画像: -写真左-「晩秋」片多徳郎 油彩画 1917年 -写真右-「秋霽」児島善三郎 油彩画 1951年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

-写真左-「晩秋」片多徳郎 油彩画 1917年
-写真右-「秋霽」児島善三郎 油彩画 1951年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

画像1: 展示風景 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

展示風景 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

知恵の樹、生命の樹

 古くから樹木には神や精霊が宿るといわれています。
日本の神道では神籬(ひもろぎ)があり、神社や神棚以外の場所において祭事を行う際に、神を迎えるための依り代(よりしろ)、神が宿るものとして常緑樹を用いました。
神籬は、地鎮祭でまだみることができます。
 菩提樹の下では、仏教の開祖である釈迦が悟りを開きましたが、菩提樹は仏陀の木という意味です。
また、古代ギリシャの哲学者であるプラトンは、「人間は逆立ちした樹木である」と言葉を残しています。
 旧約聖書の創世記に、アダムとイブが追放されたエデンの園に、知恵の樹、生命の樹の2本の木があり、それぞれの実を食べると、神に等しい存在になるとされています。
アダムとイブは知恵の実を食べて、善悪を知るようになり、エデンの園を追放され、永遠の生命を失ったという説話があります。
 古来より樹木は、神話、宗教のシンボルといった人間の内的生命と、自然や宇宙そのものを意味するものとして扱われてきました。

画像: 「木版画集『タヒチ』」香月泰男 木版 1973年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「木版画集『タヒチ』」香月泰男 木版 1973年 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

美術館建築と北九州

 1959年(昭和33年)に旧八幡市(現在北九州市八幡東区)に、戦後モダニズム建築の旗手である村野藤吾の設計により、北九州初の美術館である八幡美術工芸館が、八幡市民会館とともに開館しています。
北九州市は、1963年(昭和38年)門司市、小倉市、戸畑市、八幡市、若松市の旧五市が対等合併してできた世界的にも珍しい政令指定都市です。
続いて1974年(昭和49年)に、現在の北九州市立美術館本館が、磯崎新の設計により開館しました。
 市民活動が盛んな地に誕生した北九州市立美術館は、日本で最初の美術ボランティア制度を導入した美術館として、広く知られています。
また北九州市立美術館は、西日本でも本格的な公立美術館として、数多くのモダンアートのコレクションや、特に現代美術のなかでも1960年代のアメリカを代表するミニマルアートのアーティストの展覧会をいちはやく紹介してきました。
 2003年(平成15年)には、小倉北区の小倉城横に、アメリカの商業建築で知られるジョン ジャーディ設計による、複合商業施設「リバーウォーク」が完成します。
「リバーウォーク」内には、北九州市立美術館分館が同時に開館し、本館と同様に多くの展覧会を開催してきています。

画像: 「樹木」寺田政明 コンテ、墨、紙 制作年不詳 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「樹木」寺田政明 コンテ、墨、紙 制作年不詳 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

樹木と暮らす、樹木を描く

 よくいわれることですが、樹木は森の滋養となります。
森の滋養によって、海は育まれ、多くの生命を育んできました。
これは荒廃した海を再生する際に、森を再生すると、海が元通りに戻ることでわかります。
 日本では、広葉樹の栗林は、日本書紀に「くるす」という表現で記されています。
平安時代には「栗栖」と表記され、天皇直轄の「栗栖」が多く存在し、古くから建築資材、食料として栽培してきたことが考えられます。
 生活の営みのなかに樹木が中心にあり、そして現在にいたるまで、多くの画家たちが、精神としての自然、四季を映し出すものとして、樹木を描いています。
 中国の宋の時代には、「澗底(かんてい)の松」、つまり谷底に育った松は才能があっても報われない象徴として、大きな松が描かれたりしました。
樹木そのものの表現のひとつとして、生命力の強さと、比喩として精神の気高さを表しているといえます。

