狡い男と超悪女 

睡蓮 では、いよいよお待ちかねの『蜘蛛女』にいきましょう。

 『蜘蛛女』あらすじ
 巡査部長のジャックはマフィアと内通し、情報を提供する代わりに金を得ている。彼には美しい妻のナタリーがいるが、同時に若い愛人シェリーを囲う生活を続けていた。ある日、ジャックはロシア出身の女殺し屋モナ・デマルコフを護送する任務に就く。モナはマフィアのボスのドン・ファルコーネでさえ持て余し怖れるほど、狡猾で残忍な女であった。移送したホテルでモナに誘惑されたジャックだが、彼女の巧妙な罠に嵌められ、滅びの道へと向かっていく。

森下 ゲーリー・オールドマン(祝!第90回アカデミー賞主演男優賞)の演じたジャックという巡査部長、いい塩梅だったよね。奥さんを欺く最低夫なだけでなく、とにかく人間的に卑劣で。

睡蓮 自分がマズイ状況になった途端、急に「お前を愛してる」とか真面目な顔して奥さんに伝えるあたり、本当にバカだなーって思うんだけど、そのダメさ加減のおかげで安っぽいロマンティシズムに浸れず面白く観ました。

森下 ジャックの欲深さ、罪深さがこの映画を最高に面白くしたと言えるよね。役者がゲーリー・オールドマンで良かった。一人の男の破滅がこれ以上なく惨めで哀しかったから。

睡蓮 映画のなかで男の哀愁みたいなのあんまり重厚にやられると、どうも興ざめしちゃうんですよ。はいはい、きたきたーって。寅さんで十分なんで。でもここまで作り込まれると、ね。あっぱれですよ。

森下 マフィアのモナも文句のつけようのない超悪女じゃない?印象的だったのは、あらすじにもあるけど、ホテルの一室に護送されたモナが「スーツ、ガーターベルト、ハイヒール」っていう、三種の神器みたいな恰好をしてたところ。

睡蓮 絶滅した「女の標本」みたいで面白かったですね。

森下 びっくりしたー、SMかよって(笑)

睡蓮 今見るとコスプレ感があって。内容はハードなんだけどほのぼのしてきましたよ。モナは途中から杉本彩さんにしか見えなかったんですけど……。

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森下 まぁでも、モナが身に着けているものは映像として映えるし、悪い女の「記号」としてこれ以上ないくらいぴったりだと思った。ガーターなんて機能性の低い下着が似合うなんて素晴らしいよ。ラスト近くで着ていた「素肌にボディスーツ」も女の戦闘服って感じで良かった。

睡蓮 完璧でしたね。モナというキャラクターは目的のためなら手段を選ばない、その潔さがカッコいいと思う。彼女は全くブレないんですよ。周りの男たちはおもしろいくらいすごくブレてるのに。

森下 お見事だよねえ。モンスターじゃなくて、ミュータントっぽいところがまた面白い。

睡蓮 今まで悪女対談をしていて、こういう血も涙もないタイプの女ってあまりいませんでしたね。悪女に成らざるを得ない、悲劇の産物みたいなタイプが多かったから。

森下 そうだね……男に翻弄されて死んでいく女が多かった(笑)モナは肉体的にも精神的にもバランスが取れていて、特にメンタルには筋肉もりもりついたストロングなイメージ。「皆さん、これが悪女ですよー!」って言える人がようやく出てきたね。

睡蓮 テンション上がります。一応この映画の主人公はジャックという汚職刑事の陶酔物語なわけですけど……。このジャックの脇役感が好き(笑)

森下 愚かな男の醒めない悪夢とも言えるかな。でも、この映画は男も女もロマンに満ち溢れてて、いいよなあって思う。

睡蓮 そう、映画ってこうあって欲しいっていうツボをぐいぐい押してくれる感じ。

森下 目の前に映るものに酔っていればいいんだもんね。

睡蓮 下手なお酒飲むより酔えますよ。

森下 いやほんとに、ドリンクムービー?そんな言葉ないけど、酒飲み映画じゃないかな。その中でもいいウイスキーみたいな醸された感じのやつ。最初にも言ったけれど、ゲイリー・オールドマンが演じなかったら、こんなにまったりと悲劇の余韻に浸れなかっただろうし、「あんた、ホントにバカだねえ」っていうような気持ちにならなかったかも。

