画像: リニューアルオープンした福岡市美術館- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

リニューアルオープンした福岡市美術館- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

リニューアルオープンした福岡市美術館

 1979年(昭和54年)に、東京都美術館、埼玉県立博物館、熊本県立美術館、山梨県立美術館など多くの美術館を設計した建築家の前川國男の設計により、福岡市美術館は開館しました。
前川國男は、ル・コルビュジエの事務所、後にフランク・ロイド・ライトとともに来日したアントニン・レーモンドのレーモンド設計事務所で働いた経験を持つ日本の近代建築の騎手と呼ばれた建築家です。
 1964年(昭和39年)に開館した佐藤武夫の設計した福岡県立美術館(旧福岡県文化会館)とともに、モダンな様式美の街のシンボルとして愛されてきました。
前川國男は、ル・コルビュジエが生み出した、建物の外と内の境界を消滅させることを目指す「建築的プロムナード(フランス語で散策路の意味)」から影響を受け、「エスプラナード」と呼ばれる、空間を「人が憩いを持ちながら、目的もなく歩く中庭的広場・遊歩道」が特徴です。福岡市美術館では屋外広場を「エスプラナード」として、ロビーを中心に展示室を美しく配置しています。
 福岡市美術館は長期リニューアル工事のため、2年半近くも休館していましたが、平成最後の年となる2019年(平成31年)3月21日にリニューアルオープンしました。

画像1: 「インカ・ショニバレCBE: Flower Power」展示風景- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「インカ・ショニバレCBE: Flower Power」展示風景- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

画像: 「Double Dutch(ダブルダッチ)」1994年- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「Double Dutch(ダブルダッチ)」1994年- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

1990年代の潮流のYBAs

 YBAsとして知られるヤング・ブリティッシュ・アーティスト(Young British Artists)は、1990年代当時のイギリスの大きなアートムーブメントになった、1980年代に美術学校を卒業したアーティストの一群を指します。
作品は、絵画、彫刻、映像、インスタレーションと多岐に渡り、ロンドン東部ドックランズにあった港湾局の空いた建物で、1988年(昭和63年)にダミアン・ハーストが中心となり「Freeze」展が開催されました。
 広告代理店として知られる「サーチ&サーチ」の経営者チャールズ・サーチのアートコレクションが、イギリスも含めて海外では広く知られています。
ロンドンにあるサーチ・ギャラリー(Saatchi Gallery)が、アートコレクションを展示するギャラリーとしてありますが、特に前述のYBAsのアートコレクションが最も充実しています。
 1991年(平成3年)にロンドンのサーペインタインギャラリーにてYBAsの「Broken English」展が開催された後に、1997年(平成9年)にロイヤル・アカデミー・オブ・アーツにて、サーチ・コレクションをもとに、「Sensation」展が開催され、社会的な現象としてYBAsは広く知られるようになります。

画像: 「Dysfunctional Family(機能不全家族)」1999年- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「Dysfunctional Family(機能不全家族)」1999年- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

画像: 「Miss Utopia(ミス・ユートピア)」2013年- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「Miss Utopia(ミス・ユートピア)」2013年- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

ポストコロニアリズム(ポスト植民地主義)

 第二次世界大戦以前の帝国主義の領土拡張政策における植民地支配期を、コロニアリズムといいます。
また、植民地化されていたそれぞれの社会や文化が解放され、独立した時期以後のことは、ポストコロニアリズム(ポスト植民地主義)と呼ばれ、コロニアリズムにおける文化的同一化は、様々な矛盾と複雑で深刻な社会を作りました。
 1989年(平成元年)、パリの美術館のポンピドゥー・センターでジャン・ユベール・マルタンによって企画された「大地の魔術師たち(Magiciens de la Terre)」展は、西洋・非西洋、民族資料(博物館)・美術作品(美術館)といった区別のなく、同時代の100人のアーティストの作品を均等に展示しました。
この展覧会は当時多大な影響をもたらし、ポストコロニアリズム、グローバリズム(世界の一体化)の文化表現の均等化といったマルチカルチュラリズム(多文化主義)の先駆的なものでした。
マルチカルチュラリズムとは多数文化(西洋文化)への文化的同一化に抗し、多種多様な文化を尊重することです。

画像: 「Odile and Odette(オディールとオデット)」2005年 ビデオスティル- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「Odile and Odette(オディールとオデット)」2005年 ビデオスティル- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

多民族国家のイギリスと世界

 1994年(平成6年)にロンドンでは、INIVA(新国際視覚芸術機構・Institute of New International Visual Arts)が創設されます。1980年代からのブラックアーティスト(非白人の意)によるブラック・アート運動が、1990年代に盛んになります。INIVA自体は、先のYBAsの活動と対照的に、文化的多様性、国際主義を唱えつつも、人種分離主義といった矛盾も抱えていました。
 1997年(平成9年)第2回ヨハネスブルグ・ビエンナーレにおいて、1963年(昭和38年)ナイジェリア生まれのキュレーターのオクウィ・エンヴェゾーが、テーマを「トレード・ルート(貿易の道)」とし、アートにおけるポストコロニアリズムを扱いました。その後も、ポストコロニアリズムや政治的な問題を扱った国際展を多くキュレーションし、2002年(平成14年)には、ドイツのカッセルにて開催されるドクメンタ11にも関わることになりました。

