今年、節目の第70回目を迎えるカンヌ映画祭。

この連載では、毎年5月に催される世界最高峰の映画祭の昨年の模様をまとめてレポート!

この映画祭の魅力をお伝えします。

第69回カンヌ国際映画祭を振り返るー【CANNES2016】10

コートダジュールの陽光が燦々と降り注ぐ快晴となった映画祭6日目の16日(月)。 “コンペティション”部門ではアメリカ映画の2作品、ジェフ・ニコルズ監督の『ラヴィング』とジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』が正式上映。そしてロバート・デ・ニーロがトレーナー役を演じたジョナサン・ヤクボウィッツ監督の迫真のボクシング映画『ハンズ・オブ・ストーン』が特別上映されている。

愛を貫き通して闘った夫婦の実話を映画化したジェフ・ニコルズ監督の感動作『ラヴィング』!

2011年の長編2作目『テイク・シャルター』が“批評家週間”賞など、3つの賞を受賞して脚光を浴びたジェフ・ニコルズ監督。2012年の『MUD マッド』に続き、2度目のコンペ参戦作となった『ラヴィング』は、アメリカの“異人種間結婚禁止法”撤廃の立役者となったラヴィング夫妻の姿を活写した伝記映画だ。

1958年。黒人女性のミルドレッド(ルース・ネッガ)は白人の建設作業員リチャード・ラヴィング(ジョエル・エドガートン)と出会い、ワシントンD.C.に赴いて結婚する。だが当時、自宅のあるバージニア州では異人種間の結婚が禁止されており、保安官に逮捕されてしまった2人は……。朝8時半からの上映に続き、11時から始まった『ラヴィング』の公式記者会見には、ジェフ・ニコルズ監督と主演俳優2人が登壇。

画像: 『ラヴィング』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

『ラヴィング』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

画像: ジェフ・ニコルズ監督 Photo by Yoko KIKKA

ジェフ・ニコルズ監督 Photo by Yoko KIKKA

ラヴィング夫妻に関するHBOの秀逸なドキュメンタリーに感銘を受けた妻に強く薦められ、本作を映画化したというジェフ・ニコルズ監督は、主演にあえて米国人俳優ではなくオーストラリア出身の演技派ジョエル・エドガートンとエチオピア出身のルース・ネッガを起用。2人には「テネシー・ウィリアムズの戯曲のような米国南部のアクセントを完全にマスターしてもらった」とコメント。また、本作の撮影監督のアダム・ストーンにも言及し、「自然描写に長けた最強のカメラマンなんだ」と称賛した。

画像: ジョエル・エドガートン Photo by Yoko KIKKA

ジョエル・エドガートン Photo by Yoko KIKKA

画像: ルース・ネッガ Photo by Yoko KIKKA

ルース・ネッガ Photo by Yoko KIKKA

『ほとりの朔子』に続いて、深田晃司監督に起用された若手俳優の太賀とバッタリ遭遇!

『ラヴィング』の記者会見後、映画祭グッズの公式ショップを覗いていたら、『淵に立つ』の出演俳優・太賀と出くわした。彼は、いわくある新人工員の役で登場する物語のキーパーソンなのだが、一昨日、14日の夜に行われた『淵に立つ』の舞台挨拶には現れなかったので、この遭遇に思わず目が点になってしまった。

だが、聞くところによると、現在、宮藤官九郎のオリジナル脚本による話題のドラマ「ゆとりですがなにか」に出演中の彼は、その撮影の関係で公式上映日の現地入りは叶わず、昨日カンヌに到着したのだという。それも15日in 17日outという強行軍! 共演した古舘寛治&筒井真理子の両氏と束の間のカンヌを満喫中だった太賀くんは当方の写真撮影依頼を快諾してくれた。

画像: 太賀くん Photo by Yoko KIKKA

太賀くん Photo by Yoko KIKKA

永瀬正敏が友情出演したジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』は、シンプルかつ瑞々しい詩心にあふれた秀作!

