『ぼくと、彼と、』劇場公開 特別企画
犬童一利監督インタビュー

『カミングアウト』(2014年)で劇場デビュー、『つむぐもの』(2016年)『きらきら眼鏡』(2018年)と順調に映画監督としてのキャリアを築いている犬童監督にお話を伺いました。

『ぼくと、彼と、』劇場公開 特別企画
犬童一利監督インタビュー

映画監督になるきっかけ

映画少年でもないし、人に誇れるほどたくさんの映画を観ていなかったです。
僕は大学を出てサラリーマンやっていたんです。人材の会社やUSENの営業でした。
あるとき、ふと自分の人生について「このままでいいのかな、僕は何を本当にやりたいんだろう」って考えて。

そうしたら高校のときの文化祭を思い出したんですね。文化祭の実行委員会をやっていたんですけど、そのときの想い出が蘇って。みんなで何かをつくった達成感、みんなで一つのものをつくりたいな、っていうところからですかね。

僕は、芸術とかクリエイティブとは縁遠い日常を送っていましたし、そういう才能やセンスは皆無です。だからこそ、様々なアートのプロ達が集まって作る「総合芸術」と呼ばれる映画にチャレンジしてみたいとも思いました。

なぜだか映画学校に通おうという選択肢は考えなかったですね。

「映画をつくりたい」と思ってからは2010年に会社を辞めて、面白い人に会わなきゃって思っていろいろ探していました。そんな時に出会ったのは『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督。上田さんがまだ自主映画を何本かつくっているくらいの時で「家の掃除でも洗濯でもなんでもするから会わせて欲しい」という今思えば気持ちの悪いメッセージを送って。で、上田さんの紹介で、映画関係の人がシェアしている高田馬場の事務所に居ついて、映画祭や機材屋の運営をしたり、短編映画を撮ったり、独立系映画のプロデューサーをしたり・・・そんなことをしていました。

時代の不健康さ

とにかくなにもなかったので、実績が欲しくて、失業保険や貯金を切り崩しながらプロデューサー的なことなどをしていたんですけど、早く自分の監督作で劇場デビューしたかったので、脚本もお金集めも自分でやろう、と創ったのが『カミングアウト』です。

当時2012年年くらいだったと思うんですけど・・・そのころ、僕は時代や周囲に閉塞感を感じていて・・・。

世界でみると日本は貧しい国ではないと思うんですね、もちろん貧困の問題はありますが、今日を生き延びる、明日の命がわからないというような危機に多くの国民が陥っているような国ではない。

社会が引いたレールがあって、そこにのっていれば、そこそこ幸せでいれる人も多いと思うんですね。僕もそうでした。

高度経済成長期を支えてきた人の20代と僕たちの20代は、エネルギーや熱量が違うだろうなって漠然と感じていて。そんなエネルギーを僕自身や周りに感じられなくて。

僕たちの世代はSNSの台頭もあり、好き勝手なことを熟考もせず世の中に発信してしまうことも多い。相手の顔を見ずに悪口を言えてしまう。

そこそこ幸せだけど、なにかモヤっとしたものが心にあって、それを見てみぬフリをして、SNSなどで発散する。

それは不健全だな、って思いました。

で、行き着いたのが「自分と向き合う」というテーマでした。

画像: 犬童一利監督

犬童一利監督

とにかく取材しまくる映画創り

「自分と向き合う」というテーマに決めてから、どういう物語にするかいくつか案出しをしました。それで選んだのが「ゲイの青年がカミングアウトするまで」という物語でした。

そこから、LGBTコミュニティへの取材をはじめました。

僕自身のセクシャリティはストレートで、この1年程前にトランスジェンダーの中編映画を撮ったこともあったのですが、まだそこまで深く知れていなかったし、周りにほとんどLGBTをオープンにしている友人もいなくて。

1人で上野のゲイイベントに参加したり、ブログでカミングアウトしている当事者の人にメッセージを送ってカフェでお話を聞いたり、新宿二丁目をはじめいろいろなコミュニティやイベントに参加してとにかく沢山の人に会いました。

