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photographer Takashi Ohkado hear make HIKONO

「なぜ悪女になるか」

睡蓮 悪女対談の記念すべき第1回ということで、まずは「なぜ人は悪女になってしまうのか」を、具体的に作品を挙げながら話したいなと。悪女になっていく様を描いている代表的な作品として、みんな大好き『エマニエル夫人』から。

『エマニエル夫人』あらすじ
外交官である夫のジャン(D・サーキイ)の赴任先のバンコクにパリから向かった若き妻のエマニエル(シルヴィア・クリステル)。見知らぬ土地に不安を覚えるが、サロン的ムードのあるフランス人の集まりに加わってからは自由な交際を知るようになる。ある日の昼下がり、バンコクの庭園でパーティが催され、エマニエルはここで出会ったさまざまな男女の影響で大きく変わっていく。カモシカのような肢体を持つ奔放な少女のマリー・ルイズ(J・コレティン)、性的に充たされない有閉マダムでレズビアン趣味のあるアリアンヌ夫人(C・ボワソン)、アメリカ人ながらもたくみなフランス語を話す美人考古学者のビー(M・グリーン)。社交界でも特異な存在だったマリオ(A・キュニー)という男とめぐり逢ってからは、ますます性の自由に魅せられていく。

監督 ジュスト・ジャカン/脚本 ジャン・ルイ・リシャール/音楽 ピエール・バシュレ/1974年 フランス/配給 日本ヘラルド映画/91分/原題 Emmanuelle/出演 シルヴィア・クリステル、アラン・キュニー、マリカ・グリーン他

森下 作品を観たことがなくても、裸で藤椅子に腰かけてる気だるい写真と、エマニエル夫人の名前くらいは聞いたことがあるはず。

睡蓮 そうですね。ざっくりとした内容は、「若い妻が年上の夫、ひいては夫の知人の中年男性の手により理想の女に仕立て上げられていく」ということなんですが。

森下 ある女性が、特定の男性や周りの人間の影響で変わっていく、そういう話は映画に限らずよくあるけど、エマニエルの場合は「性の歓びに目覚める」話。

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睡蓮 無垢な女を自分好みにしたいというのは、男の一つの願望なんでしょうね。谷崎の『痴人の愛』とか『源氏物語』もそうだけど。

森下 そういえば、逆パターンはあまり聞いたことがないよね。年増の女性が若い男をかこって自分の理想とする肉体に仕立てあげていく話とか、あったっけ?

睡蓮 確かにあんまり聞いたことがない……ゲームアプリとか、現実に芸能事務所の女社長が……とかたまにゴシップ記事ではありますけどね。『エマニエル夫人』はけっこう不思議な映画ですよね。もともとは仲のよい至って普通のラブラブ新婚夫婦。旦那さんの仕事の都合で行くことになったバンコクで、自由奔放な人たちに囲まれて、みんなが性に乱れてるのを最初は受け容れられないわけですけど、それがだんだん目覚めていく。で、最初にエマニエルが自分から興味を持つのはビーという考古学者の女性なんですよね。

森下 いきなり女性にアプローチをかけるエマニエル!でも、ビーは男っぽいタイプの女性で、理知的な雰囲気に他の人が持っていない色気があった。70年代の東南アジアは熱帯の気候と、「まだ開拓されていない」って意味でも魅惑の土地だったと思う。

睡蓮 ヨーロッパから見たアジアの、オリエンタルへの理想みたいな。

森下 オリエンタルの情緒的なところがエロいっていう風潮、90年代初頭くらいまでは色濃くあったよね。2000年前後から少しずつ薄くなって、現代はだいぶ乾いちゃってるけど。

この美しさは自分だけのものじゃない

睡蓮 エマニエルを調教していくマリオも言っているけど、乱れることが目的というよりは、1対1の関係が不健全だっていう発想が面白いですよね。旦那さんも「この美しさは自分だけのものじゃない」って妻を積極的に他人と共有しようとする。旦那さんもマリオも自分と楽しむというよりも寝取られ願望的なものを感じた。

