こんなにも観るものに衝撃を与える絵画がかつてあったでしょうか?
教科書でも印象深い、ギュスターヴ・モロー(1826~1898)の名作《出現》で、ユダヤの王女サロメが指さす先には、残虐にも、斬首された洗礼者聖ヨハネの首の幻影が宙に浮かんでいるのです。

19世紀後半のフランスで産業が発達し、現実の世界を描く写実主義が全盛期を迎える中で、モローが確立した幻想的な世界は、象徴主義と呼ばれ、注目を集めました。
モネやルノワールに代表される印象派は、目に見える自然の世界を表現しようとしましたが、モローは、神話や聖書の物語を題材にし、歴史画にとどまらず、斬新で神秘的な内面の世界を描こうとしたのです。
モローは歴史や伝説に登場する魅惑的な女性に興味を持ち、生涯、いろいろな女性像を追求しました。
 
美しく妖艶な女性は、時として男性を翻弄し、破滅へと導く「ファム・ファタル」(宿命の女)と呼ばれ、後に、グスタフ・クリムトなどによっても、好んで描かれたテーマでした。
モローはサロメをはじめ、エウロペやセイレーン、メッサリーナといった神話的女性像を、魅惑的に、透明感のある色彩や、透かし彫りのような繊細な線描で描きました。
また、モローは、色彩の魔術師として知られるマティスや、宗教画で有名なルオーを指導しました。

 パリにあるモローの邸宅を美術館にした、ギュスターヴ・モロー美術館の全面協力のもと、モローが愛した母親や恋人の肖像画から、サロメやセイレーンなどの「ファム・ファタル」を主題にした作品に至るまで、さまざまな女性像をテーマにした油彩、水彩、素描など約100 点が集結しました。
あべのハルカス美術館にて、9月23 日まで開催されています。
 「パリの真ん中に閉じこもった神秘家」ともいわれたモローの私生活にも触れ、彼が追い求めた「ファム・ファタル」(宿命の女)の創造の原点に迫ります。
是非、この機会にモローの描く幻想的な魅惑の世界をご堪能ください。
それでは、シネフィル上でも展覧会に沿って、4つの章に分けて、ご紹介致します。

1 モローが愛した女たち

モローは1826年、建築家の父と音楽家の母の間に生まれました。
妹が13歳で亡くなったため、母との絆はより強くなり、母親がこの世で最も大切な存在であった、と書かれたモローのメモが残っています。
生涯独身を貫いたモローでしたが、母以外にもう1人、愛した女性がいました。
それは、30年近くも共に過ごした恋人、アレクサンドリーヌ・デュルーでした。
彼女は、穏やかで、思慮深い女性で、モローが描く妖艶な悪女「ファム・ファタル」とは相反するようでした。

画像: 《24歳の自画像》1850年 油彩/カンバス 41×32cm Photo © RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF

《24歳の自画像》1850年 油彩/カンバス 41×32cm
Photo © RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF

モローは素描による自画像は多く描きましたが、油彩による自画像は、本作のみです。
国立美術学校を退学し、ロマン主義へと傾倒していく頃の作品です。

2 《出現》とサロメ

新約聖書に登場する「サロメ」の物語は、ユダヤの王女サロメが、ヘロデ王に踊りのご褒美として母に言われるままに、洗礼者聖ヨハネの斬首を求めるというものです。
サロメの母ヘロデヤはヘロデ王の後妻で、再婚に反対した洗礼者聖ヨハネの処刑を望んでいたのです。
モローはこの妖艶で残酷なサロメを繰り返し様々なパターンで描きました。
1876年に描かれた油彩の《出現》は、サロンに出品されるための作品でしたが、間に合わず、水彩の《出現》が出品されました。
最晩年に加えられた装飾的な線描きは豪奢な建物の荘厳な空間をより一層ひきたてています。

画像: 《出現》1876年頃 油彩/カンヴァス 142×103cm  ギュスターヴ・モロー美術館蔵 Photo © RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF

《出現》1876年頃 油彩/カンヴァス 142×103cm  ギュスターヴ・モロー美術館蔵
Photo © RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF

3 宿命の女たち

モローの描くファム・ファタルの女性像の中には、ギリシャ神話に登場する絶世の美貌のためにトロイア戦争を引き起こしてしまうヘレネ、美しい歌声で人々を海へ誘い、死をもたらすセイレーンなど様々なものがありましたが、必ずしも男を誘惑し破滅を導く女というものではありません。
魅惑的な肢体を露わにしたファム・ファタルは、誘惑する存在であり、誘惑される存在でもあるという宿命を背負っているのです。
《エウロペの誘拐》は、花摘みをする美しいエウロペに恋をしたゼウスが、牡牛に姿を変え、クレタ島へ連れ去るという物語の一場面を描いたものです。

