フランス製作のドキュメンタリー映画『国家主義の誘惑』(2017 年/54 分)が、7 月 28 日(土)より東京・ポレポレ東中野で公開されることが決定しました。
国益・国家の名の下に秘密裏に決裁、反対意見には耳を貸さず、 新造語を連発し、嘘を通す─ 日本社会の“いま”を浮き彫りにした フランス発ドキュメンタリー
本作は、2015 年の公開作 『天皇と軍隊』(2009 年/90 分)が話題となったフランス在住の渡辺謙一監督の新作ドキュメンタリー。
世界的にナショナリズム(国家主義)化がじわじわと進む中、国際関係史、地政学の観点から明治維新から今日までに醸成された日本人の天皇、憲法、戦争観を浮き彫りにし、日本社会にとってのナショナリズムを問いかけた作品です。
(2018 年フランス・FIGRA 映画祭歴史部門コンペティション出品作品)
公開 1 週目は本作出演者や関係者を連日ゲストに迎え、上映後に 1 時間以上にわたるトークライブセッションを設け、来場者とともに映画の背景により深く迫ります。
また、公開 2,3 週目は前作『天皇と軍隊』の上映も予定されておりますので、この機会にあわせてご覧頂ける絶好の機会となります。
劇場公開に先立ち、6 月 15 日(金)の第 7 回うらやすドキュメンタリー映画祭前夜祭(19:15~) にて国内初上映となる特別先行上映が行われ、フランス在住の渡辺監督も来日して上映後に舞台挨拶を予定しております。
映画で語る世界の識者たち
監督のことば
『国家主義の誘惑』日本上映に寄せて
<作品の動機>
どうして?どうして!と、つぶやいてる間に日本の政治は常軌を逸して行きます。政治不 信という形容を凌駕して、政治への破壊願望がどこかにあると思えてきます。私の経験に 照らしここまで地に落ちた日本の政治を見たことがありません。個人的経験を超え歴史と いう鏡を覗いてみましょう。例えば 1930 年代半ば。天皇機関説が議会で攻撃の的となり、 呼応して国体明徴運動が起き、軍の皇道派が天皇親政を求めて決起し、政党政治が弱体化 する。立憲主義が終わりを告げ、天皇の統帥権を盾に軍人が主導する政治に変容し、文部 省は「国体の本義」を編み出し教育目標に据える。日中戦争前夜の日本と今、どこか似て いないでしょうか。“政治”というよりむしろ“人々の政治に対する意識が醸し出す空気”です。 これを国家主義の誘惑と呼んでみました。
<制作の背景>
ちょうど 10 年前、私は「天皇と軍隊」の撮影の真っ只中でした。戦後の歩みを、憲法 9 条 を切り口として天皇制の護持と関連付け、戦後史を紐解く仕事でした。このテーマは戦後 史だけで語り切れるのか、近代史の枠で語るべきではと自問しましたが、放送局の注文は 日本戦後史で決まりました。その後、2011 年の東日本大震災を機に再び日本の近代を映像 にしたい欲望が湧き、ヨーロッパ人の関心を引くため“欧州との対立を軸とする日本近代史” を企画書に仕立て持ち歩きましたが、キー局はなかなか通してくれません。情報メデゖゕ が肥大した今日もなお、ヨーロッパから日本へのまなざしは、依然として“遠い国”です。し かし、近年中国の存在感が増すにつれ相対的に日本への言及機会も増え、ジェオポリテゖ クス(geopolitics)のゕプローチができれば放送枠があるという提案がきました。正直な ところ私にとっては、地政学—とはなんぞや、でした。中東紛争、ウクラナ、パレスチ ナなど領土紛争を読み解くのが地政学です。日本の今を読むために、近代化の歩みを戦争 の歴史として紡ぎ、今日に響くように引用すること。これがヨーロパで流行る地政学的ゕ プローチの私流の解釈でした。
<天皇メッセージの衝撃>
撮影は 2016 年 7 月と 9 月。7 月は参議院選挙が目当てでした。この 2 度の撮影の間にそ の時はさほどの衝撃はなく、しかし後々考えれば考えるほど衝撃的な事件と受け止めたの が天皇のビデオメッセージです。結果的にこの天皇メッセージは、現政権の改憲プログラ ムを少なくとも 1 年遅らせました。9 月の撮影時この天皇メッセージの意味を解析すべく、
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ある法学者に長時間のンタビューを行いました。しかし彼は「メッセージの意味を私が 解説してはいけない。国民一人ひとりが受け止めて考えなきゃならない。」と頑として譲り ません。設問と応答を繰り返すうちに私はなぜ彼が天皇のメッセージを解説できないと主 張するのかわかった気がして、その主張そのものを編集に残していたのですが、フランス 人スタッフには通用せず割愛しました。私は天皇メッセージひいては平成天皇は、戦後憲 法の“権化”とみなしています。地に落ちた政治、虚偽が堂々まかり通るのを見逃し、数合わ せに走る政治家たちが天皇ビデオの日本語の美しさに気づく日が来れば政治は再び軌道に 乗ると思います。天皇の真意を理解しない、理解しようとしない人たちが来る退位、即位、 大嘗祭などの儀式を最大限利用しようと図るでしょう。“国家主義の誘惑”に対する唯一権威 ある防壁が“天皇”であるというパラドクス。この観点から日本の政治をさらに掘り下げる仕 事を続けていければと考えています。
ー2018 年 5 月 渡辺謙一
監督プロフィール
渡辺謙一(わたなべ・けんいち) 1975年、岩波映画入社。1997年、パリに移住、フランスや欧州のテレビ向けドキュメンタリー を制作。『桜前線』で2006 年グルノーブル国際環境映画祭芸術作品賞受賞。近年は『天皇と軍 隊』(2009)のほか、『ヒロシマの黒い太陽』(2011)、『フクシマ後の世界』(2012)、 『核の大地・プルトニウムの話』(2015)など、欧州において遠い存在であるヒロシマやフク シマの共通理解を深める作品制作に取り組んでいる。
監督:渡辺謙一
プロデューサー:セルジュ・ゲズ、クリスティーヌ・渡辺
撮影:エマヌエル・ヴァレット
編集:マチュー・オーギュスタン
録音:渡辺 顕、岸本崇史
歴史監修:クリスチャン・ソテール
音楽:ジェローム・クレ
語り:ブリジット・ベルジュ
協賛:フランス議会 TV
制作:アルテ・フランス、 クレッシェンド・メディア・フィルム、カミ・プロダクション
配給:きろくびと
2017 年/フランス/54 分
©Crescendo Media Films - Kami Productions - ARTE France – 2017