みなさんはゴッホと聞くとどんなイメージを思い浮かべますか?
《ひまわり》や《自画像》など印象派の色彩豊かなイメージでしょうか?
今回の展覧会は「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」と題され、ゴッホが日本美術から受けた影響、理想郷としての日本に焦点が当てられています。
また、オランダのファン・ゴッホ美術館との初めての共同プロジェクトで、日本展終了後は、ファン・ゴッホ美術館でも開催されます。
2013年からオランダと日本の共同企画として双方の監修者、学芸員によって作品選定が行われてきたのです。
日本では既に、北海道、東京で開催され、大盛況となりました。
関西では、京都国立近代美術館で、2018年1月20日(土)~3月4日(日)まで開催されます。
日本初公開となる4作品《雪景色》、《夾竹桃(きょうちくとう)と本のある静物》、《ポプラ林の中の二人》、《タラスコンの乗合馬車》を含め、油彩画、デッサン約40点が集結します。
また、ゴッホが影響を受けた浮世絵版画や、オーヴェール巡礼に関する資料を通してゴッホと日本の深い関連を知ることが出来ます。
是非、この機会にお見逃しなく、京都国立近代美術館へ足をお運びください。
では、今からいくつかの作品をご紹介いたします。

1パリ  夢のはじまり

ファン・ゴッホの生まれた1853年は、日本では、黒船、ペリー来航の年です。
開国してからは日本の美術品は、大量に外国に出て行くことになりますが、鎖国中も日本と貿易があったオランダで生まれ育ったゴッホにとって、日本美術は、縁遠いものではなかったのでしょう。
ゴッホの伯父ヤンは海軍軍人として、1860年代に日本に滞在しており、ヤン伯父の家に下宿したこともあるゴッホが日本の美術品を見たり、日本について話を聞いていた可能性はありますが、彼のオランダ時代の手紙には、日本についての記載は全く見当たりません。
ゴッホが日本と日本美術に興味を持ち始めたのは、1886年にパリに出てきてからのことでした。
ゴッホは画商ビングの店で大量の浮世絵をみて、その鮮やかな色彩と作品の質の高さに魅せられます。
当時まだ安値だった浮世絵を集め、展覧会を開き、模写をし、肖像画の背景にも描き込みました。
パリで印象派の影響を受け、オランダ時代の暗い色彩を捨て、明るい印象派風の作品を描くようになっていましたが、浮世絵と接することにより、更に革新的な独自の絵画を生み出すようになります。
後の平坦で鮮やかな色面を使った画風は、浮世絵の研究を通じて生まれたゴッホ特有のものです。
1880年代のパリは、ジャポニズム(日本趣味)の最盛期で、ゴッホがパリに出てきた1886年には、『パリ・イリュストレ』誌の日本特集号が出され、ゴッホはこの表紙に使われていた英泉の花魁図を拡大模写して、《花魁》を描きました。
ゴッホは日本の美しい風景にも惹かれ、日本と日本人を理想化し始めたと思われます。
そして、「フランスにおける日本」にあたる南仏へ旅立つことになるのです。

画像: フィンセント・ファン・ゴッホ《花魁(溪斎英泉による)》1887年 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)蔵 © Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)

フィンセント・ファン・ゴッホ《花魁(溪斎英泉による)》1887年 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)蔵 © Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)

画像: ⑨ 溪斎英泉《雲龍打掛の花魁》1820~1830年代 及川茂コレクション蔵

⑨ 溪斎英泉《雲龍打掛の花魁》1820~1830年代 及川茂コレクション蔵

画像: フィンセント・ファン・ゴッホ《寝室》1888年 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)蔵© Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)

フィンセント・ファン・ゴッホ《寝室》1888年 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)蔵© Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)

2アルル 日本という名のユートピア

ゴッホは1888年2月20日の早朝、南仏に着きました。この時の気持ちをゴーガンにこう伝えています。「この冬、パリからアルルへと向かう旅の途上でおぼえた胸の高鳴りは、今もいきいきと僕の記憶に残っている。〈日本にもう着くか、もう着くか〉と心おどらせていた。子供みたいにね。」
南仏での初日は60センチを超える積雪と降り続く雪の中で始まります。
それでもゴッホの手紙には「まるでもう日本の画家たちが描いた冬景色のようだった」と記しています。
ベルナール宛の手紙には、「君に便りをする約束をしたので、まずこの土地が、空気の透明さと明るい色彩効果のためにぼくには日本のように美しく見えるということからはじめたい」と記しています。