画像: 《エウロペの誘拐》1868年 油彩/カンヴァス 175×130cm ギュスターヴ・モロー美術館蔵 Photo © RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF

《エウロペの誘拐》1868年 油彩/カンヴァス 175×130cm ギュスターヴ・モロー美術館蔵
Photo © RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF

4 《一角獣》と純潔の乙女

モローは、サロメのような悪女だけではなく、汚れなき乙女も描きました。
想像上の動物、一角獣は、無垢の女性だけに従順で、触れるものすべてを浄化できる角を持っていて、美しい乙女を守護する役割を担っていました。
モローは、1500年頃のパリのクリュニー中世美術館に収蔵されているタピスリー《貴婦人と一角獣》に着想を得て《一角獣》を描きました。
中世フランスの宮廷的雰囲気の中で、豪華な衣装を身にまとった貴婦人たちと一角獣が緑の中、寛いだ時間を過ごしている幻想的な情景が広がっています。
宝石をちりばめたような繊細で煌びやかな色彩と、透かし彫りのような繊細な線描が、甘美な夢の世界を描き出しています。

画像: 《一角獣》1885年頃 油彩/カンヴァス 115×90cm Photo © RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF

《一角獣》1885年頃 油彩/カンヴァス 115×90cm
Photo © RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF

モローが描いた神話や聖書のストーリーを題材にした様々な女性像は、モローならではの豪奢で神秘的な世界観で描かれていました。
「ファム・ファタル」(宿命の女)は、時に妖艶で残虐、時に純粋で清らか、と多面性を持っていたかも知れません。
人間の内面を描いたモローの夢のような幻想の世界は、時を超えて、現代の私たちにも、愛や、夢、悲しみ、苦悩などいろいろなことを語りかけてくれるでしょう。

展覧会概要

会期:7/13(土)~9/23(月・祝)
 
開館時間:火~金/10:00~20:00 月土日祝/10:00~18:00
 ※入館は閉館30分前まで
 
休館日:8/5(月)
 
会場:あべのハルカス美術館(あべのハルカス16階)
 
料金(税込):【団体(15名以上)】
        一般 ¥1,300/大高生 ¥900/中小生 ¥300
       【当日】
        一般 ¥1,500/大高生 ¥1,100/中小生 ¥500
 
主催:あべのハルカス美術館、読売テレビ、読売新聞社
 
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
 
協賛 :大和ハウス工業、光村印刷
 
特別協力:ギュスターヴ・モロー美術館
 
企画協力:NHKプロモーション
 
協力:日本航空

イベント

《夢みるシャンパーニュ・ナイト》
学芸員によるみどころ紹介の後、貸し切りで展覧会を鑑賞。
幻想性豊かなモロー絵画の余韻に浸りながら、ロビーにて優雅で繊細なシャンパーニュCOLLET(コレ)の試飲をお楽しみいただける、特別な夜です。
 
開催:8月24日(土) 18:00~20:00各日17:50に受付を開始します。
会場:あべのハルカス美術館前ロビーおよび展示室
定員:各回100名
参加料:3,000円(税込)チケットは4月27日(土)よりイープラスにて限定販売。定員に達し次第終了。
 
参加方法
※未成年者のご参加はお断りさせていただきます。ご了承ください。
※飲酒運転は法律で固く禁じられております。
ご来館の際は、公共交通機関をご利用ください。
 
  
《ギャラリー・ツアー》
開催:8月21日(水)、9月11日(水)
時間:各日18:30~(約30分)
講師:当館学芸員
会場:展示室
参加方法
※聴講は無料ですが、本展観覧券が必要となります。
 

ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち ― 男を破滅へ導く美しき誘惑@大阪 cinefil チケットプレゼント

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち ― 男を破滅へ導く美しき誘惑@大阪 cinefil チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効の、この招待券は、非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。
応募先メールアドレス  info@miramiru.tokyo
応募締め切り    2019年8月18日(日)24:00
1、氏名
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
  建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、当選無効となります。
4、ご連絡先メールアドレス、電話番号
5、記事を読んでみたい監督、俳優名、アーティスト名
6、読んでみたい執筆者
7、連載で、面白いと思われるもの、通読されているものの、筆者名か連載タイトルを、5つ以上ご記入下さい(複数回答可)
8、連載で、面白くないと思われるものの、筆者名か連載タイトルを、3つ以上ご記入下さい(複数回答可)
9、よくご利用になるWEBマガジン、WEBサイト、アプリを教えて下さい。
10、シネフィルへのご意見、ご感想、などのご要望も、お寄せ下さい。
また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。

This article is a sponsored article by
''.