前回好評だった、レインダンス映画祭の創始者エリオット・グローヴ氏へ様々な質問を投げかけたシネフィル独占のインタビュー記事。
前回は、彼自身のプロフィールから、インディペンデントの映画の未来について答えていただきましたが、今回はより深く、世界のインディペンデント映画の状況や、日本の映画製作者に向けてのアドバイス、そして映画製作者が世界の映画祭で受け入れられる条件などをお聞きしました。

今年のレインダンス映画祭は、9月26日より10月7日まで今年も英国・ロンドンで開催されます。

まずは、2018年のレインダンス映画祭の予告からー

画像: 26th Raindance Film Festival Trailer (2018) youtu.be

26th Raindance Film Festival Trailer (2018)

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インディペンデント映画映画の将来は?注目されるには?

あなたがつくられたレインダンス映画祭の未来はどうなっているでしょうか。

 レインダンスは基本的にヴィジュアル・コンテンツのクリエーターやインディペンデント映画の愛好家たちが同志的に結びついているコミュニティだ。私は、未来でもレインダンスがインディペンデント映画に貢献し続けているよう願っている。レインダンスが最大の映画祭とは思っていない。ただ、最良の調達者たらんと望んでいる。
このことは、あなたがとてもクールな服が欲しくなって、東京のクールな地区の小さなわき道に向かい、あなたの注文に応えるヒップでクールなデザイナーを探すのとちょっと似ている。食べるか食べないかの違いと同じことだ。

では、将来はどうなっていると思いますか。いい未来でしょうか、それともメジャーに支配されている未来でしょうか?

 メジャー・スタジオは自分たちがインディペンデント映画を愛していると主張している。本当はちょっと我々を嫌っている。彼らは我々を嫌い、さげすんでいる。我々が革新的で対費用効果もいいからだ。
 メジャーは高額のマーケティング予算を持っていることで成功してきた。
彼らはフェイスブックやツィッター・アカウントから収集してきたディープ・データを基にして、狙っている観客層の好むテイストを満足させる映画を作り出すことができる。これは全く異なる話題ではあるが、でも脚本の執筆方法が永遠に変ってしまう日がきっと来る。
 ここで面白いのはこの情報の多くが無料で入手できことで、メジャーとあなたと私たちの戦うフィールドを均一にならしてくれる。

これからの若いフィルムメイカーが目立ち、注目されにどうしたらいいでしょう。

 フランスのヌーヴェルバーグは悪評を得ることで注目を集めた。
たとえばギャスパー・ノエは取り消すことのできないほどの性的暴力を扱った。(私は個人的には苦手なのだが)。
 フィルムメイカーが注目される別の方法はスターと組むこと。
平栁敦子の撮った『オー・ルーシー!』はアメリカのAリストスターのジョッシュ・ハートネットと日本のスター寺島しのぶと組みあわせている。
 もしあなたが注目されたいが、暴力は回避したい、スターとのアクセスもないというのなら、情熱的なストーリーを語ることで我々の知らない世界へ、もしくは知っている世界へといざなうことだ。どちらの場合も、我々の気づかない何かを見せてくれ、我々をより良い人間にしてくれる何かを。
 レインダンスのプログラマー、スザンヌ・バランタインは、「インディ映像作家を気取る方法」と題したとてもおかしい皮肉っぽい記事を書いている。
[https://www.raindance.org/how-to-fake-being-an-indie-auteur/]

イギリス、ヨーロッパにおけるインディペンデント映画の最近の状況はいかがですか。

 ヨーロッパとアメリカのインディペンデント映画のフィルムメイカーは、限られた予算内で魅力あるストーリーを語る方法を体得し始めている。デジタル技術とインターネット配信によって、私が1990年代にレインダンスを始めた時には聞いたこともなかった可能性が開き始めている。

 映画配給にアクセスする難しさはインディペンデント映画フィルムメイカーにとって問題ではない。それはとても面白い創造的な挑戦だ。新しいフォーマットをどうやって使いこなすか、観客を獲得するソーシャル・メディアの力をどう使うかという挑戦は、インディペンデント映画の方がずっとうまい。メジャーは憐れなほど不器用だ。

 こちらのフィルムメイカーはもはや短編を撮らない。例えば、彼らは関連したストーリーのシリーズを作って、ウェブで一週間ごとに配信する。
そしてもちろんヨーロッパ、アメリカの多くのインディペンデント映画の作り手は、様々なフォーマットでの仮想現実の可能性に強く引き付けられている。