画像2: 展示風景 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

展示風景 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「樹のいのち、画家のまなざし」

 北九州市立美術館分館で開催している「樹のいのち、画家のまなざし」展は、日本画、江戸時代の浮世絵、近代絵画、彫刻、現代美術にいたるまで、北九州市立美術館のコレクション作品で構成されています。
 北九州出身の寺田政明をはじめとして、シベリア抑留の体験を元にした「シベリア・シリーズ」で知られる香月泰男、福岡出身の児島善三郎、銅版画家の駒井哲郎、幼少期を北九州で過ごした田淵安一、日本画の東山魁夷、ヤセ犬シリーズの藤浩、九州派の宮崎準之助、浮世絵の歌川広重、エコール・ド・パリの風景画のモーリス ユトリロ、シュルレアリスムのマックス エルンストなど、幅広いコレクションのなかで、樹木をテーマにした表現の作品が一堂に会しています。
 浮世絵においても、艶やかな女性とともに、樹木が美しく描かれています。
美の表現のなかで、当然花の美しさもありますが、樹木の枝の美しさは、人間の手によらない自然の美しさそのものを感じ取ることが出来ます。
 生命の樹は、樹木が空に広がることから、人間の霊的進化から神の叡智へと到達することを表しているといいます。
生命とは何か、自然とそこから繋がる宇宙とは何かを考えさせる美しい展覧会です。

画像: -特別展示風景- 東山魁夷 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

-特別展示風景- 東山魁夷 - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

東山魁夷と石塚千晃

 今回の展示の中で、特別展示として昭和を代表する日本画家の東山魁夷、ゲスト展示として石塚千晃「human/nature -自然と人工のあいだ」展が開催されました。
 東山魁夷の樹霊の言葉とともに、1983年制作の絵画作品「樹齢」と、当時のNHKの美術番組で紹介された東山へのインタビュー映像も上映しています。
石塚千晃は、多摩美術大学卒業後、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)で学んだ現代美術の若手アーティストですが、2013年より、早稲田大学生命美学プラットフォーム(metaPhorest)との協働で制作をしています。
 石塚千晃の作品を通して、現代の科学と自然、生命の関係性を垣間見ることができます。
どこまでが自然で、どこから先が科学なのか、科学の持つテクノロジーと、人間と自然の関係性を問う作品です。
 以前から、北九州市立美術館分館ならではの企画として、コレクション作品1点の展示と、その作品にまつわる演劇を劇作家の泊篤志(とまりあつし)氏に依頼して創作するなど、ユニークな活動を続けています。
今回の企画に合わせた特別展示は2つとも印象深く、アートの持つ表現の広がりを感じさせる内容です。

画像: -「human/nature -自然と人工のあいだ」石塚千晃 展示風景-  - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

-「human/nature -自然と人工のあいだ」石塚千晃 展示風景-  - photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

樹のいのち、画家のまなざし 概要
会  期:2015年11月14日 ~ 12月13日
休館日:なし
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで )
入館料:当日券:一般 ¥600 大学・高校生 ¥400 中学・小学生 ¥200
    団体券:一般 ¥500 大学・高校生 ¥300 中学・小学生 ¥100
会  場:北九州市立美術館 分館
     北九州市小倉北区室町1-1-1 リバーウォーク北九州5階
     phone 093-562-3215
     fax 093-562-3306
出品アーティスト:マックス エルンスト、ジョルジュ ルオー、モーリス ユトリロ、青柳喜兵衛、歌川広重、香月泰男、児島善三郎、駒井哲郎、田淵安一、月岡芳年、寺田政明、東山魁夷、藤浩志ほか
特別展示:東山魁夷
ゲスト展示:石塚千晃
公式サイト:http://www.kmma.jp/bunkan/exhibition/2015_kinoinochi.html
主  催:樹のいのち展実行委員会(北九州市立美術館、読売新聞社)
後  援:NHK北九州放送局 九州旅客鉄道株式会社 西日本鉄道株式会社 北九州モノレール 筑豊電気鉄道株式会社 株式会社スターフライヤー 北九州市 北九州市教育委員会
協  賛:リバーウォーク北九州

森秀信 プロフィール

1966年長崎市生まれ。
武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻修了後、現代美術センターCCA北九州リサーチプログラム修了。
主に現代美術の創作活動の他、展覧会のキュレーションやワークショップの企画を担当。専門は現代美術。

This article is a sponsored article by
''.