森下 そしてあんなに毛嫌いしていた異国の地で、エマニエルはあっさり快楽に溺れてしまう(笑)。

睡蓮 スピード感は半端ないですね(笑)。ただ、悪女になる過程には全く悲壮感がない。エマニエルの背景はほぼ描かれていないけど、彼女はいい子で育ってきたんだろうなって。

森下 ごくまっとうに、道徳的に、清潔な場所で育ったんだと思う。清純から奔放へ転換するのが早いのも、それが土台としてあったからじゃないかな。性への憧れや欲求は人並み以上にあったはずだし。あと、映画の序盤、友人と庭でブランコみたいな椅子に座って話してるシーンが印象的だった。

睡蓮 ああ、マリー。若い女の子の友達。目の前で自慰行為始めちゃった子。

森下 そう(笑)頭のねじが緩いとしか……。でも、もし親しい友達が一切の躊躇なくオープンな姿を見せてきたら、簡単に影響されちゃう気もする。人間って単純。いや、素直というべきなのかな。

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睡蓮 エマニエルの周りの人たちは彼女のことを「仲間」というより「ちょっと違うところにいる特別な人」と思ってるんですね。彼女の純粋さがそうさせるのか、みんなが惹かれていって、この子を変えたいって思う。その吸引力がすごいなって。最初は世間知らずなお人形さんみたいだったのに。

森下 エマニエルは強く主張するタイプの女性じゃない。次々と色んなことを受け入れていくよね。儚げな顔を持つ主人公をシルヴィア・クリステルが演じたのも正解だった。50年経った今でも嫌味のない美しさだもん。この役を、グラマーで過剰な色気だけが取り柄の女優が演じてたら、ただのB級エロVシネで終わってた。

画像: Emmanuelle ( 1974 - bande annonce ) youtu.be

Emmanuelle ( 1974 - bande annonce )

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睡蓮 製作当初はいかにもセクシーな雰囲気の女優を捜していたらしいですけどね。結果として素晴らしいキャスティングになった。だからいわゆるポルノ映画にとどまらず、フランス映画の代表的な1本になりえたんだと思う。

森下 つくづく女優の清潔感は大事だなと。フランスだと、『昼顔』で美人妻セヴリーヌを演じるカトリーヌ・ドヌーヴも全然安っぽくない。

『昼顔』あらすじ
セブリーヌ(C・ドヌーブ)とピエール(J・ソレル)の二人は、仲の良い幸せな若夫婦だ。しかし、セブリーヌは八つの時に野卑な鉛管工に抱きすくめられた異常な感覚が潜在意識となって、いかがわしい妄想を繰り返していた。それを見抜いたピエールの友人アンリは、ある時「良家の夫人たちが内証で売春をしている」という話を耳にし、テニスクラブでセブリーヌに吹聴する。アンリに教えられた娼館へ自ら訪ねて行くセヴリーヌ。そこで屈辱的なことが起こり、女主人アナイス(G・パージュ)に「昼顔」という名をつけられてからは、毎日午後の何時間かを行きずりの男に抱かれて過ごすようになる。夜は今まで通り、やさしく貞淑な妻だったが、マルセル(P・クレマンティ)という、粗野で無鉄砲で野獣のような男に惚れこんでしまい……。

監督 ルイス・ブニュエル/脚本 ルイス・ブニュエル 、 ジャン=クロード・カリエール/1967年 フランス/配給 東和/100分/原題 Bell De Jour/出演 カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン・ソレル、ミシェル・ピコリ他

