ハリウッド流の商業映画とユニークな作家主義を見事に融合させた映画作りで、国際的に注目されているウェス・アンダーソン監督の最新作。なんと近未来の日本を舞台にしたストップモーション・アニメーションで作り上げたのが「犬ヶ島」だ。

画像1: ©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

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 アンダーソンのこれまでの作品を振り返ってみると、「ロイヤル・テネンバウムズ」(2001)、「ダージリン急行」(07)のような一捻りした群集劇を経て、09年にストップモーション・アニメーションによる「ファンタスティック Mr.FOX」を監督。
12年に「ムーンライズ・キングダム」、14年には「グランド・ブダペスト・ホテル」を手掛けて、その異才ぶりを全世界に披露した。

 原案をアンダーソンと共同で手掛けたのは、「ダージリン急行」「ムーンライズ・キングダム」でも脚本に参加していたコッポラ一家の二人。一人はフランシス・コッポラの息子ロマン・コッポラ。2001年にはSF映画製作を絡めた「CQ」で監督デビュー、そのプロモーションで日本を訪れ、私がインタビューしている最中に父親に呼ばれてそのまま消えてしまった御仁である。もう一人のジェイソン・シュワルツマンは、母がフランシスの妹タリア・シャイアだから、ロマンのいとこいうことになる。

画像2: ©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

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 20年後の日本のメガ崎市では、ドッグ病なる奇病が蔓延し、人間への感染を阻止するため小林市長はすべての犬を犬ヶ島に追放する。追放犬の第一号となったのが市長の養子であるアタリ少年の愛犬スポット。スポットを救出すべく小型飛行機で犬ヶ島にやってきたアタリは、五匹の犬と出会い、彼らとともにスポット探索の旅に出る。
一方、メガ崎市では、ドッグ病治療薬を開発していた親犬派の渡辺教授らと、市長を支持する反犬派とが対立していた。高校新聞の記者たちが取材をはじめて市長側の陰謀にぶち当たる。
犬ヶ島に市長が犬捕獲隊と強力なロボット犬部隊を派遣したので、アタリらは危機に陥る。岬にある建物にスポットがいるのではと、危険ゾーンを勇気で切り抜け、奇想天外なトラップをするりと越えて突き進んでいく。

 ストップモーション・アニメーションではパペットを少しずつ動かして撮影するという気の遠くなるような作業が必要となる。今回は100分の映画を作るのに144000の静止画を撮影。
本作ではCGをほとんど使用せず、漂う雲は綿毛、川はサンドイッチを包む小型のコンベアベルトで流れるようにしたという。セットは240も製作。
アンダーソンは小津安二郎、黒澤明、本田猪四郎監督らの作品に影響を受けたとのことで、「七人の侍」(54)のあの勇壮な“勘兵衛と勝四郎〜菊千代のマンボ”が流れて来た時は胸が躍った。

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 声優陣も豪華スター揃いで、アタリにカナダ人と日本人のハーフであるランキン・こうゆう、スポッツにリーヴ・シュレイバー、五匹にブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、ボブ・バラバン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、小林市長に野村訓市が扮し、他にヨーコ・オノ、村上虹郎、野田洋次郎、渡辺謙、夏木マリらが参加している。

 アニメらしいぶっ飛んだ映像表現、ユニークなストーリー展開ととぼけた表情のパペット−−それらが絶妙の効果を生み出し、テンポよく進行していくので見ていて実に爽快。
人間、犬が生身ではなく、かといって平面的な絵でもないという微妙な状態であるパペット・アニメの楽しさを満喫できる作品。
全編いとおしさを感じるとともに、犬追放というテーマに仮託した社会風刺も感じずにはおかない。やはりアンダーソン、只者ではない。


北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

ウェス・アンダーソン監督『犬ヶ島』日本オリジナル予告

画像: ウェス・アンダーソン監督『犬ヶ島』日本オリジナル予告 youtu.be

ウェス・アンダーソン監督『犬ヶ島』日本オリジナル予告

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■ ストーリー
近未来の日本。犬インフルエンザが大流行するメガ崎市では、
人間への感染を恐れた小林市長が、すべての犬を“犬ヶ島”に追放する。
ある時、12歳の少年がたった一人で小型飛行機に乗り込み、その島に降り立った。
愛犬で親友のスポッツを救うためにやって来た、市長の養子で孤児のアタリだ。
島で出会った勇敢で心優しい5匹の犬たちを新たな相棒とし、
スポッツの探索を始めたアタリは、メガ崎の未来を左右する大人たちの陰謀へと近づいていく──。

監督:ウェス・アンダーソン

【キャスト】ブライアン・クランストン、ランキン・こうゆう、エドワー ド・ノートン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、野村訓市、 グレタ・ガーウィグ、フランシス・マクドーマンド、スカーレット・ヨ ハンソン、ヨーコ・オノ、ティルダ・スウィントン、野田洋次郎 (RADWIMPS)、村上虹郎、渡辺謙、夏木マリ

■原題:ISLE OF DOGS
■配給:20世紀FOX映画
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