京都ヒストリカ国際映画祭 リポート

『乙女たちの秘めごと』The Sowerトークショー

美しい南仏の村を舞台に、ひとりの男を巡って

画像1: © Les Films du Worso - Versus Production - 2017

© Les Films du Worso - Versus Production - 2017

女性たちが繰り広げる葛藤を描く『乙女たちの秘めごと』トークショー。

 10月28日(日)、第10回京都ヒストリカ国際映画祭ヒストリカ・ワールドとして京都文化博物館にて『乙女たちの秘めごと』が上映されました。

画像: 左より映画批評家の大寺眞輔さん、中央 マリーヌ・フランセン監督

左より映画批評家の大寺眞輔さん、中央 マリーヌ・フランセン監督

ナポレオン政権下でフランス革命の波が吹き荒れた1850年代、フランスの美しい村で起きた“秘めごと”とは…。

 上映終了後、マリーヌ・フランセン監督を迎え、トークショーが行われました。
聞き手は、映画批評家の大寺眞輔さん。ミヒャエル・ハネケやオリヴィエ・アサイヤスといった巨匠たちの下で助監督を務めたキャリアを持つ監督ならではの、この映画に込めた思いをお届けします。

 冒頭から、村の男性がレジスタンス活動で全員捕らえられてしまうショッキングな展開から始まるこの作品。男手を失った女たちは、生き残るために慣れない農作業に挑み、ある約束をします。“もし男がやって来たら、皆で共有する…”。そこへやって来た謎の男・ジョンは、村の娘バイオレットと恋に落ちますが、村の女性たちはもちろん、黙っていません。

画像2: © Les Films du Worso - Versus Production - 2017

© Les Films du Worso - Versus Production - 2017

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実在した女性が遺した手記から生まれた、美しくも過酷なサバイブ。

監督:主人公のバイオレットは実在した女性です。彼女が亡くなる直前に自分や村の話を20ページほどの本にまとめて子孫に遺しました。彼女の死後50年経って、子孫によって紐解かれたのです。この本を、私の友人がある日、我が家での夕食の機会に花の代わりに持って来ました。私は別の作品のシナリオを書いていたのですが、この本に魅了されたのです。ストーリーもさることながら、詩的情緒にあふれる文章の力を映画で表現するのが、私の一つのチャレンジになりました。そして個人的レベルの話ではありますが、私がちょうど第二子を妊娠したことがわかった時だったので、この物語に興味を持ったのです。

大寺:撮影場所はどうやって選んだのですか。

監督:原作では南フランスでもプロヴァンスなんですが、撮影は中央山間のセベンヌ地方で行っています。こぢんまりした小さな村が、世界から孤立した場所に合っていました。そして気候は厳しく、夏暑く冬寒く、時に激しい雨が降る山岳地帯ですが、まるで私のシナリオに合わせて作られたようにイメージぴったりで、限られた予算でも何かを変えたりする必要がなかったのです。谷間にしがみつくように広がる村で、地形的なものもこの女性たちの境遇にぴったりでした。

大寺:どのようにこの作品を演出されましたか。

監督:女性の農民の年代記になるような罠にはまってはいけないと思いました。女性が仕事を通して生き残るためのサバイブを描きたかったのです。絵葉書のように綺麗なだけの映像になることは避けたかったので、スタンダードサイズ(1.33:1)フォーマットを選び、カメラは肩にかけて運べる移動性の高いものを選びました。女性の体に接近して撮ることが可能になったので、彼女たちの労働を身体的感覚で捉えることができたのです。ワイドな画面で土地の美しさを生かして撮っていたら、オリジナルではなく古典的な映画になってしまったと思います。

農作業の収穫は生存にかかっています。小麦ができないと自分たちも家畜も食べるものがなくなり、村を出なくてはなりません。村を出るということは自由を失うことなのです。農民が自分たちの土地を失って都会に行くと、男性は工場などの労働者に、女性は金持ちブルジョワのお手伝いさんになるくらいしかなく、肉体的には楽かもしれませんが、自由を放棄してしまうことになるのです。

画像3: © Les Films du Worso - Versus Production - 2017

© Les Films du Worso - Versus Production - 2017

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“種をまく人”を求める女性の欲望は、新しい生命を手に入れるためのもの。

大寺:原題の『The Sower(=種をまく人)』はWミーニングというか奥行きのあるタイトルですね。男たちが投獄されてしまい、女だけが残された村で、働き手を失って女性が農作業をしなくてはならない「種まき」と、子孫を残すための「種まき」を意味しています。

