「ミュージカル映画の聖靴」でタップを踊る!

夜のLAを見下ろしながら、LAのデートスポット、グリフィスパークでの2人してタップダンスを踊る6分間の「ア・ラブリー・ナイト」のシーンで、完全に「ホ」の字になってしまった。そのとき、おもむろにカバンから彼女はタップシューズを出して履き替える。LAを見下ろす遠景もすごく効いている。その靴が「黒×白」のコンビネーションシューズ。フレッド・アステアが履いていた、いわば「ミュージカル映画の聖靴」である。

1930年代のジンジャー・ロジャースとコンビを組んでしたときはもちろん、1950年代のMGMミュージカル映画『バンド・ワゴン』(1952) や『パリの恋人』(1957) でも、フレッド・アステアはタップする足が目立つように、このコンビネーションシューズを履いていた。おそらく僕が世界一好きな『バンド・ワゴン』のミュージカルナンバー『ダンサー・イン・ザ・ダーク』への、これは完全なオマージュといえる。

画像: 「ミュージカル映画の聖靴」でタップを踊る!

この前のシークエンスでは、エマ・ストーンは青色のドレス。女友達とみんなでパーティに行く場面では他の4人は赤色、緑色、黄色のドレスで、その原色が踊り出す感じなのだ。これってジャック・ドゥミ監督作品(音楽はミシェル・ルグラン) の『シェルプールの雨傘』(1964) や『ロシュフォールの恋人たち』(1967) のような大胆な色遣い。まさに総天然色映画ようなのだ。

昨年9月のトロント国際映画祭観客賞受賞。オスカーレースの大本命に踊り出た作品は、ゴールデングローブ賞で作品・主演男優・主演女優・監督・脚本賞など主要7部門制覇。今年1月24日に発表されたアカデミー賞ノミネートでも、作品・監督(デイミアン・チャゼル)・主演男優(ライアン・ゴズリング)・主演女優(エマ・ストーン)・脚本・撮影・美術・編集・衣装デザイン・音響編集・録音・作曲・主題歌賞の13部門14個のノミネート! 今年のオスカーはほぼこれで決まったようなものだ。

最高にロマンティックで、最高にカラフルで、最高に楽しくて、最高に切ないラブストーリー。この映画を嫌いな人はいないと思う。

画像1: © 2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

© 2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

『ラ・ラ・ランド』、転じてLA=「夢の国」であり、現代のLAを舞台にした、主人公のエマ・ストーン演じる女優の卵ミア・ドーランと、ライアン・ゴズリング演じるいつか自分の店を持ちたいジャズピアニストのセバスチャン・ワイルダー、通称セブとの恋模様が綴られる。夢を追いかけた2人が偶然出会い、愛を確かめ合い、別れる。ミアはワーナー・スタジオ内のコーヒーショップでバリスタをしている。一方、セブは求道者のようなジャズピアニストで、自宅で本格的にテロニアス・モンクの『ジャパニーズ・フォーク・ソング』(滝廉太郎作曲の『荒城の月』のカバー) なんかを練習してる。

画像2: © 2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

© 2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

話の筋は、男サックス奏者と女歌手のラブストーリーであるマーティン・スコセッシ監督作品『ニューヨーク・ニューヨーク』(1977) とほぼ同じだが、この恋愛がとても切なくていい。

オープニングのワンシーンワンカットでの、カーステレオからさまざまな音が鳴っているLAのハイウェイの大渋滞から車の上に、全員が車の上に上がっての群舞になるシーンから、もうこのミュージカルの虜になっている。あるいは、ミアがダブルブッキングでデートしている場面。交際相手との食事中に耳にしたBGMがセブのピアノ曲に聴こえ、彼女はたまらず店を飛びだす。彼のもとへと急ぐくだりで、名画座でセブが観ている『理由なき反抗』(1955) のBGM(音楽はレナード・ローゼンマン) にシフトチェンジする。音楽演出、編集のセンスも心憎い。そして真っ暗な劇場で、初めてキスを交わそうとするとフィルムが燃え出し、もどかしい恋心に引火する。

また、ジェームズ・ディーンが赤色のドリズラーゴルファー(ジャンパー) を着た、ニコラス・レイ監督の『理由なき反抗』の舞台であるグリフィス天文台でのワルツがめちゃくちゃいい。ワルツを踊る2人が、プラネタリウムの星々のきらめきを浴びて心舞い踊らせて、天にも登る気分。銀河のランデブーのようなのだ。

ラストのしめくくり方が最高に切なくていい。パリといえば、ミア・ドーランが『パリの恋人』のオードリー・ヘプバーンのように、色とりどりのバルーンをいくつも持ったりして現れて、そうした過去の映画への「目配せ」にもたまらない映画愛を感じるのだ。

サトウムツオ
映画伝道師、ムービーバフ。1990年代に『BRUTUS』や『POPEYE』の映画コラムを担当。著書に『007コンプリート・ガイド』『ゴジラ徹底研究』(マガジンハウス)など。

画像: 『ラ・ラ・ランド』日本版予告 youtu.be

『ラ・ラ・ランド』日本版予告

youtu.be

This article is a sponsored article by
''.