永遠のオリヴェイラ マノエル・ド・オリヴェイラ監督追悼特集

― オリヴェイラは世界最大の映画作家である   蓮實重彦

現役最高齢の映画作家として数多くの作品をつくり続けたマノエル・ド・オリヴェイラ監督が、2015 年 4 月 2 日に 106 歳で亡くなりました。
本特集では、80 年をこえる映画人生でマノエル・ド・オリヴェイラ監督が遺してくれた珠玉の映画を Part1、Part2 に分けて上映します。

「永遠のオリヴェイラ-マノエル・ド・オリヴェイラ監督追悼特集」Part1 では、2014 年の『レステ ロの老人』を特別上映するほか、『アニキ・ボボ』(42)から『階段通りの人々』(94)に至る 8 作品を、 美しい 35 ミリフィルムで上映します。
2016 年夏以降に開催する Part2 では、1990 年代後半から 2000 年代の代表作、さらに日本未公開の『フ ランシスカ』(81)等を上映、Part1 の作品と合せて全国に巡回します。

画像: オリヴェイラ マノエル・ド・オリヴェイラ監督

オリヴェイラ マノエル・ド・オリヴェイラ監督

オリヴェイラ監督は、1908 年 12 月 11 日、ポルトガル北部の港町ポルトに生まれました。
1931 年に初 監督作『ドウロ河』を撮り、1942 年に初の劇場用長篇映画『アニキ=ボボ』を発表しますが、映画監 督として本格的に活躍をはじめるのは 60 歳を越えてから、独裁政権が終わりを告げた 1970 年代半ば 以降になります。

1972 年『過去と現在 昔の恋、今の恋』を発表、『ベルニデまたは聖母』(75)、『破 滅の愛』(78)、『フランシスカ』(81)と、「挫折した愛の四部作」を構成する作品をつぎつぎに制作します。
『フランシスカ』で敏腕プロデューサーのパウロ・ブランコと組み、自らが望む企画が実現で きる環境を得て、『繻子の靴』(85)、『神曲』(91)、『アブラハム渓谷』(93)、『世界の始まりへの旅』 (97)、『クレーヴの奥方』(99)などの輝かしい傑作を発表。

2000 年代に入り、90 歳をこえてもなお、ミシェル・ピコリ(『家路』01)、ジョン・マルコヴィッチ(『永遠の語らい』03)、カトリーヌ・ド ヌーヴ (『永遠の語らい』)、ビュル・オジェ(『夜顔』06)、ジャンヌ・モロー、クラウディア・ カルディナーレ(『家族の灯り』12)といった世界的名優を迎えて、自由さと瑞々しさに溢れる作品 を生み出し続けました。
2014 年のヴェネチア国際映画祭では短篇『レステロの老人』が上映され、健 在ぶりをみせてくれました が、2015 年 4 月 2 日に 106 歳で亡くなりました。

日本では、1993 年に開催されたポルトガル映画祭で初めてオリヴェイラ特集が組まれ、同年の東京国際映画祭で『アブラハム渓谷』が最優秀芸術貢献賞を受賞、オリヴェイラ監督という偉大な映画作家 の存在を知らしめました。
これ以後、ほとんどの長篇が劇場公開され、オリヴェイラ監督は日本の映 画ファンが最も敬愛する映画作家となりました。
今年 10 月に開催された山形国際ドキュメンタリー映画祭では、オープニング作品として『訪問、あ るいは記憶、そして告白』(82)が 上映され、12 月には『アンジェリカの微笑み』(10)が公開されます。

コミュニティシネマセンターでは、2010 年に「ポルトガル映画祭 2010―マヌエル・ド・オリヴェイラとポルトガル映画の巨匠たち」を開催、オリヴェイラ監督作品を多くの方にみていただきました。