監督:最初は気に入らなかったのですが、想像力をかきたてるとフランスでは配給の人たちが気に入り決定したのです。スペインやドイツでは『読むことができる女』を意味するタイトルで公開されました。村の中でバイオレットだけが文字を読むことができて、ジョンと読書を通じて親密になり恋に落ちます。バイオレットは父親に文字を学び、捕らえられた父親にはもう会えなくても思い出を過去にしないように、子供たちに字を教え、読書を広めていくのです。原作にはどんな本を読んだかは書かれていないので、時間をかけてリサーチをし、政治的にコミットするヴィクトル・ユーゴーと、啓蒙主義を代表する哲学者でもあったヴォルテールを選びました。

大寺:多くの女性がひとりの男を共有するというテーマは、クリント・イーストウッド主演『白い肌の異常な夜』を彷彿とさせます。

監督:この映画のプロモーションで世界を回っている時に、『白い肌の異常な夜』やソフィア・コッポラ監督でリメイクした『The Beguiled/ビガイルド欲望のめざめ』を見たかとよく尋ねられました。でも、これらの作品は、女性の欲望を描くというより男性が去勢されてしまう恐怖を男性側の気持ちで描いているのではないでしょうか。私の作品は全く反対の方向で、新しい命を生み出すため、前に進むための女性の欲望を描こうと思いました。

世の中の多くの映画が男性の欲望の対象としての女性を描いています。それを逆転したかったのです。女性が男性を求めることは、セクシャルな欲求もありますが、自分たちが存続するためのサバイブという二重の理由があるのです。今作で扱っているテーマは、第一に女性の欲望。第二に政治的に抑圧された人の抵抗。第三に共同生活が成り立つためのルール。これは今の時代にも通じる問題であり、過去を借りることで現代の思想を豊かにしてくれると思います。

画像: マリーヌ・フランセン監督

マリーヌ・フランセン監督

マリーヌ・フランセン
フランスの田舎で生まれ、文学と歴史を学ぶためパリに上京。1999年~2012年まで映画制作会社に助監督として勤め、ミヒャエル・ハネケ、オリヴィエ・アサイヤスなどの長編作品に携わる。その間、ドキュメンタリー1本、フィクション3本の短編を制作。2005年には、フランスの大手週刊誌Teleramaにて写真取材を行った。『乙女たちの秘めごと』は、サンセバスチャン国際映画祭にてニュー・ディレクター監督賞を受賞した他、サンフランシスコ国際映画祭新人監督賞や、ルミエール・アワード最優秀撮影賞にノミネート。

大寺眞輔〔映画批評家〕
映画批評家、早稲田大学・日大芸術学部講師、新文芸坐シネマテーク主催、IndieTokyo主催。字幕翻訳。「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」でデビュー。「キネマ旬報」「文學界」などの雑誌や産経新聞、i-D Japanなど、さまざまな媒体で執筆。テレビ出演や講演多数。主著は「現代映画講義」(青土社)「黒沢清の映画術」(新潮社)。ジョアン・ペドロ・ロドリゲス・レトロスペクティヴ開催。2015年から洋画を独自に配給公開。ジャック・リヴェット『アウト・ワン』を日本上映。最新活動や連絡はIndieTokyoホームページで。

画像: 記念にサインを書き込むマリーヌ・フランセン監督

記念にサインを書き込むマリーヌ・フランセン監督

『乙女たちの秘めごと』The Sower 日本版予告

画像: 『乙女たちの秘めごと』The Sower 日本版予告 youtu.be

『乙女たちの秘めごと』The Sower 日本版予告

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 この映画の前に上映された『欲望にさそわれて』も、フランス革命がパリではなく地方の田舎町に及ぶ影響を、偶然にも同じようにスタンダードサイズを選んで描いています。
フランス革命から200年以上経った今でも、人々が様々な抑圧の中で摑み取ろうとする欲求は、世界の紛争地帯の問題や、映画界にも吹き荒れた「♯MeToo」を彷彿とさせる女性の人権問題にもつながるのかもしれません。

 第10回京都ヒストリカ国際映画祭の最終日、11月4日(日)にも『乙女たちの秘めごと』『欲望にさそわれて』が2本続けて上映されます。
『乙女たちの秘めごと』は日本でのDVD発売が決定していますが、スクリーンで見ることができる貴重なチャンスです。
美しい南仏の自然の中で繰り広げられる女たちのサバイブの結末を、ぜひご覧ください。

京都ヒストリカ国際映画祭
会期 2018年10月27日(土)ー11月4日(日)

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