藤井道人監督「光と血」に寄せて【脚本家・小寺和久】

2017年6月3日、新宿武蔵野館にて「光と血」は封切られた。

脚本で関わらせていただいた私こと小寺和久も毎日劇場に足を運んだり、パンフレットを作ったりしたので、制作過程の話や撮影秘話みたいなものは小規模ながら何度かお話しさせていただいてきた。

それから約2年、ソフト化にあたりこのような場を設けていただいたことに感謝すると共に、折角なので極めてパーソナルな視点で、今まで語らなかったことを綴りたいと思う。

画像1: ©2017.BABEL LABEL、株式会社ハーベストフォックス

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2019年、藤井道人監督は「青の帰り道」「デイアンドナイト」「新聞記者」という3作品を世に送り出し、話題を集めている監督だ。そんな藤井監督と私は2011年に広島で開催されたダマー国際映画祭で出会い、以降、継続的に映画、テレビドラマでご一緒させていただく戦友になった。そして、親交を深めていった2014年。今となっては打ち合わせ時間すら確保するのが難しい監督になってしまった藤井君だが、「光と血」を作っていた頃は、まだ時間があったように思う。その日観た映画をああだ、こうだと朝まで話し、オファーが来ているわけでもなければ、原作権が獲れているわけでもない原作の脚色案を考え、映画になりそうな題材やニュースがあれば企画になるよう思案していた。そんな作業を今でもやってはいるが、その頃は今より実績もなく、はるかに結実する可能性は低かった。結局、100本近く企画を出し、実現したのは1本か2本くらいだったように思う。しかし、遮二無二カタチにしようと思案していた時間は、今となってはとても贅沢な時間だったように思う。そんな時間に藤井監督が着想し、ワークショップをして産み落とされた生粋のオリジナル映画が「光と血」だ。

画像2: ©2017.BABEL LABEL、株式会社ハーベストフォックス

©2017.BABEL LABEL、株式会社ハーベストフォックス

シンプルかつ普遍的な言葉で語ると「光と血」のテーマは「喪失と再生」だが、もう一つ、大切に扱われてきたのが、「血」というモチーフだ。藤井監督はとても多作で様々な作品を作っているが、その中でもとりわけ、「埃」という2011年に作られた短編映画が私は好きだ。光を浴びない限り視認できない、宙に舞う「埃」がモチーフになっていて、その「埃」を見つめるキャラクターのまなざしが非常にエモーショナルな作品だった。そして、その系譜は、「けむりの街の、より善き未来は」という映画に伸びていく。その映画のモチーフは「煙」だった。そして、次に選ばれたモチーフは「血」で、そこで私も合流し、「光と血」へと結実するにいたる。余談だがその次は「風」で、それは私が参加している「デイアンドナイト」という物語となり世に放たれることになる。(さらに余談だが、「風」はスクリーンに映らないので、本当に骨が折れました。未見の方は是非「デイアンドナイト」と「TAKAYUKI YAMADA DOCUMENTARY No Pain, No Gain」を合わせてご覧ください)

画像3: ©2017.BABEL LABEL、株式会社ハーベストフォックス

©2017.BABEL LABEL、株式会社ハーベストフォックス

話を戻すと、毎回モチーフから着想しているかどうかは知らないが、少なくとも上述のモチーフから作劇された映画たちは、そのどれもが現代の日本を浮き彫りにせんと試みる作品ばかりである。書いている当時はそんなこと考えもしなかったが、モチーフから社会を覗き、そこに生きる人間を描く、という藤井監督独自の作り方は、簡単に言うと型にハメて作ることができず、芯を捉えるのが難しい作業である。さらに言うとトレンドに乗るわけでもないし、具体的な題材があるわけでもないので、作りたい想い以外に寄る辺がなく、毎回熾烈な脚本作りになる。そして作品によって毎回脚本の作り方を変え、そのテーマにとってベストとなる作り方を探ってきたように思う。自分の学習能力の低さを疑うほどに毎回苦労するのだが、その安易さを嫌った作り方は異様な力になってスクリーンに焼き付いていると、勝手に信じている。

