題名のBDとは、Boys Detectiveの略で、少年探偵団のこと。
江戸川乱歩が創作した名探偵明智小五郎を先生と慕う少年たちが、奇妙な事件に巻き込まれるが、明智の少年助手である小林君の機智と機転で大逆転となる。乱歩も「二人が心を合わせて活動すれば、どんな怪盗も、どんな魔人も、物のかずではありません。日本一の名探偵、そして、日本一の少年助手」とほめそやしているほど。
この名探偵と少年探偵団という人間関係は、最も有名な探偵、すなわちシャーロック・ホームズとベイカー街不正規隊(イレギュラーズ)がモデルになっており、他のジュヴナイル・スリラーの多くが踏襲しているところだ。

 誰も本当の顔を知らないという怪人二十面相が毎回、奇抜な変装、トリックを駆使して人々を恐怖に陥れ、財宝を奪っていくが、いつも明智に正体を見破られ、捕縛される。だが、次作では捕まっていたことには何の言及もなく、自由の身で新たな犯行を実行する。お約束といえばお約束だが、子供心に納得いかねぇと思った覚えがある。

 TVドラマへの脚色も数多いが、映画は1950年代に松竹と東映が製作。54年12月に三部構成の「怪人二十面相」と四部構成の「青銅の魔人」が若杉英二の明智小五郎、諸角啓二郎の二十面相で作られ、松竹が配給した。56年に東映で「妖怪博士」と「二十面相の悪魔」、57年に「かぶと虫の妖奇」と「鉄塔の怪人」、「二十面相の復讐」と「夜光の魔人」、58年に「透明怪人」と「首なし男」、59年に「敵は原子潜航艇」が作られた。東映九作品は最終作を除いて二部構成で、岡田英次、波島進、梅宮辰夫らが明智小五郎を演じていた。

 町はずれの場所に建つ古ぼけた明智探偵事務所につめているのは、小林芳雄と彼を慕う井上一郎、なぜか入りびたっている花崎マユミの三人。いずれも小説に登場するキャラクターと同じ名前だが、小説の井上一郎は団員の中でいちばん大きく力も強い小学生、花崎マユミは明智夫人の姪で少女助手だ。もともと、少年探偵団は小学生や中学生で構成され、“悪者をつかまえるために、子供にもできるようなことをやって、世の中のためになろう”というのが趣旨。だが、夜中の仕事は団員たちにはやらせられないので、浮浪児を集めて少年探偵団チンピラ別動隊を作り、彼らに怪しい人物を尾行させたり、見張りをやらせることにした。チンピラの更生の一環でもあるというわけだが、映画の探偵団員はこのチンピラ別動隊に近いようだ。

 小説同様、明智先生は別の事件で手を離せない(映画の冒頭で怪人二十面相を倉庫に追い詰めながら逃げられていた)という状況なのに、行方不明の娘を探してほしいという母親がやってきた。先生がいないので、自分たちで調べることにした小林は、少年探偵団に捜査協力を依頼する。彼らは以前はチンピラだったが、小林のわけへだけせぬ姿勢と剛毅な性格に打たれて更生し、彼の頼みなら何でも聞くという連中だ、町々を聞き込みに回っているうちに、失踪者が他にも多数いること、また街のここかしこに奇妙な図形が描かれていることが判明する。失踪者たちはこの図形を追って行方不明になっていた。少年探偵団の活躍で、ある組織の非道な実験が明らかになってくる。

 本作は59年ぶりの「少年探偵団」もので、ストーリーはオリジナルだけど、松竹・東映の作品だって大幅に改変されていて「少年探偵団」と銘打っても、実質は明智小五郎活躍譚だったことを考えると、少年探偵団の活躍を描くのはこれが初めてといえよう。
監督は香川県坂出市出身の名倉良祐で、坂出市でロケ撮影が行われた。小林芳雄に小澤廉、井上一郎に寺坂頼我、花崎マユミに前田希美、そして明智小五郎に小木茂光が扮している。

画像: 北島博士のおもしろ映画講座 第45回 59年ぶりの「少年探偵団」ものの映画化『BD-明智探偵事務所-』

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

映画「BD〜明智探偵事務所〜」予告

画像: 【予告編】映画「BD〜明智探偵事務所〜」 youtu.be

【予告編】映画「BD〜明智探偵事務所〜」

youtu.be

This article is a sponsored article by
''.