イギリス出身、来日 30 年目のジョン・ウィリアムズ監督(「いちばん美しい夏」、「スターフィッ シュホテル」、「佐渡テンペスト」)が、100 年前に書かれたフランツ・カフカの不条理文学「審判」 との類似点を見出し、現代の東京を舞台に映画化した『審判』が 6 月 30 日より渋谷・ユーロスペースで公開されます。

画像: フランツ・カフカの不条理文学を原作を使って、現代の日本をコメンタリー ジョン・ウィリアムズ監督『審判』-日本外国特派員協会で会見

この度、プレミア スクリーニングとそれに続く質疑応答を日本外国特派員協会にて行いました。

ジョン・ウィリアムズ監督、主人公 K こと木村陽介を演じた個性派俳優・にわつとむ、隣人の鈴木役 常石梨乃が登壇し、本作に込めた想いなどを語りました。

日時:2018 年 6 月 25 日(月)20:45 頃〜
登壇者:ジョン・ウィリアムズ監督、にわ つとむ、常石 梨乃
会場:公益社団法人 日本外国特派員協会

Q. 映画の雰囲気についてお聞きしたいです。オーソン・ウェルズも『審判』を映画化しましたが、本作とは対照的と言いますか、ウェルズの作品は特徴的なロケーションを使ったり、陰影が際立ったり、印象派的な画作りをしています。本作では、オフィスにしても K のアパートにしても、身近な空間と光を使ってるのですが、どういう画作りをしていったのか教えてください。

監督:どういう画作りにしていくかに関しては事細かにメモを取って、撮影監督と共有しました。 オーソン・ウェルズは『審判』をオープニングから「悪夢」として描いていますよね。「悪夢」 という雰囲気をノアール的に醸し出しています。私の作品でも初めの段階の脚本では、シュールな仕上がりになるような構成になっていました。ですが、途中で、僕は、この映画で現代の日本を描きたいんだと気づきました。『審判』という原作を使って、現代の日本に関するコメンタリー(説明)をしたいとなると、シュールな仕上がりにしてしまうと自分の言いたいことのインパ クトが薄れてしまうと思い、あえてこのような身近な風景を使いました。 身近な風景が徐々におかしくなっていくということを表現するには身の回りの風景を使う方が いいと思いました。「よく見る風景だけど、どこかおかしいぞ」というものを表現したかったんです。登場するロケ地も学校などを使っていますが、この学校が意味するものはなんだろうとい う疑問を想起されるように心がけて映画化しました。 例えばKが裁判所に向かっていく道がありますが、家屋がプラスティックであったりすぐ朽ちそうだったりして、その町は建築的な統一感がまったくないです。我々は日常として受け入れるんですが、よく見るとアブノーマルな感じがするんです。人間が管理している空間とは思えないような、そういうことを意識しながら撮っています。

画像: ジョン・ウィリアムズ監督

ジョン・ウィリアムズ監督

Q. 女性たちはみんな主人公のKを誘惑しますが、女性の描き方の意図をお教え下さい。

監督:映画を作る中で一番難しかった部分です。女性たちの設定はカフカの原作のままです。K は罪人の一種のオーラがあるので、セクシャルな態度で言い寄ってくるのですが、キャラクターの設定はある程度変えています。日本を舞台にしているので、日本の女性を描こうとしました。 日本の女性は権力を奪われている状態ですから、セックスをツールとして使わなくてはいけないという役割を課せられている有様を描こうとしたのです。自分のパワーをどう使おうかということを誤解をしているような女性描写を心がけました。セックスを一つの権力として使うというのは原作と一緒です。4 人の女性が登場し、それぞれ違うキャラクターですが、彼女たちは自分のセクシャリティを純粋ではないある種の方法で使うというのは共通しています。出演した女優さんとは色々詰めて話しました。

常石:女性の魅力というのは人それぞれだと思います。4 人の女性が色々な方法論で Kに迫って いくんですけれど、私は監督の意見に賛成で、女性がセックス・体を武器にしているという人もそうでない人もいると思います。私が演じた役はそれを武器にしてはいるんですけれど、実は処女という裏設定があり、臆病な女性を演じています。身体的な繋がりに対して臆病だけれど、飛び出したいという女性を私は演じさせていただきました。それが日本だけかと言われたら違うと思いますが、そういう女性たちも存在するということを私はこの映画で自分の体を使って表現させていただきました。

にわ:僕は一役者として、演じる上では、”芝居をする”というより、”その瞬間を生きる”と いう意識で演じています。この映画ではこういう設定になっているわけですが、女性は大好きですし、K こと木村は女性たちに助けられたいということを意識しながら演じました。この映画で木村にとって女性たちは、命を助けてくれるのではないかという神的な存在です。

画像: 中央 にわ つとむ

中央 にわ つとむ

Q. いい意味で混乱させてくれる映画でした。今#ME TOO ムーブメントが巻き起こっていますが、 今回の映画では、女性が男性の目から見て性の対象という描写や、男性自身が抱えている根源的な罪悪感を描いていますが、#ME TOO ムーブメントは意識しましたか?

