アニメ映画『同級生』の大ヒットも記憶に新しい異色のマンガ家中村明日美子と『下衆の愛』『獣道』と立て続けに異色作を発表する映画監督内田英治の『ダブルミンツ』公開記念の特別対談です!

画像1: ○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

映画『ダブルミンツ』公開記念
対談 中村明日美子×内田英治

取材・構成:的場容子

中村明日美子先生によるノワール&エロティックなボーイズラブの傑作『ダブルミンツ』。
原作に惚れ込んだ鬼才・内田英治監督による映画『ダブルミンツ』がこのたび堂々完成。
主演俳優ふたりによる体当たりの演技が、いま大変な話題となっています。

かねてから「明日美子先生のアタマの中をのぞきたい!」と言っていた内田監督、夢の対談がついに実現しました。
劇場公開のまさに初日である6月3日、舞台挨拶の合間を縫っておこなわれた対談です。

●内田監督、ナゾの出自?●

――今日は内田監督が明日美子先生に、色々と聞きたいことを聞いていく時間ということですが。

中村 あ、そうなんですか(笑)?

内田 そうです。いちおう11年間ライターやってたんで。

中村 11年間?

内田 映画やる前に、ライター業を。(※内田監督は映画業界で働く前に、「週刊プレイボーイ」で記者として活躍していた)

中村 あ、なるほど。アルゼンチンには何歳までいらしたんですか?

内田 ブラジルです。

中村 あ、ブラジル!? あれ、アルゼンチンじゃなかったっけ?

内田 アルゼンチンにもいました。アルゼンチンは1年くらいです。生まれたのはブラジルのリオデジャネイロ。先生はどこですか?

中村 私、神奈川県。純粋な神奈川県(笑)。南米は、どのくらいまでいらっしゃったんですか?

内田 ブラジルは、11歳までです。

中村 ああ、じゃあもう、ポルトガル語しゃべれる?

内田 当時はべらべらでした。

中村 いまは?

内田 当時は(ポルトガル語が)ネイティブで、日本語がそんなにしゃべれなくて。日本に帰ってきて、(日本語とポルトガル語を)交換、みたいな感じでしたね。

中村 なるほど。ブラジルだと、日系の人も結構いますよね。

内田 いっぱいいますよ、100万人くらい。

中村 カルロス・トシキ大好きだったんですよ。

内田 ああ、オメガトライブの。

中村 そう。

内田 ははは(笑)。あの人は、日系四世とか?(※カルロス・トシキさんは、1980年代に活躍したポップス・シンガー。父親が移民一世で、母親がブラジル生まれの日系二世)

画像: 内田英治監督 ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。『週刊プレイボーイ』記者として活動の後、 2000年スペシャルドラマ『教習所物語』(TBS)で脚本家デビュー。 その後、映画『ガチャポン』を初監督。2014年公開『グレイトフルデッド』は 世界3大ファンタ映画祭のひとつ“ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭"、 米 “ファンタスティック・フェスト”、イギリス“レインダンス映画祭”、 日本“ゆうばりファンタ”ほか主要映画祭で上映。イギリスでは初の海外配給もされた。 2015年公開『家族ごっこ』(出演:斎藤工、でんでん、鶴田真由ほか)は ショートショートフィルムフェスティバルのオープニング作品に選出。 最新作『下衆の愛』はテアトル新宿にて公開されスマッシュヒットを記録。 東京国際映画祭2015のジャパンスプラッシュコンペに選出。 その後ロッテルダム国際映画祭ほか、世界30以上の映画祭で上映。 ドイツ・イギリス・香港・台湾にて配給もされる。Taste of cinemaにて 2016年日本映画部門5位。AMPベストアジアンフィルムでは16位にランクイン