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睡蓮 「愚かな男の死骸がゴロゴロ」……ってこれ、公開当時のキャッチフレーズですけど(笑)単なるひとりの男の悲劇を描いたにとどまらず、括弧つきの男の終焉というか、男の世紀末感というか、それが時代にはまったんでしょうねえ。あとなんといってもモナの凄まじいアクションシーン最高。

森下 この人の身体能力と動きのセンスは並じゃなくて、かっちりセットした髪の毛がアクションシーンでバサッと崩れたときの、あの髪の乱れ方の完璧さ!殴られる姿も男と対等だよね。

睡蓮 モナを演じたレナ・オリンって女優さん、身長180cmもあるんですよね。バトルしながらすごい楽しそうなのに、銃で撃たれたり殴られたりするとすごく悲痛そうな、なんともいえない表情するんですよ。そのときのゲーリー・オールドマン、じゃなくてジャックが「あれ? 俺やりすぎちゃった? 大丈夫かな……」みたいな妙な気の弱さを一瞬自然にしていて、それも凄いと思った。

森下 ジャックはさ、自分の人生がちょろかったと思うの。妻も愛人もいる、金もマフィアから引っ張れる。で、過信した結果、自分の人生が狂ってしまって、思い出も希望も、生きる意味も一切が消えたんだよね。ちょっとだけ「ザマミロ」って思ったな。あなたみたいな脆い男が、女をコントロールできるわけないだろ、って。

睡蓮 で、モナと出会ってやっと人生ちょろくないってことに気づいたと。ある意味でハッピーだなぁ。わたし、ラストシーンでグッときて泣いたんですけど(笑)死ぬほどの地獄を味わっても、思い出と戯れるしかないところで生きられるのって、むしろ幸福なんじゃないかと。モナから、地獄と快楽を同時に与えられて羨ましい。汚職刑事ジャックはやがて地の果てで立派な語り部になりました。やっぱハッピーエンドだ(笑)

森下 羨ましいよ。地獄の一番いいところに行ったんだもん……あの孤独は、ジャック自らが望んだようなもんだよ。

睡蓮 孤独じゃない幸せってどこにあるんだろ?って気がしちゃうな。

森下 ラストシーンが本当にいいの。日本のド田舎だってこんなに殺伐としてないよって、唖然とした。

睡蓮 冒頭に繋がるあのロケーション、西部劇のような風の吹き荒れ方、まさにジャックの心象ですね。しかしモナの本当の目的って以外と見えづらくて、謎めいていましたね。

森下 モナは女マフィアだし、「危ない目に遭いながら素性を知られずに生きてきたんだな」ってところまでは想像できるけど、何を目的に行動していたのかは……謎だよね。

睡蓮 強く何かのために、そういならなきゃいけないわけじゃないんですよね。共感の部分とはかけ離れてどきどきしたんですが、こういう人を自分がどこかで強く求めているような気がしましたよ。

森下 こういう強烈な女って、ヒーローとかスターとかアイドルみたいな立ち位置だと思うの。いきなり登場して、素性もしれない、人のこと平気で殺す、で、何といっても超セクシーでしょ。わたしが男だったらあっさり銃殺されたい。

睡蓮 わたしは絞殺がいいなぁ。「あはははは!」とかモナの声聞きながら苦しんでみたい。

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森下 何だかわからないから気になるの。宇宙人みたいな、次元の違う生き物なわけ。

睡蓮 うん、今までの悪女たちは、自分たちのなかにもあるかもしれないとか女である所以という部分をどこかで持っていたけど、モナの場合は理由なき女。自分もこうなってみたいっていう理想像に近いかも。モナの表情ですぐ頭に浮かぶのは「ニヤッ」と笑った顔なんです。男にどうしようって泣きついてる顔じゃない、それがまた素敵。