画像4: ©2017.BABEL LABEL、株式会社ハーベストフォックス

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そして、そのオリジナルな作り方は、脚本開発だけでなく、撮影現場においてもだろう。「光と血」は1年間、4回にわけて撮影をし、第一幕を2014年8月に、第二幕を2014年12月に、第三幕を2015年4月に撮影した。それで終わればいいのに、その数か月後にフィリピンにまで行って撮影を慣行している。この作品が特異なのは、撮影期間を終えるたびに、各キャラクターが何を考え、どう演じたのか、そしてこの先、どういうアクション、リアクションが考えうるかを監督、全俳優、脚本家でつぶさに話し合って物語に組み込んでいった点だ。金井陽役の世良さんは16キロも痩せるほど身体つくりをして役に向き合っていた。その彼が考える身体性を伴った「金井陽」と、作り手が物語の中で存在して欲しい「金井陽」とを合わせていく作業であり、それを全員分行うのは中々根気のいる作業だったが、今思えば非常に誠実な作り方だったようにも思う。映画が変化を描くものだとしたら、キャラクターたちはドキュメンタリーさながらに生っぽく変化していったからだ。つまり、できうる限り愚直に、2014年8月から2015年4月の期間、東京の街に生きていたキャラクターたちの感情を、「血」というモチーフを通して切り取ろうとしたのである。

画像5: ©2017.BABEL LABEL、株式会社ハーベストフォックス

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勿論、とても地味な物語であるし、技術的に未熟であるのは重々承知だが、世界でたった一人でもその人と、その隣にいる人の何かが前向きに変わるような作品であればいいと思い、精一杯脚本を書いたつもりである。そして、スタッフ・キャストも同様の想いで一丸となって作った極めて純度の高い映画になったと思う。

と、書き出したら止まらなくなりそうなので、このへんで。最後になるが、私にとって「光と血」が人生で初めて書いた長編脚本で、初めて劇場公開映画として完成した作品でもある。いやがおうにも私の原点となる作品が、この作品でよかったと心の底から思っている。またいつか、藤井監督が別のモチーフを見つけて映画を作ることがあり、ご一緒することになるならば、まだ見ぬ物語を作れる喜びを感じ、その物語が私の「光」になるように、精進していきたい。

画像6: ©2017.BABEL LABEL、株式会社ハーベストフォックス

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小寺 和久(こてら かずひさ) 脚本家
1983年生 大阪市出身 
出版社勤務を経て、フリーの脚本家として活動中。映画の脚本を中心に、ドラマ、CMなども手掛ける。主な作品に映画「デイアンドナイト」/「光と血」/「愛はどこにも消えない」(21世紀の女の子)、ドラマ「虫籠の錠前」(WOWOW)/「新宿セブン」(テレビ東京ドラマ24)/「湊かなえサスペンス「望郷」雲の糸」(テレビ東京)など。

■映画「光と血」予告

画像: 【予告編】 『光と血』 藤井道人監督作品 2019年8月25日(日)DVDセル・レンタル解禁 youtu.be

【予告編】 『光と血』 藤井道人監督作品 2019年8月25日(日)DVDセル・レンタル解禁

youtu.be

2019年8月25日DVDリリース

販売元:オールインエンタテインメント

【ストーリー】

日本、現代――
いじめらっれ子を守る心優しき女子高生・光。3年間の交際を経て、恋人と婚約した青年・陽。被災地にボランティアへ通う青年・健太とその姉・マナ。幸せな日々はいつまでも続くと思われたが、ある日、人生は一変する。何者かによるレイプ、無差別連続殺人事件、交通事故。予期せぬ悲劇が彼らを襲う。被害者になった者、加害者になった者。大切なものを失った彼らの運命は絡み合い、交差し始める。

【出演者】

世良佑樹、打越梨子、出原美佳、永夏子、裕樹、坂井裕美、しいたけを、アベラヒデノブ、野沢ハモン、風間晋之介、前林恒平、南部映次

【スタッフ】

監督:藤井道人
脚本:小寺和久、藤井道人
製作:「光と血」製作委員会 制作総指揮:本田誠

プロデューサー:アレクサンドル・バルトロ、久那斗ひろ、牛山裕樹、藤井道人

撮影:今村圭佑/照明:織田誠/録音:吉方淳二/美術:佐々木勝巳/ヘアメイク:小島真利子/カラリスト:長谷川将広/スチール:三浦希衣子/助監督:山口健人、アベラヒデノブ/制作:田原イサヲ/音楽:堤裕介/アシスタントプロデューサー:高橋洋

制作プロダクション:BABEL LABEL、WEDOVIDEO

製作・発売元:「光と血」製作委員会
販売元:オールインエンタテインメント

©2017.BABEL LABEL、株式会社ハーベストフォックス
DVD版スーパーバイザー:鈴木祐介(オールインエンタテインメント)

画像: ■映画「光と血」予告

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