内田英治監督
ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。『週刊プレイボーイ』記者として活動の後、
2000年スペシャルドラマ『教習所物語』(TBS)で脚本家デビュー。
その後、映画『ガチャポン』を初監督。2014年公開『グレイトフルデッド』は
世界3大ファンタ映画祭のひとつ“ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭"、
米 “ファンタスティック・フェスト”、イギリス“レインダンス映画祭”、
日本“ゆうばりファンタ”ほか主要映画祭で上映。イギリスでは初の海外配給もされた。
2015年公開『家族ごっこ』(出演:斎藤工、でんでん、鶴田真由ほか)は
ショートショートフィルムフェスティバルのオープニング作品に選出。
最新作『下衆の愛』はテアトル新宿にて公開されスマッシュヒットを記録。
東京国際映画祭2015のジャパンスプラッシュコンペに選出。
その後ロッテルダム国際映画祭ほか、世界30以上の映画祭で上映。
ドイツ・イギリス・香港・台湾にて配給もされる。Taste of cinemaにて
2016年日本映画部門5位。AMPベストアジアンフィルムでは16位にランクイン

ガーンではなく、キーン。「ダブルミンツ」を初めて読んだときの私の頭の中の音だ。
どつかれた感じではなく、刺された感覚。すぐさまこの作品を映画化したいと思った。
凄まじいマンガである。作者である中村明日美子さんの頭を覗いてみたいと思い、
2年に渡り脚本のやりとりをした。この作品は単なるジャンルに括られる作品ではない。
ふたりの人間の(たまたま男性同士)共依存の極地を描いた傑作である。
嫉妬、怒り、愛、依存…。「ダブルミンツ」はおよそ人間がもつ極限の感情だけで成り立つ、そんな映画だ。

●映画残酷物語!?●

内田 先生が初めて、この映画化の話を聞いたのはいつなんでしたっけ? もう2年前?……もっとか。

中村 普通に監督からのメールを、編集部を経由して送られてきたのが最初です。2年半……?

内田 2年半くらいか。そのときはやっぱり、さっき(舞台挨拶で)言ってたように、「無理じゃないの?」みたいな感じだったんですか?

中村 (笑)。いや、ほんとに、多いんですよやっぱり。話だけは来るんです、色々、実写化とか。で、私はあんまり断らないほうなんで、「ま、いいですよ」と。「まず企画書出してください」って言って、企画書出してこないとこも多いですね。で、企画書を見て、それがよさそうだったら会ってみてとか、そういうステップを踏んでいくんですけど。だからまあ、あのときも、「まあ、そうは言うけど、ほんとにどうかなあ?」みたいなところもありつつ。

内田 でも(実写化の話で)多いのはやっぱ『同級生』?

中村 『同級生』と、あと『ウツボラ』も何本か来て、結構進んだ話とかもあったんですけど、やっぱり、企画によってはコンペがあったりとかで、それが通らなかったとか……。

内田 詳しいね、映画界に(笑)。

中村 ふふふ(笑)。そういうのもあったりとか。あとまあ、これはさすがに無理なんじゃないか、机上の空論すぎるキャスティングじゃないか、とかだと、ちょっと、あやしすぎるから無理かな~って断ったりとかします。

内田 でも『同級生』なんかはすごく、(実写化)されそうな。

中村 なので、最近はもう、『同級生』はさすがに断ろうかと思ってます、実写に関しては。だって、まず金髪のキャラが出る時点で、ちょっとフィクション感が強すぎちゃうから。映画になると。

内田 たしかにね。今回も、(マンガでは金髪キャラの)淵上の……すごい迷いましたもんね。

中村 そうですね。これはもう黒にしてちょうどいい……ちょうどいいというか、金にしたらおかしいですよね。

内田 ホストみたいになるからね。

中村 そうそう(笑)。やっぱね、白と黒に髪を描き分けるのは、マンガ的な演出なだけで。

内田 そうだよな。顔がアジア系で髪が金髪、ってやっぱり、日本のマンガ独特の世界観ですか?

中村 いや、単純にキャラの見分けがつきやすいし、あと時間がない人(作家)はどんどん白い髪のキャラが増えていきますけどね(笑)。「あれ、このキャラ金髪になったんだ?」とかね。

内田 (笑)。髪の房が大きくなる。そういえば、ついこの間まで、マンガ家が主人公、みたいな映画を撮っていて。

中村 あ、そうなんですね。

内田 そうなんすよ。それで、やっぱり、(演技)指導があるじゃないですか。役者はマンガ描けないから。ペンとか、手の動きとか、どういう小道具置いとけばいいんだ、とか。売れないマンガ家っていう設定で。トーン貼りとか、自分で全部やんなきゃいけない。大変だな~と思って。まあ、だからやってるんですけどね。

中村 それ、若い子だったら多分、デジタルになっていますよね。

内田 え、先生は?

