全身整形女の崩壊 

睡蓮 今回のテーマは「悪女と陶酔」です。「陶酔」というのは何かに深く酔いしれることですけど、その対象が自分となると捉え方がまた違ってきますね。

森下 今回の悪女も自己愛が強いだけじゃないよ、ということで、まず最初は『ヘルタースケルター』から語ろうかな。

『ヘルタースケルター』あらすじ
女子高校生たちがなりたい顔NO.1の超人気モデル、りりこ(沢尻エリカ)。彼女は目(眼球)、耳、爪、性器以外すべて「つくりもの」の全身整形モデルだった。美しい身体を保つためには整形を続けねばならなかったが、維持し切れなくなった肉体に後遺症が現れ始める。そんな時、同じ事務所の18歳の女性アイドル・吉川こずえ(水原希子)の人気が上がり、さらには恋人の南部(窪塚洋介)が政治家の令嬢と電撃結婚して、りりこは肉体的にも精神的にも追いつめられていく。

睡蓮 岡崎京子といえば『リバーズ・エッジ』が始まりましたね(TOHOシネマズ六本木他全国公開中)。

森下 あ、行定勲監督×二階堂ふみさん主演の!

睡蓮 原作ファンとしては観たいような観たくないような……。

森下 ここ数年は特に、人気漫画の映画に関して「キャラクターのイメージを崩さないでくれ」っていう要求が強いじゃない。配役とキャラのイメージに差があると不満の声が上がって、内容が悪いと「原作レイプだ」って言われちゃう。わたしは再現度の高さにこだわりはないから「映画として面白かったら問題なし」だけど、面白くなかったら記憶から消す(笑)

睡蓮 そもそもあんまり漫画作品自体詳しくないし、ほとんどの漫画の映画化に興味がないのですが……岡崎京子だけは別だなぁ。何らかの影響を受けたであろう、わたしたち世代で比較するなっていう方が無理ですよ。

森下 そうなんだよねえ。岡崎作品が映像化って知ったとき「どの作品?!」ってざわざわしたもん。

睡蓮 ざわつきますよね。『ヘルタースケルター』は先日観直したときに漫画と同時進行で観てみたんですが、元々のセリフをそのまま使ってたり、けっこう忠実に再現されてて逆に驚いちゃった。

森下 ほんと、いいセリフがいっぱいあるもんね。『若さは美しいけれども、美しさは若さではない。美はもっとあらゆるものを豊かにふくんでいるんだ』ってセリフが好き。全身整形の大人気モデルの容姿と精神が崩壊して、人間の脆さ、醜さとか、したたかという意味での強さとかが露呈するあたり、「自己陶酔」ってテーマに上手くはまってると思う。

睡蓮 あの毒気と可愛さの合間にスコンと本質を突いてくるセリフが岡崎京子の世界ですよね。

森下 原作は好きだけど、沢尻エリカの表現したりりこは魅力的だとは思わなかったなー。

睡蓮 映画版はクールすぎると思う。りりこはもっとぶっ飛んだ女なのに喋り方とかイイ女風になっちゃってるし。原作に忠実なのになぜか全く別物になってます。

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森下 りりこのキャラはもうちょいデフォルメして欲しかった。性格悪いのをリアルに演じても人物のスケールが小さくなっていくばかりで興醒めだったし、蜷川実花監督の演出も、美術とか……凝り過ぎじゃない?

睡蓮 それが蜷川実花という方なんでしょうけど、大げさすぎるというか。この間、ラース・フォン・トリアー監督について喋っているときに何が苦手がわかったんですけど、個人的には作品に監督の顔がちらつくのが嫌なんだなと。それって作家性とはまた別の話だと思ってて。タランティーノとかギャスパー・ノエとかのちらつき方はついつい笑っちゃうんだけど。

森下 そうだね、監督の趣味やエゴが真っ先に見えてしまうのはちょっと……。やばい、ディスりまくってる(苦笑)

睡蓮 あと、りりこという人物像の解釈の仕方なんですが、岡崎京子は女の子的な病み方というものを読者を共感させる力がすごいと思うんですね。映画であららっと思ったのは「りりこが狂っていったのは薬の副作用」って印象が強過ぎたところですね。整形依存とか薬のせいで狂っていくとか、どうも核心ついてないなあって。そういうことじゃないでしょう。

森下 薬の副作用はりりこが崩壊していく要因のひとつに過ぎないから。そこが「全身整形」って設定がうわべだけになった原因かもしれない。

睡蓮 映画の面白さって設定じゃなくて、本当に些細なところの表現だと思うんですね。そこがテレビドラマと大きく違うというか。そういう意味では漫画の方がずっと映画的だった。だから何というか、わたしのなかでは映画を観たというより蜷川実花の世界を観たって感じですね。

「りりこ」は悪女なのか?

