「サイの季節」「バケモノの子」「at Home/アットホーム」「ロマンス」「あの日のように抱きしめて」「バトルヒート」

実話を元にした「サイの季節」


「サイの季節」はバフマン・ゴバディ監督のイラク・トルコ合作映画。
デビュー作「酔っ払った馬の時間」(00)で、カンヌ国際映画祭カメラ・ドールを受賞。「亀も空を飛ぶ」(04)などで高い評価を受けたゴバディ監督はイランのクルド人だ。

「ペルシャ猫を誰も知らない」(09)をイラン政府の許可なく撮影したため亡命を余儀なくされ、トルコのイスタンブールに住んでいる。

「サイの季節」とはアフリカの映画だと思ったが、そうではなかった。
イランの詩人サヘルが、運転手の差し金でイラン革命のさなかに逮捕され、30年の刑を受ける。
夫人のミナも逮捕される。夫人に横恋慕した運転手は、獄中で夫人を犯し、双子が生まれる。サヘルは獄中で死んだとされるが、本当は生きていて30年後に釈放された。

『サイの季節』予告編

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この話は実話に基づいているが、ディテールは変えられている。
それにゴバディ監督の独自の映像世界に彩られているので、どこまでが現実で、どこまでが幻想なのかわからない。
たとえば詩人がサイの群れに車で突入し、サイを轢くシーンがあるが、これは明らかに幻影だろう。

全編が詩で綴られる中で、刑務所での拷問だけが生々しい。何よりも映像の大胆さには瞠目させられる。
サヘルを演じたベヘルーズ・ヴォスギーが貫録を示し、ミナのモニカ・ベルッチの体当たり演技が実にすばらしい。彼女はイタリア女優として有名だが、ペルシャ語も堪能なのに驚かされた。
ゴバディ監督については、イランの映画監督が政治的圧力で苦しんでいる現状があるだけに、どうなるのか心配している。
マーティン・スコセッシ監督がこの映画を応援しているが、どうか世界の映画関係者は、ゴバディ監督を支援してほしい。

エスパース・サロウ配給。7月11日シネマート新宿。

細田守監督のアニメーション「バケモノの子」


細田守監督のアニメーション「バケモノの子」は、試写室の混雑が予想されるので、早めに東宝で見た。それほど混んでいなかったので、よかった。

スタジオ・ジブリと並んで細田監督のアニメーションは、世界的に高く評価されている。
ちなみに毎日映画コンクールでいうと、細田アニメは「時をかける少女」(06)「サマーウォーズ」(09)「おおかみこどもの雨と雪」(12)で、3回連続してアニメーション賞を受賞した。

「バケモノの子」は、渋谷という現実の街と、それに重なり合うようなバケモノの街「渋天街」が舞台になる。母親が事故で死に、独りぼっちになった少年(声・宮崎あおい)は乱暴者の熊のようなバケモノの熊徹(役所広司)に渋谷で出会い、後をつけるうちにバケモノの世界に入り込む。
熊徹は少年に九太という名をつけ、熊徹の弟子にする。九太はことごとに熊徹といがみ合いながら修行に励み成長する。
青年になった九太(染谷将太)は現実の渋谷に舞い戻り、高校生の楓(広瀬すず)と出会う。

「渋谷」と「渋天街」のギャップが、絵的にとても魅力がある。丁寧にリサーチされたデータが活用されている感じだ。
「渋天街」では熊徹は剣豪だが、自己流で鍛えた体術を武器にしている。もう一人の剣豪・猪王山(山路和弘)は熊徹のライバルだ。この二人の戦いはアニメワールドの華だ。
九太の修行は剣豪小説を思わせ、精神面の師・百秋坊(リリー・フランキー)が出てくるところも「宮本武蔵」なみだ。この修行シーンは、成長物語であると同時に来るべき決戦の準備段階として伏線となる。

細田監督の作品は、現実と想像世界のまじりあった不思議な感覚に貫かれている。ほかにも津川雅彦、大泉洋、黒木華、麻生久美子らが声の出演をしている。これだけ大物俳優をそろえたアニメーションは珍しい。それだけ期待が大きいということだろう。感想は「見ごたえ十分」だ。
東宝配給。7月11日。

「at Home/アットホーム」は蝶野博監督の日本映画。本多孝好の原作


「at Home/アットホーム」は蝶野博監督の日本映画。本多孝好の原作。その一家はどこにでもある普通の家族のようだった。
しかし実際は、泥棒の和彦(竹野内豊)がかき集めた偽装家族だった。
母親(松雪泰子)は結婚詐欺師。長男(坂口健太郎)は偽造印刷職人、長女(黒島結菜)とまだ幼い次男(池田優斗)も訳ありだ。