中村 私、ぜんぶアナログなんですよ、原稿。

内田 NOパソコン?

中村 カラーだけ、仕上げはパソコンでやるんですけど。カラーも色塗りまではアナログで、そのあと(パソコンに)取り込んで。カラーって、そのままだと結構、色のぶれが激しいんですよね。だから、ある程度パソコンで仕上げちゃったほうがぶれが少ないし。あと単純に、演出も結構加えられるから。いまほんとに(若いマンガ家さんは)デジタルみたいですよ。驚いちゃった。

●中村明日美子を作った映画たち!?●

内田 普段は映画とか観るんですか?

中村 えーとね、もともとはまあまあ観るほうなんですけどね。

内田 どういうのを観てた?

中村 うーん、映画好きが結構まわりにいたので、あれですよ、カサヴェテス・ナイトとか行ったりしてました(笑)。

内田 ああ~、そういうやつ。

中村 そういうのも行ったし、竹中直人特集とかで、竹中直人(作品)を4本観るとか(笑)。なんかね、濃い。

内田 そういうやつなんですね。

中村 でも、ミーハーな映画も観てますけどね。

内田 でもちょっとやっぱり、アートハウスというか、単館系ですね。

中村 「ユーロスペース通ってました」みたいな、ね(笑)。そういう時期はやっぱり、一時ありました。

内田 とくに、「めっちゃ好き!」みたいな作品があったりするわけではないですか?

中村 うーん。あのね、『エヴァとステファンとすてきな家族』(※)っていう、北欧のほうの映画なんですけど。原題は「Tillsammans」(スウェーデン語で「一緒に」という意味)っていったかな。なんか、あのへんって結構左翼的な人も多いじゃないですか、ナチュラルな。そういう人たちのシェアハウス的な話なんですけど、色んな家族が集まってて、結構映像もいいし、キャラクターもいいし。で、最後すげーいい話で終わるんです。(※ルーカス・ムーディソン監督のスウェーデン映画、2000年)

内田 へえ〜、知らなかった。いわゆる「いい話」の映画なの?

中村 ちょっと、ぼかしの入ってるシーンとかもあるけどね。子どもも出てて。それはすごくいい。あと、ドキュメンタリーも結構好きですね。フレデリック・ワイズマンとか、ドキュメンタリー好き。これだけ言うと、すごい映画観てる人みたいだけど。

内田 なんかね、シネフィルっぽい。

中村 最近は、ほんとに全然観てない(笑)。観てた時期があるだけで。

内田 あれとかどうですか? 『ガープの世界』(※)の人。ジョン・アーヴィング。(※1982年のアメリカ映画。アーヴィングの小説を原作に、ジョージ・ロイ・ヒル監督が映画化)

中村 あー! でも、観てない(笑)。なんか、観てるの少ないんですよ。

内田 でもほら、『同級生』みたいなやつと、『ダブルミンツ』と、全然(作風が)違うじゃないですか。

中村 うん。

内田 どっちなんだろう?

中村 でも監督も、なんかこういうの(『ダブルミンツ』)を撮りたいっていうときと、ちょっと今日家族っぽいのを撮りたい気分、っていうの、ありませんか?

内田 あります。

中村 そういうのをやっているだけで。

内田 ――うん、それはなんか、わかるんですけどね。その、両方があって、真ん中があんまない、みたいな(笑)。

中村 真ん中!? 真ん中……(笑)。

内田 ほどよいやつもあるじゃないですか。ちょっといい話で、アクションがあって。

中村 そう、真ん中……ないかな、どうなんだろう、ないかもしれないな。うーん。なんかね、絵を描いてるときは、結構こっち(『ダブルミンツ』)のダーク系のほうが、絵自体は描いてて楽しい感じはするんですけど。でも、自分のなかで思いついたネタは描かないともったいないし、なんかこう、クリエイターって、作りたいものから出していくのが仕事じゃないですか。出さないと、誰かが勝手に出すかもしれない、っていうのがあって。

