残ったプロデューサーは、ヴィットリオ・チェッキ・ゴーリ、バーバラ・デ・フィーナ、ランドール・エメット、エマ・ティリンジャー・コスコフ、アーウィン・ウィンクラー、マーティン・スコセッシの面々。

このうちヴィットリオは、父マリオ・チェッキ・ゴーリから引き継いだイタリアの製作配給会社〈チェッキ・ゴーリ・ピクチャーズ〉の社長。チェッキ・ゴーリ・ピクチャーズは、2012年段階で『沈黙』の企画自体に出資している奇特な会社だ。逆に、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013) などを撮って、なかなか重い腰を上げないスコセッシ監督を訴えた会社でもある。

バーバラは、イザベラ・ロッセリーニの後の4番目の妻(1985-1991) になる映画プロデューサー。 『ハスラー2』(1985) 『最後の誘惑』(1988) 『グッドフェローズ』『カジノ』(1995) 『クンドゥン』までスコセッシ作品をプロデュース。〈カッパ・プロダクションズ〉の社長だったので、実は僕はお会いして挨拶している。

アーウィンは、『ニューヨーク・ニューヨーク』(1977) 『レイジング・ブル』(1980) 『グッドフェローズ』(1990) 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』と、長年マーティン・スコセッシ作品のプロデュースを手がけてきた盟友。

製作が長く難航したのは、17世紀の日本という舞台を再現するのが非常に高くつくためで、台湾は予算が抑えられるために「長崎に風景が似ている」として台湾が撮影地に選ばれた。

なお、主要撮影は2015年1月30日から5月15日まで台湾で行われた。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』以降のマーティン・スコセッシ組の撮影監督で、『ブロークバック・マウンテン』(2005) のアン・リー、『ウォール・ストリート』(2010) のオリヴァー・ストーン、『アルゴ』(2012) のベン・アフレック、『バベル』(2006) のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥという世界的な映画作家に引く手数多なメキシコ人カメラマン、ロドリゴ・プリエトを5カ月近く拘束出来たのだから圧倒的に素晴らしい。また、そのロケ地選びには、台湾の外省人(中国から台湾に移民した人々) 監督で、スコセッシの母校NYU(ニューヨーク大学) 映画学科出身でもあるアン・リーが協力した。

画像: 撮影監督 ロドリゴ・プリエト http://www.desdehollywood.com/mexican-dp-rodrigo-prieto-talks-passengers-silence/

撮影監督 ロドリゴ・プリエト
http://www.desdehollywood.com/mexican-dp-rodrigo-prieto-talks-passengers-silence/

日本については当初2013年5月のカンヌ国際映画祭でギャガが配給権を獲得したと報じられていた。しかしその後2016年2月のヨーロピアン・フィルム・マーケットでKADOKAWA(角川映画) が権利を獲得したと報じられ、11月には同社配給によって公開日が2017年1月21日に決まったことがそれぞれ発表された。

アレクサンドル・ソクーロフ監督の『太陽』(2005) で昭和天皇を演じたイッセー尾形さんに、マーティン・スコセッシはゾッコンだった。以後、スコセッシさんに会うたびに、長崎奉行井上筑後守はイッセー尾形に決めたと僕に言ってきた。

逆に、最後まで難航したのが新約聖書における「ユダ」にあたるキチジロー役だった。窪塚洋介くんがオーディションに現れて、即決まったという。

スコセッシ映画の大きな特長が、アカデミー編集賞に7度ノミネートで、『レイジング・ブル』『アビエイター』『ディパーテッド』で3度受賞しているセルマ・スクーンメイカーとの編集作業にある。スコセッシとは『レイジング・ブル』以降の音楽ドキュメンタリー映画を除く全作品を担当している編集技師。彼女は、スコセッシさんが敬愛する『赤い靴』(1948) や『ホフマン物語』(1951) の映画作家マイクル・パウエルの妻(1984-1990) だった人。スコセッシは常々、脚本段階、撮影段階に次ぐ編集段階は「映画の3度目の製作」と言っているのだが、これまでの最長が『カジノ』の約1年半で、今回はそれをほんの少し上回って2年かかっている。

画像: 編集 セルマ・スクーンメイカー https://picturehouseblog.co.uk/2016/12/31/interview-thelma-schoonmaker-on-silence/

編集 セルマ・スクーンメイカー
https://picturehouseblog.co.uk/2016/12/31/interview-thelma-schoonmaker-on-silence/

映画を観ると、なるほど、リーアム・ニースンとアダム・ドライヴァーの激ヤセに驚く。何と、ニースンは体重10kg、ドライヴァーは体重を25kgも落として撮影に挑んだのだ。

主演の司祭ロドリゲス役のアンドリュー・ガーフィールドはもちろんいいが、長崎奉行井上筑後守役のイッセー尾形、モキチ役の塚本晋也、隠れキリシタンの村人役の小松菜奈などが良かった。おそらくスコセッシさんは、塚本晋也監督・出演、黒沢あすか主演の『六月の蛇』(2002) をきっと観ていると思う。

これはネタバレかもしれないけど、ラストで黒沢あすか演じる日本人・岡田三右衞門の妻は、のちに棄教して三右衞門になった司祭ロドリゲスが死んで遺体を棺桶に入れるのに、隠れてロザリオを持たせてあげるのだ。十字架に磔になって、賛美歌を歌いながら3日3晩かけて死んでいった塚本晋也演じた隠れキリシタンのモキチの精神は、のちに黒沢あすか演じた岡田三右衞門の妻の精神にどこかでつながっている。

サトウムツオ
映画伝道師、ムービーバフ。1990年代に『BRUTUS』や『POPEYE』の映画コラムを担当。著書に『007コンプリート・ガイド』『ゴジラ徹底研究』(マガジンハウス)など。

画像: 『沈黙‐サイレンス‐』日本オリジナル予告 youtu.be

『沈黙‐サイレンス‐』日本オリジナル予告

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画像: 『沈黙-サイレンス-』日本版特別映像 youtu.be

『沈黙-サイレンス-』日本版特別映像

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