サラリーマン時代の営業経験が活きたのかもしれません。

作品創りの根底にあるもの

「知ること」ということは大切だと思うんですね。

なんとなく「在る」ということはわかっていても、そのことを「知る」ということは別なことだと思います。

同性愛のことは何となくわかっていても、当事者たちのことを「知る」ということはなかなかできない。

『カミングアウト』『あかぎれ』もそうですけど、僕の映画創りには「知ること」「自分になかった新しい視点を伝えたい」という想いが根底にあるのかもしれません。

2016年に公開した『つむぐもの』も介護や日韓関係、なんとなく知っているけど・・・ということを扱っています。

ただ「知る」のと「ズシンと心にくる」というのは、また違うと思っていて、映画には物語や登場人物を通して一歩深い「体感」に近いものがあるのかな、と思っています。

良い映画は、国と時代を越えて残るので、自分が死んだあとでも、自分がいない場所でも伝えることができる。それも魅力だと思っています。

最新作は、『気づかなくてごめんね』という短編映画です。

高齢者の難聴が認知症と勘違いされていることを伝えたくて作った作品です。

石倉三郎さんをはじめ『つむぐもの』キャストに参加頂き、昨年公開した『きらきら眼鏡』の船橋市の皆さんにロケ地とエキストラなど全面協力いただきながら創りました。

Youtubeで見れるのでぜひご覧下さい。

LGBT映画

グザヴィエ・ドランの作品や『チョコレートドーナッツ』や『ハッシュ!』などの作品は本当に秀逸ですよね。

わざわざ「LGBT」というくくりで語る必要もないくらいだと思います。

また、僕が『カミングアウト』の取材の時に少なからずいらっしゃったんですけど、LGBTという言葉が広まることを嫌がる当事者の方もいて、その視点は忘れちゃいけないと強く感じました。

画像: 『ぼくと、彼と、』(四海兄弟監督)

『ぼくと、彼と、』(四海兄弟監督)

究極は「LGBT」というわけ隔てる言葉や「カミングアウト」という言葉がなくなることだと思っています。

犬童一利
神奈川県出身。中央大学商学部卒業。長編デビュー作『カミングアウト』が東京や香港の国際レズビアン&ゲイ映画祭にて上映され話題になる。2016年『つむぐもの』(出演:石倉三郎/キム・コッピ/吉岡里帆 他)で全国デビュー。2018年、人気作家の森沢明夫氏の小説『きらきら眼鏡』(出演:金井浩人/池脇千鶴/安藤政信/古畑星夏/杉野遥亮/片山萌美 他)を実写化。2作連続で世界12大映画祭の1つである上海国際映画祭に正式出品となった。現在、新作の準備中。

【犬童一利監督特集上映会!!】

初長編作、最新作まで一挙公開!!全回監督トークショー付き。
犬童一利監督特集上映会!見逃した作品、もう一度みたい作品を是非この機会にスクリーンで!

日時:2019年10月11日(金)、12日(土)、13日(日)
会場:高円寺シアターバッカス(東京都杉並区高円寺北2-21-6 レインボービル3階)
https://bacchus-tokyo.com

予約フォームは下記より:

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfGxB-ybjd_ngaB-BIWCtYHRuAkbYhS4XV2iYwGmX6Ni2Ep9A/viewform?usp=sf_link

『ぼくと、彼と、』予告編

画像: ぼくと、彼と、|予告編 youtu.be

ぼくと、彼と、|予告編

youtu.be

■STORY
日本に暮らすベトナム難民二世の青年と介護の必要な母親を暮らす日本人青年。ふたりが出会い、ともに人生を歩むことを決意する。ふたりの前には、国籍、性別、家族など、さまざまな問題が・・・そしてふたりを応援する周囲の暖かい眼。日本で暮らすマイノリティカップルの結婚式とその先に在るものは?ふたりと、家族の物語。

『ぼくと、彼と、』
監督:四海兄弟
製作総指揮:飯塚冬酒
撮影:長棟航平、野口高遠、松村慎也
出演:鳥山真翔、グェンリ アンコア、真翔の母
日本、75分、2019年

11/29~池袋HUMAXシネマズ劇場公開

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