作品歴
1931 ドウロ河 Douro, Faina Fluvial 1932 白い石炭 Hulha Branca
1932 リスボンの彫刻 Estátuas de Lisboa
1937 最後の雷嵐―テージョの洪水Os Últimos Temporais: Cheias do Tejo
1938 ポルトガルではもう車を生産しているJá se fabricam Automóveis em Portugal
1938 ミラマール、バラの海岸 Miramar, Praia das Rosas
1941 ファマリカン Famalicão
1942 アニキ・ボボ Aniki-Bóbó
1956 画家と町 O Pintor e a Cidade
1958 心臓 O Coração
1959 パン O Pão
1963 春の劇 Acto da Primavera
1963 狩り A Caça
1964 ヴィラ・ヴェルディーニョ 山の向こうVilla Verdinho – Uma Aldeia Transmontana
1965 わが兄ジュリオの絵As Pinturas do Meu Irmão Júlio
1972 過去と現在 昔の恋、今の恋 O Passado e o Presente
1975 ベニルデまたは聖母 Benilde ou a Virgem Mãe
1978 破滅の愛 Amor de Perdição
1981 フランシスカ Francisca
1982 訪問または回想と告白Visita ou Memórias e Confissões
1983 文化都市リスボン Lisboa Cultural
1983 ニース──ジャン・ヴィゴについてNice-Á propos de Jean Vigo
1985 繻子の靴 Le Soulier de Satin
1985 国際シンポジウムSimpósio internacional de Escultura em Pedra
1986 私の場合 Mon Cas
1988 マヌエル・カジミーロの考え―国旗 Proposito da Bandeira Nacional
1988 カニバイシュ Os Canibais
1990 ノン、あるいは支配の虚しい栄光'Non', ou A Vã Glória de Mandar
1991 神曲 A Divina Comédia
1992 絶望の日 O Dia do Desespero
1993 アブラハム渓谷 Vale Abraão
1994 階段通りの人々 A Caixa
1995 メフィストの誘い O Convento
1996 パーティ Party
1997 世界の始まりへの旅Viagem ao Princípio do Mundo
1998 不安 Inquietude
1999 クレーヴの奥方 La Lettre
2000 言葉とユートピア Palavra e Utopia
2001 家路 Je rentre à la maison
2001 わが幼少時代のポルト Porto da Minha Infância
2002 家宝 O Princípio da Incerteza
2002 モメント Momento
2003 永遠の語らい Um Filme Falado
2004 第五帝国──今日という昨日O Quinto Império - Ontem Como Hoje
2005 マジック・ミラー Espelho Mágico
2005 可視から不可視へ Do Visível ao Invisível
2006 夜顔 Belle Toujours
2006 起こりえないことは不可能なこととは違うO Improvável Não é Impossível
2007 コロンブス 永遠の海Cristóvão Colombo - O Enigma
2007 唯一の出会い(『それぞれのシネマ』所収) “Rencontre Unique” (Chacun son Cinéma)
2008 ヴィラ・ド・コンデのロマンス Romance de Vila do Conde
2008 ステンドグラスと聖なる死人 O Vitral e a Santa Morta
2009 ブロンド娘は過激に美しくSingularidades de uma Rapariga Loura
2010 アンジェリカの微笑みO Estranho Caso de Angélica
2011 Mundo Invisível “Do Visivel ao Invisivel”
2012 家族の灯りO GEBO E A SOMBRA/GEBO ET L'OMBRE
2012 ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区Centro Histórico
2014 レステロの老人 O velho do Restelo

上映作品

レステロの老人 O Velho do Restelo

画像: レステロの老人

レステロの老人

2014 年/19 分/カラー/DCP
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:レナート・ベルタ
出演:ルイス・ミゲル・シントラ、リカルド・トレパ、ディオゴ・ドーリア ポルトガルの大航海時代を詠った国民詩人カモンイス、「ドン・キホーテ」の作者セルヴァンテス、『破滅の愛』の原作者で ある 19 世紀ポルトガル・ロマン派の小説家カステロ・ブランコ、20 世紀初頭の詩人パスコアイス。4 人の文学者がポルトガ ルの過去と未来について語り合う。タイトルである”レステロの老人“は、大航海時代の栄光に異を唱える人物として、カモ ンイスの詩『ウズ・ルジアダス』の中に登場する。

アニキ・ボボ
Aniki Bóbó


1942 年/71 分/モノクロ/35 ミリ 監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:アントニオ・メンデス 出演:ナシメント・フェルナンデス、フェルナンダ・マトス、オラシオ・シルヴァ
オリヴェイラの長篇デビュー作。陽光降り注ぐポルトの街を舞台に、 躍動するアナーキーな少年少女たちを縦横無尽に活写してネオレ アリズモの先駆的作品と見なされる。「アニキ・ボボ」とは警官・泥棒 という遊びの名前。幼い恋の冒険を「罪悪」と「友愛」の寓意へ変貌 させる演出のスケール感はすでにして巨大。

春の劇
Acto de Primavera


1963 年/91 分/カラー/35 ミリ 監督・脚本・撮影:マノエル・ド・オリヴェイラ 出演:ニコラウ・ヌネス・ダ・シルヴァ、エルメリンダ・ピレシュ、マリア・マダレーナ
16 世紀に書かれたテキストに基づいて山村クラリェで上演されるキ リスト受難劇の記録。自ら「作品歴のターニングポイント」と述べる本 作でオリヴェイラが発見したのは、「上演の映画」という極めて豊か な鉱脈だった。一見して不自然な「虚構」のドキュメントだけが喚起 する謎と緊張。前人未踏の「映画を超えた映画」の始まり。