睡蓮 というか、もう、高級感しかない。

森下 見るからに高そう。なんかこう、高等教育を受けたような。

睡蓮 『昼顔』の場合も、旦那さんが医者だし、裕福ないい暮らしをしていて。

え森下 セヴリーヌの旦那さんって聖人君子(死語)だよね。映画の中にしか存在しないような人物。

睡蓮 そう、ピエール。イケメンで性格も良いのに、あんなことになっちゃって……。

森下 セヴリーヌはある事情で旦那さんのピエールを裏切るんだけど、彼女の心情を考えると、いたたまれないものがあるよね。

画像: en.unifrance.org
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なぜ何も困っていないのに売春するのか

睡蓮 これは完全なるネタバレになるんですが――ピエールはセヴリーヌのことをすべて受け入れていて、でも最後はセヴリーヌと恋仲だったチンピラまがいの男に撃たれて、全身麻痺になって喋れなくなるんですね。さらには「セヴリーヌは娼婦だった」とミシェル・ピコリ演じる友人にばらされて、無言で涙を流すっていうラストが、もう、かわいそうでかわいそうで……。

森下 自分のしたことが、どんどん不幸を連れてくる。まさに悪女。夫の人生を狂わせたセヴリーヌの罪深さって、実は相当なものだと思うんだけど。

睡蓮 この作品のひとつの主題は「なぜ何も困ってない人が売春に惹かれるのか」ってところですね。

森下 娼婦になった理由も、お金が必要だったわけじゃない。窮屈な生活を強いられてもいない、性欲が強いわけじゃない、コンプレックスもトラウマもない、じゃあ何が目的なの?っていう人はいるだろうな。

睡蓮 「セヴリーヌは不感症」って冒頭に馬車でやってくるシーンでも話してたけど、あれも半分夢のなかという感じで曖昧だった。

森下 夫婦関係が長くなってセックスレスになったのかなって思うけど、そんな浅いものじゃない。その辺はちょっとわかりづらいね。

睡蓮 その馬車のシーンで、急にピエールがSっ気を発揮して、セヴリーヌが木に縛りあげちゃうんですよね。

森下 夫や御者たちに折檻されて、林の中でプチSMプレイをしてる場面。

画像: thefashioneaste.com
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睡蓮 あれはドM願望なのかな。

森下 特殊な性癖の持ち主なんだろうなあ。だから良心的な夫、清潔で無害な生活、そこに埋没すると少しずつ自分が無くなっていくし、知らないうちにストレスが溜まってく。

睡蓮 ストレスねぇ……。

森下 「性欲」と「性癖」は似て非なるものじゃない?性癖には宿命的なものを感じる。ただ性欲が強いだけなら、わざわざ娼婦になる必要性はないもん。凡人のわたしからするとぬるま湯からあがらなくてもいいと思うけど……。

睡蓮 わたし、エマニエル夫人が性への目覚めだとしたら、『昼顔』のセヴリーヌは夫婦愛を描いているように思えるんですよね。そういう意味でパターンは似ているけど根本は違うというか。ピエールへの過剰な愛を感じるんです。で、その愛し方が歪んできたんじゃないかって。夢の中に出てきた強引でサディストの夫を求めているのに、実際の夫は本当に優しい人で、現実では愛しているけど……。潜在的な趣味をそもそも持っているかいないか、それを自覚しているかいないかはかなり大きいと思う。

森下 複雑すぎる!

100%の自由は思考を停止させる

睡蓮 一応のきっかけとしては、セヴリーヌの周囲に、娼婦の噂のある人や不倫関係で二重生活している友達がいて、だから「わたしも」ということになったわけだけど。性的な相手でいて欲しい人(ピエール)が、ただ優しいだけだと満足できない、その気持ちってわかるんです。

