スタートしたcinefilオンライン上映!

cinefilオンライン上映は、東京、大阪を中心とした映画公開で見過ごしてしまった作品。
また、気になっていたものの近くで上映されなかった作品。
今までなかなかインディペンデントの作品を観る機会が少ない方。
そんな皆様へ、期間限定ですが、24時間いつでも、全国どこからでも、未配信の作品を中心に、ラインナップしてオンライン上での公開を考えています。

第一弾ラインナップより、初の期間限定配信作品『バーミー|BAMY』です。
今作は、イタリアの三大映画祭トリノ国際映画祭でコンペティション部門に選出された作品で、2017年のアジアのベストフィルムを選んだ”Asian Film Vault”でも第5位にランクインされるなど、海外で評判となった作品の国内初のオンライン上映。

"ミステリーと魅力溢れるこの処女作は、J-HORRORにピオリオドを打ち、フォームのこだわりとミニマリズム、グロテスクとアイロニー、ダークなテーマとクリアな目的が融和する作品である。驚くほど文字適りの巨大なフィナーレの前では、物事の(非)現実性と想像力のパワーを感じざるを得ない"(トリノ国際映画祭)

今回、webマガジンcinefilではオンライン上映中の4監督に作品に対する質問を投げかけました。

第二回『バーミー|BAMY』田中 隼監督

©︎バーミー製作委員会

●本作の企画がどのような経緯で立ち上がり、どのようにストーリーを作りあげていったの教えて下さい。

当初はハルベリーオフィスという俳優プロダクションの若い俳優さんをキャスティングしたプロモーション短編映画を作りませんか?という流れでした。予算は10万とか15万だったと思います。その中で私の方から「どうせだったら中編にしませんか?」「いっそのこと長編にしませんか?もしかしたらその方が観てもらえる機会が増えるかもしれません。足り無いお金は私が出すので・・・」と提案し、今の形になりました。

とはいうものの予算も殆どありませんし、そもそも基本的な制作スタッフはハルベリーオフィスの俳優さんたちが兼ねる、という製作体制だったのである種の覚悟と担保を持った企画を考える必要がありました。

そういう状況で私が担保にしたのは「室内で傘をさしている女性は狂って見える」というアイデアでした。じゃあ、傘で一本の長編映画を作るにはどんな物語があるか、という流れで生まれたストーリーです。

●トリノ国際映画祭のコンペティション部門で上映されたときの様子をお聞かせ下さい。(映画祭の様子、観客の反応等。)

あくまで個人的な感覚ですが、イタリアはヴェネチア、トリノ、ローマという三つの主要な国際映画祭があり、その中の二つ(ヴェネチア、トリノ)がAカテゴリ(FIAPF公認)という映画文化としての伝統国です。だからかどうかはわかりませんが映画祭そのもが批評の目にさらされている、という雰囲気を感じました。作品そのぞれのレヴューだけでなく、映画祭やそのプログラミングディレクターが批評される対象で、賛否両論、様々な記事が出ています。面白かったのは映画祭の会期中、イタリアの国営放送でヴェネチア、トリノ、ローマ、各映画祭の代表が集まり互いの映画祭について「今年のセレクションは・・・」とか「スポンサーにおもねり過ぎだろ?」などの討論番組が行われていることでした。なんというか・・・とてもうらやましかったです。日本でもこういう雰囲気があるといいのにな、と思いました。各映画祭が牽制しつつも連携し各々のブランディングを確立する、とても素敵でした。トリノはマーケットが併設されていないことやヴェネチアとの差別化を図るために独特なセレクションをしている映画祭です。

プレススクリーニング後の公式記者会見で受けた主な質問は「不思議な作品だ。これ、一体何なの?」「特徴的な音楽の使い方について」「黒沢清監督の影響について」でした。概ね想定通り。イタリア以外の映画祭で受ける質問もおおよそこのパターンです。

スクリーニングは4回でした。映画祭のブランディング努力はもちろん、日本作品がメインコンペに選ばれたのは数年ぶりということもあり、初回の上映を600席完売で迎えることが出来ました。当然ヨーロッパの映画祭なので作品に不満があれば容赦なく席を立たれます。しかしこのスリリングな感覚が癖になるほど刺激的で幸せでした。