森下 周りの人間すべてを征服してやった!って実感した時の笑い顔が、おそろしく愉快そうなのね。こっちまでスカッとした気分になるような。

睡蓮 そこに並外れた知性を感じますね。ナイーブな悪女が続いたあとなので、モナの登場はこの対談においてかなり革新的な存在だと思うんです。

森下 今後は何人かモナ級の女性が出てくるから、楽しみだね(笑)

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名作に見る「夫婦の自由恋愛」

睡蓮 次はザッツ・おフランス映画、『危険な関係』を語ろうと思います。

森下 物語としては実に古典的。映画としては何度もリバイバルされてるよね。

『危険な関係』あらすじ
コデルロス・ド・ラクロの小説をロジェ・バディム監督が現代劇として映画化。外交官のヴァルモンとその妻ジュリエットは、パリの上流社会でもっとも洗練された2人だともてはやされる一方で、ジュリエットは複数の男と関係を持ち、夫ヴァルモンもまた多くの女性と付き合っていた。しかしお互いを一番に愛し、情事について報告しあうほどの仲である。パーティの夜、妻のジュリエットは別れようと思っていた愛人のジェリーがセシルという若い娘と婚約したことに憤り、夫のヴァルモンにセシルの純潔を奪わせようとする。

睡蓮 原作は大学時代に読んだっきりですが、本当に名作ですからねえ。

森下 わたしは原作も読んでいないし、映像化した作品を観たのも初めてだけど、このロジェ版は冒頭のチェスを用いた表現からしていい雰囲気だった。小洒落れてんな~!って。60年近く前の映画なのにね。

睡蓮 60年前で、さらに当時の現代版にリメイクですからねぇ。上流階級の気取った雰囲気むんむんではじまりますね。さっきの『蜘蛛女』と同様に一応、男性が主人公です。一応。

森下 ジュリエッタの夫ヴァルモンを演じたジェラール・フィリップは36歳で亡くなってるのね。

睡蓮 そうそう、これが遺作なんですよ。

森下 濃厚な人生だったんだなあ。ちなみに、妻のジュリエッタはあのジャンヌ・モロー。

睡蓮 まさにレジェンドカップル。夫婦ともにものすごく美しくて、モテモテで、お互い恋人がいることにオープンなんですけど……この夫婦設定は日本じゃ成立しにくいかもしれないですね。

森下 成立しないってこともないだろうけど、「お互いに浮気OK、しかも仲も良いよ」って夫婦関係を現代日本人はどう見るんだろう。

睡蓮 愛人とのことをいちいち手紙で報告し合うっていう、谷崎潤一郎にも通じる変態性としては受け容れられるかもしれないけど、それって関係性の問題ではなくて単なる性的趣向と見なされてしまうでしょうね。

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森下 原作小説は18世紀後半の貴族社会が舞台だもんね。

睡蓮 貴族はいいですよねぇ。貴族の精神性って憧れますよ。知性と欲望がちゃんと屹立しているというか。

森下 映画の方も舞台はいわゆるハイソサエティの世界で、「不貞」とかじゃなくて「男女の戯れ」みたいな雰囲気だったんだなって。紳士・淑女のたしなみ的な。

睡蓮 「不貞」っていうつまらない言葉でくくってしまうと、せっかくのジャンヌ・モローの役の悪女性も消えちゃいますよね。メインの夫婦関係が歪んでるから一見複雑なんですが、周りに貞淑な妻だったり、幸せな結婚を望んでる女性だったりがいて、そういうまともな人をたぶらかすのが「罪」の楽しみなわけですよ。

森下 なんたって女と男がちゃんと駆け引きするもんね。

睡蓮 相手をおとすために、どうのこうのと……。

森下 そう。押したり、引いたり、作戦立てたり。

睡蓮 そういえば、わたしこの間、人生で嫌いなものが何かわかったんです。

森下 何だろ?

睡蓮 恋の駆け引きです。

森下 えっ!

睡蓮 とにかく面倒だなって思っちゃう。はっきり言えばいいんじゃないのって。そういうところが所詮は貴族に憧れる凡人だなと思うわけですが。

森下 睡蓮さん、めっちゃ駆け引きしそうなのに(笑)最近そうなったの?昔から?

