梅雨の雨に濡れた色とりどりの紫陽花が、美しい季節になってまいりました。 
 
国立西洋美術館開館60周年を記念して、「松方コレクション展 」が、2019年6月11日(火)から9月23日(月・祝)まで開催されています。
「松方コレクション」とは、現在の川崎重工業株式会社の前身である川崎造船所の初代社長で、実業家の松方幸次郎(1866-1950)が、第1次世界大戦中の1910年代半ばから1920年代半ばにかけて約10年間にロンドンやパリなどのヨーロッパで、巨額の私財を投じて、収集した美術作品のことです。
西洋の絵画、素描、版画、彫刻、装飾芸術品、約3,000点にのぼるコレクションを築きました。
日本から流出していた浮世絵をパリで買い戻し、その約8,000点を加えると、およそ10,000点以上に及びます。
ロシアのシチューキン、アメリカのバーンズと並び、世界の3大コレクションのひとつと言われていて、現在の東京、上野にある、国立西洋美術館の礎となりました。
松方は「日本の人たちに本物の西洋美術を見せたい」と願い、ロンドンやパリで大量の美術品を買い集め、日本に初めて西洋美術の美術館をつくる夢を持っていました。
ロンドンの画家、フランク・ブラングィンに「共楽美術館」という名称で、デザインを依頼し、パリのロダン美術館をはじめ、日本の画家、研究者の協力を得て、広大な美術館を構想していました。
ですが、関東大震災と昭和の金融恐慌で、造船所は経営危機に陥り、コレクションは売却され、ヨーロッパに残っていた作品もロンドンの倉庫の火災で焼失してしまいます。
さらに、第二次世界大戦末期に、パリで保管されていたコレクションはフランス政府に接収され、美術館建設の夢は、はかなく消えてしまったのです。
戦後、フランスから寄贈返還された375点を保管展示するため、1959年、国立西洋美術館が誕生し、松方の永年の想いがやっと果たされたのです。
この度、松方の夢を引き継ぎ、「松方コレクション展」が開催される運びとなりました。
本展では、国立西洋美術館の所蔵作品をはじめ、国内外に散逸した「松方コレクション」の名品、モネ、ゴーガン、ゴッホ、ルノワールなど、約160 点の国宝級の西洋美術の代表作が一堂に会しています。
松方の熱い想いの詰まったコレクションが激動の時代を乗り越え、よみがえりました。
行方不明だったモネの《水連、柳の反映》は修復後、初公開となります。
是非、この機会に、「松方コレクション展 」をご鑑賞ください。

画像: フランク・ブラングィン《松方幸次郎の肖像》 1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)

フランク・ブラングィン《松方幸次郎の肖像》 1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)

50代初めの松方の肖像画で、美術品の収集を始めた頃である1916年に描かれました。
くつろいで、パイプをふかす様子から画家と松方の親しい間柄が感じられます。
 
松方は明治政府で大蔵大臣、首相を歴任する松方正義の三男として、鹿児島県に生まれました。
1875年に上京後、大学予備門を経て、1884年に渡米、ラトガース大学を経て、イェール大学で民法の博士号を取得後、ヨーロッパを周遊しつつ帰国。
父の秘書官、日本火災保険株式会社副社長などを経て、1896年、30歳で川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)の初代社長に就任しました。
1928年に引責辞任するまで同社を率いて発展させ、神戸新聞社社長、神戸商業会議所会頭も務め、実業家として活躍する一方、3回の渡欧時期を中心に、美術館建設を目指して精力的に美術品の収集を進めました。
松方の言葉に次のようなものがあります。 
『日本に何千人の油画描きがいながら、その人たちはみんな本物のお手本を見ることもできずに、油絵を一生懸命に描いて展覧会に出している。
私はそれが気の毒なので、ひとつわしがヨーロッパの油画の本物を集めて、日本に送って見せてやろうと思っている。』(矢代幸雄 『藝術のパトロン』1958年)

画像: フランク・ブラングィン《共楽美術館構想俯瞰図、東京》 水彩・鉛筆、紙 国立西洋美術館

フランク・ブラングィン《共楽美術館構想俯瞰図、東京》 水彩・鉛筆、紙 国立西洋美術館

ブラングィンは、英国の画家で、松方の夢であったコレクションを公開する「共楽美術館」の建築デザインを依頼され、噴水のある中庭を回廊が囲む広大な美術館を設計しました。
関東大震災や、経済恐慌により、この夢は果たされず、幻の美術館となりました。
代表作に《造船》があります。

画像: クロード・モネ《睡蓮》 1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)

クロード・モネ《睡蓮》 1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)

1921年、松方は、作品購入のため、フランスの印象派の巨匠、クロード・モネ(1840-1926)の自宅アトリエを訪ねました。
「あなたの素晴らしい絵を日本の貧しい画学生に見せたい」という、松方の熱い想いに応えて、気難しいといわれていた巨匠モネも、手元に残していた作品を譲ってくれたようです。
《睡蓮》、《舟遊び》、《並木道》などの名画を購入しました。
モネはジヴェルニーの自宅に日本風の庭園を造り、睡蓮作品の制作に没頭し、本作品の制作までに、20年近くも睡蓮を描いてきました。
水面に映る柳などの景色が風に揺れて、明るい光がきらきらと、美しく輝いている、モネらしい
作品です。
縦横各2メートルある大作で、まさに国立西洋美術館を代表する名画です。

画像: クロード・モネ《舟遊び》 1887年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)

クロード・モネ《舟遊び》 1887年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)