過去と現在 昔の恋、今の恋
O Passado e o Presente


1972 年/115 分/カラー/35 ミリ 監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:アカシオ・ド・アルメイダ 出演:マリア・ド・サイセット、マヌエラ・ド・フレイタス、ペドロ・ピニェイロ
長篇劇映画第三作。ヴィンセンテ・サンチェスの戯曲「過去と現在」 を、監督が自ら映画用に翻案。『フランシスカ』に至る「挫折した愛 の四部作」の第一部にあたる。現在の夫に心を開かず、事故死し た最初の夫への想いを募らせる妻ヴァンダを中心に、過去と現在、 死者と生者の間を交差する奇妙な愛が描かれる。

カニバイシュ
Os Canibais

1988 年/91 分/カラー/35 ミリ 監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:マリオ・バローゾ 出演:ルイス・ミゲル・シントラ、レオノール・シルヴェイラ、ディオゴ・ド ーリア
『過去と現在』から音楽を担当してきたジョアン・パエスとともに作ら れたオペラ・ブッファ映画。厳かに進行する貴族たちの晩餐会は、 やがて、タイトルが予告する驚愕の食人場面へ。人間と動物、人 間と機械、見せかけと本質...ヴァイオリンの調べに乗ってあらゆる 境界が軽々と侵される。

ノン、あるいは支配の空しい栄光
Non, ou a Vã Gloria de Mandar


1990 年/110 分/カラー/35 ミリ 監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:エルソ・ロケ 出演:ルイス・ミゲル・シントラ、ディオゴ・ドーリア、ミゲル・ギリェルメ
1974 年、独立戦争が長期化していたアフリカのポルトガル植民地 で、疲弊した兵士たちは戦争の意味と自国の歴史を振り返る。カモ ンイスの叙事詩「ウズ・ルジアダス」、アントニオ・ヴェイラ神父、フェ ルナンド・ペソア、ジョゼ・レジオなどの文学作品に想を得て、ロー マ時代から 20 世紀まで、ポルトガル民族の 2000 年にわたる歴史 の中の四つの敗北の物語を描く、オリヴェイラによる壮大な歴史・ 戦争映画。

神曲
A Divina Comédia

1991 年/141 分/カラー/35 ミリ 監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:イワン・コゼルカ 出演:マリア・ド・メデイロス、ミゲル・ギリェルメ、ルイス・ミゲル・シントラ
「精神を病める人々」の表札が掲げられた邸宅で、アダムとイブ、キ リスト、ラスコリーニコフ、ニーチェのアンチ・キリストら、歴史的文学 作品の登場人物たちが、信仰と理性と愛についての議論を戦わせ る。西洋古典の深奥に分け入りながらも「まったく未知なものとして、 絶対的な驚き」とともに再び映像として蘇らせるオリヴェイラ芸術の 真骨頂。



アブラハム渓谷
Vale Abraão

画像: アブラハム渓谷

アブラハム渓谷

1993 年/188 分/カラー/35 ミリ 監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ 原作:アグスティナ・ベッサ=ルイス
撮影:マリオ・バローゾ 出演:レオノール・シルヴェイラ、セシル・サンス・ド・アルバ、 ルイス・ミゲル・シントラ
フロベール「ボヴァリー夫人」をもとにポルトガル文学の 巨匠アグスティナ・ベッサ=ルイスが原作を執筆。彫琢 された言葉の響きとオリヴェイラの完璧な映像が火花を 散らす“文芸映画”の最高峰。監督が追求し続ける女性 美が、主人公エマを演じるレオノール・シルヴェイラと洗 濯女を演じるイザベル・ルトの両極に具現する。 フィルム提供:東京国立近代美術館フィルムセンター

階段通りの人々
A Caixa

1994 年/96 分/カラー/35 ミリ 監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:マリオ・バローゾ 出演:ルイス・ミゲル・シントラ、ベアトリス・バタルダ、フィリペ・コショフ ェル
リスボンの街路を舞台にした群像劇。「すべての私の映画同様、 『階段通りの人々』は人生から沸きだした特別な何かだ。それ は貧しくて周縁にいる、ほとんど忘れられた人々の目を通した 真の人間性のポートレイトだ。これは、1920 年代の映画、初期
映画への回帰を示す映画なのだ」。 フィルム提供:東京国立近代美術館フィルムセンター

■開催期間:
Part1 :2016年1月23日[土]~2月5日[金]
■会場:ユーロスペース  (渋谷区円山町1-5-3F)

■主催:一般社団法人コミュニティシネマセンター/ユーロスペース
■共催:ポルトガル大使館 
■特別協力:東京国立近代美術館フィルムセンター/アテネ・フランセ文化センター/岩波ホール/川崎市市民ミュージアム
■協力:日本ポルトガル協会/クレストインターナショナル

Facebook:https://www.facebook.com/jc3oliveira/
Twitter:@EiennoOliveira

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