2018年のレインダンス映画祭が差し迫っています。あなたが一番興奮したり、あるいは心配していることを一つ教えてください。

 2017年11月1日から今年の映画祭の準備を始めた。11か月。
我々は119カ国からの数千の申請(1万3500ほど)に目を通した。
短編、長編、ドキュメンタリー、ミュージック・ビデオ、VR作品。
私のパラノイアは誰も来ないではないかということ。
レインダンス映画祭は全くの自前資金でやっているので、チケットが売れなかったら、我々は食っていけない。

画像1: エリオット・グローヴ氏

エリオット・グローヴ氏

日本の映画製作者に贈る言葉!
”今日の日本人フィルムメイカーの多くが、二つの異なる個所で間違いを犯している”

エリオット、あなたはプロデューサー、監督、講師、そして世界的に有名な映画祭の創設者だ。同時に、フィルムメイカーの助けになるような本、低予算で映画を作る方法、いい脚本を書く方法等々といった本を書いている。それに教育者でもある。若い日本人映画監督に対して最も示唆に富んだ忠告をしてくれませんか。

 日本に住み、日本語で映画を撮ることは物凄く有利なことです。競争の度合いが少ないですから。英語で映画を撮ろうとしたら、イギリス、アメリカ、オーストラリア、カナダ人と競い合わねばならない。日本語の映画は風変りなものとみなされている。

私見によれば、今日の日本人フィルムメイカーの多くが、二つの異なる個所で間違いを犯している。

ひとつは、日本人フィルムメイカーは自分のストーリーをより世界共通のものにしようとする。
最近の日本映画の典型は、悲しい人物が悲しいことをするものだ。日本における人生を描いてほしい。歴史、豊かな文化伝統、今日の挑戦にどう対処するのかを。

そしてもう一つはあなたの素敵な美しい島々から目を上げ、世界に自分の映画を売り込んでほしい。

 監督として、映像によるストーリー・テリングを理解していなければならない。世界で最も成功したフィルムメイカーの数人は同時代の人であり、いろいろと教えてくれる。もちろん、新人監督はユニークで強い映像によるストーリーテリング・スタイルを開発する必要がある。

自分の映画を作りなさい。自分のストーリーを語りなさい。
そして誰も何も知らないという映画製作の黄金律を忘れないように。規則なんてない。もし規則があると考えているなら、それを破りなさい。

もし可能なら、今年の日本映画を選んだ基準がどんなものだったか教えてください。今年の日本映画の中で特に印象深かった作品がありましたか?

 日本に住んでいる日本人プログラマーが全ての日本映画を評価しています。
他のすべてのプログラマー同様に、ユニークで個人的な映画製作スタイルのある卓越したストーリーを探しています。

 数百本の提出された日本映画の中から彼女が今年のために選んだ5作品を見ることを心待ちにしています。

レインダンスは他の映画祭とどう違いますか?

 我々は映画祭を運営しているフィルムメイカーです。
レインダンスは縦構造の集約体です。我々の革命的な映画学校で映画製作について学びに来てもいい。我々は製作会社レインダンス・ロー・タレントを通じて映画製作を支援することもできる。
もちろん、映画祭とBIFAを運営している。

 映画学校について一言。レインダンスは映画製作の方法については教えてはいません。我々はフィルムメイカーを作っているのです。

世界の映画祭で嫌われるフィルムメーカーの16の事柄

世界には様々な映画祭があります。日本のフィルムメイカーにとって自分たちの映画が他の映画祭で選出されるのに役立つ秘密、あるいは秘訣のようなものがありますか。

 逆に、どうすれば映画祭に選出されないかを答えましょう。
これが興味を引き、有益であることを望みます。

1 映画祭の規則、細則を読まないフィルムメイカー

どんな映画祭でも、独自の存在理由がある。そして、誰もが時間を浪費しないための数々の規則を案出している。ここにレインダンスの規則と細則があります。明らかに我々の規則と細則を読んでないフィルムメイカーから、どれだけ多くの電話、Eメールをもらうことか想像もつかないでしょう。
 筋の通った質問はこれとは全く別のこと。我々は、すべての映画祭と同じようにこの種の電話は歓迎する。とはいえ、なかには参加しようと考えている映画祭の特色をまったく調べないフィルムメイカーもいる。そのくせ、彼らはなぜ選出されないのかと不満の声をあげるのだ。