監督:本作は#ME TOO ムーブメントが起きる前の去年の 2 月ですから、#ME TOO ムーブメントを 意識したということはないんですが、性と力の均衡を描くわけですから、かなり綿密に女優たち と話し合いましたし、色々考えました。K の設定は、下手すると、色々な女性が寄ってきて、いちいち好きになってしまうというジェームズ・ボンド的なキャラクターになってしまう危険性があったのですが、ポジティブな描き方をしているキャラクターはいないんです。女性もどちらかといえば被害者的に描かれています。逆に彼に迫る女性たちにもう少し力を与えたかったんですが、それは真の力ではなく、偽物の力なんですね。日本のジェンダーについて意識させられたからなんですが、しばらく英国に滞在した後日本に帰国して、女性の捉え方について驚いたんです。 女性は家にいるものだというような固定観念が日本に根強くあるわけで、これについて何か言いたかったのだと思います。

Q: にわさんと常石さん。監督の意図は現代の日本を批判するという明確な意図があったのですが、そういう作品に参加することに懸念はありましたか?

にわ:監督と最初に組んだのは『いちばん美しい夏』で、20 年間緊密に仕事をさせていただいていて、監督がどういうスタイルで映画を作るのか十分わかっていたので、私は何のためらいもなく、監督に全幅の信頼を寄せて参加しました。ただ、Kと言うキャラクターは一筋縄にはいかない役でした。基本受け身の人間で、主張したいことがはっきりあるわけではない男なので、受け身を受け身のまま演じてしまうとつまらないです。実は、実生活で義父が亡くなりました。義父が命を一生懸命生き抜こうとする姿を見ていく中で、この映画は木村の一生についてなんだという類似点・気づきを得ました。彼もまたあがいているんだと。自分の実体験を自分のキャラクターに反映しました。

常石:私はポジティブに監督の要望を受け入れていました。映画の観方は人それぞれだと思うんですが、問題視することで、立ち止まって考える機会を作ることにもなります。また、日本だけではないですが、女性のあり方というのは、私自身も悔しい思いをしたことがあります。なので、 問題提起するような映画にできたらと思って参加しました。脚本の翻訳は監督に付き合って、「普通はこういう風に言わないよね」などディスカションしながら私の要望を聞いてもらいながら、 語尾なども直していったので、とても親切に作っていただいたと思います。

画像: 中央 常石 梨乃

中央 常石 梨乃

Q. 外の者から日本を見ると、日本の良い部分も悪い部分も見えるのですが、今日の日本を描く上で意識したことを教えてください。

監督:様々な解釈の余地を残したいのであまり細かく言いたくはないです。 原作に忠実にありたかったです。また、人生とどう折り合いをつけていくのかといった問題も内包したものにもしたかったです。
私は上智大学で教鞭を取っているのですが、3 年前に批評思考のエクササイズの授業でとある学生が、「答えは何ですか?あなたは先生だから答えを持っていますよね?」と言われました。「高校では、先生方が正解が載っている本を持っていたから、先生は答えを知っていて、教えてくれるはずだ」と言われましたが、これに似た考えを持っている人が多いのではないかという雰囲気を感じます。正解というものがあって、それを誰かが与えてくれるのではないか、と。そういうことに対する批判も提示したいという意図もありました。「自分たちの思考は誰が最初に考えるのか?」という哲学的・政治的問いを提示するというのを意図して作りました。

画像: 日時:2018 年 6 月 25 日(月)20:45 頃〜 登壇者:ジョン・ウィリアムズ監督、にわ つとむ、常石 梨乃 会場:公益社団法人 日本外国特派員協会

ジョン・ウィリアムズ監督『審判』予告

画像: ジョン・ウィリアムズ監督『審判』予告 youtu.be

ジョン・ウィリアムズ監督『審判』予告

youtu.be

【STORY】 
木村陽介。銀行員。30歳の誕生日に、逮捕。罪状不明。
現代の東京。銀行員の木村が30歳の誕生日の朝、自宅マンションのベッドで目覚めると、部屋にはふたりの見知らぬ男たちが佇んでいた。彼らは「逮捕」を告げにきたと言う。でも罪状は不明。無実を主張すればするほど、蜘蛛の巣のような“システム”に絡みとられ、どんどん身動きができなくなっていく。ここから抜け出す方法はあるのか?救いを求めてあがくものの、期待はことごとく外れていく。そして、木村は出口のないこの迷路の終焉に、気づき始めるのだった―。

にわ つとむ
常石 梨乃  田邉 淳一  工藤 雄作
川上 史津子  早川 知子  関根 愛  村田 一朗  大宮 イチ
坂東 彌十郎(特別出演)   高橋 長英   品川 徹  

監督・脚本 ジョン・ウィリアムズ      
原作 フランツ・カフカ「審判」   
音楽 スワベック・コバレフスキ
プロデューサー 高木 祥衣 古川 実咲子 塩崎 祥平   
撮影 早野 嘉伸 照明 大久保 礼司 録音 小川 武 美術 中村 三五 編集 稲川 実希   
音響効果 堀内 みゆき 監督補 高田 真幸
助監督 岩崎 祐  ヘアメイク 西尾 潤子 松本 幸子 衣装 斎藤 安津菜 制作担当 竹上 俊一

後援 上智大学ヨーロッパ研究所 公益財団法人日独協会  
製作・配給・宣伝 百米映画社 
2018年/日本/アメリカンビスタ/5.1ch/118分    
©100 Meter Films 2018

Facebook: @shinpan.film
Twitter: @shinpan_film

6月30日より渋谷・ユーロスペースにて公開ほか全国順次公開!

http://www.shinpan-film.com

This article is a sponsored article by
''.