バーミーという作品は「観客と共犯関係を築けるか否か」「主人公に感情移入せずに映画や自分を俯瞰で見られるかどうか」がキーポイントなのですが、感情表現に照れの少ないイタリアの観客とは出来過ぎな程、相性が良かったようです。作品中盤からは大いに笑いが起こり、終盤のとある箇所では音楽ライブのような歓声のあと、間髪入れずに感嘆のため息が漏れるという「嗚呼、届いたね、伝わったね」感を充分すぎるほど実感出来ました。

とはいうものの・・・各種媒体のレビューでは評価が真っ二つ。ある媒体には「ゴミ」「大炎上の国際映画祭デビューとなるだろう」などと表して頂き、とある媒体には「エレガント」「本年、最高のサウンドトラック」「魔法のようだ」とお言葉を頂きました。どうやら「ゴミ」と「エレガント」は紙一重のようです。因みに席を立たれた方は30人も居なかったそうで、ホッと胸を撫で下ろしました。

●国内での劇場上映時のお客さんの反応はいかがだったでしょうか?

国内も海外も伝わり方に変わりはありません。こちらが不安に感じる必要もないほど的確に、細かいところまで理解し、面白がって頂けました。ただ、日本のお客さんの方が周囲の反応を気にしながら映画を観ているような気がしました。笑っていいのか、それとも怖がっていいのか、というのは当然狙いの一つでもあるわけですが、日本の方々は良くてクスクスです。ドイツのニッポンコネクションという映画祭で上映した時のドイツ人のお客さんと雰囲気が似ていました。

ただ純粋なホラー映画に違いない、と思って劇場に足を運んでいただいた一部のお客さまからは、もはや怒りにも似た感情・感想を頂くこともありました。こちらとしてはホラー映画としてプレスリリースをうってはいないのですが、各種媒体に掲載される際、どうしてもホラー映画として紹介されてしまい、どうしたものかと頭を悩ませました。ホラーが嫌いな人は観に来てくれないし、ホラー好きの方は観に来てくれて怒って帰る、という劇場公開でした。宣伝は難しいです。

©︎バーミー製作委員会

●幽霊を恐怖の対象としてのみ描く通常のホラー映画とは全く違う点が特徴的な本作ですが、後半は主人公の行動によりどんどんその傾向が強くなり、時には笑ってしまうようなシーンも多々あります。どのような意図で、幽霊をこのように扱ったのでしょうか?

映画の中で男女のすれ違いを描こうと思った時、多くのケースで”視線”が使われています。視線が合っている、合っていない、見ている、見ていない、などです。この視線劇という映画的なモチーフをもっと分かりやすく、娯楽的にしたいと考え、見える、見えない、という作劇を採用することにしました。見える、見えない…じゃあ、幽霊でしょう、ということで幽霊が登場することになったのです。

しかし言うは易し行うは難しで実際に幽霊を登場させようとすると嫌でも幽霊のルールを考えなくてはいけません。足はあるの?白いの?飛ぶの?それとも普通の人間と変わらない?などパターンはいくつも考えられます。まあ、リアリティをどうこう言っても正解のない話ですから主人公の設定からヒントを探りました。佐伯の設定が「生まれつき幽霊が見える男」なのでいまさら大きく驚いたり怯えたりはしないだろう、でも、無反応は映画として成立しない、じゃあ、それに近い身近な存在は何だろう?と考え、ゴキブリに辿り着きました。暗いところに居て戦えば勝てるけれども触りたくない、同じ空間にいるのは嫌だ、気味が悪い、というイメージです。

●大量の赤い傘が空を舞う映像が圧巻でした。この「赤い傘」がストーリー上とても重要なものとして出てきますが、その正体については劇中では明確に説明はされていなく、何故「傘」なのかも謎のままです。そしてストーリーのみならず、スタイリッシュな映像や、作品自体の印象付けにも大きな影響を与えていると感じました。どのようにしてこのアイディアが生まれたのか、また「赤い傘」についての設定、バックグラウンドがありましたら是非教えて下さい。