森下 うん。なにもかもを「いいよ、何でも君の好きにしなよ」って言われて100%の自由を与えられたら、思考が停止しちゃう。

睡蓮 それに対する不満かな。

森下 「わたしはあなたに不満がある」とは言ってないけど、欲望を抑えることができなかったんだよね。セヴリーヌは自ら娼館に出向いたじゃない?そしたらオーナーの女性にまんまと騙されて、いきなり変な客の相手をさせられちゃう。ほとんどレイプみたいなもんなのに、金持ち中年オヤジにやられちゃうとき、絶望と諦めの混じった強い顔をするのね。自分の中で違うなにかが生まれた瞬間、あれが悪女の入口だったと思う。

睡蓮 彼女は悪い人が好きなんでしょうね。そのあと、知的でも上品でもない、でも妙な色気のある若いチンピラ男に口説かれて、セヴリーヌのほうもどこか惚れちゃって。

森下 彼女を型にはめたくないけど、やっぱり「ねじれドM」なのかな……。

睡蓮 かと思ったら、全身麻痺になった旦那・ピエールが涙を流しているのを見たときに、セヴリーヌは微かにほほ笑むんですよ。ラストはセヴリーヌの妄想の中でピエールが五体満足に戻って、まるで幸せな夫婦のような画になる。最初、妄想の中では優しい旦那にSっ気を求めていたのに、旦那の身体が不自由になったら優しい夫になる、あれは相当歪んでた。

画像: emanuellevy.com
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森下 ひとりの人間の中で何度か反転が起こったりして、多面的な人なんだよなあ。

睡蓮 本当に。わたしも、自分がドMタイプなんだと思ってて、Sっぽい人が好きだったんだけど、最近そうでもないなって。逆にドSっ気を発揮したくなる(笑)。好きになればなるほど反転しちゃって。くるみさんはSっ気もMっ気もなさそうですね。

森下 いや、あるよ。偏ってないだけで。わたしはドMのイメージを持たれてたけど、全然そんなことなくて、まぁ人がそう思うなら別にいいやって思ってた。どっちでもいいよって。

睡蓮 興味ないものをばさっと切り捨てるイメージはあるけど。

森下 どうなんだろう、そこまではっきりしてないかな。切り捨てるというより、すぐに忘れるの。

睡蓮 『エマニエル夫人』と『昼顔』どちらの主人公も、これから別の人生に向かっていくんでしょうね。

森下 幸せか不幸せか、一度違う道を踏んだら元には戻れないのが悪女道なんだよ……。

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睡蓮 同じくドヌーヴの出ている『反撥』は、お姉さんと二人暮らしで、恋人もいる普通の女の子が、自分を女として見る他人の視線に耐えられなくなっていくという話。いわゆる悪女ではないけど人を殺してしまうし、神経過敏というか……。

『反撥』あらすじ
キャロル(カトリーヌ・ドヌーヴ)は姉のヘレン(イヴォンヌ・フルノー)とアパート暮しをしている。姉にはマイケルという妻子持ちの恋人があり、毎日のようにアパートに連れて来て泊め、神経質で潔癖なキャロルに嫌悪感を抱かせた。キャロルにもコリンという恋人がいたが、なぜか接吻されただけで身の毛がよだつ。ある日姉たちが旅行に出かけ、一人残されたキャロル。ある晩、男に犯される夢を見てしまう。仕事を休んでぼんやり部屋で過すようになり、そのうち部屋の壁が大きく裂け、粘土のようにやわらかくなる幻覚を見る。そんな時、恋人のコリンが訪ねて来た。なかば狂っているキャロルにとって、男はただ嫌悪の対象でしかなく……。

監督 ロマン・ポランスキー/脚本 ロマン・ポランスキー、ジェラール・ブラッシュ/1965年 イギリス/配給 東和/105分/原題 Repulsion/出演 カトリーヌ・ドヌーヴ、イヴォンヌ・フォルノー、イアン・ヘンドリー他

森下 「みんながわたしを見ているような気がする」っていっても、自信過剰なんじゃなくて、「こっち見るな」っていう神経症の方。周りはキャロルがあまりに美人だから見ているのに、当の本人は視線が怖いっていう。

