こんにちは。映画監督の深田晃司と申します。

 2012年に撮影し、翌年2013年公開となった、映画『ほとりの朔子』Blu-rayとDVDが、現在発売中です。

画像: シネフィル新連載:「深田晃司監督の、とつとつとわずがたり」01 「円盤に乗った朔子」

 拙作がソフト化されるのは、『ざくろ屋敷』『歓待』に続いて、3本目となります。
 映画は劇場で見るべきか、テレビやパソコン、スマートフォンで見てもいいものか、映画を愛する人々にとっては、なかなか悩ましい問題です。

 確かに、映画監督やカメラマンは、真っ暗で静かな空間の、大きいスクリーンに映写されることを想定して絵を作ります。
音にしても同様で、灯りと家庭音に満ちた生活空間では、そこにある細部のグラデーションの豊かさの多くは、残念ながら消えてしまいます。

 ただ、映画館とソフト視聴の関係性は、美術館と画集のそれをイメージすべきだと私は思っています。

画集は、オリジナルの鑑賞機会がどうしても限定されてしまう絵画芸術を、地域性時代性経済格差の垣根を越えて、広く一般化し、その画集を見て絵画に魅せられた人が、今度は美術館に足を運び、オリジナルを前にして筆致の豊かさや想像を越える、キャンパスサイズのもたらす強烈な印象に心動かされたりします。

 それと同じサイクルを、DVDと映画館の関係性も期待すべきはずで、もし劇場の観客が減っているのであれば、私たち映画関係者は、何か別の原因を考えたほうがより建設的であるでしょう。

 実際のところ、私自身は、お金のなかった(今もないけど)中学・高校時代の映画鑑賞の大半は、ケーブルテレビの映画専門チャンネルや、父親の所有していた山のようなVHSビデオ及び、今はもう名前すら知らない世代も増えたレーザーディスクなどなどでした。

 映画が1時間を過ぎると、一度止めて円盤を裏面にひっくり返さないといけないレーザーディスクは今思うとどんだけ「理想の映画鑑賞環境」から遠いのかと苦笑せざるをえません。

 しかしどのような環境であれ、あのときひとりの中坊がブラウン管の荒い画素の奥に映画を発見し、心ときめかせ、映画狂の道を歩むことになったのは間違いない事実です。

 より大切なのは、映画を見る環境の善し悪しよりも、その人がその人生において、映画と出会うべき最高のタイミングにちゃんと出会えるかどうか、だと思います。

 映画館は減り続け、地域によっては全滅で、一方で世界一高い映画チケット料金を誇る日本において、DVDやインターネットなどによって手軽に映画が愉しめる機会が準備されていることは、やはり積極的に肯定されるべきことと思います。

 長くなりました。最後に『ほとりの朔子』について。
ここ1年、様々な場所でこの映画について話す機会を頂きました。

 ときに鑑賞者とも対話し、言葉を重ねるうちに、この作品で自分が一番やりたかったことがおぼろげに判ってきたのですが、それは日本の片隅で恋愛ごっこに興じる若者たちの立つ地面と、世界のどこかで起きている災害や悲劇は、すべて地続きである、そんな世界観を描くことだったのだと思います。

 世界と日本の関わりを強烈に意識せざるを得ないこの時期に、この作品が改めて発売されるということは、ひとりの映画作家としては、襟を正されるような気持ちにもなります。

 webマガジン「シネフィル」の読者の皆さんの、人生の片隅に、この小さな映画「ほとりの朔子」の居場所があることを願いつつ、ふつつかな娘ですが、どうぞ朔子を、よろしくお願い致します。

深田晃司(映画監督)

映画『ほとりの朔子』予告編 Au revoir l' été / Trailer

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『ほとりの朔子』
あの頃、ほとりにいたすべての人に。18歳の夏物語。
青春のまぶしいほどのきらめきや揺らぎが、波紋のように美しく広がっていく。


★ナント三大陸映画祭2013 グランプリ・金の気球賞受賞&若い審査員賞受賞
★タリンブラックナイト映画祭2013 最優秀監督賞
★フリブール国際映画祭2013 タレントテープアワード受賞
★エジンバラ国際映画祭2014 最優秀国際映画祭ノミネート

・ロッテルダム国際映画祭2014 スペクトラム部門
・東京国際映画祭2013 コンペティション部門
・パリス・シネマ2014
・フランクフルト「ニッポン・コネクション」
・ゲント国際映画祭
・第13回ニューヨーク・アジア映画祭
・ブラジル「INDIE映画祭2014」
・香港インディペンデント映画祭2014

ほとりの朔子
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ほとりの朔子
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