森下 注目すべき悪女のポイントはどの部分だろう?

睡蓮 原作のりりこの陶酔感は凄かったです。スターになって観られ方が変わって、過剰じゃないと自分が保てなくなるあたりとか。

森下 美しさと人気のピークで人格が分裂して、虚無感と強迫観念が強くなっていく。過度なコンプレックスは女をモンスターにするんだなあ。

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睡蓮 他人を平気で道具みたいに使うとことか、いい悪女だなぁとしみじみ思ったんですが。 

森下 マネージャーの「羽田ちゃん」はりりこの悪女っぷりを輝かせる一番の功労者だったよね。彼女もかなり卑屈な女で、性奴隷にされたあげくに彼氏も寝取られて、りりこの次に悲惨だった。

睡蓮 寺島しのぶさんの演じた羽田ちゃんは、原作とは全然違いましたね。いい意味ですごーく気持ち悪くて最高でした。岡崎京子の描く漫画って主人公のラブシーンとかごく普通のこととしてさらっと描かれているのも魅力的です。

森下 挨拶ほど気軽でなく、愛ってほど重くない。絶妙なバランスのセックス描写だと思うし、暴力として描けるほど自由自在で。

睡蓮 そうそう、特別なことじゃない。これまで「わたしたち」のことを描くところに女の子の精神性に突き刺さるものがあるなと。一緒に悪いことしちゃおうよー、みたいな。それが『ヘルタースケルター』で「わたしたち」から「りりこ」っていう一人のスターが出てきたのが興味深いですね。

森下 「麻痺」に近いドライな感覚が岡崎作品の特徴であって、「あー、狂ってるなあ」って感じはそのドライさに見受けられるんだけど。しつこいけど、映画の方は……。

睡蓮 あはは(笑)映画はドライさがなくって過剰すぎたというか、脂っこいというか。途中からてんこ盛り過ぎてお腹いっぱいになっちゃった。胃が痛くて食べ物が喉を通りません、みたいな感覚になりたかったので残念です。

森下 原作はサスペンスな要素も加わって一級品の悪女物語なのに、実にもったいない。それが結論かな。水原希子の方がよっぽど悪女に見えたよ。

睡蓮 映画版『ヘルタースケルター』のりりこは悪女認定するの難しいですね。しいていうならあそこまで自分を出せちゃう蜷川実花監督が一番悪女です。

森下 そこは否定しないでおく……。りりこは継ぎ接ぎのサイボーグだけど、ひと昔前のロックスターみたいな生き方で、そういう潔さはあったよね。

睡蓮 うん、悪さが格好よさに繋がってた。やっぱり、せめて映画の中ではスターを見ていたいと思ってしまいます。

画像: 『へルタースケルター』予告編 www.youtube.com

『へルタースケルター』予告編

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純粋さへの嫉妬

睡蓮 この辺で、『ネオン・デーモン』いってみます?

森下 ほーい。『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督作だね。

『ネオン・デーモン』あらすじ
ソファーにもたれ掛り、血の流れる死体というショッキングなテーマで宣伝用の写真撮影を行う、新人モデルのジェシー(エル・ファニング)。撮影後、ジェシーは16歳のときに両親が亡くなったこと、安いモーテルで一人暮らしをしているといった身の上話をメイク担当のルビーにする。2人は意気投合し、モデル達の集まるパーティへ出かけることになる。会場には先輩モデルのジジとサラがいて、彼女らはジェシーのあどけなさと大人びた艶やかな容姿に嫉妬し、敵意を向けるのだが……。

睡蓮 色彩のこだわりが強いところや、「モデル業界」を描いているということとか「目玉」がキーワードになるとか、『ヘルタースケルター』との共通点もあります。

森下 全体的な色味は暗めで、時間の感覚が曖昧になったような、SFチックな画面作りが印象に残ってる。レフン監督がインタビューで「ネオンの二面性、煌びやかな部分とシックな部分に惹かれてタイトルをつけた」と言ってて「なるほどー」と思ったんだけど、映像表現が独特なせいもあってかネットの反応がイマイチなのが気になったなあ……。

睡蓮 わかりやすすぎるのかな?