2 申請書類の記入事項をきちんと書かないフィルムメイカー

 申請書類の一部しか書いてないフィルムメイカーのために、二つのことが派生する。
初めに、申請が完全でないため、受付られず、“申請書類不完全”の山に積み上げら、放置されて目を通されなくなるかもしれない。二番目に詳細事項の確認に時間をとられてしまう。
 きちんと記入してください。用語の意味が解らないのなら、ググってみること。Aspect ratio(画面の縦横比)がわからないからとオフィスに電話して、我々の見習いを困惑させる前に。

3 間違った、あるいは正確ではないEメールアドレス、電話番号をつげるフィルムメイカー

 あなたへのコンタクト情報が正しいか確かめるのがどんなに大変なことか。頼みますから、プロフェッショナルに行動してください。

4 連絡のつかないフィルムメイカーたち

 自分の作品の申請に努力したら、当方が望むのは適切な時間に、すなわち24時間、連絡がつけるようにしておくこと。
 私がどれだけ多くのEメールを出し、電話をかけ、伝言を残さねばならないか、想像もつかないでしょう。映画の重要な情報を知りたいためにプロデューサー、監督に連絡を取ろうとしてクルーの他のメンバーに電話したりする。時には、単にあきらめて我々は映画の上映をしない。

5 連絡をやたらと取りたがるフィルムメイカーたち

 コインの裏側もまた真なり。郵便配達人が冗談を言っていた。レインダンスに届けたとコンピューターに打ち込んだ途端、世界中のフィルムメイカーから電話が掛ってくるみたいだねと。A映画を受け取ったか B結論はどうか Cなぜデータベースに反映されないのか。いやはや、パッケージは三分前に届いたばかりだ。ほかに、自分の映画を見てもらえたかと尋ねてくる神経質なフィルムメイカーも嫌いだ。

6 チーム内でもめているフィルムメイカー

 毎年、申請したが辞退される(もしくは放り出される)作品が10〜20本はある。というのも、申請した人物が映画の権利を持っていなかったり、残りのキャスト、クルーの承諾を得ていなかったりする。映画撮影前に同意を得ているのが基本だと思うし、チームの他のメンバーが映画祭に出品すると聞く前に解決しておくべきことでしょう。

7 音楽使用の権利をクリアしていないフィルムメイカー

 レインダンスのような映画祭は、音楽の使用権がクリアになっていないと上映できない。もし我々ががさ入れされたとして、重罪に問われるのはあなたではなく、映画祭であり、映画を上映した映画館だ。レインダンスで映画が上映されない理由の半分は、音楽の権利がクリアされていないからだ。

8 試写のためのディスクが欠陥品だったり、間違ったリンク先をつげるフィルムメイカー

 送付する前に複製したディスクをいちいち点検するのはとても大変だということは承知しているが、我々のプログラマーも欠陥ディスクと知った時はとても困惑する。それはあなたの責任ではない、他の人がどじったのだとわかっているし、プログラマーも承知している。でも、これであなたの申請は並び列の前に逆戻りし、我々はあなたがEメール(#4参照)に対応して、間に合うように新しいディスクを送ってくれるのを望むしかない。

9 オンラインで自分の映画を見てもらいたがるフィルムメイカー

 自分の作品を映像が飛んだり、固まったりするかもしれない、インターネットに接続して見てほしいというのか。もっと悪いことに、コンピューターの接続可能問題を避けるためにとても小さなプレイヤーで上映することになる。それであなたは満足か。

10 不鮮明なスティル写真を送ってくるフィルムメイカー

 記念カタログ(これらはエージェント、配給会社に送られる)やウェブサイトに印刷するための映画の鮮明なスティル写真を得るのがとても難しい。三年前からカタログにフィルムメイカーの顔写真を載せるのをやめにした。映画監督から送られてきた写真はまるで大学のイヤーブックから複写したみたいだったから。考えてください。我々は映画産業、娯楽ビジネスに従事してるんですよ。人を楽しませるのにスティルは必要なんです。

11 ソーシャル・ネットワークを持っていないフィルムメイカー

 フィルムメイカーがソーシャル・ネットワークを持ち、近々開催される映画祭で映画が上映されると、フォロワーに注意喚起できたら、映画祭の仕事はとても楽になる。
 レインダンスでは、フィルムメイカーと協力してできるだけ満員上映にしようとしている。どの映画祭もマーケティング予算が限られており、あなたが手助けをしてくれればくれるほど、あなたの作品の上映が成功する可能性は高くなる。

