映像作品のみならず、絵画、写真、音楽など様々な方法で表現活動を続けているデヴィッド・リンチが、美術学生時代の「退屈」と「憂鬱」、悪夢のような街フィラデルフィアでの暮らし、長編デビュー作『イレイザーヘッ ド』に至るまでを自らの語ったドキュメンタリー映画『デヴィッド・リンチ:アートライフ』。

画像: 学生時代の「退屈」と「憂鬱」か?!奇才リンチを形成したのは--幻想文学研究家・風間賢二が語る『デヴィッド・リンチ:アートライフ』トークイベントレポート

先行特別試写会が 1 月 16 日(火)、ア ップリンク渋谷で行なわれ、ゲストに幻想文学研究家・翻訳家の風間賢二氏が登壇。デヴィッド・リンチとアメリカ 芸術の関係性について熱弁をふるった。

【日時】1 月 16 日(火)
【会場】アップリンク渋谷(東京都渋谷区宇田川町 37-18 トツネビル 1 階)
【ゲスト】風間賢二(幻想文学研究家・翻訳家)

デヴィッド・リンチが美大生時代を過ごし、「恐怖が垂れ込める意地の悪い街」と称するフィラデルフィアでの生活 について風間氏は、「父親が森林関係の仕事をしていたため、田舎で少年時代を過ごしたリンチだったけど、突然大都市のフィラデルフィアに移って美術学校に入った。環境が全く変わったわけですよね。しかも、60 年代は激動の時代。当時のフィラデルフィアは、不況により廃墟だらけの工場が立ち並び、大暴動や大火災が起こっていた。リン チが当時住んでいた場所は近所に死体安置所があって、そこに通って死体を観察していたと映画の中でも話していましたよね。50 年代のいわゆるアメリカンドリーム的な、非常に清潔で豊かで健康的なイメージのアメリカから、フ ィラデルフィアの暗黒・悪夢的なイメージの世界で過ごしたことが彼のアートライフに影響を与えたのでは」と説明。

続けて「フィラデルフィアはアメリカン・ゴシック発祥の地でもあるんです。ゴシックロマンスは 18 世紀の英国から始まり大流行するのですが、それがアメリカにやってきて、アメリカ小説の父と言われる C.B.ブラウンが『ウィーランド』でゴシック小説を書いたんです。ブラウンはフィラデルフィア出身で、この小説の舞台もフィラデルフィアです。アメリカの小説は全てゴシック・ロマンスだという意見があるように、アメリカの根底にはゴシックが流れているように思います。ですから、ブラウンの後にはエドガー・アラン・ポー、ハーマン・メルヴィルやナサニエル・ ホーソーン、アンブローズ・ビアス、20 世紀になると H.P.・ラヴクラフト、その他にも、ウィリアム・フォークナ ーやフラナリー・オコナーなどのサザンゴシック、そしてカポーティなど、アメリカン・ゴシックが発展してきた」 と解説した。

さらに、リンチの作品について、「よく言われることだが、シュルレアリスムに非常に影響を受けている。シュルレアリスムはアメリカではフランスより 20~30 年遅れた 50 年代に花開いた。ブルトンらシュルレアリストたちがアメリカに亡命してきて、やっと流行ったんです。なぜそれまで流行らなかったかというと、一説によると、ディズニー とチャップリン、バスター・キートンがいたから必要なかったと言われている」と述べ、「アメリカにはシュルレアリストはあまりいないのですが、写真家マン・レイは、アメリカ最初のシュルレアリストと言えますね。しかも、彼はフィラデルフィア出身なんです。アメリカにおけるゴシックもシュルレアリストも、フィラデルフィアから誕生し ている」と言及。

「ゴシック、シュルレアリスムというのは、基本的にマニエリスム(極度の技巧性、時に非現実的 で不自然なまでの誇張などの特色を持つ芸術様式)が形を変えたもの。そういう意味でリンチは、グロテスクで、日常から逸脱したものを開発していく“”現代のマニエリスト”とも言ってもいい」と締めくくった。

画像: 【日時】1 月 16 日(火) 【会場】アップリンク渋谷(東京都渋谷区宇田川町 37-18 トツネビル 1 階) 【ゲスト】風間賢二(幻想文学研究家・翻訳家)

<プロフィール>
風間賢二(かざま・けんじ)
1953 年東京生まれ。早川書房で編集業務に携わったのちフリーライターに。幻想文学研究家・翻訳家として数々の 作品を手がける。『ホラー小説大全』で第 51 回日本推理作家協会評論部門賞受賞。ポストモダン文学に関しては 『オルタナティヴ・フィクション』、大衆小説に関しては『ジャンク・フィクション・ワールド』、ファンタジーに 関しては『きみがアリスでぼくがピーターパンだったころ』、ミステリーに関しては『怪奇幻想ミステリーはお好 き?』などの主著がある。翻訳書としては、S・キング『ダークタワー』シリーズやアメコミ『ウォーキング・デッ ド』シリーズなど多数。

リンチが紡ぐ「悪夢」はどこから生まれるのか?
『ツイン・ピークス The Return』で再び世界を騒がせる、

映画界で最も得体の知れない監督――その「謎」が「謎」でなくなる、かもしれない。

映像作品のみならず、絵画、写真、音楽など様々な方法で表現活動を続けているデヴィッド・リンチ。「その頃の僕の世界はとても小さく、近所の数ブロックに全てがあった」ハリウッドにある自宅兼アトリエで語られる過去。「恐怖が垂れ込める意地の悪い街」フィラデルフィアでの日常。その中に潜む「恐怖」「苦悩」は、まるでリンチ作品の登場人物のような姿で私たちの前に現れては消えていく。

『デヴィッド・リンチ:アートライフ』 予告

画像: リンチが全てを語った--『デヴィッド・リンチ:アートライフ』 予告 youtu.be

リンチが全てを語った--『デヴィッド・リンチ:アートライフ』 予告

youtu.be

アメリカの小さな田舎町で家族と過ごした幼少期、アーティストとしての人生に憧れながらも溢れ出る創造性を持て余した学生時代の退屈と憂鬱。後の『マルホランド・ドライブ』(2001 年)美術監督である親友ジャック・フィスクとの友情。生活の為に働きながら、助成金の知らせを待った日々。そして、当時の妻ペギーの出産を経てつくられた長編デビュー作『イレイザーヘッド』(1976 年)に至るまでを奇才デヴィッド・リンチ自らが語りつくす。

◆監督:ジョン・グエン、リック・バーンズ、オリヴィア・ネールガード=ホルム(『ヴィクトリア』脚本)
◆出演:デヴィッド・リンチ
◆配給・宣伝:アップリンク
(2016 年/アメリカ・デンマーク/88 分/英語/DCP/1.85:1/原題:David Lynch: The Art Life)

2018 年1月 27 日(土)、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開

This article is a sponsored article by
''.