森下 いや、「観念的で意味のわからないシーンがある」ってレビューされてたの。

睡蓮 えっ、そんな観念的なシーンあったっけ?例の目玉とか象徴的に扱われてるけど、そういうところかしら?

森下 画面の奥に三角形の照明があって、そこからシックなドレスを着たジェシーが手前に向かってゆっくり歩いてくるシーン、あれを「どう解釈すればいいの?」みたいに言われてて。自分の感覚で自由に想像すりゃいいと思うんだけど。

睡蓮 ふむ。意味を求めすぎるのかな。何の象徴かとか毎度そういうこと気になっちゃう人は『2001年宇宙の旅』とか観たらなんて思うんだろう。

森下 開始10分で寝る……かな。

睡蓮 わたしは「セレブの生活を覗いてみたい」というような、ゴシップ記事的な興味とあの色味が好きで観てしまいましたね。色味は監督の色覚障害が影響しているらしいけど。欲を言えばもうちょっときわどい感じギリギリで表現されてても良かったかな。グロテスクなシーンですらおしゃれだった。前作『ドライブ』も予告編で期待値が高すぎたせいか、あーおしい!って思っちゃいました。

森下 モデル業界を舞台に、女性のフェティシズムを映画にしたかったんだろうな。それってかなり難しいことだよ。さすがにネタバレできないけど、内容は『ヘルタースケルター』よりさらに「女」のドロドロ、ねとねとした気持ちの悪い部分を暴く形になってたと思う。

睡蓮 紋切り型の性格の悪ーい先輩モデルたちの中で、純粋さが魅力の新人・ジェシーが売れていきますよね。『ヘルタースケルター』でいえば水原希子みたいな立場。

森下 ジェシーは真っ新な人だし、悪い志向性もないんだけどさ、ジェシーに関わる人たちが勝手に影響を受けて悪くなっていく、逆説的な悪女で……今まで何度かこういうタイプの女性の話したよね。

睡蓮 そうですね。その異質さで周りの悪を余計に駆り立てちゃうんでしょうね。彼女の中にもともと潜んでいた邪悪な部分がウイルスみたいに感染していく感じというか。

森下 そんな汚れのないジェシーも徐々に毒されていくわけで……。

睡蓮 面白いのはジェシーの場合、ただ無垢というわけではなくて、子供の頃の何も意識していない頃から一番身近な女=母親に「危ない子」って呪いのように言われ続けてきたというところですね。なぜ母親は言わざるを得なかったのか。

画像: thedarksidemagazine.com
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女の追及する完璧な美  

森下 作品の本質とは全然関係ないところでひとつ疑問があるんだけど。主人公のジェシーの容姿ってみんなに嫉妬されるほどなの?

睡蓮 美人というより、可愛いタイプというか、まあファニーフェイスですよね。

森下 ピンとこなくて、失礼ながら「他人が狂うほどの美貌……えっ??」って思ってしまった。

睡蓮 その曖昧さがいいんじゃないかな。同年代の女優で比べたらエマ・ワトソンとかの方がわかりやすく美女だとは思いますけど。

森下 好みの問題があるとしても、一般的にはそうだよね。

睡蓮 でも、必ずしも整った綺麗な顔立ちの人が売れるわけじゃないですし「可愛い……のか?」ってところがキャスティングとして上手いなと。

森下 そっか、映画では美形かどうかより無垢なことがポイントだもんなあ。

睡蓮 想像するに、モデルの世界はルックスにこそ一番価値がありますよね。どんなに性格がよくてもスタイルが良くないとモデルにはなれない。内面とか技術よりも肉体そのものの価値が顕著です。

森下 残酷な世界だよね。ただ、美を追求した先には何があるんだろう。整形も二重手術くらいなら別に大したことないけど、行き過ぎると人間の顔じゃなくなるじゃない?いつも対談するたびに言うけど、美に憑りつかれた女って人間を越えようとするのよ。「バービーちゃんみたいだね」って羨ましがられたいんじゃなくて、「バービーちゃんになった」って実感を得たいわけ。