画像: フィンセント・ファン・ゴッホ《雪景色》1888年 個人蔵 © Roy Fox

フィンセント・ファン・ゴッホ《雪景色》1888年 個人蔵 © Roy Fox

画像: フィンセント・ファン・ゴッホ《アイリスの咲くアルル風景》1888年 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)蔵 © Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)

フィンセント・ファン・ゴッホ《アイリスの咲くアルル風景》1888年 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)蔵 © Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)

文献によると、ゴッホにとって日本人は自然の中に生き、深い思想と真の宗教を持ち、兄弟のような生活をする貧しく素朴な民族であったようです。
ゴッホは日本人を理想としました。
その理想を現実すべく、ゴーガンと「黄色い家」での共同生活を始めますが、1888年12月の「耳切り事件」によって、この生活は崩壊してしまいます。
ですが、ゴッホが日本を夢見ていたわずか1年ほどの期間は彼にとって最も想像力に満ち、そしておそらく最も幸福な時期だったといってよいでしょう。

画像: フィンセント・ファン・ゴッホ《夾竹桃と本のある静物》1888年 メトロポリタン美術館蔵(ジョン・L.・ローブ夫妻寄贈) Image copyright © The Metropolitan Museum of Art.image source: Art Resource, NY

フィンセント・ファン・ゴッホ《夾竹桃と本のある静物》1888年 メトロポリタン美術館蔵(ジョン・L.・ローブ夫妻寄贈) Image copyright © The Metropolitan Museum of Art.image source: Art Resource, NY

画像: フィンセント・ファン・ゴッホ《種まく人》1888年 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)蔵 © Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)

フィンセント・ファン・ゴッホ《種まく人》1888年 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)蔵 © Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)

画像: 歌川広重 《名所江戸百景/亀戸梅屋敷》1857年 中右コレクション蔵 [前期展示:1月20日~2月12日]

歌川広重 《名所江戸百景/亀戸梅屋敷》1857年 中右コレクション蔵 [前期展示:1月20日~2月12日]

3 サン・レミ、オーヴェール  遠ざかる日本の夢

「耳切事件」の時に襲ってきた精神病の発作はその後もたびたびゴッホを襲いました。
「黄色い家」の崩壊後は、「日本の夢」も遠ざかってしまいました。
ですが、発作の合間にもゴッホは描き続け、なお浮世絵の影響を感じさせるものもありましたが、サン・レミの精神病療養初に入ってからは、庭の片隅や植物をクローズアップで描いた作品が増え、日本の花鳥風月も感じられます。
また、アルル時代に日本の影響下に描いていた葦ペンデッサンを色彩と統合して、力強い筆のタッチを使った独自の油彩画へと発展させていきました。
南仏に心躍らせて向かった2年前とは違い、ゴッホの中で「日本」はもはや、「楽園」ではなくなりました。
ゴッホだけでなく、多くの人々が「日本の夢」から目覚めさせられることになりました。
1890年7月28日、かつてゴッホの「日本の夢」に火をつけた画商ビングは、浮世絵の功績を認められ、レジオン・ドヌール勲章を授与されています。
同日、ゴッホは、オーヴェールの屋根裏部屋で、腹に銃弾を抱えたまま瀕死で床に横たわっていました。そして日付の変わった翌29日静かにこの世を去ります。
なんという、残酷な終末でしょうか。
ファン・ゴッホの「日本の夢」は、オーヴェールでの画家の死によって幕を閉じましたが、夢は消えていませんでした。
30年余りの時が過ぎ、今度はゴッホの作品に魅せられた日本の画家たちがオーヴェールを訪れることになりました。
ゴッホの果たせなかった夢は今も時空を超えて世界中で受け継がれています。
みなさま、ゴッホの感動的な生涯、日本へのロマンに満ちた夢はいかがでしたでしょうか。
理想郷であった日本、美しい自然、花鳥風月を愛したゴッホの世界を是非、この機会にご鑑賞ください。

画像: フィンセント・ファン・ゴッホ《画家としての自画像》1887/88年 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)蔵 © Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)

フィンセント・ファン・ゴッホ《画家としての自画像》1887/88年 ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)蔵 © Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)

画像: フィンセント・ファン・ゴッホ《ポプラ林の中の二人》1890年 シンシナティ美術館蔵(メアリー・E・ジョンストン遺贈)

フィンセント・ファン・ゴッホ《ポプラ林の中の二人》1890年 シンシナティ美術館蔵(メアリー・E・ジョンストン遺贈)

画像: 溪斎英泉 《雲龍打掛の花魁》 1820~1830年代 及川茂コレクション蔵

溪斎英泉 《雲龍打掛の花魁》 1820~1830年代 及川茂コレクション蔵

展覧会概要

会期:2018年1月20日(土)~ 3月4日(日)
 