睡蓮 昔から嫌いだったんでしょうけど、気づいてなかったのかも。単に面倒臭いってだけじゃなくて、好きになっちゃうとそれどころじゃないっていうか。最近ようやく言葉にできた感じ。

森下 ほー。

睡蓮 うん、恋のゲームなんて全然楽しくないですよ。いいならいい、ダメならダメ。時間使いたくない。それよりも、いいってなったあとの人間関係がどう変わっていくかにしか興味ないですね。

森下 嘘つかれたり、逆に自分が嘘ついたり、何度も面倒くさい目に遭っていい加減うんざりしてるんだね……。

睡蓮 そう言われると、さも何か色々あったみたいですね(笑)恋愛の始まりは楽しいかもしれないけど、はじまりを長びかせたいとは思わない。この映画ではその面倒な駆け引きをちゃんと時間かけてやってるところにすごく尊敬します。

森下 彼らは面倒とは思ってなくて、趣味や娯楽として恋愛を楽しんでるのよ。

睡蓮 なんたって貴族……。

森下 ものすごく贅沢な生き方だと思うよ。

睡蓮 発想自体にすごく余裕がありますもんね。時間とかお金とか、すべてに余裕がないと無理ですもん。自分とかけ離れてるからこそ好きです。

森下 貴重な映画だと思うよ。わたしたちはこの時代、この世界観を味わうことはできないから。

睡蓮 しかも心から楽しんでいるというよりも、別に本当はそうでもないんだけど「とりあえず楽しんでるフリしとこー」みたいなこの軽い退廃感じがたまらないですねぇ。ジャンヌ・モローが演じたジュリエッタがどんどん人を傷つけていくのに悪びれるでもなく「なんでダメなの?」って顔が最高に可愛い。

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森下 誰にも屈しないって態度で、夫や他人を自分の思い通りに動かすことが彼女の喜びなんだね。

睡蓮 原作ではずっと夫が妻のジュリエッタに手紙を書き続けるんですけど、映画での彼女はメインの役じゃないのに、しっかり裏で糸を引いているんです。妻のジュリエッタは夫との関係にしか興味がなく、行動原理はあくまで自分たちの快楽にある、そこが余計に怖くて。

森下 ジュリエッタは自分が幸せならそれでいい、って人だから。

睡蓮 しかも彼女のなかでは自分と夫、ふたり合わせて私=ジュリエッタなんですよねぇ。だから他人としての夫を愛するというよりも、見方によっては確立していない自分の存在への戸惑いのようにも映りました。

森下 幸せに酔いしれているときは「お互いに何でも許し合える」と思えるけど、都合が悪くなったら、ねぇ……。ただ、わたしはジュリエッタのような良心のかけらもないキャラに対しての「羨望」があるんだよね。周りに遠慮しながらいい人でいるより、悪女と言われようと確実に欲しいものを手に掴む、そういう人生が素晴らしいじゃない?って。

睡蓮 最後、悲惨なことになったジュリエッタの顔を、誰かが「あの人の心の醜さが出たのよ」って言うんですよね。わたし、それが哀しかったんです。ジュリエッタを醜いとは思わなかったから。人は、誰でもいいから悪人を作りあげないと生きていけないわけですよね。だから悪女を語る中で改めて見えてきたのは「悪女は人々の悪意によって作られる」ということ。この映画は今の日本でも観られるべきですよ。

森下 実は、『危険な関係』が2018年3月21日から4Kデジタル・リマスター版が限定公開されるの。いやはやこのタイミングで公開されるのにびっくり。楽しみだなあ。

睡蓮 いい機会ですね。必見です。

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ジェラール・フィリップと永遠のミューズ-ジャンヌ・モロー『危険な関係』