睡蓮 ドヌーヴがやるとすごい説得力ですよね。わたしは、『昼顔』より『反撥』のドヌーヴが好きだなぁ。

森下 いいよねえ。神経衰弱でげっそりしても、悲劇的に美人。

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睡蓮 同居している姉が不倫しだして、相手の男が家に来るのを気持ち悪がりますよね。管理人はわかりやすく気持ち悪いとして(笑)、恋人にさえ「触んないでよっ」て感じですもんね。根本にあるのは男性への凄まじい嫌悪感。

森下 そうだね、人間不信も相当なストレスになるんだよね。神経ガリガリ削られてく。

睡蓮 下心しかない男がいっぱい近寄ってきて、過敏にならざる得ない状況で。

森下 美しい女に惹かれるのは男性として当たり前なんだけど、キャロルにしてみればベタベタした下心はヘドロみたいなもんで、耐えがたいほど臭くて汚いものなんだよ。

男性の視線が恐い、少女的発想

睡蓮 ちょっとだけわかる気がするのは、あの視線って独特なんですよ。わたし、中2のときにそれを初めて感じたんですけど、急に人の目が変わるんです。一度気にしてしまったら、全員そうなんじゃないかって思って、街に出るのも恐いって時期がありました。

森下 思春期はそういうのあるよね。

睡蓮 そうそう、キャロルは大人の女性ではなくて極めて少女っぽい発想なんですよね。お人形さんぽい女性が人間らしくなっていくのが『昼顔』や『エマニエル夫人』だったら、人間らしくならないって意味で『反撥』のキャロルは悪女には目覚めてはいないのかな?

森下 目覚めたといっても「悪女」か「狂人」か、紙一重。あんな美人だったら何十人でも男を狂わせられるのに。

睡蓮 キャロルはその変化に喜び自体は見いだしてないですもんね。悪女として生きるか、もしくは誰かが死ぬか……。

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森下 中間がないよね。二択しかない。男の人にとって、キャロルみたいな気が狂うほど細い神経の女性は重荷だろうな。下手に近づいたら最悪は殺されちゃうんだよ。

睡蓮 ポランスキーは女性の精神をよく理解して作ってるなと思いますよ。

森下 女性が神経を病むとほぼホラー映画になるね。

睡蓮 神経が病んでいって、壁から手が出てくるシーンとか本当にポランスキーらしいフェティシズムというか。ラストにキャロルの幼少期らしき写真が出てきて、母親らしき人物だけ別のところに写真があるんですよね。あれは家族愛に恵まれなかったことを表しているのかな?って、キャロルの背景については色んな想像をかき立てられました。

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【予告】反撥

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睡蓮 「男を信じられなくなった」系の話として『天使のはらわた 赤い教室』も挙げてみます。石井隆(脚本)の書く「名美」という女はいつも不幸を背負っているんです。石井隆さんはいつも報われない男女のことを書いていて、きっとこの手の女性像が好みなんだなって。『赤い淫画』(池田敏春監督)の名美も捨てがたくいいけど……。

『天使のはらわた 赤い教室』あらすじ
息抜きに来た温泉町でブルーフィルムを観たポルノ雑誌の編集者村木哲郎(蟹江敬三)は、迫真の“演技”でレイプされる女に釘付けになってしまった。東京に帰った村木は、女の居所をつきとめるため心当りを捜すが、結局見つからない。ある日撮影でラブホテルに行った村木は、そのホテルで受付をしているあの“女”士屋名美(水原ゆう紀)に出会う。村木は名美に、「ブルーフィルムで観たあなたの顔が忘れられない。雑誌のモデルになってくれ」と頼むが、そのブルーフィルムは彼女が学生時代に実際に強姦されたとき撮られたものだった。拒む彼女を説得した村木は明日の再会を約束して別れた。しかし、翌日、村木は雑誌のことで警察に呼ばれ、名美との約束の場所に行くことが出来なかった。それから三年が過ぎ、村木は結婚をして、女の子も生まれた。ある日、仲間と場末のバーに繰り出した村木は街頭の女になり果てた名美に出くわす。

