ブラジルを代表する建築家、オスカー・ニーマイヤー(1907−2012)の日本に於ける初の大回顧展「オスカー・ニーマイヤー展 ブラジルの世界遺産をつくった男」が東京都現代美術館で開催されています(2015年10月12日まで)。
本展覧会は、ブラジル・カルチャー・フェスティバル2015-2016の一環であり、2015年は日伯外交樹立120周年の記念の年でもあります。

画像: 本展覧会のポスター。UFOのような建物はニテロイ現代美術館(C)cinefil art review

本展覧会のポスター。UFOのような建物はニテロイ現代美術館(C)cinefil art review

オスカー・ニーマイヤーは、1970年にアメリカ建築家教会ゴールドメダル、1988年には建築界のノーベル賞と言われているプリツカー賞、2004年には高松宮殿下記念世界文化賞を受賞するなど、104歳で亡くなるまで精力的に活動していました。1950年代に手がけた計画都市で、ブラジルの首都である「ブラジリア」は1987年に世界遺産に登録されています。

内覧会では、会場デザインを担当し、オスカー・ニーマイヤーに大きく影響され、彼を敬愛しているSANAAの西沢立衛氏が解説してくれました。

画像: 右がSANAAの西沢立衛氏、中央はチーフキュレーターの長谷川裕子氏(C)cinefil art review

右がSANAAの西沢立衛氏、中央はチーフキュレーターの長谷川裕子氏(C)cinefil art review

ニーマイヤーの建築は、官能的な曲線を使い、生命感あふれる空間づくりが特長です。また、環境と自然を強く意識しています。

通常の建築展だと、図面がかなり多く展示されるところですが、今回は模型での表現が中心です。なぜなら、ニーマイヤー作品はテクニカルなドローイングが、あまり残っていないからなのです。ブラジリア(ブラジルの首都)の図面は焼失しているとか。模型製作するにあたっても、実物の実測が必要な状態だったそうです。

この模型製作を見事に成し遂げたのが、SANAA出身の野口直人建築設計事務所です。出来上がった模型は、各々の建築の特長を捉えながら、ディテールをつくり込み、抽象化することころは抽象化して、ニーマイヤー建築の魅力を存分に伝えるものとなっています。

画像: プロローグの空間で出迎えてくれるオスカー・ニーマイヤー等身大の写真(C)cinefil art review

プロローグの空間で出迎えてくれるオスカー・ニーマイヤー等身大の写真(C)cinefil art review

会場構成は、さすがニーマイヤー・ファンを公言するSANAA担当ということで、スケールの大きい作品群の魅力を見事に伝える空間となっています。模型と、写真パネルと、それが置かれる部屋の大きさと、バランスを取りながら、心地よいリズムの導線ができています。

展示は、パンピューラ時代から順番に10作品で構成されています。ニーマイヤーは、住宅・家具・トンネル・大学・道…と、あらゆるものをデザインしています。会場構成を担当したSANAAの西澤氏は、「もっともニーマイヤーらしいと思う10作品を並べました。最後の部屋にあるドローイング(ニーマイヤー直筆)は今日、初めて見ましたが、描かれているものが展示している作品と偶然にもかぶっていて、嬉しいです。」と話していました。

画像: 手前の3つが「パンピューラ・コンプレックス」、奥はカノアスの邸宅(C)cinefil art review

手前の3つが「パンピューラ・コンプレックス」、奥はカノアスの邸宅(C)cinefil art review

ニーマイヤー建築の特長として、様々なアーティストと協働していることが挙げられます。パンピューラ・コンプレックスのサン・フランシスコ・デ・アシス教会では、パウロ・ヴェルネックが建物内外のモザイク壁画をデザインしました。モダニズムは乾式工法に向かっていたのに対して、湿式工法のタイルを使い、古い技法のモザイクを復活させようというユニークな試みでした。

画像: 奥が「サン・フランシスコ・デ・アシス教会」、手前は「ダンスホール」(C)cinefil art review

奥が「サン・フランシスコ・デ・アシス教会」、手前は「ダンスホール」(C)cinefil art review

さらに、ニーマーヤー作品の特徴としては「でかい!」ということが挙げられます。
上述した教会も、窓を大きく開けて風景を取り込み、敷地境界が関係ない感じです。そうそう、実際のところ、敷地もつくってしまっています。

西澤氏は、このパンピューラ時代の建築を見て思うこととして、「最初の時代の作品からして、ニーマイヤーは完成されている。」と話しています。確かに、すべての空間構成言語が、すでに、パンピューラ時代に見て取れます。こういう建築家は少ないと思います。