「運命の赤い糸は呪いだ」がこの映画のキャッチコピーでチラシ等に散々明示していたので十中八九、”運命の赤い糸的なもの”ってことは伝わると思ったのですが甘かったのでしょうか・・・伝わりづらかったですか?実はこの映画の真の主人公は赤い傘なんです。チラシやポスターも赤い傘のクロースアップ。主演俳優さんの顔が大写しなっているタイプのポスターと同じなんです。

まあ、それはさておき、傘を選んだ理由はまず第一に持ち運びが簡単ですぐに用意できる、そしてそんなにコストが高くないわりにカメラで撮ると存在感があり、どこかエレガント、ということです。また、動いたとしてもそれが風のせいで偶然動いたように見えるということもあります。

二番目の理由は「一見して何の変哲もないようにみえる存在が実はとてつもなく恐ろしいものだった」というテンプレートが私は好きなのです。

●主人公の言動もかなり面白かったです。ラスト近くカフェのシーンでも主人公が自分の感情を吐露するシーンがありますが、あまりに正直すぎて清清しいくらいです。人間味はありますが、物語の主人公のセリフとしては珍しいと思います。この主人公のキャラクター作りについてお聞かせ下さい。

“清々しい”と言ってくださり本当にありがとうございます!そもそもバーミーというタイトルは”清々しい”という意味の英単語、balmyが語源なんです。私のスペル間違いで現在のBAMYになってしまいましたが、映画の大きな方向性として”観終わった後、清々しい気持ちになる”というコンセプトがあったのでそう感じて頂き嬉しい限りです。

主人公のキャラクターは事前に作り込んでいたわけではありません。映画全体のコンセプト、演じてくれた行永さんの人間性、そして終盤は「風の中の雌鶏(小津安二郎監督)」のような世界観で撮る、という思いから生まれたセリフです。ほんと最低なセリフですよね(笑)。私自身もとても気に入っています。こいつ本当にダメなやつだ、自分勝手だ、お前が言うなよ、というのが端的に伝わればいいなと思って脚本に書きました。カフェのシーンのテーマの一つが「お前ら勝手にやっていろw」だったのでどうやら上手くいったようです。

●怒涛のラストの展開は脚本の初期段階から変わっていないのでしょうか?

大きな流れはプロット段階から変わっていません。もちろんディティールはロケハンを進める中で決めて行きました。私は常々、本打ちよりもロケハンに時間を費やしたいと考えています。場所から生まれる現実的なアイデアによってそのシーンの強度が変わってしまうからです。なのでシナリオ段階ではその強度が不明瞭でついつい説明が増えてしまう癖があります。いろいろ可能性を書いておかないとロケハンの日程に組み込んでもらえないという現実的な問題があるにせよ、今後の反省材料です。

●行永浩信さん、中里広海さん、柘植美咲さんをキャスティングした理由を教えて下さい。

先ほどお話ししたように基本的な出演者はハルベリーオフィスさん所属の方々、というルールからスタートしています。当時、行永くん、中里さん、柘植さんは皆ハルべリーオフィスに所属(柘植さんは仮所属)していました。彼らは自主的に合同の演技ワークショップを行っていました。その様子を見学に行きキャスティングを決めました。オーディションはしていません。

行永くんの魅力は「何を考えているのかちっともわからない」「何をしでかすか想像もつかない」ということでした。映画の中では「抗えない大きな力に翻弄される」「でもそれに気づいてすらいない」という役どころでしたので彼のもつ捉えどころのなさ、純粋さが上手くハマったと思っています。

中里さんはとてもクレバーな方でした。舞台上の演技でも見えていない周辺を想像させる動きが出来ていたのを記憶しています。つまりは演じながら演出もしているということでしょう。

それに何度も同じ演技が出来るのも頼もしかったです。予想できない行永くんと正確な演技の中里さん。二人のバランスにとても救われました。

柘植さんは中里さんと全く逆の印象を与える女性、という観点でキャスティングしました。とてもタフな精神を持っている方です。力強さ担当、といった感じでしょうか。撮影中どんどん演技が成長していったのを今でも覚えています。

©︎バーミー製作委員会

●映画美学校のドキュメンタリー・コースを出ていらっしゃいますが、今まではドキュメンタリーをメインに制作されていらっしゃるのでしょうか?