内田 それはなんか、めっちゃ共感できます。僕も普段オリジナル(作品)が多いんで、こういう映画やりたい、みたいなアイディアはあります。明後日からも撮影でアメリカ行くんですけど、僕は海外で撮ったりするのも多いし、日本で撮りたいのも、アメリカとかで撮りたいのとかもいっぱいあって、次から次に出てきて。でも映画って、1年に1本くらいしか撮れないので(笑)。

中村 (笑)。(今年は)3本撮ったんですよね、お疲れ様です。

内田 こういうはずじゃなかったんですけど……1年に集中するはずじゃなかったんですけど(笑)。でもまあもう、(アイディアが)出てきたらやっぱりやりたいんですよ。

中村 そうですよね。

内田 だから『ダブルミンツ』も、(マンガを)手に取るまで全然予定なくて。でも、読んじゃうと、もう。もともとああいうの、すごい好きだから。

中村 世界観ですか?

内田 世界観。好きだったので、やるかー、と。ちょっと時間かかりましたけどね。

中村 はははは(笑)。

内田 ふふふふ(笑)。

画像: 中村明日美子 1月5日神奈川県生まれ。2000年、「マンガF」(太田出版)にて「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」でデビュー。以降、官能的なストーリーから青春もの、ボーイズラブまで多彩な作品を送り出している。代表作に『Jの総て』、『同級生』、『卒業生』、『ウツボラ』『鉄道少女漫画』など。

中村明日美子
1月5日神奈川県生まれ。2000年、「マンガF」(太田出版)にて「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」でデビュー。以降、官能的なストーリーから青春もの、ボーイズラブまで多彩な作品を送り出している。代表作に『Jの総て』、『同級生』、『卒業生』、『ウツボラ』『鉄道少女漫画』など。

実写版『ダブルミンツ』をご覧いただきありがとうございます。
これからご覧になる方、ご興味を持ってくださっている方もありがとうございます。
今回こういうお話をいただいて正直実現は無理だろうと思っていたのですが、キャスト様スタッフ様のご尽力でこうして形になることができました。ほとんど不可能だろうと思ったキャスティングも、思いがけず熱心で情熱を持った方々に演じていただけて、この作品は本当に幸運でした。そして監督様。重箱の隅をつつくような脚本の直しを叩きつけたにも関わらず粘り強く返球してくださり、原作を読んでくださった方々にもご満足いただける内容になったと思います。どうぞお楽しみいただければ幸いです。

●キャスティング獣道!●

中村 いやー、キャスティング、決まんないんだろうなーっていう気は、しませんでしたか? 自分で。「やるかな」って思ったときに。

内田 うーん、でも正直、たとえばまったく(マンガと)違う顔の人とかも……。

中村 あ、ビジュアル的に。

内田 そうそう。ビジュアル的にぜんぜん違うっていうのもアタマに浮かんだりもしたんですけど。まあ、(淵上と田中の)このふたりでよかったなと思いました。これはやっぱ、心意気っつーか、あんま根性論好きじゃないっすけど。たとえば、じゃあ役者が「2週間だけ空けてあるから、ホン(脚本)の、自分のところだけセリフを覚えて……」って、そんなことだけで、できる映画じゃないじゃないですか。ほんと、こういう子たちでよかったなとは思いますね。

中村 そうですね。今回、よくやってくれたなーっていう気がすごくしますね。やっぱりね、BLというジャンルに偏見があるとかじゃなくて、単純に、自分のセクシャリティと違うことを演じるって、大変だと思うんです。それは、ゲイの人に女性とのカラミを、っていうのと同じことだから。

内田 でも日本映画だと、パターン的にはやっぱり、じゃあたとえば、カラミとか、ハードコアな描写を抑えて……っていう方向になるじゃないですか。なるんですよ、R(指定)つけたくないから。でもそれも違うし、かといって、いわゆるBLっていうジャンル(の映画)にも不満があったので。……なんか、BLといわれるマンガって面白いのいっぱいあるなと思ってたのに、映画化となると超テキトウな感じがしてたんですよ。

中村 私、あんまり観たたことないんですよね。でも最近は、ヨネダコウさんの作品(『どうしても触れたくない』天野千尋監督、2014年)が、結構評判よかったですよね。あと、(『ダブルミンツ』と)同時期くらいで、『ひだまりが聴こえる』(文乃ゆき原作、上条大輔監督。2017年6月24日から公開)。これはまだこれからなのでどんな感じかわかんないけど、なんか、ちょっとずつ、良質な実写化が増えてきてるのかな、っていう気はしますけど。