ヨットクラブは、RC造で構造を表現していますが、ここにもニーマイヤーらしい表現があります。

画像: 構造を表現している「ヨットクラブ」(C)cinefil art review

構造を表現している「ヨットクラブ」(C)cinefil art review

カノアスの邸宅(オスカー・ニーマイヤー自邸)は、人工地盤の上に建っていて、人工的です。でも周囲の自然と馴染んでいます。この建物は鉄骨の柱が目に付きますが、実は、ニーマイヤーは近代建築の巨匠ミース・ファンデルローエに深い敬意を払っており、それが随所に現れている建築です。

画像: カノアスの邸宅(オスカー・ニーマイヤー自邸)の模型(C)cinefil art review

カノアスの邸宅(オスカー・ニーマイヤー自邸)の模型(C)cinefil art review

ブラジリア大聖堂は、巨大なモニュメントです。なんといっても派手。そしてピュアな体験を目指していて、入口すらありません。建物から少し離れたところにあるトンネルから入るのです。このアプローチをとることで、劇的な体験ができるのです。この模型表現もピュアにして明快です。

後ろに見えるのはブラジリア建設プロセスの写真。ブラジリア建設については、60分に及ぶ詳細なヴィデオもあります。そこでは、何もない未開の大地に乗り込んで、現場で設計を進めたニーマイヤーの苦労が見て取れます。先住民とのふれあいを持地ながら完成していく様子もあり、必見です。

画像: 「ブラジリア大聖堂」の模型(C)cinefil art review

「ブラジリア大聖堂」の模型(C)cinefil art review

画像: アウヴォラーダ宮(大統領官邸の柱)の模型(C)cinefil art review 特徴ある柱をフューチャーした、この模型表現は素晴らしいです。

アウヴォラーダ宮(大統領官邸の柱)の模型(C)cinefil art review
特徴ある柱をフューチャーした、この模型表現は素晴らしいです。

展覧会のハイライトと云えるのが、美術館の吹抜空間(約500平方メートル)に展開された、イビラプエラ公園(サンパウロ、1954年開園)の30分の1模型です。なんと、航空写真を転写した絨毯の上に、建築や人、木々が配置されています。しかも靴を脱いでその上を歩けるのです。
植物生態学的にも多様な植生が計画されており、「自然」と「建築」が有機的に一体化していることが、体感できます。

画像: イビラプエラ公園(サンパウロ、1954年開園)の30分の1模型(C)cinefil art review

イビラプエラ公園(サンパウロ、1954年開園)の30分の1模型(C)cinefil art review

画像: 絨毯です!(C)cinefil art review

絨毯です!(C)cinefil art review

本展覧会の写真は、複数の写真家のものとなっていて、写真家の捉える視点の違いも楽しめます。
大きな模型に囲まれるのは、子どもにとっても楽しい体験のようです。
夏休みの一日を、建築の魅力に包まれて過ごすのはいかがでしょうか。

▫️▫️展覧会概要▫️▫️

▫️会期
2015年7月18日(土)-10月12日(月・祝)
▫️休館日
月曜日(7/20、9/21、10/12は開館)、7/21、9/24
▫️会場
東京都現代美術館(企画展示室地下2F)
▫️開館時間
10:00-18:00 (7月~9月の金曜日は21:00まで) ※入場は閉館の30分前まで

▫️主催
公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館、
駐日ブラジル大使館、ブラジル文化省、
日本経済新聞社

この展覧会は日本における2015/2016年ブラジル・カルチャー・フェスティバルの開幕イベントです。http://www.brasemb.or.jp/festivalcultural.pdf

▫️ブラジル・エクゼクティブ・プロダクション
Base7

▫️会場構成
SANAA
▫️模型企画・制作
野口直人建築設計事務所

▫️特別協力
オスカー・ニーマイヤー財団

▫️️協力
ヴァーレ社、イタウ銀行、三井物産、ターキッシュ・エアラインズ、三菱商事、
日伯経済文化協会、 Google 、横浜国立大学

モレイラ・サレス財団、ブラジル国立アーカイブ、ルシオ・コスタ財団、Etel、Videofilmes、
パウロ・ヴェルネック財団、NHK、トミエ・オータケ財団、
ベロオリゾンチ文化財団、O2Filmes, 株式会社天童木工

▫️美術館お問い合わせ
03-5245-4111(代表)
03-5777-8600(ハローダイヤル)

▫️展覧会公式サイト
http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/oscar-niemeyer.html

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