理学療法士の葛藤を描いた三浦貴大主演の映画『栞』が現在、新宿バルト9他全国公開中です。
本作は、元理学療法士という異色の経験を持つ榊原有佑監督が、理学療法士時代に見聞きしたことを元にしたオリジナルストーリー。
家族、仲間、様々な境遇を持つ患者たちと向き合いながら前に進もうとする理学療法士の葛藤を描いたヒューマンドラマとなっております。

©栞製作委員会

この度、シネフィルではその映画の監督として長編デビューを飾った榊原有佑監督に単独で、いくつかの質問を投げかけ答えていただきました。

監督は実際に理学療法士だったそうなんですが、どうやってそのお仕事につかれたのでしょうか?(一般の方は理学療法士ということをあまり知らないと思いますので、どのようにしてなるのか)なども含め少し教えてください。

高校時代に部活動で怪我をして、理学療法士の方にお世話になったのが一番最初の出会いでした。
仲の良かった先輩も理学療法士への道に進んでいたこともあり、自分も高校卒業後に理学療法士の養成校へと進学しました。
自分のように怪我をして、その体験から理学療法士の道に進む人はとても多いですね。

しかし養成校で学ぶことは、筋肉や骨だけでなく神経系の疾患や、呼吸器疾患など多岐にわたります。養成校で専門知識を勉強し国家試験に合格すると「理学療法士免許」を取得でき、理学療法士として臨床で働くことができます。
しかし臨床では教科書のテキストだけでは分かりえない、多くの葛藤があり、働き始めてから本当の勉強の日々が始まります。

その時の経験をもとに、この作品を作られたそうですが、逆に監督になられたきっかけはなんなのでしょうか?

一番最初は医療現場のことを外に発信する手段を持ちたいと思ったところからです。しっかりとした情報発信がなければ、なかなか病院の中のことは世の中には理解されず、大げさかもしれないですが必要な医療行為を受けられない人も出てきてしまうと思ったのです。当時、高齢化社会で医療費削減をどうするかの議論が出ていたので、若かった私は何とかしないとまずいぞ!と思ったんですね。 

最初はブログやライターなどを目指そうと思ったのですが、ちょうど理学療法士として働いていた2008年〜2009年頃はyoutubeの登場もあり映像で情報発信出来るインフラが整ってきていたので、映像を作れる技術を持つことは大きな武器になるなと感じました。
 映画は大好きでしたが、ストレートに映画監督を目指したというよりは、もっと幅広く映像ディレクターになりたいと思って病院を退職しました。

 映像業界に入っていくと不思議と映画関係者との縁に恵まれ、自分が発信したい想いがあるなら、それは映画が一番ストレートに表現できるんじゃないかと思うようになりました。
 そこからは割と王道だと思いますが、助監督として数年経験を積み、自主制作や低予算の短編映画を作りながら、今回の長編映画デビューを目指していきました。

画像1: 榊原有佑監督

榊原有佑監督

ドラマとしては初の長編作品ですが、やはり長編作品ですと今まで作られた短編やドキュメンタリーと違って大変だったところはございますか?

撮影までの準備は短編でも長編でも量が増えるだけで変わらないのですが、本編の構成やリズム感は感覚的に未経験で苦労しました。
内容に関しても「描きすぎなのか?足りないのか?」というところは、今までの感覚では決断しきれない部分もありました。

あとはこれまでより、スタッフの人数が多いので、どう指揮をとってまとめていけばいいのか不安もありましたが、優秀なラインプロデューサーや助監督、キャストでは三浦さんや阿部さんが引っ張って雰囲気作りをしてくれていたので、そこに関してはほとんど自分はやることはなく、みんなに頼りっぱなっしでした。

監督になられた経緯の中で、今までに影響を受けた映画やそのほかの小説や絵画などなんでもいいですが教えてください?

ケン・ローチ監督作品と橋口亮輔監督作品、小説でいうと中村文則さんの小説を愛読しています。

監督や作家自身に確固たる意志があり、映画や小説を媒体に自分の想いを強烈に発信していく姿には、憧れと尊敬の念があります。

嘘がなくて、まっすぐ監督の想いを表現している作品は、体の芯にドシンと響いてくるので、自分もそういった作品作りをしたいと思っています。

タイトルが『栞』と名付けて入られますが、どのような考えでこのタイトルに?

脚本を書いている時に、ふと本に挟む「栞」のイメージが出てきました。
登場人物の誰かはまだ続きがあるのに、あるページに栞を挟み本を閉じてしまう。
また別の誰かは、その栞を抜き取って次のページをめくり始める。
この作品と「栞」という言葉がリンクして思えて、タイトルに決めました。

あとは前から漢字1文字のタイトルは潔くてかっこいいなと思ってて、いつか自分の映画のタイトルも1文字でいきたいと思っていたのもあります。

画像2: 榊原有佑監督

榊原有佑監督

今回の作品は、三浦貴大さんが演じる理学療法士はやはりご自身の経験なんでしょうか?ご自身がモデルということでいいのでしょうか?