12 プレスキットのないフィルムメイカー

 多くの映画祭同様にレインダンスでは映画のクオリティに基づいて申請を検討している。一度、上映作品として選出されたら、試写が行われ、一本一本ごとにPR戦術が練られる。物凄い仕事量となる。広報係やマーケティング担当者が必要とするこうした種類の観客を釣る仕掛けや戦術を理解しないフィルムメイカー。プレスキットの必要性について論じたEssential Elements of a Press Kitを書いた。 great press releaseも優れたケーススタディとして役に立つと思う

13 無礼なフィルムメイカー

 あちゃー! どの作品の上映も成功させようと、我々は粉骨砕身努力している。レインダンスのような映画祭では毎年、約300本が上映され、36-40カ国から250人以上のフィルムメイカーが参加する。組織上の大仕事であり、時にはへまをすることもある。あなたやあなたの作品が嫌いだからではない。でも準備作業の際、あなたが礼儀をわきまえていないと嫌いになることは確かだ。
 それはそうと、私は毎年ヨーロッパで開催される三つの素晴らしい映画祭、ロッテルダム、ベルリン、カンヌに行く。毎年、すべての映画祭で何かうまくいかないことがある。映画祭で上映する際につきものと言えよう。

14 映画祭の役割を理解してないフィルムメイカー

 我々の仕事は劇場いっぱいの観客があなたの作品を鑑賞できるよう努め、果たすことだ。あなたの仕事は喜ばせ、楽しませる作品を届けること。映画祭に出席するなら、上映後のインタビューとQ&Aセッションに参加できるようにしてほしい。映画祭とフィルムメイカーが手を携えて、あなたが“発見される”よう、すなわち誰かがあなたに小切手を渡すようにすることを望んでいる。つまりは我々はともに「この作品はレインダンスで発見された」と言いたいから、プレスキットの価値を高めたい。

15 詐欺師に騙されるフィルムメイカー

 フィルムメイカーと映画祭の間に入って、彼らのいわゆる経験に対する対価としてかなりの額を得ようとする詐欺師が少なからずいる。映画祭の間では、誰一人としてこうした仲介男性(あるいは女性)を好きではなく、信頼もしておらず、必要ともしていない。こうした連中とはかかわらず、詐欺師の犠牲者とならぬように。5 cons filmmakers fall for.参照

16 人間関係を無視するフィルムメイカー  

映画産業とは突き詰めれば人間関係だ。さらにソーシャル・ネットワークで連絡を絶やさないこと。映画祭では、困っていて、仕事は大変で甚だしく低給料の映画祭スタッフに出会うだけでなく、同じように困って、働き過ぎで、金銭的に報われていない他のフィルムメイカーに出会うことだろう。
同志愛が生まれ、映画祭で出会った人々との関係をはぐくんでいけば、別の映画祭でひょっこり再会することもあろうし、数年後にはオスカーで出会うかもしれない。大変な仕事ではあるが、そうした類いのことは金では買えない宝物に匹敵する。

最後にー

 これを書き始めた時にはどれだけ多くのフィルムメイカーが私を困らせているか考えてもいなかった。16個もあるとは!
不平を言ったり、文句を言ったりしているとは思わないでほしい。そうではないんだから。
20年間レインダンスを主宰し、世界で最もエキサイティングで興味深い人々と出会う幸せを得た。エナジー、パッション、才能にあふれた人々にだ。数多くの人と出会うという私の立場に立つということは、簡単に言えば、このろくでもない世界で私の仕事が最高のものだということだ。

現時点で、あなたの好きな映画監督は誰ですか。数人あげてくれませんか。

 私は数ダース、数百人のお気に入りがいる祖父母のようなもの。
数人に限定するのは不公平だと思う。
でも、これだけは言っておこう。
自分の夢をスクリーンに投影させたフィルムメイカーは誰でも好きだ。
とても長くて厳しい闘いだけど。

何か付け加えることはありませんか。なにかコメントはありませんか。

我々はとても難しい時代に生きている。
映画ほどパワフルなものは他にはない。
映画は人の人生を変えることができる。
彼らの感情を操作もできる。
人々の目を世の中の不正、犯罪に向けることができる。
映画祭で上映作品を見て、上記の一つでもなしえた映画を発見することほどエキサイティングなことはない。あなたの映画は重要だ。
インディペンデント映画の製作を支援することも重要だ。

映画を作り(そして鑑賞しましょう)

画像2: エリオット・グローヴ氏

エリオット・グローヴ氏

ありがとう、エリオット・グローヴ。お世話様でした。

9月26日よりロンドンにおいてレインダンス映画祭は開催されます!

2018年レインダンス映画祭公式サイト
https://www.raindance.org/festival/

取材サポート協力 MIKE ROGERS
協力 夏原 健
翻訳 北島明弘

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