ハリウッドにてショートフィルムをプロデュース

今回は、映画を学ぶ学生とのショートフィルム制作話を。
今年春にUCLA Extensionで映画製作を学ぶ学生達と知り合い、プロ・学生混合スタッフでショートフィルムを制作しました。いわゆる自主制作映画というものです。

UCLA Extensionとは、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の社会人向けの公開講座のような位置づけで、本校と別とはいえ入学にあたってはTOEFL iBT 83以上が求められます。世界中から様々な世代の人が集まり学んでおり、専攻の中には映画もあります。話を聞く限り、映画専攻の学生はそれぞれ自国ではプロで活躍していたという人が多い印象です。私が通っていた語学学校と場所が近かった事もあり、UCLA ExtensionやUCLAの学生とは結構頻繁に会っていました。

古典落語の「饅頭こわい」を英語版にアレンジ

ある日、せっかくハリウッドで周りに学生もいる環境なので、”映画の街で初心に帰る”というテーマで学生と一緒にショートフィルムを作ろうと思い立ちました。

古典落語を原作にアメリカ仕様にカスタマイズしたら面白いのではと思いつき、「饅頭こわい」の饅頭とお茶を、アメリカの国民食(だと私が勝手に思っている)ドーナツとコーヒーにするというアイディアに至りました。

簡単にストーリーをご紹介すると、この世に怖いものなんてないと豪語する男が周りの友人達に問い詰められ、実はドーナツが怖いと告白します。友人達は彼を驚かせてやろうとドーナツを沢山買い込み彼の寝床に置き、陰から様子を伺います。男は大量のドーナツを前に最初は狼狽する素振りを見せますが、美味しそうに食べ始めます。それを見た友人達は憤慨し、「この嘘つきめ。お前が本当に怖いものは何なんだ。」と詰めると、男は「今は熱いコーヒーが怖い。」と答えるというオチです。

そのアイディアをUCLA Extensionの学生に話したところ乗ってくれたので、本格的に脚本制作・スタッフィング・キャスティングへと進めました。

スタッフは、UCLA Extensionでディレクションを学んでいる岩永祐一さんを監督・脚本に、日本で映画の撮影部として活躍し現在はアメリカを拠点にしている上野達也さんをDP(ディレクター オブ フォトグラフィー)、その他プロ・学生(UCLA Extension)混合のスタッフチームで臨みました。国籍は日本以外にもロシアや中国、イタリアなどで、総勢10名程。

キャストは、主演にトルコで俳優業をしていて現在アメリカで修業中のOguz Kutman、同じくアメリカで俳優として活動しているOBie Sho(日本)、Karim Vilorosa(フランス)、Dylan Nadalin(スイス)という、国際色豊かな布陣になりました。

画像: 「Donutphobia」より。写真左から/OBie Sho、Karim Vilorosa、Dylan Nadalin

「Donutphobia」より。写真左から/OBie Sho、Karim Vilorosa、Dylan Nadalin

画像: 「Donutphobia」より。写真手前/Oguz Kutman

「Donutphobia」より。写真手前/Oguz Kutman

監督の岩永祐一さんは1988年生まれ。大学卒業後リクルートにて営業に従事、その後CM制作の仕事を経て昨年からUCLA Extensionで映画製作を学んでいます。岩永さんはじめ、日本の映像業界での業務経験がある30歳前後の人がハリウッドに来ているパターンが多いように見受けられます。

画像: 「Donutphobia」制作風景 写真右/岩永祐一監督

「Donutphobia」制作風景 写真右/岩永祐一監督

画像: 「Donutphobia」制作風景

「Donutphobia」制作風景

準備の段階でも色々とトラブルはありましたが、撮影は無事に終了し現在は編集段階です。
プロデュースサイドも他各パートも反省材料の多い撮影ではありましたが、参加してもらったキャスト・スタッフ皆が本プロジェクトには満足していて、それぞれまたお互い一緒にやろうというポジティブな感情で現場が終わったのがとても良かったです。こういう自主制作の現場でお互いの力量やセンスを知り関係性を築いていく事が、先々に商業の世界にも繋がっていくと思っています。

10年ぶりに自らショートフィルムを監督

今回の記事は「Donutphobia」の話題で終わる予定だったのですが、帰国直前にもう1本、かつ10年ぶりに自ら脚本・監督を担当する(20代の頃に仲間内で撮った自主制作映画が最後です。商業映画では経験ありません。)という冒険に出てみました。

タイトルは「Again」。愛犬の死により悲しみに暮れている女性が、また愛犬に会いたいと願っていたら時間が巻き戻り始めるという話。時間が”戻る”のではなくて”巻き戻る”のが表現のミソで、雑踏の中でキャストに後ろ向きに歩いてもらい、それを逆再生する事で、キャスト以外の周りの空間は時間が逆に進んでいるように見えるという手法で撮影しました。

画像1: 10年ぶりに自らショートフィルムを監督
画像2: 10年ぶりに自らショートフィルムを監督
画像: 「Again」より。

「Again」より。

キャストは一人のみで、UCLA本校の留学生で映画を専攻している西埜真里子さん。撮影と編集を先の「Donutphobia」監督の岩永祐一さんに手伝ってもらい、現場は私含めて総勢3人という超少数での撮影でした。こちらも現在編集中です。

監督と比べてプロデューサーがいかに現場で楽しているかという事を、この撮影で改めて思い知りました。ただ監督は監督でやはり面白く、またやってみたくなっている自分もいたりします。

こういう事に付き合ってくれる仲間ができるのも、やはり皆が切磋琢磨しているロサンゼルスという環境だからこそな気がしています。日本で映画の仕事していた時は、ビジネス的な利害のない、こんなに純粋なモノづくりをする機会は作れていませんでした。協力してくれたキャスト・スタッフの皆さんには本当に感謝です。

近況と次回予告

アメリカ滞在中の更新は今回が最後となります。
この連載がきっかけで会えた人や訪れる事ができた場所も多く、とても良い機会となりました。

諸々、日本とアメリカに関しての所感や今回のLA滞在のまとめとか、私自身のその後も含めて、帰国後にエピローグとして前後編2記事書かせて頂こうと思っています。
次回まで少し間は空くと思いますが、また更新の折にはご覧頂けると幸いです。

和田有啓
1983年神奈川県横浜市生まれ。
スポーツ取材の会社からキャリアをスタートさせ、芸能プロダクション、広告会社、コンテンツ製作会社を経て現在フリーでアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスに滞在中。
プロデューサーとして参加した⾃主制作映画「くらげくん」の第32回ぴあフィルムフェスティバル準グランプリ受賞をきっかけに、2010年にUNIJAPAN HUMAN RESOURSES DEVELOPMENT PROJECT、2011年に JAPAN国際コンテンツフェスティバル/コ・フェスタPAOにプロデューサーとして参加して各プロジェクトの短編映画を制作。
近年は映画「たまこちゃんとコックボー」「天才バカヴォン〜蘇るフランダースの⽝〜」「⼥⼦⾼」「サブイボマスク」「古都」「はらはらなのか。」「笑う招き猫」などの作品で製作委員会の組成やプロデュース、配給、宣伝などを行い、インディペンデント映画業界でのキャリアを築く。

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