今年も9月7日(土)からぴあフィルムフェスティバル(以後、PFF)が開幕となります。
PFFは、“映画の新しい才能の発見と育成”をテーマに1977年よりはじまった映画祭で、今年で第41回目。メインプログラムは、120名を超えるプロの映画監督を輩出している自主映画のコンペティション「PFFアワード」ですが、入選作品は海外の映画祭で上映されたり、単独で劇場公開される機会も増えて来て、ますます注目が高まっています。今回は、そんなPFFの魅力をさらに深めるため、PFFに関わる人たちから多角的にお話を聞くという短期間の連載企画をスタート。

第二回目はPFFのディレクターを務めている荒木啓子さんにお話を伺いました。
PFFアワードや、上映作品セレクトへの想い。そして、映画を見せる場づくりの魅力や、近年の世界の映画祭事情についてなど、幅広くお話いただきました。

◆​映画は勉強じゃなくて遭遇

ーー荒木さんは、年間どれくらいの作品をご覧になっているのでしょうか?

荒木:一般劇場公開ではないものも多いので、幅広さでいったら結構観てますね。

ーー近年公開作品の数が多いので、観る作品を選ぶのに悩んだりしませんか?

荒木:片っ端から観ればいいんですよ(笑)。映画は勉強じゃなくて遭遇なので、選ばないで観るという体験をしないと、出会えないと思うんですよね。だから映画祭は良いチャンスですよね。映画祭で2週間観たら、「映画ってこんないろいろあるんだ」って発見があると思うんです。

画像: ◆ 映画は勉強じゃなくて遭遇

ーーPFFのプログラムは、毎年どのようなテーマで決めているのでしょうか?

荒木:長年の蓄積と、インスピレーションですね(笑)。基本、PFFアワードに応募してくる人たちにとって、刺激的な作品や企画というところは一貫しています。意識は常に、彼らに「今観てほしい」というところにあるので。

ーーなるほど。先ほども“映画は遭遇”とおっしゃってましたが、普段あまり映画を観ない方にもPFFへ来てほしいという想いがあるのでしょうか?

荒木:そうですね。普通に暮らしている人たちが世の中で一番大切だと思っているので、そういう人たちが、今まで全く情報が無かったような映画を観て、びっくりするという瞬間はすごく楽しみです。映画との出会いは一期一会なので、PFFで映画を観て、心の中で何かを持って帰ってもらえればいいと思っています。

◆​基準は全てPFFアワードに応募してきた人たちから生まれている

画像: PFFディレクター 荒木啓子さん

PFFディレクター 荒木啓子さん

ーー自主映画の登竜門というイメージが強いPFFですが、長年続けていくうちに自然とそう なっていったのでしょうか?

荒木:41年続いてるんで、自然とそうなっていったんだと思います。昔は誰もPFFのことを知らなかったと思いますが、今まで応募された、何万人という人たちが、この業界のどこかに必ず居るので、PFFを知っている人たちの層が広くなってきているのではないかと。でも、新人の登竜門というところで言うと、全く無名の人たちが、ある日突然PFFのスカラシップ作品で有名になっていくことが続いたのも理由の1つだと思います。アワード作品の劇場公開ですごくヒットした『鬼畜大宴会』(98/熊切和嘉監督)とか『ある朝スウプは』 (05/高橋泉監督)とかも勿論センセーショナルでしたが、スカラシップでヒットした『二十歳の微熱』(92/橋口亮輔監督)とか『運命じゃない人』(05年/内田けんじ監督)、『川の底からこんにちは』(09/石井裕也監督)とか、そういう作品からイメージがついていったんじゃないかなって思います。

ーーPFFアワードの最終審査員も、毎回豪華ですよね。

荒木:特集上映の作品選びも、ゲストの人選も、基準は全てPFFアワードに応募してきた人たちから生まれているんです。なので最終審査員も、入選した監督たちが憧れる人たちにやってもらいたいなと思ってお声掛けをしています。なかなかそれを気付いてもらえていないんですけどね(笑)。

ーーその視点が、PFFの1つのブレない軸になっているんですね。

荒木:PFFアワードという軸なくしては他のプログラムも存在しないですね。映画祭って、浴びるように映画を観れる場所なので、どのプログラムに行っても面白くなっているということが前提だと思うんです。PFFの場合、どのプログラムに行っても「自分の作品のヒントになる何かがある」ということで、トータルになるように常に考えています。作る人にとって面白いラインナップであれば、単に観る人にとっても面白いというのは当たり前なことだと思うので。

画像: ◆ 基準は全てPFFアワードに応募してきた人たちから生まれている

◆​近年、世界の映画祭地図がどんどん変わってきている

ーーPFFの作品が海外の映画祭で上映される時、荒木さんは現地でどのような動きをされているのでしょうか?