画像2: 「インカ・ショニバレCBE: Flower Power」展示風景- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「インカ・ショニバレCBE: Flower Power」展示風景- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

画像: 「Woman Shooting Cherry Blossoms(桜を放つ女性)」2019年- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「Woman Shooting Cherry Blossoms(桜を放つ女性)」2019年- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

「これがわたしたちのコレクション+インカ・ショニバレCBE:Flower Power」展

 インカ・ショニバレCBEによる国内初個展となる「Flower Power(フラワーパワー)」。1962年(昭和37年)ロンドン生まれ、現代のイギリスを代表するアーティストであるインカ・ショニバレ CBEは、ナイジェリアのラゴスで育ち、ダッチワックス(ろうけつ染め)と呼ばれるアフリカ更紗を用い、大航海時代を思わせる船、書籍、地球儀が頭になった人物像の彫刻によるインスタレーション、映像や絵画といったアフリカとヨーロッパの歴史的関係を表現した作品で知られています。また、名前の後につくCBEとは、大英帝国三等勲爵士のことになります。
 インカ・ショニバレCBEは、1990年代から活躍を始め、YBAsを紹介したロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの「Sensation」展でも紹介され、また、オクウィ・エンヴェゾーによるドクメンタ11にも「Gallantry and Criminal Conversation (情事と性交)」を出品しました。ドクメンタ11より前の1998年(平成10年)には「Diary of a Victorian Dandy」シリーズがロンドンの地下鉄駅の100箇所ほどに展示されました。
「Diary of a Victorian Dandy」シリーズは、「Flower Power」展にも出品されています。
 また作品で多く使われるアフリカ更紗は、アフリカの民族衣装で纏われる服飾のイメージがありますが、元々はインドネシアにルーツがあります。大陸間を越えた、大きな世界観を作品のなかに垣間見ることができます。
今回の「Flower Power」展では、福岡市美術館のリニューアルオープンを記念し、桜をモチーフとした非常に美しい新作を世界初公開しています。
 最後に「これがわたしたちのコレクション」展では、福岡市美術館でコレクションされた数多くの名作が、全館にて紹介されています。インカ・ショニバレCBEの「Flower Power」展とともに、じっくりと古今東西に思いを巡らせながら、美しい展示空間のなかで、福岡市美術館の開館以来の空前の規模のコレクション展示をみることができます。

画像: 福岡市美術館- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

福岡市美術館- photo(C)mori hidenobu -cinefil art review

福岡市美術館リニューアルオープン記念展「これがわたしたちのコレクション+インカ・ショニバレCBE: Flower Power」 概要
会  期:2019年3月21日(木曜日)〜5月26日(日曜日)
開館時間:9:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日:毎週月曜日 ※ただし、4月29日と5月6日は開館し5月7日(火)休館
入館料:当日券:一般 ¥1,500 65歳以上 ¥1,000 高大生 ¥1,000 中学生以下無料
    団体券:一般 ¥1,300 65歳以上 ¥800 高大生 ¥800  中学生以下無料
    特別観覧料 一律200円(「これがわたしたちのコレクション」のみ観覧可。当日券のみ)
会  場:福岡市美術館
     福岡県福岡市中央区大濠公園1-6
     phone 092-714-6051(代表)
     fax 092-714-6071
公式サイト:https://www.fukuoka-art-museum.jp/exhibition/renewalexhibition/
主  催:福岡市美術館 西日本新聞社 毎日新聞社 TNCテレビ西日本 FBS福岡放送 TVQ九州放送
共  催:NHK福岡放送局
助  成:公益財団法人野村財団 公益財団法人福岡文化財団 グレイトブリテン・ササカワ財団 大日英基金
協  力:ブリティシュ・カウンシル 西澤株式会社
後  援:福岡県 福岡県教育委員会 福岡市教育委員会 公益財団法人福岡市文化芸術振興財団 西日本鉄道 九州旅客鉄道

「福岡市美術館リニューアルオープン記念展『これがわたしたちのコレクション+インカ・ショニバレCBE: Flower Power』」cinefilチケットプレゼント!
ご提供組数 5組10名様

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、福岡市美術館チケットプレゼント係宛てに、Eメールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、記名ご本人様のみ有効の、チケットをプレゼントいたします。
チケットは、非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、
公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。

応募先Eメールアドレス
info@miramiru.tokyo
応募締め切りは2019年4月14日日曜日

記載内容
1.氏名<※必須>
2.年齢<※必須>
3.当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)<※必須>
4.ご連絡先Eメールアドレス、電話番号<※必須>
5.記事を読んでみたい監督、俳優名(複数回答可)
6.読んでみたい執筆者(複数回答可)
7.連載で、面白いと思われるもの(複数回答可)
8.連載で、面白くないと思われるもの(複数回答可)
9.シネフィルへのご意見、ご感想、などのご要望も、お寄せください。
また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせていただきます。

森秀信 プロフィール

1966年長崎市生まれ。
武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻修了後、現代美術センターCCA北九州リサーチプログラム修了。
主に現代美術の創作活動の他、展覧会のキュレーションやワークショップの企画を担当。専門は現代美術。

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