睡蓮 美の基準がバービー人形とか、自分の外にできちゃうというのは怖いことですよね。絶対そのものにはなれないわけだし。

森下 そう、「完璧」だなんてただ怖いだけだよ。目なんか宇宙人みたくなってるじゃない。

睡蓮 りりこはあんなに綺麗でみんながなりたい顔だったのに、それでも足りないわけですよね。

森下 彼女の本当に欲しかったものは容姿の完璧さじゃなくて、無償の愛情だったんだよ。

睡蓮 あとは、他人を信じられる自分自身とか。妹の登場で明らかになりますが、元々はすごく不細工っていう、かなり悲惨な設定なんですよね。

森下 みんなに愛されるため、自分の中の「マイナス」を顔面ごと消したかったんだね。『ネオンデーモン』はそれとは逆に、悪魔みたいな女たちに食われてしまう話。

睡蓮 自分が悪魔になるか、周りを悪魔にしてしまうか……。生まれつき何もかも持ってるジェシーにみんな嫉妬するのはわかるんですけどね。

画像: screenmusings.org
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森下 逆恨み的にね。『わたしたちはお金も時間もつぎ込んで、メンタルの負担も犠牲にしてようやく美を手に入れたのに』って。彼女らは「天然」ってものを信じられないから。 

睡蓮 そりゃ、周りの立場だったら信じたくないでしょうね。ちょっと個人的な話なんですけど、「あの子なんなの、腹立つー!」みたいな女同士特有のいざこざってあるじゃないですか。何だかすっかり忘れてたんですよ。「女の嫉妬」というものを。

森下 狭いカテゴリの中で妬み合うんだよね。わたしは嫉妬されるような輪に入ったことがないからさっぱりわかんない。

睡蓮 自意識強すぎるガールズの輪に入ったら地獄だろうなぁ。ちっちゃい派閥とか。

森下 学生の頃にしてたバイトとか、同じクラスの女子たちとか、群れができそうな場所ってあるけど、近づかない方がいいよ。嫌な予感がすれば素早く離れて隅っこにひとりでいる、それが一番。

睡蓮 枯葉に変身するとかすごい能力を持つ生物みたいですね(笑)わたしは鈍感だったのもありますけど、グループができていても気にしてないというか、読書するか、謎の創作物をノートに書いたりして完全に妄想の世界に逃げ込んでましたね。

森下 そんなわけで、『ヘルタースケルター』から続いて『ネオン・デーモン』も、「女の集まるところって面倒くさー」って突っ込み入れながら観てた。

睡蓮 悪女レベルでは前者は「残念…」で、後者は「惜しい!」と思いました。映画自体への評価にも繋がるのだけど。

森下 今まで物語には、「純粋無垢で素直な性格の女の子が、最後には人生に勝つ」ってシンデレラ的な法則性があったと思うの。でもこの作品は例外で、「徹底した弱肉強食の世界で、悪が勝つ」それを示唆したラストはとても良かったし、エル・ファニング強ぇ……。

睡蓮 ラストのあの状態になってもなお執念を燃やし続ける。そういうところではスター性、悪女性どちらも持ってますね。

画像: The Neon Demon Official Trailer #1 (2016) - Elle Fanning, Keanu Reeves Horror Movie HD www.youtube.com

The Neon Demon Official Trailer #1 (2016) - Elle Fanning, Keanu Reeves Horror Movie HD

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優等生バレリーナ・ニナの陶酔 

睡蓮 そして取り上げた二つの作品を昇華してくれるのが『ブラック・スワン』じゃないかと。

森下 うんうん。

『ブラック・スワン』あらすじ
ニューヨークにある一流バレエ団に所属するニナ(ナタリー・ポートマン)は、元バレリーナの母の指導の元、バレエ漬けの日々を送っている。芸術監督のトーマス(ヴァンサン・カッセル)は、花形のベス(ウィノナ・ライダー)を降板させ、新しい振り付けで新シーズンの「白鳥の湖」公演を行うことを決定する。そしてニナが次のプリマ・バレリーナに抜てきされるが、彼女の優等生的な踊りは「気品あふれる白鳥」は問題ないものの、「狡猾(こうかつ)で官能的な黒鳥」を演じることに不安があり……。

睡蓮 いやあ、泣いた。

森下 えっ。どこで?!

睡蓮 久しぶりに観たらすごいよかった。このシーンで、というよりも徐々にニナの陶酔感に一緒に陶酔していって追い詰められて苦しくなって涙出てきて……ダメでした?

