2015年9月18日(金)よりニキ・ド・サンファル展が、国立新美術館 企画展示室1Eにて開催されています(12月14日(月)まで)。


ニキ・ド・サンファル(本名カトリーヌ・マリー=アニエス・ファル・ド・サンファル、1930-2002)は、戦後を代表する美術家のひとりです。
フランスに生を受けたニキは、少女時代を過ごしたアメリカや母国フランスの抽象絵画に影響を受けるなど独自のスタイルを作り上げていきました。

そして、1961年に発表した「射撃絵画」で一躍その名が知られることになります。絵具を入れた缶や袋を石膏によって画面に付着した絵画に向けて銃を放つことで完成する「射撃絵画」は、絵画と彫刻の両方の要素を兼ね備え、また制作行為そのものがパフォーマンス・アートの先駆例として美術史上高く評価されています。

その後ニキは女性の表象への関心を強め、「ナナ」シリーズでは鮮やかな色彩と伸びやかな形態を用いて解放的な女性像を示し、今日まで多くの人々に愛されています。
このほかにもニキは舞台や映画の制作を手がけ、また、「タロット・ガーデン」と称する彫刻庭園に代表されるように建築デザインにも積極的に取り組み、美術家として様々な活動を展開しました。
そして1980年代からは、栃木県那須高原に建てられたニキ美術館創立者の故Yoko増田静江氏と交流を持ち、日本とも特別な関係を築いていきました。

2014年秋にパリのグラン・パレで開かれた大規模な回顧展は、2015年春にスペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館に巡回し、再評価の機運が高まっています。
ニキの生誕85年目に開催される本展では、初期から晩年の創作活動を辿りながら、日本との関わりにも光を当て、その豊かな芸術世界をご紹介します。

画像: 自画像 1958-59年 塗料、様々なオブジェ(小石、コーヒー豆、陶片 など)/板 141 × 141 × 10 cm ニキ芸術財団、サンティー

自画像
1958-59年 塗料、様々なオブジェ(小石、コーヒー豆、陶片 など)/板 141 × 141 × 10 cm ニキ芸術財団、サンティー

画像: 左:死の風景 II 1960年 塗料、石膏、様々なオブジェ(カミソリ、金属の 輪など)/合板 62 × 51 × 2.5 cm ニース近現代美術館 右:無題 1959年 塗料、石膏、様々なオブジェ/合板 36.5 × 50.5 × 5.2 cm 個人蔵(協力:ジョルジュ=フィリップ&ナタリー・ ヴァロワ・ギャラリー、パリ) photo©cinefil

左:死の風景 II
1960年 塗料、石膏、様々なオブジェ(カミソリ、金属の 輪など)/合板 62 × 51 × 2.5 cm ニース近現代美術館
右:無題
1959年 塗料、石膏、様々なオブジェ/合板 36.5 × 50.5 × 5.2 cm 個人蔵(協力:ジョルジュ=フィリップ&ナタリー・ ヴァロワ・ギャラリー、パリ)
photo©cinefil

ニキは「射撃絵画」の制作において、美術における規範や自らを束縛してきた伝統的なカトリック文化、さらに戦争における暴力といったものへの批判的な眼差しを投影しました。
そして、次第に自らが「女」であるということへの問いを制作の中心に据え、魔女、娼婦、聖母、花嫁、母親といった様々な女性の姿を主題とした、作品を作るようになります。

画像: 左:花嫁 1964年 塗 料 、様 々 な オ ブ ジ ェ( 布 、造 花 、麻 、金 網 な ど ) /板 180×110×35cm 個 人 蔵 、パ リ 右:白の出産、あるいはゲア 1964年 塗料、玩具、様々なオブジェ、金網/板 180×110×40cm 個人蔵 photo©cinefil

左:花嫁
1964年 塗 料 、様 々 な オ ブ ジ ェ( 布 、造 花 、麻 、金 網 な ど ) /板 180×110×35cm 個 人 蔵 、パ リ
右:白の出産、あるいはゲア
1964年 塗料、玩具、様々なオブジェ、金網/板 180×110×40cm 個人蔵
photo©cinefil

 1960年代前半に制作された女性像では四肢が欠けていたり、顔に傷を負っていたりと作品には明らかに暴力的な痕跡が見られましたが、1964年頃からニキの女性像に変化が現れるようになりました。友人のクラリス・リヴァースが妊娠した姿から想を得て制作された女性像は、「ナナ」と名づけたシリーズへと発展しました。