内田 (BLは)題材みたいなのは面白いの多いなと思うんですよね。

中村 そうですね。まあ、当たり前ですけど、ジャンルとしてもう作家さんもいっぱいいるから、まあ玉石混交というか、すごくポルノに寄ったものもあるし、お話として普通に面白いものも多いし、という。単純に、市場としてすごく拡がっているので、良質なものも出てくるっていうことだと思うんですけどね。

画像2: ○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

画像3: ○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

●「ホモ、気持ちわりい」という人ほど……●

内田 先生は別に、こだわってるわけじゃないでしょ? ジャンルっていうものに。中村 うん。まあ、『ダブルミンツ』に関しては、いちおうBL誌(での連載)って銘打ってたので、それなりに意識はしたような気はするんですけど。担当編集が男性なので、別に、BL的な萌えがないんですよ。まあ、男性でもある人もいると思うんですけど、その人はない人なので、普通に、色気もあるけど、話として面白いものを、というのと、結構きつめの話が好きな人だったんで、まず、ヘテロセクシュアルの男性が読んでも面白いものを描こうっていうのがありましたね。

内田 ふんふん、なるほどね~。先生には、「監督ヤクザ好きだよね」って言われたよね(笑)。

中村 (笑)そうそう。にじみ出るものがね(笑)。「抑えて抑えて」って。

内田 (笑)。香港映画がやっぱり昔すごい好きで、それが出てると思うんですけど、僕別に、ヤクザ好きじゃない(笑)。でも、日本にブラジルから帰ってきて、大分県の中学校行ったんですけど、もう、8割くらいヤンキーなんですよね、当時の大分県の学校なんて。

中村 へえ~!

内田 で、ヤクザみたいなやつがいっぱいいるじゃないですか、不良が。で、それって、同性愛っぽいのを、超否定する文化じゃないですか。「うわっ! 気持ちわりいな!」とか言って。でも、(彼ら自身が)すごくホモっぽいというか。

中村 うんうん。ホモソーシャルってやつですね、要は。

内田 そう、ホモソーシャル。それを小っちゃい頃からずっと思ってて、日本社会の、その、相当男っぽいっていわれる世界の人たち……武術系の、柔道部とかもそうだし。そういう違和感を、『ダブルミンツ』を読んでたら解決してくれたっていう(笑)。

中村 あははは(笑)。なるほど。

内田 「あ、そっか」と。それまではもやもやーっとは思ってたんだけど。たとえば僕が、映画をはじめた頃の先輩の監督とかも、厳しい人とかいるんですよ。「馬鹿野郎!」とかって怒鳴ってくるような。そういうやつに限って、「俺、そういうのダメなんだよ~」とか言うんだけど、

中村 うふふふ。

内田 ……すごく「ぽい」よ、キミ!っていう人が多くて。もやもやっと思ってるだけだったのが、はっきりとああいうふうにストーリーラインのせられると、「あ、これちょっと、描いてみたい」っていうふうになった。それを、高橋和也さんと小木茂光さんのシーンで、あのふたりがよく表現してくれたなと思いますけど。そういうのは、別に考えて描いたわけじゃなくて?

中村 う〜〜〜ん(悩む)。

内田 ヘンな話、佐伯とかヤクザじゃなくてもいいわけじゃないですか。

中村 そうですね。まあ、これに関しては、名前が同じっていうのがキモかな、私的には。「同一人物かのような」っていうような「感じ」。同姓同名の人って、私は会ったことがないんですけど、もし会ったら、なんかちょっとヘンな気持ちになるだろうなというか、完全に他人だと思いきれないかもしれないな、っていう感覚を、ちょっと突き詰めていったような感じになるんですけど。

内田 ということは、あくまでも、(ヤクザうんぬんは)「ダブルみつお」がいる中からの派生。

中村 そうですね。なんでヤクザになってったのかなあ? ふふ(笑)。まあこれ、最初はね、第一話だけしかとくに描く予定はなかったので、一本描いて、それでまあ、続きが描けるなって。なんか、キャラがうまく動いたんでしょうね。それで続きをわーっと描いたかたちなんですよね。

画像4: ○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

画像5: ○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

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○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

●「女の死体を載せてドライブ」の殺傷力●

内田 ストーリーはあれですか、アタマから、全部決めずに、流したっていう。

中村 だいたい決めないですね、これ(『ダブルミンツ』)とかも。

内田 キャラクターが走っていく!みたいな?

