cinefil連載【「つくる」ひとたち】インタビュー vol.4

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今回は【すれ違わないふたり】というテーマで、同じ映画に関わるお仕事をしていても、な かなか出会う機会の無いふたりの対談インタビューを行いました。神奈川県鵠沼海岸にある映画と本とパンの店「シネコヤ」の竹中翔子さんと、映画『止められるか、俺たちを』に出演している女優の中澤梓佐さん。出会う方が少なくて、出会わない方が圧倒的に多い世の中ですが、対談を通して出会ったふたりから、どんなものが生まれるのでしょうか。

ーー中澤さんは今回はじめてシネコヤに来てみて、どうですか?

中澤:すっごく居心地が良くて落ち着く空間だなと思いました。わたし本当に「映画と本とパン」が好きなので、一人になりたい時に一日中居たい場所だなって。
竹中:嬉しいです。ありがとう御座います。

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映画と関わりはじめた切っ掛け

ーーおふたりが映画に関わり始めた切っ掛けはなんですか?

竹中:最初は映画の作り手を目指していて、映画を作る大学に通っていたんです。大学時代 に「社会の仕組みに不満があることを変えたい」みたいなことを思っていて、その手段を考えた時に、幼稚園を作ることと、もうひとつ何だろう・・・?って考えた時に、「あ、映画 作りたい」って思ったのが切っ掛けですね。

ーー社会に対して影響力があるものを作りたい=映画だったんですね。

竹中:社会に対して、何か変えたいって思った時に手段として、「映画」というものにすごく魅力を感じたんです。

画像: 映画と関わりはじめた切っ掛け

ーーなるほど、素敵ですね。中澤さんは何が切っ掛けでしたか?

中澤:わたしは地元が高知なんですけど、田舎で、遊ぶ所があまり無いんですよね。唯一の遊びが映画館に行くことで。都会の子からしたら考えられない位の頻度で映画館に行ってていました。映画館に行くことが日常だったので、昔から身近にあった娯楽だったんです。あとは家族でも映画をよく観に行ってました。『ホーム・アローン』と『007』あたりは何回も観てましたね。

街が持っている風景の大切さ

ーー竹中さんがシネコヤを作った切っ掛けを教えてください。

竹中:働いていた映画館が無くなってしまっていたことが大きかったですね。大学に行って自分が住んでいた街で遊ばなくなって、たまに戻って来た時に、「あれ、景色が変わってる」って思うことがあって。特に藤沢駅周辺はチェーン店がすごく増えたんですよね。「そういう街になっていくのか?この街は」って思った時に、ちょっと寂しいなっていうか、イラっとして(笑)。自分が一番思い入れのあった映画館が無くなる時に、嫌だなって思ったのが切っ掛けですね。

ーー暮らしていた街の風景の変化は、確かに違和感を感じますね・・・。

竹中:その街ごとの風景ってあるじゃないですか。チェーン店ばかりになってしまうと、どこの街へ降りても全部同じになってしまうというのが面白くないなと。シネコヤのある鵠沼海岸商店街は、個人店も残っていて、昔からやっているお店も営業しているので、元気な方だと思います。商店街の中に自分のお店を持ちたいと思って新しい人たちも集まって来ている人も多い地域なので、まだまだ頑張れる!って思いますね。

画像1: 街が持っている風景の大切さ

ーーシネコヤで流している作品は、竹中さんがセレクトされているんですよね?

竹中:はい、わたしが本も映画もセレクトしています。

ーーセレクトのポイントや基準はあるのでしょうか?

竹中:必ず聞かれる質問なんですけど、あんまり無くて(笑)。
一同:(笑)。
竹中:オープンした時は、自分が少しでも良いなって思うポイントが無いと出来ないって思っていたんですけど、だんだん観る幅も視点も広がってきているので、最近は、自分の好みではない作品もやっています。「シネコヤ、こういう作品もやるんだ」みたいな感じで、今年はメジャーとかマニアックとかジャンルを気にせずに、振れ幅を出していきたいなと思っています。

画像2: 街が持っている風景の大切さ

ーーお客さんの幅も広がりそうですね。ちなみに竹中さん自身はどのような作品がお好きなんですか?

竹中:結構雑種で・・・(笑)。ピンポイントで「この作品好き!」みたいなことはあるんですけど、自分でもそこに繋がりが見出せなくて(笑)。劇映画は、ドキュメンタリータッチに撮られている方が好きで、ドキュメンタリーは、感情が入っている、ちょっとドラマ性のある作品が好きです。

ーーその視点、面白いですね。

竹中:劇映画で良いなって思うものは、ちょっと手法がドキュメンタリータッチのものが多いんです。たぶん現実味があるものと、フィクションの丁度良い案配の作品が好きなんだと思います。

映画の気配を感じられる空間作り

ーー中澤さんは、シネコヤで観るとしたらどんな作品が観てみたいですか?