ナナの身体は鮮やかな色彩で彩られ、丸みを帯び、踊ったり、手を大きく広げたり、あるいは逆立ちしたりと時にアクロバティックな動きを見せ、伝統的な西洋美術における女性像とは対極をなす解放的なエネルギーに満ち溢れていました。

こうした「ナナ」はニキにとって自由を象徴する女性像でしたが、一方で、女性が抱える苦しみや欲望もニキの創作活動において大きなテーマであり続けました。
ニキは自らの人生を内省し、家族への複雑な思いから作品を生み出していきます。新しい女性像を創り上げながら、自らの生/性を見つめ、様々な形で表現していったニキは、女性アーティストとして独自の地位を築いたのです。

画像: 左から: ベネディクト 1965年 毛糸、布、パピエ・コレ、金網 80 × 104 × 87 cm 個人蔵 リリ、あるいはトニー 1965年 塗料、布、パピエ・コレ、ポリエステル樹脂、金網 206 × 130 × 130 cm 協力:ジョルジュ=フィリップ&ナタリー・ヴァロワ・ ギャラリー、パリ グウィン 1965-66年 毛糸、布、金網 75 × 92 × 75 cm Yoko増田静江コレクション ナ ナ( 小 さ な グ ウ ェ ン ド リ ン I ) 1965年冬 毛糸、布、パピエ・コレ、アクリル絵具、 ジャン・ティンゲリーの鉄の土台 77 × 45 × 45 cm Yoko増田静江コレクション photo©cinefil

左から:
ベネディクト
1965年 毛糸、布、パピエ・コレ、金網 80 × 104 × 87 cm 個人蔵
リリ、あるいはトニー 1965年
塗料、布、パピエ・コレ、ポリエステル樹脂、金網 206 × 130 × 130 cm 協力:ジョルジュ=フィリップ&ナタリー・ヴァロワ・ ギャラリー、パリ
グウィン
1965-66年 毛糸、布、金網 75 × 92 × 75 cm Yoko増田静江コレクション
ナ ナ( 小 さ な グ ウ ェ ン ド リ ン I ) 1965年冬 毛糸、布、パピエ・コレ、アクリル絵具、 ジャン・ティンゲリーの鉄の土台 77 × 45 × 45 cm Yoko増田静江コレクション
photo©cinefil

画像: 中央:グウェンドリン 1990(1966)年 ポリウレタン塗料、ポリエステル、鉄の土台 252 × 125 × 200 cm Yoko増田静江コレクション 右:マダム(黒いバッグと緑のドレスで着飾った ナナ) 1968年 塗料、ポリエステル 250 × 160 × 50 cm ニキ芸術財団、サンティー(協力:ジョルジュ= フィリップ&ナタリー・ヴァロワ・ギャラリー、パリ) photo©cinefil

中央:グウェンドリン
1990(1966)年 ポリウレタン塗料、ポリエステル、鉄の土台 252 × 125 × 200 cm Yoko増田静江コレクション
右:マダム(黒いバッグと緑のドレスで着飾った ナナ)
1968年 塗料、ポリエステル 250 × 160 × 50 cm ニキ芸術財団、サンティー(協力:ジョルジュ= フィリップ&ナタリー・ヴァロワ・ギャラリー、パリ)
photo©cinefil

画像: 左:《ナナ、ミッレ・フィオーリ》、「ナナ・パワー」よ り 1970年 シルクスクリーン/アルシュのヴェラム紙 76 × 56 cm Ed. 54/115 Yoko増田静江コレクション 右:「ナナたち」展ポスター(アレクサンドル・ イオラス・ギャラリー、パリ) 1965年 リトグラフ/紙 76.5 × 51.8 cm Yoko増田静江コレクション photo©cinefil

左:《ナナ、ミッレ・フィオーリ》、「ナナ・パワー」よ り
1970年 シルクスクリーン/アルシュのヴェラム紙 76 × 56 cm Ed. 54/115 Yoko増田静江コレクション
右:「ナナたち」展ポスター(アレクサンドル・ イオラス・ギャラリー、パリ)
1965年 リトグラフ/紙 76.5 × 51.8 cm Yoko増田静江コレクション
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画像: 手前から:泉のナナ 1971/1992年 ラッカー塗料、ポリエステル、鉄の土台 100 × 147 × 56 cm Yoko増田静江コレクション ビッグヘッド 1970年 ラッカー塗料、ポリエステル 245 × 223 × 100 cm Yoko増田静江コレクション photo©cinefil