森下 いや、本当によくできた物語だと思う。だってバレエの世界なんて、華やかなイメージとは裏腹に女性しかいなくて閉鎖的で、シビアでしょ。芸術性とアスリートの極地だよね。

睡蓮 美と動きと、女としての能力と。そういえば、1年もしないで辞めたけど、子供の頃バレエやってたんですよ。わたしが通った教室には曖昧なことが許されない、ぽやーっとしてるとダメみたいな空気がありましたね。

森下 こんなこと言ったら良くないけど、女優のナタリー・ポートマンは素敵なのに、ニナというキャラクターは好きになれなかった。過酷な世界で頂点を目指してる子が、ちょっとしたことでめそめそすんなよって苛々しちゃって。ニナが打たれ強い子だったら物語として成立しないんだけど(笑)

睡蓮 思春期の女の子だったらすんなり納得できるのが、ニナはもう少女ではないというところが絶妙ですよね。ピンク色だらけの部屋の子供っぽさとか、男性恐怖症的な空気の演出がすごかった。

画像: taestfulreviews.com
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森下 なんだよこの部屋、メルヘンか!ってゾッとしつつ、「バレエに没頭しすぎて男性と接する機会も、時間の余裕もなかったんだね」って納得させる力はあったよね。

睡蓮 ある意味りりこの真っ赤な部屋よりもコワイ。周りの女の子たちが「役がもらえるんだったら男とも寝ますけど何か」みたいな腹のすわった子も多いから余計に彼女の少女性みたいなものが際立ちますね。

森下 ニナみたいな真面目な女の子の方が頑固だし、屈折してる思うよ。

睡蓮 友達にはなれないだろうなぁ。ライバルのリリーのキャラの方が好きです。

森下 うん、彼女なら一緒に酒飲みたいと思う。

睡蓮 コーチ役のヴァンサン・カッセルについては、本当にほどよいプレイボーイっぷりを発揮してて、公私混同する様は見ものです。素かと思った(笑)

森下 ニナは、あのセクハラコーチに「お前には色気が足りない」って図星な指摘をされて焦りはじめるもんね。本当にクソ真面目……。

睡蓮 この二人、仕事をする上ではすごく良いパートナーだと思うんですよ。コーチは権限を持った美男、教え子は美女。恋愛に発展する要素満載な中でそれを通り越してニナは役にのめり込んでいく。でもこれ、ラブストーリーじゃないってところがいいんですよねぇ。もしニナとコーチの露骨なラブシーンがあったら多分嫌いな映画だったと思う。

森下 コーチとデキちゃえばすんごい楽なのに、それが出来ない子だから追い詰められていくんだよね。

睡蓮 だってまだ恋愛を知らない小さい女の子みたいな感覚だから。当然ニナは自分では女を武器にしてないって思ってるけど、無意識のうちに実はめちゃくちゃ使ってますよね。そういう無自覚な能力の高さがまた怖かった。

画像: www.sosreelthoughts.com
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森下 現場で泣き出すくらい神経が細くて、心がぽきぽき折れてるのに「主役に抜擢してほしい」って懇願したの見て、ああ女だなあって思ったけど……なんというか、か弱いのか太々しいのかはっきりしないところも女っぽい。

睡蓮 自分以外は好きになれないというか、他人を愛せないというか。後編でちゃんと話しますけど『蜘蛛女』が好きだったのは、あっぱれって言うくらい堂々と正しく(?)女を武器にするところが快感だったんですね。

森下 女ボス感がすごかったよね。バトルシーンがいちいちド派手でめっちゃ笑った。

睡蓮 ニナがこの段階で本当に悪女なのかはすごく微妙ですね。悪女の原石みたいな。

森下 うーん。女としての黒さには煮え切らなさがあるな……。

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睡蓮 前に取り上げた『反撥』のカトリーヌ・ドヌーヴ、わたしはあのキャロルってキャラクターがすごく好きで、ニナとは同系列だと思ってるんです。

森下 Wiki情報だけど、監督は『反撥』の影響を認めてたよ。

睡蓮 あら、そうなんですね。キャロルは純粋さと脆弱が極まって人を殺しちゃう、その精神の潔癖と崇高さがニナにも重なりました。

森下 自ら削いだ精神を刃物にして、ラストで自分を追いつめて行き場を失ってしまったのは、『反撥』も同じだったね。

睡蓮 白鳥と黒鳥に象徴される「処女性」と「魔性性」、この二つを融合したナタリー・ポートマンの演じたニナはラストはやっぱり自己完結するしかなかったのかな。今回の「悪女と陶酔」で取り上げるヒロインたちは、向上心と自分自身とのバランスを取るのが極めて難しい状況でしたね。