中澤:うーん、なんだろう?(笑)。先ほどの竹中さんのお話の中で、「自分が好みではない作品も上映する」という考えが良いなって思いました。わたしは役者として、映画を観る人が少なくなっている現状の中、より多くの人に映画館で映画を観て欲しいって思っているんで。
竹中:わたしたちも作品をセレクトする時、まさにその部分を考えています。間口は広くしておいて、でも、届けたい作品もきちんと上映できるような場所にしたいなと。シネコヤが映画だけではないというのも、間口を広げるっていう意味もあるんですけど、映画だけだと、映画を目的にした人しか来ない場所になってしまうので。そうじゃない人も身近に映画の気配を感じられるような空間を作りたいなって思っています。この街の中に「映画文化がある」っていうのを感じてもらえるんじゃないかなって。

画像1: 映画の気配を感じられる空間作り

ーーふらっと本を読みにくるだけでも良いですよね。

竹中:シネコヤは、普通の映画館ではなくて、1階奥と2階が有料スペースの貸本屋を主体にしたお店なんです。食事しながら本を読んだり、映画を観れるというシステムで。そこの利用料として時間で頂いているので、もちろん本を読みに来るだけの方も居ます。漫画喫茶の本と映画バージョンみたいな感じですね(笑)。

画像2: 映画の気配を感じられる空間作り
画像3: 映画の気配を感じられる空間作り
画像4: 映画の気配を感じられる空間作り

ーーなるほど!まずはシネコヤに来て、映画・食事・読書を自分のタイミングで楽しめるという、場所ありきの動きも新しいし、素敵ですね。

竹中:シネコヤに来たら、ちょっとした異世界・異空間に居る感じをもっと出せたら良いなって思っているので、空間の作り込みはもっとやっていきたいです。鵠沼の商店街も含めて、もっとこの街を楽しんでもらえると良いなって思っています。

実現したいことを公言することがエネルギーになる

ーー中澤さんから竹中さんに聞いてみたいことはありますか?

中澤:先のビジョンというか、何年先にどうなっていたいって考えることはありますか?
竹中:あります。わたし結構その辺の妄想は具体的で(笑)。シネコヤを作りたいって思い はじめたのは遡ると10年くらい前なんですけど、最初はボランティアベースの上映会をやっていたんです。その後、有料上映に切り替えて、有料上映を3年やったらお店を持つっていう感じで、ざっくりですけどしっかり決めてはいました。こうなっていたら良いなっていうのは、プライベイト含めて結構妄想しています。

画像1: 実現したいことを公言することがエネルギーになる

ーー今は妄想通りに進んでいる最中ですか?

竹中:概ねって感じですね。前後したりとか、遅れたりとか、実現出来ないことももちろんありますけど。
中澤:そういうプランや妄想って人に話しますか?
竹中:ものによる・・かな?でも文章にはします。文章にして、自分で何度かバージョンアップしていきますね。シネコヤの活動をはじめた時は、こういうお店を作りたいっていうお店のイメージ図みたいなイラストを書いてもらって、「このお店を作りたいんです」って見せて回りました。

ーー中澤さんも同じようにプランを細かく考える派ですか?

中澤:わたしもすごく考えますね。現実的なビジョンと、自分の中での夢や妄想のビジョンはありますけど。
竹中:そのビジョンは言って回るんですか?
中澤:結構言いますね。本気でやっているので、みたいな。
竹中:公言するのはすごくいい方法だと思います。「この人本気なんだな」っていうのが分かるから。口ばっかだと言われるケースもあるけれど、それでも続けていればこっちの勝ちなので(笑)。
中澤:言うことによって、辞められないという風に自分を追い込んでます(笑)。それがエネルギーになったりしますしね。

ーーまだまだやりたいことはたくさんあるのですか?

竹中:妄想レベルではたくさんありますね。

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竹中 翔子
神奈川県藤沢市出身。 東京工芸大学映像学科映画研究室卒。学生時代「フジサワ中央」のアルバイトスタッフを経 験し、映画の魅力にハマる。
2009年より「シネコヤ」の構想をスタート。映画館の閉館を 受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではな+αの空間づくりを目指し、無料の 上映会の企画などを経て2013年春独立。「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。2013年〜鵠沼海岸のレンタルスペース「アイビーハウス」で毎月2回、フードや会場演出を こらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」を オープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイル の空間づくりを行っている。

中澤 梓佐
(株)ゼロ・ピクチュアズ所属。1988年、高知県生まれ。26歳の時に幼い頃から憧れていた俳 優を志し、前職を辞めて上京。2016年オムニバス映画『スクラップスクラッパー』内の一 編『shadows』(羽生敏博監督)で初主演を務める。以後、映画・ドラマ・CMなど幅広く活 動。2018年は「ニワトリ★スター」(かなた狼監督)、コカ・コーラCMに出演。今後は 『止められるか、俺たちを』(白石和彌監督)が10月13日より、BABEL LABEL製作『LAPSE』が今冬より公開。

映画と本とパンの店 シネコヤ
住所:神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6 TEL:0466−33−5393
営業時間:
9:00〜20:00定休日:木曜日

画像3: 実現したいことを公言することがエネルギーになる

cinefil連載【「つくる」ひとたち】

1つの作品には、こんなにもたくさんの人が関わっているのか」と、映画のエンドロールを見 る度に感動しています。映画づくりに関わる人たちに、作品のこと、仕事への想い、記憶に残る エピソードなど、さまざまなお話を聞いていきます。時々、「つくる」ひとたち対談も。

矢部紗耶香(Yabe Sayaka)
1986年生まれ、山梨県出身。 雑貨屋、WEB広告、音楽会社、映画会社を経て、現在は編集・企画・宣伝・取材など。 様々な映画祭、野外映画イベント、上映会などの宣伝・パブリシティ・ブランディングなど も行っている。また、「観る音楽、聴く映画」という音楽好きと映画好きが同じ空間で楽し めるイベントも主催している。

photo:Kohe Asano

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