いえいえ、ドキュメンタリーコースに行きましたが本当に不真面目な生徒で、ほとんどドキュメンタリーは撮っていません。ただ、映画美学校のドキュメンタリーコースで教えて頂いた「ドキュメンタリーとフィクションに違いはない」という事実は今も役に立っています。

●本作の制作において、特に監督がこだわった部分がありましたら教えて下さい。

登場人物への感情移入を抑制しつつ最後まで映画を観続けてもらえるよう工夫する。そのことによって映画を、そして映画を観ている自分自身を俯瞰で観ているような感覚を楽しんでもらう、ということです。観る側、観られる側の関係をグラグラと揺さぶりたかったのかもしれません。

画像4: ©︎バーミー製作委員会

©︎バーミー製作委員会

●影響を受けたものを教えてください。文学、映画、その他ジャンルは問いません。

映画祭などで出会った監督の方々とお話しする際、いつも質問していることがあります。それは「好きな監督を3人だけあげてください」という質問です。その監督さんの作品を観た後、この質問に答えてもらうことで、とてつもなく迅速にその方の目指しているものが伝わり、仲良くなれるような気がしています。因みに、私は①テオ・アンゲロプロス、②高畑勲、③ロバート・ゼメキス、と答えています。

●次回作の計画などはございますか?もしくは、撮りたいテーマとかあったら教えてください。

計画はもちろんあります。まだ準備中ですけど。

テーマは常に「映画という装置の凄まじさ、豊かさを伝えたい」です。

そんなこんなで現状取り組んでいるモチーフは「奇跡に取り憑かれる女」と「ドッペルゲンガー」です。

●今回の期間限定オンライン上映についてコメントをお願いします。

映画館で映画を観るのが映画にとって幸せなことであるのは今も昔も、そしてこれからも変わらない事実だとは思います。ですが、オンライン上映(配信)と劇場公開が敵対する存在ではないことも事実だと最近は考えています。例えば、最初は手軽に配信で作品を観て興味を持ち、その後劇場で観直してスクリーンならではの面白さに気付く、なんてことも当たり前になってくるのだと思います。

とはいうものの、現状、配信は二次利用の範疇であるがために限られた作品以外パブリッシュが難しく、もし配信を開始したとしても作り手自ら情報を発信するしか宣伝の術がないというのが現実だと思います。

映画が産業として続いていくためにはブランディングと宣伝が欠かせません。通常、作り手がパブリッシュをする相手であるwebマガジンcinefilさん自らが作品をセレクション(ブランディング)しプラットフォームを持つGAGAさんと連携して作品の配信を行う今回の企画はブランディングと宣伝(情報発信)の両方を同時に行える魅力的な配信方法だと感じました。今後、各媒体も自らのブランディングも兼ねた作品のセレクションを行うようになるのではないか、そうなったらいいなあ、と考えています。

2017年 日本、香川県生まれ。東京都在住。
滋賀大学経済学部を卒業後、映画美学校ドキュメンタリー科にて佐藤真・筒井武文らに師事。
2017年、初長編「バーミー/BAMY」が第35回トリノ国際映画祭メインコペティション部門に選出。シネマカリテにて劇場公開。

『バーミー|BAMY』予告

画像: 映画「バーミー / BAMY」劇場予告編 / Trailer 90sec. youtu.be

映画「バーミー / BAMY」劇場予告編 / Trailer 90sec.

youtu.be

運命の赤い糸は、呪いだ
世界を震撼させた "J ホラー"の新たな形。不穏な怪作『バーミー』が日本を呑み込む

[STORY]
田代史子は大学の後輩・佐伯亮太と再会した。奇跡的な再会は二人を急速に惹き合わせ、結婚へと向かわせた。しかし佐伯は他人に言えない能力に悩まされていた。それは、幽霊が見えてしまうということ。幽霊が見えない史子との生活は徐々にすれ違い、破綻していった。

そんな中、佐伯は幽霊に怯える女・紗英と出会う。史子から逃げるように紗英にのめり込ん でいく佐伯。しかし、一度発動した奇跡は二人が離れることを許さなかった。

出演
行永浩信、中里広海、柘植美咲、桂木悠希、柳 東史

監督・脚本・編集 田中 隼
プロデューサー 飛山拓也
共同プロデューサー いずみよしはる

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