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幸せになる悪女

森下 『危険な関係』とはあまりリンクしないけど、そろそろ『猟奇的な彼女』に話題を移そうかな。

睡蓮 もともとはネット小説なんですよね。そのせいなのかこれまでのラインナップのなかではすごくライトです。

「猟奇的な彼女」あらすじ
兵役が終わって復学した大学生のキョヌ。ある日、地下鉄のホームで偶然出会った「彼女」は強烈だった。老人に席を譲らない男をどつき、口ぐせは「ぶっ殺されたい?」。顔は美人だしスタイルも良いが、その時の「彼女」は泥酔状態。酒癖の悪い女は嫌いなキョヌだったが、車中で倒れている「彼女」を放っておけず仕方なくホテルへと運び介抱する。ところがそこに警官がやってきてキョヌは留置場で一晩を過ごすはめに。翌朝、泥酔で記憶の飛んだ「彼女」は怒ってキョヌを電話で呼び出すのだが……。

森下 わたし、「彼女」役のチョン・ジヒョンが昔から大好きなのね。彼女をいいなと思うのは、どんなに下品なことしてもグズグズにならないから。飲み過ぎて電車の中で座ってた中年男性の頭の上にゲロ吐くシーン、キマってたなぁ……。

睡蓮 二日酔いでしょっちゅう吐き気と闘っている身としては他人事とは思えませんでしたよ(笑)彼女、表情的にはあんまり崩れるタイプの人じゃないと思うんだけど、時々すっごい変な顔するのがチャーミングですね。

森下 愛せるよねえ。あと、ワンレンの長い黒髪をスッとかき上げるしぐさもクドくなくて良かった。

睡蓮 すごくワガママな小さい女の子みたいな彼女がいて、うんざりしながらも結局なんでも受け容れようとする男の子みたいな青年のキョヌ(チャ・テヒョン)がいて。非常に最近ぽいというか、翻弄される僕はいながらもそれを男の哀愁には集約できないところが面白いですね。『蜘蛛女』と比べてみるといっそうに価値観の変遷がわかります。

森下 役柄の「彼女」は中盤まで「ザ・自己中の女」でしょ。理由は後になって明らかになるんだけど、序盤は酒の飲み方が「やさぐれたおっさん」だし、「わたしの言うこと聞けねえのかよ!」って態度でいつもキョヌに接してて、悪女というか、底抜けに生意気な女って感じなのかなって思った。

睡蓮 とにかくなんでもいちゃもんつけますからね(笑)正直、ストーリー展開自体はわかりやす過ぎて、ひねりがないというか、驚きはなかったんですが。主人公のキョヌが語る「彼女」の物語世界が成り立つあの軽さをどうしても憎めなかったです。

森下 うん、少女漫画っぽい、やや予定調和な展開だった。

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睡蓮 この「彼女」という人は、自己陶酔型というよりもたまたま荒れてるときにキョヌと出会っちゃったって感じですね。

森下 ラストに向かってどんどん聖女になっていくもんね。

睡蓮 基本がいい子。なんというか、間違っても猟奇的ではないと思いましたどね。そんなこといったら女の子なんてみんな猟奇的ってことになっちゃう。キョヌがまた世間知らずで素直な子だったから成り立つんでしょうけど。

森下 でもキョヌは抜けてる部分があるし、女の子に優しすぎるところがあるから、「彼女」も彼の性格に甘えてわがままな態度とったり、弱み晒しまくったり、二人の基本的な関係性は変わんないと思うよ。

睡蓮 というか、甘えていいんだって思ったら骨の髄まで甘え尽くすと思いますね。キョヌが突然豹変でもしない限り(笑)でもこのふたりすごく良いカップルというか、過去の重荷と向き合い続けないといけない彼女が、キョヌという男性との出会いで希望が見えたのは紛れもないハッピーエンドです。チープだとは思ったけど嫌じゃない。

森下 初めて幸せに終わる作品を紹介した気が……。いや、良いと思うのね、面倒くさい女も、生意気すぎる女も、人を殺しちゃうくらい思い詰めた女も、みんな自分だけの幸せを見つけて欲しいから。

睡蓮 うん、あらゆる悪女の幸せを望んでいますよ。何目線かわからないけど。今回「陶酔」というテーマで語った作品は「自分に対しての陶酔感」の強い悪女ばかりだったから、「彼女」は異例だったかもしれないですね。