監督 曽根中生/脚本 曽根中生、石井隆/1979年 日本/配給 にっかつ/79分/出演 水原ゆう紀、蟹江敬三、あきじゅん他

森下 蟹江敬三が素敵だよね。エロ屋なのに真面目。正面から人にぶつかってきてくれる、稀有なひと。

睡蓮 最高ですよね〜。日本映画の私的イイ男ベストに入ります。ちなみに他には『飢餓海峡』の三国連太郎さん、『もどり川』の萩原健一さん。……話とびましたが、水原ゆう紀さん演じるヒロインの名美は落ちるところまで落ちてしまうけど、彼女がどんな状況になっても村木の目にはある種、天使のように映ってるんですよね。

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負のなかに留まる方が楽

睡蓮 名美にとっても、それまで人生に村木みたいな人はいなかったんですよ。だけど、信じたいと思ってもそちら側には行けないっていう。村木が3年越しに見つけ出した名美を連れ出そうとするのに対して「来る?こっちに」っていう台詞はぞっとした。名美のように普通の生活と違うところに行ってしまった人って実は結構いっぱいいると思うんだけど、現実だと負の連鎖しか起きないですよね。

森下 負の中に留まるほうが楽だからね。「こっちに」っていうのは「地獄に」ってことでしょ。100%の負の中にいたら、1%でも2%でも良くなるのにはエネルギーがいるし、そこでまた少しでも傷つけられたら、信じた分だけ何倍にもダメージが返ってくるから立ち直れない。だったら傷だらけで負に漬かって「わたしなんてどうせ」「あいつのせいだ」って言ってる方が楽だよ。地獄に堕ちたら、地獄に慣れちゃえばいいんだもん。

睡蓮 そうなのか。負のなかに留まる方が楽って発想はなかったなぁ。さっきの『反撥』もそうだけど、すごく精神の強い人なんていないなって思う。人から見たら名美ってわかりやすい悪女だし、一方では男の理想でもあるんだけど、村木がこれから一生涯、名美に囚われ続けるんだとしたら、彼女はファム・ファタルだなと思う。

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Angel Guts: Red Classroom (trailer)

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森下 名美にとって、村木があまりにも信用に値する人だからこそ反発した部分ってないのかな。『昼顔』のセヴリーヌもだけど、「絶対」を信じられないし、望まない。

睡蓮 あるかもしれない。自分を信じてくれようとする人に対しての反発心は、信じたいと思えば思うほど出てくる気がする。

森下 皮肉だけど、そこが悪女の沼というか暗闇なんだよねえ……。

                         ーー次回、「悪女の目覚め 後半」に続く。

森下くるみ
1980年生まれ。秋田県秋田市出身。文筆家。主な著作は『すべては「裸になる」からはじまって』(講談社文庫)、『らふ』(青志社)、『36 書く女×撮る男』(ポンプラボ)、その他に電子書籍Kindleで『虫食いの家』『中国回遊録』が発売中。季刊誌『東京荒野』では「回遊録」を、アートとポエジィを連絡する叢書『未明』で「食べびと。」を連載中。

睡蓮みどり
1987年生まれ、神奈川県横浜市出身。早稲田大学第二文学部中退。在学中より映画を中心に女優として活動を開始。主な出演作は『恋の罪』(園子温監督)、『青春群青色の夏』(田中佑和監督)、『断食芸人』(足立正生監督)、『第九条』(宮本正樹監督)など。その他、「月刊デジタルファクトリー」で写真モデルだけでなく執筆もしている。図書新聞で「シネマの吐息」連載中。『溺れた女 渇愛的偏愛映画論』(彩流社)発売中。

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