「ホリデイ・イン」は1942年の同名映画(邦題は「スイング・ホテル」)をブロードウェイ・ミュージカルとして舞台化されたものを再び映画として銀幕によみがえらせた作品。
ちょっと複雑だが、松竹がこれまで手掛けて来た歌舞伎、演劇、オペラの映画化と同じ路線といっていい。ちらしに「お手軽な価格でゆったりと本場ブロードウェイの舞台を映画館でお楽しみ頂きたい」とあり、オリジナルの舞台を映像として鑑賞できるというわけだ。舞台そのものではないので、リアル感、臨場感は乏しいかも知れないが、カメラが見せ場を押さえて捉えているので、舞台を見たという満足度は高い。よくある格落ちキャストによる日本公演ではなく、オリジナル・キャストという点も大きなメリットだ。

画像1: ©BroadwayHD/Joan Marcus Photography/松竹

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 題名にまで名前の入っているアーヴィング・バーリンはアメリカを代表する音楽家であり、軽快、爽快、そして時に甘く、時にメランコリックなメロディにみちたポピュラー・ソングを数多く作曲。ジョージ・ガーシュインは彼をアメリカのシューベルトと讃え、「作曲の天才というだけでなく、他の誰よりもアメリカ音楽に重大な影響を与えた。真のアメリカ固有の音楽を創造した最初の人物」と絶賛している。

ベラルーシで生まれ、5歳の時に家族と共に渡米するが、父の死亡のために、幼い頃からさまざまな職に就き、カフェの歌手をへて作曲家となり、生涯に3000以上の曲を手掛けた。「アレキサンダー・ラグタイム・バンド」「ブルー・スカイ」「イースター・パレード」「ショウほど素敵な商売はない」などなど、今ではスタンダード・ナンバーとなった曲も少なくない。「ゴッド・ブレス・アメリカ」は第二の国歌とまで言われ、国家的なイベントでは必ず歌われている。

画像2: ©BroadwayHD/Joan Marcus Photography/松竹

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バーリンの曲を使った映画も17本を数え、「スイング・ホテル」もその一つ。
マーク・サンドリッチが監督し、ビング・クロスビーとフレッド・アステア、そしてマージョリー・レイノルズが出演したパラマウント映画だ。戦時中に公開され、アーヴィング・バーリンの音楽が観客の心をつかんで興行的にもヒットし、42年度の興行収入第八位となる。
中でも劇中で歌われる「ホワイト・クリスマス」は11週間もヒットチャートの一位を続けるほど売れて、クリスマスの定番ソングとなったほど。日本では戦後の47年6月に公開(GHQの方針でハリウッド・メジャーの作品を独占的に手掛けていたセントラル映画社が配給)されている。

 さて、この「ホリデイ・イン」は映画のストーリーを基に、ゴードン・グリーンバーグとチャド・ホッジが舞台用の脚本を執筆、グリーンバーグは演出も担当している。「ヒート・ウェーヴ」「頬を寄せて」「ブルー・スカイ」といった別のミュージカルで使われた曲も織り込んであり、バーリンの素敵なメロディ満載といったところ。

画像3: ©BroadwayHD/Joan Marcus Photography/松竹

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 ソング・アンド・ダンス・トリオとして人気を博していたジム、テッド、ライラの三人。
ジムはコネティカットの農場で暮らすことにしたが、残る二人は華やかな舞台を捨てられず、別々の道を歩むことに。ジムは小学校教師のリンダと出会い、農場をホテルに改造して祝日だけのショウを企画する。テッドも応援に駆け付け、リンダの踊りを見て、新しいダンシング・パートナーにならないかと誘う。ダンサー志望だったが、夢破れて帰郷していたリンダ、彼女への愛に燃えるジム。果して二人の恋と人生航路の行方は?

 ジム役ブライス・ピンカム、リンダはローラ・リー・ゲイヤー、テッド役はコービン・ブルー、ライラ役はミーガン・シコラ。
舞台を映像で捉えるために、製作にあたったブロードウェイHD社は11台のカメラを駆使して、華麗なダンス(デュエット、群舞)と歌を撮影。まさにブロードウェイの舞台を見ているかのような気にさせてくれる一篇と言えるだろう。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。 

キャスト
ブライス・ピンカム、コービン・ブルー、ローラ・リー・ゲイヤー、ミーガン・ローレンス、ダニー・ルティリアーノ、ミーガン・シコラ、モーガン・ガオ
スタッフ
音楽・作詞:アーヴィング・バーリン
演出・脚本:ゴードン・グリンバーグ
脚本:チャド・ホッジ
振付:デニス・ジョーンズ
美術デザイン:アナ・ルイゾス
衣装デザイン:アレーホ・ヴィエッティ
音楽スーパーバイザー・音楽監督・指揮:アンディ・アインホーン
ボーカルダンスアレンジ:サム・デイヴィス
プロダクションステージマネージャー:マイケル・J・パッサロ
ステージマネージャー:パット・ソスノウ
(C) BroadwayHD / Joan Marcus Photography/松竹

配給:松竹

東劇にて11月10日(金)より限定5日間特別公開

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