手前から:泉のナナ
1971/1992年 ラッカー塗料、ポリエステル、鉄の土台 100 × 147 × 56 cm Yoko増田静江コレクション
ビッグヘッド
1970年 ラッカー塗料、ポリエステル 245 × 223 × 100 cm Yoko増田静江コレクション
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1980年の夏、ひとりの日本人女性がニキの作品と出会いました。
彼女の名前は増田静江。東京のとある画廊で偶然ニキの版画作品《恋人へのラブレター》(1968年)を目にした増田は、ニキの作品に魅了され、これ以降ニキの作品を積極的に収集するようになりました。
そして、その運命的な出会いからわずか4か月後には、自社ビルの中に「スペースニキ」と名付けたギャラリーを開廊します。


スペースニキのオープンの翌年、増田はニキと初めて顔を合わせることになります。ふたりは少しずつ打ち解け、作品に関することのみならず、プライベートなことを互いに報告し合い、女性の問題についても語り合うようになります。
そして、本名の「静江(Shizue)」がフランス語では発音しにくいと思った増田は、自らを「ヨーコ(Yoko)」と名付けます。ニキとヨーコは、美術家とコレクターの関係を超えた、ともに同じ時代を生きた女性として、20年以上にわたって特別なつながりを作り上げていったのです。

ヨーコは、スペースニキや他の展示スペースで、ニキの個展を開催する活動を続けながらコレクションを充実させ、1994年に栃木県那須高原に、世界で唯一のニキ美術館を創立します(2011年に閉館)。
また、ニキに関する資料の収集にも励み、数多くのテキストを発表し、ニキのカタログ・レゾネの執筆者としても名を連ねることになります。

こうしたヨーコの活動によって、1980年代以降ニキの作品は日本で再評価を受けることになりました。
美術館の開館から4年後、ニキは初めて日本を訪れました。
そして、ニキ美術館を訪れる前にヨーコと共に京都に足を運びました。この時の経験はニキに新たな作品のインスピレーションを与え、晩年の大作《ブッダ》(1999年)に結実します。
ヨーコと重ねていった濃密な時間は、日本との特別な関係の痕跡として、ニキの人生に刻まれることになったのです。

画像: ニキ美術館のための模型 1989年 ビ ニ ー ル 塗 料 、金 箔 、鏡 、ポ リ エ ス テ ル 40 × 93 × 80 cm Yoko増田静江コレクション photo©cinefil

ニキ美術館のための模型
1989年 ビ ニ ー ル 塗 料 、金 箔 、鏡 、ポ リ エ ス テ ル 40 × 93 × 80 cm Yoko増田静江コレクション
photo©cinefil

画像: 左:ギルガメシュ 1991年 ポリウレタン塗料、金箔、銀箔、電球、ポリエス テル、鉄の土台 240 × 155 × 57 cm Ed.1/7 Yoko増田静江コレクション 右:ブッダ 1999年 天然石、色ガラス、セラミック、FRP、鋼 317.5 × 218.4 × 172.7 cm Yoko増田静江コレクション photo©cinefil

左:ギルガメシュ
1991年 ポリウレタン塗料、金箔、銀箔、電球、ポリエス テル、鉄の土台 240 × 155 × 57 cm Ed.1/7 Yoko増田静江コレクション
右:ブッダ
1999年 天然石、色ガラス、セラミック、FRP、鋼 317.5 × 218.4 × 172.7 cm Yoko増田静江コレクション
photo©cinefil

1955年に、ニキはスペインを旅行した際にガウディの建築を目にし、とりわけグエル公園には強く惹かれるものを感じました。
また、同時期に南仏の小村で目にした、郵便配達夫のシュヴァルが手掛けた理想宮も、ニキに強烈な印象を残しました。
こうした体験から、当初、ニキは神話をテーマとした公園を計画していましたが、以前から関心を抱いていたタロット・カードに主題を求めた庭園へと関心が移り、プロジェクトを進めるようになります。