森下 前編で取り上げたのは200%自己愛の女たちだったからね。

睡蓮 そうですね。後半は主人公の男性たちが語りたくなる悪女でした。この名前の出てこない「彼女」もピュアさゆえにワガママでいないと壊れてしまいそうな繊細さとか、子供っぽさとか、特別ではない普通の女の子がどこかで持っている感覚だと思います。それを「女って面倒〜」じゃなくて親しみを込めて「猟奇的な彼女」って命名しちゃうキョヌの距離感に思わずありがとねって言いたくなりました。

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韓国映画 [猟奇的な彼女] 予告版

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今回取り上げた3本

『蜘蛛女』
原題 Romeo is Bleedings /製作年 1994年製作国 アメリカ /配給 日本ヘラルド /上映時間 100分
監督 ピーター・メダック /製作 ヒラリー・ヘンキン 、 ポール・ウェブスター /製作総指揮 ティム・ビーヴァン 、 エリック・フェルナー /脚本 ヒラリー・ヘンキン /撮影 ダリウス・ウォルスキー /音楽 マーク・アイシャム /美術 スチュアート・ワーツェル /編集 リー・パーシー
キャスト/レナ・オリン、ゲイリー・オールドマン、アナベラ・シオラ、ジュリエット・ルイス、ロイ・シャイダー、マイケル・ウィンコット、トム・ウェイツ、ウィル・パットン、ロン・パールマン他

『危険な関係』
原題 Les Liaisons Dangereuses 1960 /製作年 1959年/製作国 フランス/配給 新外映/上映時間 105分
監督 ロジェ・ヴァディム/原作 ピエール・コデルロス・ド・ラクロ/脚色 ロジェ・ヴァイヤン 、 ロジェ・ヴァディム/台詞 ロジェ・ヴァイヤン/撮影 マルセル・グリニョン/音楽 セロニアス・モンク 、 バルネ・ウィラン 、 アート・ブレイキートジャズ・メッセンジャース 、 Lee Morgan 、 Bobby Timmons 、 Jimmy Merritt
キャスト/ジェラール・フィリップ、ジャンヌ・モロー、アネット・ヴァディム、ジャンヌ・ヴァレリー、ジャン・ルイ・トランティニャン、シモーヌ・ルナン、ニコラス・ヴォーゲル

『猟奇的な彼女』
原題 My Sassy Girl /製作年 2001年 /製作国 韓国 / 配給 アミューズピクチャーズ(日本テレビ=東芝=カルチュア・パブリッシャーズ=衛星放送=アミューズピクチャーズ 提供)
監督 クァク・ジェヨン /製作 パク・クォンソプ 、 シ・チョル /原作 キム・ホシク /脚本 クァク・ジェヨン /撮影 キム・ソンボク /音楽 キム・ヒョンソク /美術 ソン・ユンヒ /編集 キム・サンボム /キャスト/ チョン・ジヒョン、チャ・テヒョン、キム・インムン、ソン・オクスク、ヤン・グムソク、ハン・ジニ、キム・イル 他

★「悪女と陶酔」前編はこちら

森下くるみ(もりした・くるみ)
1980年生まれ。秋田県秋田市出身。文筆家。「小説現代」2008年2月号に短編小説「硫化水銀」(のちに電子書籍化)を発表。著作に『すべては「裸になる」から始まって』(講談社文庫)、『らふ』(青志社)、『36 書く女×撮る男』(ポンプラボ)、『虫食いの家』(kindle singles)など。季刊誌『東京荒野』に旅エッセイ「回遊録」を、ポエジィとアートを連絡する叢書『未明』に「食べびと。」を連載中。

睡蓮みどり(すいれん・みどり)
1987年生まれ。神奈川県横浜市出身。早稲田大学第二文学部中退。在学中より映画を中心に女優として活動を開始。主な出演作は『恋の罪』(園子温監督)、『青春群青色の夏』(田中佑和監督)、『断食芸人』(足立正生監督)、『第九条』(宮本正樹監督)など。その他、「月刊デジタルファクトリー」で写真モデルを務める。文芸誌「文學界」や「群像」にエッセイを発表。図書新聞に「シネマの吐息」連載中。著作には『溺れた女 渇愛的偏愛映画論』(彩流社)。

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