場だと思います。

 内田監督との対談は、予定を大きく超えた3時間半にも及んだ。その中で、最も強烈な監督の言葉を、最後に紹介したい。

 「映画祭に引っ張られて海外に行って、英国人が集めた金で作った低予算映画でチャンスをつかんだ…日本の映画産業で、日の目が当たったところの世話には、なっていないですから」

 『Iターン』第1話の、強烈で規格外の冒頭こそ、インディーズ映画からはい上がった監督・内田英治の真骨頂だろう。日本で知られるより先に世界が気付いた個性を、ドラマで知る…そのチャンスは、今だ。

内田英治監督が手掛ける二本の連続ドラマ

「Iターン」 (7月12日よりテレビ東京系にて放送スタート)

中年の危機を迎えた広告代理店勤務の主人公がある日突然、単身赴任を命ぜられる。そして赴任先の最果ての町で、ヤクザの舎弟にされてしまい…。独特の世界観で描かれた笑って泣ける喜劇。出演はムロツヨシ、古田新太、黒木瞳、田中圭ほか

画像: Ⓒ「Iターン」製作委員会

Ⓒ「Iターン」製作委員会

「全裸監督」 (8月8日よりNetflixで配信スタート)

舞台は1980年代。AV監督の村西とおると仲間たちの青春や熱狂が日本のドラマとは思えないスケールで描かれる。日本発のNetflixオリジナル作品であり、世界190ヶ国で配信。
出演は山田孝之、満島真之介、玉山鉄二、森田望智、柄本時生、伊藤沙莉、吉田鋼太郎、板尾創路、小雪、リリー・フランキー、國村隼、石橋凌ほか

画像2: 内田英治監督インタビュー
画像: 内田英治 ブラジル・リオデジャネイロで生まれ。「週刊プレイボーイ」(集英社)記者として、椎名林檎、ミッシェル・ガン・エレファント、ザ・イエロー・モンキーなど時代を彩ったミュージシャンらをインタビュー。2000年スペシャルドラマ「教習所物語」(TBS)で脚本家デビュー。04年に「ガチャポン」で映画初監督。05年には「劇団演技者。」(フジテレビ)でテレビドラマに初挑戦。16年「下衆の愛」はテアトル新宿にてスマッシュヒットを記録。世界30以上の映画祭で上映。Taste of cinema2016年日本映画部門5位。TSUTAYA「2016年本当におもしろかった映画BEST100」邦洋画総合29位。日本映画年鑑シナリオ集にも収録された。2019年秋には2年ぶりの新作オリジナル映画を撮影する。

内田英治
 ブラジル・リオデジャネイロで生まれ。「週刊プレイボーイ」(集英社)記者として、椎名林檎、ミッシェル・ガン・エレファント、ザ・イエロー・モンキーなど時代を彩ったミュージシャンらをインタビュー。2000年スペシャルドラマ「教習所物語」(TBS)で脚本家デビュー。04年に「ガチャポン」で映画初監督。05年には「劇団演技者。」(フジテレビ)でテレビドラマに初挑戦。16年「下衆の愛」はテアトル新宿にてスマッシュヒットを記録。世界30以上の映画祭で上映。Taste of cinema2016年日本映画部門5位。TSUTAYA「2016年本当におもしろかった映画BEST100」邦洋画総合29位。日本映画年鑑シナリオ集にも収録された。2019年秋には2年ぶりの新作オリジナル映画を撮影する。

村上幸将
 北海道出身。日刊スポーツ新聞社入社後、整理部、静岡支局、スポーツ部、文化社会部、メディア戦略本部デジタル編集部を経て現在、文化社会部記者。Jリーグ、日本代表、ヨーロッパーサッカーなど国内外のサッカー、カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界3大映画祭、アカデミー賞など国内外の映画、プロレス、格闘技、政治、社会ネタまで、幅広い現場で取材。日刊スポーツが過去、発行した「プリキュア新聞」「ONE PIECE新聞」「キングダム新聞」の企画、取材、制作も担当。文化放送のインターネットラジオ局「超!A&G+」で11年1月~13年9月まで放送された「ムラカミ記者のアニメ!!パンチ」MC。

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