中村 うーん、そうですね。……これ、どうやったかな、最後まで。

内田 あ、ものによって、構成が、あるのもある。

中村 うん、全部決まるときもあるし。ただ、勢いのいい作品は、一本描くと、結構ばーっとできてくるので、これもまあそういう感じだったと思います。一本描いて、普通にばーっと続きができるというか。

内田 なるほど。ストーリー優先なんですか? 絵優先なんですか?

中村 いや、それはさすがにストーリーのような気がするなあ。絵……まあ、映像から入りますけどね、こういうシーン描きたい、というか。この第一話だと、女の死体を積んで、夜のドライブをするっていうのが、描きたいっていう……

内田 (食い気味に)あのプロットはやっぱり最高でしたね。あれ、なんで思いついたんですか?

中村 いや、なんか好きなんでしょうね、多分、そういうのが(笑)。なんかちょっと、悪いことしているような。でもちょっと、不謹慎に楽しくなるような、そういうのが。というか、「女の死体を載せてドライブ」っていう、このお題だけで、なんか5,6本くらいは描けそうな気がするじゃないですか。そのくらいのポテンシャルがあるテーマだと。まあこれはそれで走った感じですけど。

内田 出だしがやっぱすごくよくできてるというか。昔のアメリカの、良作のインディーズ映画みたいな。外国っぽいっていうか、日本ぽくないっていうか。だから、マンガを読んでたときのことを、僕はいまだに覚えてますね。いきなり、読めますよね。ぐいっと引き込まれる。これは映画でもいけるな、と思った記憶はたしかにありますね(笑)。

中村 (笑)。

● 中村明日美子が「ヘタウマ」って?/お金とキャリアと●

内田 でも先生の作品って、なんつーんですか、マンガとしても評価は当然されてるでしょうけど、絵、一枚いちまいみたいな、絵としての美術的な部分でも、基本的に評価されてるじゃないですか。それはなんか違いが? この、コマがあるのと、ボーンと一枚絵なのと。

中村 いや、やっぱり基本的にはね、一枚絵は苦手です、すごく。

内田 そうなの?

中村 まあ、コマ割っている仕事だからね。やっぱり、細長い画面が欲しくなったりとか、目だけでもいいとか、そういうのがすごくあるんで。やっぱりね、誰かが言ってたんですけど、「一番いいのはヘタウマで、次にいいのはウマウマで、その次にいいのが、ヘタヘタ。一番ダメなのがウマヘタ」。なんでもそうだと思うんですけど。だから、私、そこまで絵がうまいわけじゃないので、ヘタウマ路線で……その、一芸主義みたいなね。こういう絵ならまあまあ、がんばって一番とれるかもしれないよっていうところを伸ばしていこうと。あとは補完して見てもらおう(笑)。そんな感じもありますけどね。

内田 その、作家としての、なんつーんだろう……ここ結構興味ありますけど、作家としての動きっていうか、その、当然マンガ描いて、連載もして、最終的にはお金にしなきゃいけない。それはどうなんですか? それはどうでもいいと思うタイプなのか、結構自分のキャリアの計算とかもするタイプなんですか?

中村 そのへんはでもやっぱり、家計を支える立場になって、変わりましたよね。

内田 ふーん。もともとは?