その通りで主人公の雅哉は自分自身にかなり近いキャラクターです。

照れ臭いので、三浦さんにもそんなことを伝えてもいなかったのですが、スタッフからは「雅哉は監督自身だね」と言われ、完全にバレていました。

ただ前原滉くんが演じる永田も、一見すると雅哉とは正反対の性格ですが、自分の分身のような気がしています。

特別に意識はしていないのですが、やっぱり登場人物には自分の要素は入ってしまうようですね。

また、阿部進之介さん演じるラグビーの選手などは、やはり最も印象に残る役柄ですが、そのような方が実際モデルでいたのでしょうか?

はい。多少、映画としてアレンジさせてもらっている部分もありますが、阿部さん演じる孝志という役も実際にあったお話になります。

今回の映画でメインの患者さんとしては、孝志含めて3人出てくるのですが、10年もしくはそれ以上前の話なのですが全てモデルがおります。

最初「そういった体験を映画を通して発信しないか?」と言われた時は、どのように描いていいのか分からず、映画としてどのような結末にしていいかも分からなかったで、うまく脚本が進まない時期がありました。
ただ、自分への後悔や反省も含め、自己表現に徹底することで、この映画を作ることへの責任を背負おうと決めてからは描くことが明確になり、今のような形で完成する事になりました。

画像3: 榊原有佑監督

榊原有佑監督

三浦貴大さん、阿部進之介さん、白石聖さん、池端レイナさんそして鶴見辰吾さんなどが出演なさっていますが、キャスティングはどのようにー

三浦さんに関しては、実際に事務所にご連絡するずっと前から、勝手に「主演は三浦貴大さんで!」とイメージして脚本を書いていたので、断られたらどうしようと怯えていました。それは完成した今も同じで、三浦さんでなければこの「栞」は成立しなかったと思っているし、彼には本当に感謝しています。

ほとんどのメインキャストさんはオファーを出させてもらって決めたのですが、白石聖さんはオーディションでした。
芝居経験がほとんどないと聞いていたのですが、最初に会った時から、全く気負うこともなく誇張することのないお芝居で、そこに居合わせたプロデューサー達と驚愕したのを覚えています。現場経験がほとんどない状態でしたが、現場でも堂々としていて、頼もしかったです。

ちょっと古いお話ですが、ワールドプレミアは北京国際映画祭でしたが、向こうでの反応はいかがだったでしょうか?

中国での反響はかなりの手応えがありました。

上映終了後に宣伝部が劇場で一言コメントを求めると、1人あたり10分〜15分は感想を話してくれて、全員分のコメントをもらうのに2時間かかったそうです。
後で聞いたのですが、中国では一人っこ政策の影響もあり、介護やリハビリに対する関心が高まっているそうです。

日本でしかも個人的な体験を基に創った映画が、国境を越えて共有できるという体験にはとても感激しました。

今後も、やはり医療的な現場のお話から作品を作られていくのでしょうか?もしくは、今後描きたいテーマとかございますか?

医療現場の作品のみを創っていく考えではありませんが、自分の人生経験上とても影響を受けた体験なので、劇映画なのかドキュメンタリーなのか手段は問わずこれからも発信していきたい想いはあります。

ただ、次回作として準備しているのは医療映画ではなく「復讐劇」です。数年前から「赦すこと」「償うこと」といったところには興味があります。

ジャンルやテーマは違っても、自分の正直な気持ちから企画を立てていくことは今後もブレずに続けたいと思っています。

画像4: 榊原有佑監督

榊原有佑監督

最後に今回、作品をご覧になろうかと思っている皆さまに一言いただけますか?

この映画はそれぞれの経験や、捉え方で、印象は変わっていく映画だと思います。
なので観た人から感想を聞かせていただくと本当に十人十色なのですが、監督としても、そのように多様な感想が出てくる事を望んでいます。

 ただ一つだけ、見終わった後でいいので、これは今もどこかで起きている話なんだということ考えてくれたら、それだけで私がこの映画を創った意義があったと思えます。

 ぜひ劇場に足を運んでこの映画「栞」をご覧ください。

映画「栞」予告編

画像: 映画「栞」予告編 / 2018年10月26日(金)全国ロードショー youtu.be

映画「栞」予告編 / 2018年10月26日(金)全国ロードショー

youtu.be

[ストーリー]
真面目な性格で、献身的に患者のサポートに取り組む理学療法士の高野雅哉。
幼い頃に母親を亡くし、現在は父親の稔、妹の遥と離れて暮らしている。そんなある日、雅哉が働く病 院にしばらく会っていなかった父・稔が入院してくる。 日に日に弱っていく稔の姿、担当患者の病状が悪化など理学療法士として何が出来るのか自問自答 の毎日で無力感に苛まれる。しかし、そんな時ラグビーの試合中にケガをした新たな入院患者を担当 することになった雅哉。その入院患者の懸命に生きようとする姿に感化され、徐々に仕事への
熱意を取り戻していく雅哉だったが・・・・病院という身近な人の死を経験する場所で理学療法士として、 雅哉の選択していく生き方とは・・・。

三浦貴大
阿部進之介 白石聖 池端レイナ 前原滉 池田香織・福本清三 鶴見辰吾
監督:榊原有佑
脚本:眞武泰徳 榊原有佑
制作:andpictures
制作協力:プラスディー
特別協賛:日本理学療法士協会
©栞製作委員会

新宿バルト9 他全国公開中

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