1984年に“監督週間”で上映された『ストレンジャー・ザン・パラダイス』でカメラドール(新人監督賞)を獲得したジム・ジャームッシュ監督は、続く1986年の『ダウン・バイ・ロー』でコンペに初参戦。1989年の『ミステリー・トレイン』で芸術貢献賞、1993年の『コーヒー&シガレット3』で短編部門のパルムドール、2005年の『ブロークン・フラワーズ』ではグランプリを受賞した。

画像: ジム・ジャームッシュ監督 Photo by Yoko KIKKA

ジム・ジャームッシュ監督 Photo by Yoko KIKKA

アメリカ・インディーズ映画界の雄にしてカンヌの常連監督であるジム・ジャームッシュは、今年、2本の映画の出品を果たしている。1本はロック・バンド“ザ・ストゥージズ”のドキュメンタリー映画『ギミー・デンジャー』で、19日にミッドナイト上映される。
コンペ参戦作の『パターソン』は、バス運転手(アダム・ドライヴァーが実に好演!)を主人公に据えたシンプルかつ瑞々しい詩心にあふれた秀作だ。

『パターソン』の舞台はニュージャージー州パターソン。毎日、市内の同じルートを運転しているバスの運転手パターソン(アダム・ドライヴァー)は、妻のローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)と小さな家に住み、小さなブルドッグを飼っている。詩が好きな彼は、ノートに詩を書きつけることを日課とし、行きつけのバーでビールを飲む。物語は、そんな彼の1週間の出来事を淡々と綴っていくのだが、主人公の携帯電話嫌い、無類の観察好き、行動派の妻など、設定にも妙があり、実に味わい深い作品である。そして、『ミステリー・トレイン』以来のジャームッシュ作品となる永瀬正敏が、出番は少ないながらも“ビシッ!”と決めてくれる終幕はまさに拍手モノだ。

16時からの正式上映(プレス向け試写は昨夜の19時〜と22時〜の2回、上映済み)に先駆け、14時半より本作の公式記者会見が行われ、ジム・ジャームッシュ監督とプロデューサー2人、そしてアダム・ドライヴァーとゴルシフテ・ファラハニが登壇(残念ながら永瀬正敏はカンヌ入りせず、不参加)。さらには関係者が記者席の最前列を占め、会見の模様を見守った。

画像: 『パターソン』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

『パターソン』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

画像: アダム・ドライヴァー Photo by Yoko KIKKA

アダム・ドライヴァー Photo by Yoko KIKKA

“詩”および“有名詩人”についての質問が多数発せられた会見において、ジム・ジャームッシュ監督は「ニューヨークの大学時代によく“詩”を読んだ」とコメント。
また、海軍に入隊し、その後ジュリアード音楽院で学んだ経歴を持つアダム・ドライヴァーの起用については、「全く異なる2つの世界を知っているのが強み。両方を経験しているので、とってもバランスがいいんだ」と語り、ブルドッグ犬についても「トランスジェンダーなんだけど(笑)、実に即興演技が巧いんだよ」とベタ褒めした。

ところで、コンペ出品作は作品内容や観客の期待度、映画の言語と上映時間、監督の実績、出演者の顔ぶれ等々によって上映回数にも厳然たる格差がある。
1日2作品の2〜3回上映(上映会場は大劇場リュミエール)を基本とし、ソワレと呼ばれる夜の正式上映がゴールデンタイムの18時半〜19時半に開始されるA群と、21時半〜22時半に始まるB群とに分けられる。ソワレの観客は正装を義務付けられるのだが(“招待部門”の目玉作品も同様!)、A群とB群のどちらにも当てはまらない作品があり、上映は昼間の中途半端な時間帯に設定されたマチネ上映の1回のみだ。

もちろんドレスコード無しなので観客の服装は全く問われず、ヘタをするとプレス向け試写も兼ねて行われる時すらある。そんな場合でも、監督&キャストの多くが着飾ってレッドカーペットを歩くため、ちょっとチグハグな感じがするのは否めない。
今年、正式上映がマチネの1回こっきりのC群は、『シエラネヴァダ』『トニ・エルトマン』『アメリカン・ハニー』『パターソン』『アクエリアス』『マ・ローザ』の6本。しかしながら、このマチネ上映のみの作品が賞を獲得することが多々あるので、全く侮れないのが実情だ。
(記事構成:Y. KIKKA)

吉家 容子(きっか・ようこ)
映画ジャーナリスト。雑誌編集を経てフリーに。
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