画像: http://kingmovies.jp/tarkovsky/

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劇場公開時にキネマ旬報に掲載された作家・辻邦生氏による『ストーカー』作品評をご紹介します。(「キネマ旬報」81年12月下旬号より)

危機への戦慄 「ストーカー」の前衛性の意味
ー辻邦生

1.
トルストイが同時代者としてのモーパッサンについて書いた有名な批評がある。それによると、トルストイはフランスのこの短編の名手の才能を高く買いながら、そこに一つの重要な欠陥―すなわち道徳の欠如を見出している。人生を事実そのままに描くという自然主義作家にトルストイ流の説教を要求するのは無理だという理由で、このトルストイ評は近代の芸術意識のなかでながいこと軽視された。しかしそれがどう解されようと、トルストイのこの主張が、現代芸術の衰退の本質を指摘していることは変わらない。これはコリン・ウイルソンの指摘する小説衰退の理由にもつながるが、現代芸術がかくも魂を打つ力を失ったのは、そこに芸術家側の激しい主張がなくなったからなのだ。現代は、激しい主張に対してつねに傾向的な臭いを感じ、そこにむしろ偏狭と鈍重と徒労を見ようとする。つまり芸術は、不偏不党の、形式美のみにかかわる、純粋精神の冒険でなければならないとするのである。

以下、下記サイトより

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