「タロット・ガーデン」と名付けられた彫刻庭園のヴィジョンを作り上げる際、ニキは、イタリアのボマルツォに作られた怪物公園や、フィレンツエ近郊のプラトリーノ公園といった、ルネサンス期の彫刻公園から影響を受け、22枚のタロット・カードのモティーフそれぞれに、独自の解釈を与えた幻想的な世界を作り上げることになったのです。

タロット・ガーデンの建設は1979年に開始されました。
ニキは、主にトスカーナの職人やティンゲリー、リコ・ヴェーバー、ゼップ・イーモフといったスイス人の芸術家などによって構成される、国際色豊かなチームの協力を得ながら、夢の公園を形にしていきました。

家具や花瓶、また、香水瓶のデザインにも積極的に取り組み、自ら建設資金をまかなうことで、誰にも支配されない、理想の世界を作り上げたのです。

タロット・ガーデンは、着工から約20年の月日が経った1998年に、一般に公開されることになりました。ニキはその後もこの夢の公園に手を加え、亡くなるまで情熱を傾けたのでした。

現在、タロット・ガーデンは、4月から10月の限られた期間のみ一般に公開され、各彫刻に張り巡らされたタイルとガラスは、地中海の美しい光を反射して訪れる人々を魅了しています。

画像: 大きな蛇の樹 1988年 鏡 、ウ レ タ ン 塗 料 、金 箔 、F R P 、セ メ ン ト 260 × 315 × 200 cm Yoko増田静江コレクション photo©cinefil

大きな蛇の樹
1988年 鏡 、ウ レ タ ン 塗 料 、金 箔 、F R P 、セ メ ン ト 260 × 315 × 200 cm Yoko増田静江コレクション
photo©cinefil

展覧会概要

展覧会名:ニキ・ド・サンファル展
会期:2015年9月18日(金) ─ 12月14日(月)
休館日:毎週火曜日  ただし11月3日(火)は開館、11月4日(水)は休館
開館時間:午前10時~午後6時  金曜日は午後8時まで  ※入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室1E  〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2 http://www.nact.jp/
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

主催:国立新美術館、フランス国立美術館連合グラン・パレ(Rmn-GP)、ニキ芸術財団、NHK、NHKプロモーション

後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本

協賛:日本写真印刷

特別協力:Yoko増田静江コレクション

協力:エールフランス航空/KLMオランダ航空

公式サイト:http://www.niki2015.jp/

オンラインチケット:http://www.e-tix.jp/niki2015/


観覧料(税込)
当日
1,600円(一般) 1,200円(大学生) 800円(高校生)
前売/団体
1,400円(一般) 1,000円(大学生) 600円(高校生)
中学生以下および障害者手帳をご持参の方(付添の方1名を含む)は入場無料
10月10日(土)~12日(月・祝)は高校生無料観覧日(学生証の提示が必要)


チケット取扱い:国立新美術館、展覧会ホームページほか、主要プレイガイド(手数料がかかる場合があります)
チケットの詳しい情報は、展覧会ホームページのチケット情報をご覧ください。
団体券は国立新美術館でのみ販売(団体料金の適用は20名以上)
会期中に当館で開催中の他の企画展、および公募展、またサントリー美術館、森美術館(あとろ割対象)で開催中の展覧会チケット(半券可)を提示された方は、本展覧会チケットを100円割引でご購入いただけます。
その他の割引などお得な情報は、展覧会の公式ウェブサイトをご覧ください。
http://www.niki2015.jp/


お問合せ ハローダイヤル 03-5777-8600

ニキ・ド・サンファル展 cinefilチケットプレゼント!

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、「ニキ・ド・サンファル展」チケットプレゼント係宛てに、メイルでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご当選者様名記名式の、招待券をお送りいたします。
また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。


ご当選者様名記名式の、招待券は、転売不可・非売品と書かれた無料観覧券です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いしております。

☆応募先メイルアドレス  info@miramiru.tokyo
応募締め切りは2015年11月10日 火曜日

記載内容
☆1、氏名 
☆2、年齢
☆3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
   ご注意!建物名がないものは、誤配や返送されることが多いため、ご記入がない場合は
       発送を控えさせていただきます。
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9、シネフィルへのご意見、ご感想、などのご要望も、お寄せ下さい。

また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。

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