開館時間:午前9時30分~午後5時
 *ただし金曜、土曜は午後8時まで開館
 *入館は閉館の30分前まで
 
休館日:毎週月曜日
 *ただし、2月12日(月・休)は開館し、2月13日(火)は閉館

料金:  当日   前売り  団体(20名以上)
一 般  1,500  1,300  1,300
大学生  1,100  900  900
高校生  600  400  400
※ 中学生以下は無料。
※ 心身に障がいのある方と付添者1名は無料
(入館の際に証明できるものをご提示下さい)。
※ 本料金でコレクション展もご覧いただけます。
※ 早割りペア券:2枚で2,000円(一般のみ、1名様で2回使用も可)
  2017年10月1日から10月31日まで期間限定販売。
※ 前売券は、2017年11月1日から2018年1月19日までの期間限定発売。
※ チケット販売所:
  オンラインチケット(特設サイト)、チケットぴあ(Pコード:768-629)、
  ローソンチケット(Lコード:56554)、セブンチケット、イープラス、
  CNプレイガイド、近鉄の主な駅営業所、主要プレイガイドほか
(チケット購入時に手数料がかかる場合があります)

主催:京都国立近代美術館、NHK京都放送局、NHKプラネット近畿、京都新聞
 
後援:外務省、オランダ王国大使館、協賛、損保ジャパン日本興亜、タキイ種苗
 
協力:KLMオランダ航空、日本航空、共同企画、ファン・ゴッホ美術館、観覧料

ゴッホ展関連展示

「森村泰昌、ゴッホの部屋を訪れる」
会期:2018年1月19日(金)~3月4日(日)
会場:京都国立近代美術館 4階コレクションギャラリー

関連イベント

・記念講演会「〈ファン・ゴッホと日本〉についての最新の知見」
日時:1月20日(土)午後2時~3時30分
講師:圀府寺司(大阪大学文学研究科教授/本展総合監修者)
会場:京都国立近代美術館 1階講堂
定員:先着100名(当日午前10時より1階受付にて整理券を配布します)
参加費:無料(本展の観覧券が必要です)

・記念トークショー 
「《ラングロワの橋》―断片をもとに失われた作品を復元する挑戦―」
日時:2月4日(日)午後2時~3時30分
講師:圀府寺司、古賀陽子(画家/全編油絵のアニメーション映画「ゴッホ~最期の手紙~」に日本人で唯一参加)
会場:京都国立近代美術館 1階講堂
定員:先着100名(当日午前10時より1階受付にて整理券を配布します)
参加費:無料(本展の観覧券が必要です)

・ギャラリートーク
日時:1月27日(土)、2月17日(土)各日午後6時~7時
会場:京都国立近代美術館 3階企画展示室
定員:各日先着20名(当日午後5時より1階受付にて整理券を配布します)
参加費:無料(本展の観覧券が必要です)

・ファミリーアワー!美術館でゴッホモーニング
日時:2月12日(月・振休)午前8時30分~
対象:中学生までの子どもとその保護者
会場:京都国立近代美術館 3階企画展示室
定員:先着50組(事前申込制)

・紙芝居「ぼくはフィンセント・ファン・ゴッホ」上演会
ゴッホの生涯をえがいた紙芝居を通して、展覧会をより深く楽しんでみませんか?
絵:たんふるたん
日時:2018年2月12日(月・振休)
午前11時~(20分程度)
会場:京都国立近代美術館 1階ロビー
演者:庄崎真知子(劇団 銅鑼)
対象年齢:小学3年生以上、大人まで

ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 @ 京都 cinefil チケットプレゼント

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 @ 京都 cinefil チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効の、この招待券は、非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。

☆応募先メールアドレス  info@miramiru.tokyo
*応募締め切りは2018年2月11日 24:00 日曜日

記載内容
1、氏名 
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
  建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、
  当選無効となります。
4、ご連絡先メールアドレス、電話番号
5、記事を読んでみたい監督、俳優名、アーティスト名
6、読んでみたい執筆者
7、連載で、面白いと思われるもの、通読されているものの、筆者名か連載タイトルを、
  5つ以上ご記入下さい(複数回答可)
8、連載で、面白くないと思われるものの、筆者名か連載タイトルを、3つ以上ご記入下さい
 (複数回答可)
9、よくご利用になるWEBマガジン、WEBサイト、アプリを教えて下さい。
10、シネフィルへのご意見、ご感想、などのご要望も、お寄せ下さい。
   また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。

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