森下 うん。呆れるほどタフじゃないと生き残れない特殊な環境だと思う。競争相手の女が多いと特に。

睡蓮 陶酔型は自分しか見えなくなっちゃう迷惑なタイプですが、その影にいつも彼女たちに呪いをかけるように女の影があるのも共通してますね。りりこには芸能社長、ジェシーとニナには母親。どこかでお人形として生きてきた彼女たちがようやく生命を持ったとも言えるけど、呪いは消えないという、一番救いがないパターンかもしれないですね。

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BLACK SWAN | Official Trailer | FOX Searchlight

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今回取り上げた3本

ヘルタースケルター
製作年 2012年/製作国 日本/配給 アスミック・エース/上映時間 127分
監督 蜷川実花/製作 和崎信哉 、 豊島雅郎/プロデューサー 宇田充 、 甘木モリオ/原作 岡崎京子/脚本 金子ありさ/撮影 相馬大輔/音楽 上野耕路/美術 小泉博康 、 enzo
キャスト 沢尻エリカ、大森南朋、寺島しのぶ、綾野剛、水原希子、新井浩文、鈴木杏、寺島進、哀川翔、窪塚洋介、原田美枝子、桃井かおり 他

ネオン・デーモン
原題 THE NEON DEMON/製作年 2016年/製作国 アメリカ=デンマーク=フランス/配給 ギャガ/上映時間 118分
監督 ニコラス・ウィンディング・レフン/製作 レネ・ボーグルム 、 シドニー・デュマ 、 ヴァンサン・マラヴァル/製作総指揮 クリストフ・ランデ 、 ブラヒム・シウア 、 クリストファー・ウッドロウ 、 マイケル・ベイシック 、 スティーヴン・マーシャル 、 ミシェル・リトヴァク 、 ゲイリー・マイケル・ウォルターズ 、 ジェフリー・ストット 、 マニュエル・シーシュ 、 マシュー・リード 、 ヴィクター・ホー 、 レイチェル・ディック 、 ソール・シグルヨンソン/原案 ニコラス・ウィンディング・レフン/脚本 ニコラス・ウィンディング・レフン 、 メアリー・ロウズ 、 ポリー・ステンハム/音楽 クリフ・マルティネス/編集 マシュー・ニューマン
キャスト エル・ファニング/カール・グルスマン/ジェナ・マローン/ベラ・ヒースコート/アビー・リー/クリスティナ・ヘンドリックス/キアヌ・リーヴス

ブラックスワン
原題 BLACK SWAN/製作年 2010年/製作国 アメリカ/配給 20世紀フォックス映画/上映時間 108分
監督 ダーレン・アロノフスキー/製作 マイク・メダヴォイ 、 アーノルド・W・メッサー 、 ブライアン・オリヴァー 、 スコット・フランクリン/製作総指揮 ブラッドリー・J・フィッシャー 、 アリ・ハンデル 、 タイラー・トンプソン 、 ピーター・フラックマン 、 リック・シュウォーツ 、 ジョン・アヴネット/原案 アンドレス・ハインツ/脚本 マーク・ヘイマン 、 アンドレス・ハインツ 、 ジョン・マクラフリン/撮影 マシュー・リバティーク/衣装デザイン エイミー・ウェストコット/音楽 クリント・マンセル
キャスト ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス、バーバラ・ハーシー、ノナ・ライダー、バンジャマン・ミルピエ、クセニア・ソロ、クリスティーナ・アナパウ 他

★前回の対談記事はこちら

森下くるみ(もりした・くるみ)
1980年生まれ。秋田県秋田市出身。文筆家。「小説現代」2008年2月号に短編小説「硫化水銀」(のちに電子書籍化)を発表。著作に『すべては「裸になる」から始まって』(講談社文庫)、『らふ』(青志社)、『36 書く女×撮る男』(ポンプラボ)、『虫食いの家』(kindle singles)など。季刊誌『東京荒野』に旅エッセイ「回遊録」を、ポエジィとアートを連絡する叢書『未明』に「食べびと。」を連載中。

睡蓮みどり(すいれん・みどり)
1987年生まれ。神奈川県横浜市出身。早稲田大学第二文学部中退。在学中より映画を中心に女優として活動を開始。主な出演作は『恋の罪』(園子温監督)、『青春群青色の夏』(田中佑和監督)、『断食芸人』(足立正生監督)、『第九条』(宮本正樹監督)など。その他、「月刊デジタルファクトリー」で写真モデルを務める。文芸誌「文學界」や「群像」にエッセイを発表。図書新聞に「シネマの吐息」連載中。著作には『溺れた女 渇愛的偏愛映画論』(彩流社)。

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