荒木:完全に何でも屋です。まずは、PFFアワードやスカラシップ作品を映画祭へ持っていきます。エージェントがやるような仕事ですね。同時に映画祭のディレクターやプログラマーとして上映交渉をしたり、話題の作品を観たり、作品を紹介したりいろんなことをしています。あと、一緒に行った監督が英語が話せない場合は、通訳もします(笑)。

ーー毎年所沢で行われている「ミューズ シネマ・セレクション」でも、海外で評判になった日本映画をセレクトして上映していますよね。

荒木:「ミューズ・シネマ・セレクション」は、日本映画を上映するということで始まった のですが“日本映画”だけだとあまりにも選択肢が広いので、国内のみならず海外でも人気の、というセレクションにしました。年明けはだいたい海外の映画祭に行っているんですけど、近年、世界の映画祭地図がどんどん変わってきているんです。昔からPFFの作品に注目してくれていたプログラマーやディレクターたちが世代交代をして、どんどん日本映画に興味がある人たちが減っていっているので、新たに交流をはじめなければいけないなって思っているところなんです。世界の映画祭では、日本映画熱は低下中です。

ーーそうなんですね。海外の映画祭で上映されている日本映画は増えてきているのだと思っていました。

荒木:日本映画を大量に上映する、ウディネ・ファーイースト映画祭とか、日本コネクションとか上海映画祭はともかく、日本映画の製作数増加に比して、招待本数は減少著しいです。

画像: ディレクター 荒木啓子さん

ディレクター 荒木啓子さん

◆​自主映画を観ないと、現在の映画を語るのは難しい

ーー歴代の入選監督たちとの交流も、頻繁にあるのでしょうか?

荒木:映画祭にゲストで来てもらうことも多いので、よく登壇してくださる方とは親しくな りますよね。なるべくご縁は続けたいし、イベントは絶やさないようにしていますが、現在、映画上映の宣伝と動員は、とても手間暇がかかるものになってきました。上映企画はスタッフの訓練にもなるのですが、減少しています。一方、PFFアワードの作品がこんなに劇場公開される時代が来るとは、誰も思っていなかったと思います。

ーー今まで数々の自主制作映画を観てきて、映画の作り手やプロデューサーをやろうという考えにはならなかったのでしょうか?

荒木:PFFのディレクターをはじめた頃は、あまり良い制作環境に居ない監督を観ると、プロデューサーになるべきなのか?と思うこともありました。でも、今はないですね。自分の今の役割(映画祭ディレクター)や、PFFアワードのようなことをやるような人たちが世の中にあまり居ないので。

ーー映画にも様々な関わり方がありますよね。映画を作る人が増えていく分、映画を観るプロも必要だなと感じています。

荒木:そうそう。切実になぜ生まれないのかなと思っているのは、自主映画の批評家です。 吉田伊知郎さんとかはすごく稀有な存在ですよね。自主映画を観ないと、現在の映画を語るのは難しいと思うんです。批評家の不在は一般の映画に関しても切実な課題ではないかなと思っています。海外では批評家の活動はまだ活発で、社会的な地位も高いですし、まだ雑誌とかも根強く残っているんです。なので今年は、“カンヌ映画祭批評家週間”というプログラムを行います。批評家がどういう視点で映画を選ぶのかというのを、細かく聞こうと思ってるんです。

画像: ◆ 自主映画を観ないと、現在の映画を語るのは難しい

◆​パブリックな体験は映画祭が一番得意とするところ

ーー映画祭という、映画を見せる場づくりの面白さは、どんなところにありますか?

荒木:見知らぬ人同士が、同じものを共有するというところですね。同じものを観て、他の人がリアクションしているのを見て、他者と自分との違いを学んでいくと思うんです。でも最近は、そういう場所がどんどん消えていっているので、生まれてから一度も映画館に行ったことが無いという人がこれからどんどん生まれてくると思いますよ。パーソナルな体験はいっぱいできると思いますけど、パブリックな体験は映画祭が一番得意とするところなので、そういう場所をつくるという面白さがあります。

画像1: ◆ パブリックな体験は映画祭が一番得意とするところ

ーーでは最後に。現代のような変化の多い時代に、PFFのように変わらずに続けていくための秘訣って何でしょうか?

荒木:人間って、そんなに変化も成長もしていないと思うんですよね。自分の中から何か出てくるものを作りたいという欲求も、何万年と変わっていないはずで。「個人で想ったことをカタチにした人たちは素晴らしい」ということを、ひたすらひたすらやり続けているだけなので。素晴らしいって言い続けるということに、一番勇気が必要かなと思っています。そう言い続けられるためにも、どんな映画祭にしていくのかということは、常に考えていますね。

画像2: ◆ パブリックな体験は映画祭が一番得意とするところ

荒木啓子(あらき・けいこ)
1990年PFFに参加。1992年PFF初の総合ディレクターに就任。以来、PFFアワード入選作品やPFFスカラシップ作品を中心に、日本の「自主映画」文化を国内外に紹介する活動を続けている。

第41回ぴあフィルムフェスティバル

開催期間:9月7日(土)~21日(土)
会場:国立映画アーカイブ
※月曜休館

映画祭公式サイト:

画像3: ◆ パブリックな体験は映画祭が一番得意とするところ

photo:久保 貴弘text:矢部 紗耶香

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