しかし母親が詐欺しようとした相手がワルで、家族は危機に陥る。
宮部みゆきの「理由」のような偽家族ではなく、本当の家族に捨てられた孤独な魂が寄り添って生きるようなぬくもりがある。
家族とはいったい何なのだろうと考えさせられる。ただし、表現が浅い気がしてならない。

ファントムフィルムなど配給。8月22日有楽町スバル座。

「ロマンス」はタナダユキ監督が大島優子を主演に起用したロマンスカー観光ガイドのような映画


「ロマンス」はタナダユキ監督が大島優子を主演に起用した、ロマンスカー観光ガイドのような映画。北条鉢子(大島優子)はロマンスカーで車内販売をするアテンダント(というらしい)。

ある日、ワゴンから品物を万引きしょうとした中年男を捕まえる。その男は映画プロデューサーの桜庭(大倉孝二)といい、無事放免された。だが、偶然鉢子が破り捨てた母親からの手紙を読んでしまう。そのうえ、『お母さんが自殺しようとしている』と言いだし、戸惑う鉢子を連れてレンタカーで箱根中を走り回る。

なんだかえらくスケールの小さい話で、コメディ―調といってもあまり笑えない。
大島優子はだいぶ女優らしくはなってきたが。

東京テアトル配給。8月29日新宿武蔵野館。

「あの日のように抱きしめて」は クリスティアン・ペッツォルト監督のドイツ映画


「あの日のように抱きしめて」は クリスティアン・ペッツォルト監督のドイツ映画。この監督は「東ベルリンから来た女」(2012)がベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞して話題になった。
今回は「東ベルリンから来た女」の主演女優ニーナ・ホスと、同僚の医師を演じたロナルト・ツァフェルトを再度起用した。

ネリー(ニーナ・ホス)は強制収容所で顔を銃で殴られ、重傷を負いながら親友のレネ(ニーナ・クンツェンドルフ)に援けられてドイツに戻る。
ユダヤ人のネリーはレネとイスラエルにわたるつもりだった。
顔の修復手術を受けたネリーは、ピアニストだった夫のジョニー(ロナルト・ツァフェルト)を探し出す。ジョニーはネリーが分からず、ネリーの偽物になってくれればネリーの財産が手に入ると持ち掛ける。

いくら顔が変わったといっても、女房のことぐらいはわかるだろうと思うが、ジョニーはまったくわからないようだ。ネリーは芝居をすることにした。

終戦直後のベルリンの雰囲気が伝わり、細かいところまで気を遣って撮影しているのがうかがえる。パリで買った赤い服としゃれた靴を履くネリーの姿に、戦争で多くを失った空虚な心が垣間見られる。
「スピーク・ロウ」というジャズの名曲が大きな役割を果たす。
なんだかとても切ない余韻が残る。

アルバトロスフィルム配給。8月Bunkamura ル・シネマ。

「バトルヒート」はアメリカ・タイ合作映画


「バトルヒート」はアメリカ・タイ合作映画。人身売買事件でマフィアを追うアメリカ人刑事ニック(ドルフ・ラングレン)はマフィアのボス、ドラギオビッチ(ロン・パールマン)の恨みを買い、家族を殺される。
一方でタイの刑事トニー(トニー・ジャー)も少女の人身売買を追ってバンコックを走り回る。

「エクスペンダダブルズ」などのドルフ・ラングレンと、「マッハ!!」シリーズのトニー・ジャーが秘術を尽くして戦うファイトが見ものの、アクション映画。
同じようなシーンが多くて、いささかげんなりするが、アクション好きにはこたえられない。

ブロードメディア・スタジオ配給。7月25日丸の内TOEI。

コラム~野島孝一の試写室ぶうらぶら~シネフィル篇
野島孝一さんてこんなひと
■略歴
1941年、新潟県柏崎市の自宅で誕生。
1964年、上智大学文学部新聞科卒業。
そして、あの、毎日新聞社に入社。
岡山、京都支局を経て東京本社社会部、学芸部へ。
なんと、映画記者歴約25年!
2001年、毎日新聞定年退職。
その後、フリーの映画ジャーナリストになって大活躍。
■現在
日本映画ペンクラブ幹事
毎日映画コンクール選定委員、毎日映画コンクール諮問委員
アカデミー賞日本代表作品選考委員
日本映画批評家大賞選定委員
■著書
日本図書館協会選定図書
映画の現場に逢いたくて
ザ・セックスセラピスト THE SEX THERAPIST
野島 孝一 著

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