中村 もともとはやっぱり、別に、入ってきたところで、「寄付でもするか」って、東日本大震災に(義援金として)寄付したり。

内田 ほおー。

中村 そういうようなことをやってたけど、やっぱし、大黒柱みたいなところもあるし。もちろんね、お金を出されてもこれはしたくないと思ったら、もちろんやりませんけど。したくない仕事をやるのって大変じゃないですか。

内田 大変ですよ。

中村 ね。

●「中2病」は親から卒業するための通過儀礼●

内田 でも、完成したんで、良かったです。

中村 そうですね。なんか評判もよくてね。

内田 ねえ。なんか、おじさま方には、「ちょっとわかんねえな!」って言われました(笑)。

中村 ははははは(爆笑)。

内田 「わかんねえな、これ!」って言われましたけど。それは、いいや(笑)。

中村 (笑)。いい意味で、「中2感」もあるんですよ、これ。淵上さんのインタビューで、「(ミツオは)生きる力が湧くというか、もうひとりのみつおに会って。そういうのが(自分の演技で)出てればいいんですけど」(※)っていうことをおっしゃっていたんですけど、それまで、親の子どもっていう立場で生きてきて、その延長線上だった人が第三者を選ぶ、という話みたいなところもある話なので。そういう意味で、……あれ、なにを言おうとしたのか忘れちゃったけど、(笑)……あ、そう、そういう中2感もあるんですよね。で、中2病って、ちょっと親から卒業するための振り切り感、みたいなものの気もするので。だから、若い人のほうがやっぱり響く気はするんですよね。(※発売中の『ダブルミンツ ナビゲートDVD』でのコメントより)

内田 うん。なんか、みんなが言ってたのは、「ロードムービーですね」とか。それは俺、よくわかんないんですけどね。「え、どこがロードムービーなの?」って。若い子は結構そう言うから、なんかあるんでしょうね、自分探しみたいなものが。

画像7: ○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

●夢の続編は、香港ロケで!?●

内田 先生は、なんか撮ってみたいなとか思いますか? 映画とか。

中村 いや~ないな、ないない(笑)。結局、できることって少ないからね、人ってね。高校くらいまではなんでもできると思ってたんですけど(笑)。

内田 わははは(笑)。

中村 そんなことはなかったね(笑)。マンガは比較的、ひとりで作る感じが強いので、まあ、編集さんとかはいるにしても、比較的ノイズが入りづらい、自分だけでやってるから。でも映画だと多分、もちろん、自分が全部やるわけじゃないし、お金的な事情もからんでくるし、最初に描いてたのよりもだいぶノイズがかかってきて、違う像になる。それでいい方向に出るときというのは、やっぱりマンガ描いているときには得られないような感覚だなというのは思います。あと私、高校時代とか大学時代、舞台のほうで、芝居はやってたんですよ。だから、複数で作る面白さっていうのがやっぱし違うなあ、っていうことは思いますね。

内田 うん。いまさっき、舞台でも言ってましたよね。「役者がわらわらいて、肉がついてくる」ってね。

中村 そうそう。だから、(マンガでは)そういう感覚にはそうそう陥らないから、今回非常によかった。……やっぱり、私ね、すごくメディアミックスに恵まれてるなあと思うんですよね。今回もすごくありがたい感じになったし。

内田 うん。やっぱり、広がりますね、マンガって。

中村 でもやっぱり、なかには、メディアミックスによって消費されたな、っていうものもあるので(笑)。そういうなかで、ある意味撮りづらいような作品だからこそ、ハードルを超えてくる人たちは本気でやってくれるのかな、って気はしますけどね。

内田 じゃあちょっと、これがヒットしたら(続編を)描いていただいて、海外ロケで(笑)。夢の、「海外で全編を撮る」っていう(笑)。

中村 (笑)。たぶん、黒みつお死んじゃうな。

内田 ああ~。いいっすね~(笑)。じゃあ、ちょっと田中、残念だけど、キミは死んじゃうよー、って(笑)。

中村 (笑)。

●中村明日美子ギャップ問題●

内田 明日美子先生は顔出しNGですけど、びっくりするだろうね、みんな、ギャップに。(ご本人と作品の)ギャップが、おかしいでしょ、っていうくらいありますからね。ご自分ではわかってないけど(笑)。

中村 そこまでではないですよ。監督は割とイメージ通りだからね。「『クレイジージャーニー』出てそうな人」っていう(笑)。これ、言おうと思ってた(笑)。

内田 (笑)。でも、明日美子先生は、言われますよね、ギャップあるって。

中村 でもね、そのギャップを取り払おうと、ちょっとこう、ホームページで日記みたいなのをやったりして、「私怖くないんですよ」ってやってたから。最初はやっぱり、もうなんか、「BUCK-TICKしか聴きません!」みたいな人だと思われてた感じはあります(笑)。

内田 (笑)。ちょっと長めに付き合ったりして、人間関係が長くなると、ちょっとクレイジーな部分が出てくるんですか? とくにないんですか?