舟遊びは、印象派の画家たちがよく描いたテーマです。
この作品は、ジヴェルニーを流れるエプト川で舟遊びをするモネの娘たちが描かれています。
ボートが画面で断ち切られているのは浮世絵の影響を受けているともいわれています。
水面の反映は《睡蓮》の連作でも見られるもので、川の水面に映る景色は空の青さをも映し出しています。

画像: フィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの寝室》 1889年 油彩、カンヴァス オルセー美術館 Paris, musée d'Orsay, cédé aux musées nationaux en application du traité de paix avec le Japon, 1959 Photo © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

フィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの寝室》 1889年 油彩、カンヴァス オルセー美術館
Paris, musée d'Orsay, cédé aux musées nationaux en application du traité de paix avec le Japon, 1959
Photo © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

松方が収集した西洋美術作品約3000点のうちパリで保管されていた約400点は第二次世界大戦末期にフランス政府に没収されていましたが、戦後、政府間交渉で375 点が寄贈返還されました。
この《アルルの寝室》は返還を拒否され、フランスに残されていたのですが、今回、本展のために来日しました。
パリから南仏アルルに住居を移したゴッホは身近なものを題材に絵画制作を行いました。
ゴッホの特徴である黄色や青の色彩が使われ、「オルセー美術館の至宝」ともいわれています。

画像: ピエール=オーギュスト・ルノワール《帽子の女》 1891年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)

ピエール=オーギュスト・ルノワール《帽子の女》 1891年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)

ルノワールのこの作品は、1921年に松方が購入したのち、接収され、1959年に寄贈返還された、
ルノワールの「真珠色の時代」と呼ばれる時代の作品です。
その名の通り、すべての色彩に白を混ぜて真珠色の輝きを持たせた作品は、上品で優美な輝きを放っています。

画像: クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》(修復前)1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館 松方幸次郎御遺族より寄贈(旧松方コレクション)

クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》(修復前)1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館 松方幸次郎御遺族より寄贈(旧松方コレクション)

松方がモネから買い取った2枚の「睡蓮」うち、1枚は国立西洋美術館を代表する名画となりましたが、もう1枚は、長い間、行方不明になっていました。
ところが、2016年、もう1枚の「睡蓮」が、パリで見つかったのです。
それが、《睡蓮、柳の反映》です。
発見当時は損傷が激しく、画布の上半分が欠けていました。
縦2メートル、横4.25メートルの大作で、パリ・オランジュリー美術館の「睡蓮」の大装飾画を構想する過程で描かれたものと考えられ、大変貴重な幻の大作です。
本展開催のため、修復され、展示されていますので、是非、ご覧ください。
また、国立西洋美術館と凸版印刷株式会社が、残された白黒写真と現存する部分を手掛かりに科学分析、デジタル技術、AI技術などにより復元させたものも展示されていますので、見比べてみてください。
モネは松方以外には大型の「睡蓮」の作品を売らなかったそうです。
本展での2つの「睡蓮」が揃ったことはまさに奇跡の再会です。
世界に散逸した珠玉の名作が、集結しました。
松方の美術作品へかける情熱、夢のコレクションに出逢う、またとない機会です。
美術館建設を夢見ながらも一大コレクションの散逸を阻止できなかった、松方の追い求めた夢の軌跡を是非、ご堪能ください。

展覧会概要

会期:2019年6月11日(火)~2019年9月23日(月・祝)
開館時間:9:30~17:30 (毎週金・土曜日:9:30~21:00)
 ※入館は閉館の30分前まで
 
休館日:月曜日、(ただし、7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館)、7月16日(火)
 
観覧料金:当日:一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円
     団体:一般1,400円、大学生1,000円、高校生600円
 ※チケット販売場所はこちら( https://artexhibition.jp/matsukata2019/tickets/ )でご確認ください。
 ※団体料金は20名以上。
 ※中学生以下は無料。
 ※2019年7月20日(土)~8月6日(火)は高校生無料。(学生証をご提示ください)
 ※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。  
お問い合わせ:03-577-8600 (ハローダイヤル)

主催:国立西洋美術館、読売新聞社、NHK、NHKプロモーション
協賛:清水建設、損保ジャパン日本興亜、NISSHA、三井住友銀行
協力:日本航空、西洋美術振興財団

関連イベント

講演会:国立西洋美術館講堂(地下2階)
定員: 各回先着130名(聴講無料。ただし聴講券と本展の観覧券(半券可)が必要です。)
 
宮崎克己(昭和音楽大学教授) 「印象派ブームわき起こる~第一次大戦直後の日本」
日時:2019年7月20日(土) 午後2時~午後3時30分
 
陳岡めぐみ(国立西洋美術館主任研究員) 「松方コレクション 百年の流転」
日時:2019年9月7日(土) 午後2時~午後3時30分
 
※当日12:00より、館内インフォメーションにて、 本展の観覧券をお持ちの方お一人につき一枚聴講券を配付します。
※会場へは開演の30分前からご入場いただけます(整理番号順)。
※講演会のタイトル、内容等は変更となる場合があります。
 
スライドトーク:各回午後6:00~(約30分)
 
解説者:玉生真衣子(東京大学大学院)
日時:2019年7月5日(金)、8月16日(金)、9月13日(金)
定員: 各回先着130名(聴講無料。ただし、本展の観覧券(半券可)が必要です。)
参加方法:直接講堂にお越しください(開場時間は各日とも開演の30分前)。
 

松方コレクション展 国立西洋美術館開館60周年記念@東京 cinefil チケットプレゼント

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、松方コレクション展 国立西洋美術館開館60周年記念@東京 cinefil チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効の、この招待券は、非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。
応募先メールアドレス  info@miramiru.tokyo
応募締め切り    2019年7月28日(日)24:00
1、氏名 
2、年齢--
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、当選無効となります。
4、ご連絡先メールアドレス、電話番号
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