中村 別に、普通普通(笑)。

内田 普通なんですね。

中村 全然。私ほら、職業がじゅうぶん、社会不適合者が多いから。マンガ家になった以上、普段はまともでいたいんです。ちゃんと納税してる人でいたい。

内田 なるほど(笑)。

中村 そうそう。学生時代とかは、おかしな学生でいたかった。

内田 あ、じゃあ、学生時代のほうがちょっと。

中村 そう、変わった人になりたい。だからこう、映画ばーっと観てきて、6時間目から学校いったりとか、そういうことをしていた(笑)。

内田 (爆笑)。わはははは、それ、かなりかすかな抵抗(笑)。

中村 「だったら来るな」くらいの(笑)。そうそう。ちょっとだけ、文化系なね。でもいまは普通の、「赤信号では渡りません」とか、そういう人になりました。

● おまけ★内田監督にもうひとツッコミ!●

――おふたりとも、ありがとうございました! そしてここで、内田監督にもうひとツッコミさせてください! 内田監督は、さきほど明日美子先生に「映画とか撮らないの?」とおっしゃっていましたが、監督もマンガを描かれていた時代があるとかないとか……?

中村 (爆笑)ほんとに!? ほんとに!?

内田 (笑)。いやいや、僕は、憧れてただけで、中1くらいの頃に。よくいる子どもみたいに、手塚治虫がすごい好きで、手塚治虫のマンガをそのままコピーしてた時期はありましたね。

中村 おお~。

内田 いつかマンガ描きたいな、って思って。でもすぐ……絵がめっちゃヘタなんで、ふふふ、すぐ断念しましたけどね(笑)。日本に帰ってきて、手塚治虫に、なんかはまったんですよね。

――なにがお好きだったんですか?

内田 あのね、ブラジルにいた頃に、日本のアニメが一本だけやってて。『リボンの騎士』なんですよ。

中村 ほおーう。

内田 ブラジルのTVでもやってたんですよ。ディズニーアニメとかと混ざって。ほとんどそれの影響だと思います。日本に帰ってきたときに、日本で流行ってたものに全部すべてなじめなくて。たとえばTVだったら『仮面ライダー』とか。やっぱり、もともと『スーパーマン』とか、アメコミで育ってるから。で、なんか、疎外感があるじゃないですか、学校でついていけないと。だから、そこで唯一見てた手塚治虫に意識がいっちゃったのかもしれない。『ドラゴンボール』とかも慣れなくて。当時流行って、子どもがみんな夢中になってたやつはついて行けないんです。手塚治虫にひとりではまっちゃって。

――早熟ですね。

内田 そう……逃避かな(笑)。日本社会からの逃避。

中村 (笑)。でも当時としては多分、大人っぽいですね。

内田 今日はありがとうございます! っていきなり終わりますが(笑)。

中村 は、またっ。

画像: 禁断の映画『ダブルミンツ』予告 youtu.be

禁断の映画『ダブルミンツ』予告

youtu.be

「女を殺した―」ある日突然、
壱河光夫(淵上泰史)の携帯電話にかかってきた高圧的な声の主は、
高校時代の同級生で、今はチンピラになっている市川光央(田中俊介)だった。
すぐに光央のところに向かった光夫が目にしたのは、
車のトランクの中に横たわる麻美(冨手麻妙)だった。

中村明日美子先生のノワールでエロティックな世界と、内田英治監督のシニカルでハードコアな世界が奇跡的に融け合った、男たちの愛憎劇。映画『ダブルミンツ』、シネ・リーブル池袋他全国で絶賛公開中。

原作:「ダブルミンツ」中村明日美子(茜新社刊) 監督・脚本:内田英治
【出演】
淵上泰史 田中俊介 須賀健太 川籠石駿平 冨手麻妙/高橋和也 小木茂光
○C2017「ダブルミンツ」製作委員会 ○C中村明日美子/茜新社

シネ・リーブル池袋ほかにて絶賛全国ロードショー中!

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